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発想力を刺激する YOMIKO TREND REPORT

2013 Cannes Lions International Festival of Creativity レポート ~60周年を迎えたカンヌライオンは、どこへ向かうのか?~

大谷 義智 Otani Yoshinori クリエイティブ局 シニアクリエイティブディレクター

※執筆者の所属部署・役職名は執筆当時のものです。

まずは、数値から見る2013年のCannes Lions

今年もCannes Lionsは、参加者数、参加作品数ともに過去最高の数値をたたき出しました。参加者数約12,000人(90カ国)、カテゴリー数は今年Innovation Lionsが加わり16カテゴリー、参加作品数35,765作品(92カ国)昨年比で約4%の拡大。その他、60のセミナー、30のフォーラム、16のワークショップと、参加者に休む暇をあたえません。

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60周年は、原点回帰の年

今年Cannes Lionsは60周年。記念するべき年にふさわしく、各カテゴリーの審査員長達はレジェンドと呼ばれる、広告業界を牽引してきた著名な方々が名を連ねることとなりました。

フィルム部門審査委員長は、イギリスの代表的なクリエイティブエージェンシーBBHの創設者であり、Sirの称号を持つJohn Hegarty氏。広告の可能性を拡げるアイディアに与えられるチタニウム部門の審査委員長には、アメリカのクリエイティブエージェンシーの先駆けWieden&Kennedyの創設者Dan Wieden氏。フィルムクラフト部門にはJoe Pytka氏の名前が。フィルム部門でかつて2度のグランプリを獲得し、キング・オブ・カンヌと言われた大巨匠CMディレクターです。

「僕たちの競争相手は、ハリウッドにいるんだ」
 「デジタルかアナログかではなく、何を伝え世の中を変えて行きたいか?」
 「ものづくりの質が落ちてしまう産業なんて、広告業界だけだよ」

彼らが審査員になったことも影響してか、選ばれた作品群はコミュニケーションの新たな方法を評価する最近の傾向とは違い、コンテンツそのもののクオリティーを評価する傾向があったように感じています。

この傾向は、審査のみならずセミナー等にも顕著にみられ、カンヌ常連クライアントである、P&G・Coca Cola・Unileverなども、過去の宣伝活動を紹介しまとめながらも、次の手段をあえて明示しない(感じさせない)ように思われました。

Good Characterにこだわるビッグクライアント

そんな中、ひとつの方向を感じることができたのが、Coca Colaのセミナーです。昨年、「NPO法人と一番フレンドリーな企業になる」と明示したCoca Cola社。次のテーマは、女性の就労問題と、肥満を防ぐためのカロリー表示としたものの、「ブランド(企業)そのもののキャラクターをどう育てていくか」がまず大切と一言。

今年、The Creative Marketer of the Yearを獲得したCoca Cola社。もはや、飲料メーカーではなくマーケター集団として彼らが目指すところは、「世界中の人々から愛される企業(ブランド)」というところでしょうか。

デジタル化が進み、顧客データ(ビックデータ)を直接ブランドがコントロールする昨今。ブランドに対する絶対的信用を生活者から得るには、エージェンシーのアイディアや戦略・手段に頼る以前に、企業体質を含めたGood Characterづくりが、リスクマネージメントにつながると考えているようでした。

誰もがインターネットを使って個人の意見を述べることができる時代。P&GやUnileverなどM&Aを続け巨大化し続ける企業にこそ、「ビックデータを活用したGood Characterづくり」は、急務なのかもしれません。

ビックデータを管理するのは誰?

従来、生活者のデータを管理・分析するのはマーケッターの役割でした。しかしこれからはBig Data Analyst(ビックデータ分析者)の存在を示唆する意見のあった今年のカンヌ。

顧客データをより数学的に科学的に分析し、それぞれの商品やブランドに反映させるというData Analystの存在です。

ハーバードビジネススクールのセミナーでは、視聴者の顔面にセンサーを取り付け様々なTVCMを視聴させ、その反応を数値化するというもの。見られるコンテンツよりシェアされるコンテンツの価値の方が高いと熱弁するのは、同大学の数学者でした。

近い将来、このような数学者とプレゼンテーションを競う時代がすぐそこにあるのかもしれません。

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昨年からの潮流、Social Good

昨年、カンヌを訪れた時はユーロ危機のまっただ中、ギリシャは再選挙を行ったばかりで、これをきっかけに、危機がスペインやイタリアにも飛び火してしまうのではとささやかれていました。

そんな中、2012年フィルムのグランプリを獲得したのは、ファーストフードのChipotel社(メキシコ系ファーストフードチェーン)の"Back to start"。科学肥料を使用した工場型農場経営に疑問を持ち、サスティナブルな農場経営へと戻っていく企業姿勢をアニメーションで表現した、事実にもとづいたキャンペーンでした。また、震災後2年目の日本も、チタニウム部門において様々な復興キャンペーン(5作品)がノミネートした年でもありました。

広告主の課題を解決する以上に、その施策が社会の中でどう機能しているかを問う傾向は、今年の各受賞作品からも顕著にみられます。モバイル部門でグランプリ獲得した、フィリピンのSMART Communications通信会社の"TXTBKS"もその一つ。

フィリピンでは7歳の子供は平均22冊もの教科書を背負って学校に行かなくてはならず、それが生徒の健康問題(骨の異常など)を引き起こしている現実があります。先進国ではタブレット端末が普及しつつあるのですが、フィリピンではまだ各家庭に経済的余裕はない。そこで、どこの家庭にも眠っている使わなくなった古い携帯電話を再利用。SIMカードに教科書のテキストデータを入れることで、教科書そのものの軽量化を計ったというもの。

技術の進歩にばかり目がいきがちなモバイル部門において、古い技術をベースに、シンプルなアイディアで取り組んだこのキャンペーンは、実際に生徒の成績が向上したり、不登校の生徒が減ったりなどの結果を導き出したそうです。

デジタルテクノロジーが当たり前となった今、技術そのものの意味を見つめ直す時代が来たのかもしれません。

みんながフリーに使えることが、イノベーション

「みんなが自由に使えなければ、イノベーティブな技術も意味がない」と言ったのは、新設イノベーティブ部門の審査委員長Droga5を率いるDavid Droga氏。

イノベーティブ部門のグランプリを獲得したのは、誰もが使えるオープンソースのフレームワークとしてプレゼンテーションされた"CINDER"。しかし、このグランプリの獲得には異議を唱える人も多く、その理由は、クリエイティブコーディングの世界では、Open Frameworksというオープンソースの技術がすでにあり、"CINDER"は後発であるということ。それ以上にオープンソースのフレームワークの先人へのリスペクトがないという点でした。

しかし、カンヌは世界の広告賞であり、次の時代の羅針盤となるべく指針を打ち出すものだと考えれば、このプレゼンテーションを行ったクリエイティブエージェンシーBarbarian Groupには先見の目があったのかもしれません。

イノベーティブの本質を、技術の進化と捉えるのではなく、ユーザビリティーの解放と捉えたことに、これからの指針が見えてきます。

最後に

アナリストが、生活者のビックデータを取りまとめ、
 クライアントは、人気者をめざし、
 テクノロジーは、オープンソース化を求められる。

生活者と企業のつながりは、より直接的(ダイレクト)になり、
 その速度はますます加速していく。

従来、生活者と企業の間に存在した、エージェンシー/仲介業の役割を改めて考えさせられる2013 Cannes Lionsでした。

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