YOMIKO -トレンドレポート-

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発想力を刺激する YOMIKO TREND REPORT

ディズニーが開発したフロリダの街 セレブレーション視察報告

大塚 輝久 Teruhisa Ootsuka 都市生活研究所 第3ルーム チーフマーケッター

※執筆者の所属部署・役職名は執筆当時のものです。

セレブレーションについて

セレブレーションは、フロリダ州オーランド南部、ディズニーワールドリゾートに近接します。かの有名なウォルト・ディズニー・カンパニー(以下ディズニー社)がTND(トラディショナル・ネイバーフッド・デベロップメント=伝統的近隣住区開発)の開発手法を取り入れ、ディズニーが理想とし、人々の憧れを形にしたニュータウンです。

TNDとは、近隣の人々とのつながりを大切にするコミュニティ形成を重視した開発、いわば「住人が街に対する愛着と誇りを育み、帰属意識を高める」ことを思想とする街開発手法であり、①地域風土を意識した街デザイン、②歩車分離且つ、徒歩完結型の街、③住民主体で取り組む街運営管理、が特徴的な要素となっています。

ディズニー社ならではの開発戦略

セレブレーションで注目すべきは、ダウンタウン(中心市街地)をはじめとした生活インフラを、住宅地開発に先行して整備した点にあります。通常のニュータウン開発は、住宅の分譲が開始された後に商業・文化施設等をオープンさせるのが一般的ですが、この街は最初の入居者から都市の成熟したアメニティを享受できたというのが大きな特徴となってます。

なぜこのようなことが実現できたかという点については、エンタテイメントを生業とするディズニー社ならではの戦略がありました。彼らは町役場、郵便局、映画館、ホテルといった生活インフラを著名建築家に造らせ、街自体を有名建築ショールームにすることで、街の話題化を図りました。実際に、住民入居前のダウンタウンは世界中の観光客やディズニー関連の従業員によって賑わっていたそうです。このように住民の入居前から人を呼び込む仕掛けを施し、街の賑わい、そこでの豊かな暮らしをリアルに演出したのであります。

実際、ダウンタウンを歩いてみると、様々な建築がその個性を競い合い、さながら都市建築博覧会のようでした。さらに、カフェやレストラン等、いたるところで品の良い住人や観光客達がくつろぎ、そして歓談し、豊かな街の風景を彩っていました。

  • セレブレーションヘルス
    (設計:ロバート・スターン)

  • タウンセンター
    (設計:フィリップ・ジョンソン)

  • ダウンタウンの風景

住宅街区に足を延ばしてみて・・・

ダウンタウンから住宅街区へ足を延ばしてみると、そこには欧米の伝統的様式を感じさせる瀟洒な住宅群が立ち並んでいました。セレブレーションでは大きく4つの住区で構成され、それぞれ類似した社会属性(主に収入格差)ごとに集住できるようになっています。各住区毎には建築できる住宅様式(コード)が決まっていますが、決して画一的ではなく、一つ一つ個性豊かな表情がありながら、集団として美しく、調和的な街並みが形成されていました。

  • 邸宅が集まる街区の住宅

  • 一般的な戸建て住宅

  • ダウンタウンに近い集合住宅

厳しいルールで住民自治管理を行うHOAというシステム

アメリカの住宅所有者は、自身が住む街・住宅の資産価値を向上させることに強いモチベーションを抱いています。資産価値の源泉となる美しく豊かな住環境を維持するために、住宅地全体の自治運営管理に大きな関心を持っています。  実際に住宅地を歩いてみると、街にはゴミ一つ落ちておらず、芝なども一部の隙もない程に整えられています。これは各住宅の庭だけでなく、公園などの公共スペースも同様です。

こうした住環境維持の役割を担うのが、HOA(ホーム・オーナーズ・アソシエイション)という住民自治運営管理組織です。HOAの役割は大きく2つあり、街の共有財産の適正な管理と、住宅地の自治運営を実施することだそうです。これらの自治運営管理を行う上で、「週一回以上、芝を刈ること」、「決められた以外の木を植えてはならない」等の厳しいルールが設けられています。このルールを守らないと罰金等のペナルティがあり、それでも守られなければ退去しなければならないといった契約を入居時に課せられます。いかにも契約社会のアメリカらしい手法です。

しかし、この厳しいルールを守れる人達だからこそ美しい街並みが保たれる、そうして高まった資産価値を求め、そのルールの存在に安心した質の高い人達が、また集まるという好循環を生んでいるという側面もあります。

国民性の違う日本で、そのままのシステムが成立するかは疑問に思うところですが、街のデザインや美しさだけでなく、住宅を所有する人達が、街全体を自ら維持管理するという姿勢こそが、コミュニティの絆を強化している背景です。こうした質の高い住民コミュニティ育成が街のブランド形成に不可欠であるという考え方は共感するところでした。

芝も植木も隙なく整備された美しい街並み景観

街区ごとのアイデンティティを醸し出すサイン計画など