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発想力を刺激する YOMIKO TREND REPORT

2018 Cannes Lions International Festival of Creativityレポート

中村 信介 クリエイティブ局 シニアクリエイティブディレクター ルーム長

「人間だけができること」って何だろう

2018年のカンヌライオンズ。その第一印象は、「HUMAN」というキーワードの多さでした。それは、「AI対HUMAN」という時代の文脈のなかで、改めて「人間の価値」を見つめ直したいという意識のあらわれだと感じました。逆に言えば、それだけ世界中が「AI」の行方を注視しているということ。

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また今回のカンヌライオンズでは、大きな“構造改革”がおこなわれたのですが、実はその遠因も「AI」にあったのです。

2017年6月にPUBLICIS GROUPEは、2018年の全広告賞への不参加を表明。その理由は、グループ内業務効率化のためのAI開発費用捻出のためでした。

同グループのAI(名前はMARCEL)については、今回のカンヌライオンズのセミナーでもお披露目があり、8万人のグループ社員の間で、最適人材を探したり、企画アイデアをクラウドソーシングできたりと、広告業界のこれからの働き方を予感させるものでした。

さて、このPUBLICIS GROUPEの不参加表明をきっかけに、膨張しつづけるカンヌライオンズに対して、これまで溜まっていた業界からの不満が噴出。カンヌライオンズは即座に“構造改革”をおこないました。

具体的には、①期間を8日間から5日間に ②パスの値下げ ③26部門を9の“トラック”に分類 ④5部門を新設 ⑤3部門を廃止 ⑥120のサブカテゴリーを廃止 ⑦1作品での応募は6つまで などなど。
新設された9の“トラック”とは、いわば「カンヌが考える広告ビジネスの9分類」です。
1.Reach 2.Coummunication 3.Craft 4.Experience 5.Innovation 6.Impact 7.Good 8.Entertainment 9.Health
何百ものセミナーもこの9のトラックに分類されていました。

このような改革が行われた今回のカンヌライオンズから、来たるべきAI時代に「人間の価値」、言いかえれば「人間だけができること」を探るという視点で、5つのポイントを述べていきましょう。

SDGs 人間を守れるのは人間だけ

ひとつめは、SDGs(Sustainable Development Goals)。2015年に国連で採択された、全人類のための「持続可能な開発目標」(17のゴールと169のターゲットで構成)です。人間の未来を守ることは、まさに「人間だけができること」。

カンヌで今回新設された5部門のひとつ、その名もSDGs Lionsをはじめグランプリ3冠に輝いたのは、パラオ共和国の環境保護プロジェクト「Palau Pledge(パラオの誓い)」。観光客による環境破壊を防ぐために、入国スタンプを宣誓書フォーマットにし入国者に署名させるというアイデア。

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またPR Lions と Design Lions のグランプリ2冠を制したのは、イギリスの環境団体等による「Trash Isles(ゴミ諸島)」。北太平洋上にフランスの国土ほどもある“海洋ゴミ地帯”をTrash Isles(ゴミ諸島)と名付け、国家として国連に申請するキャンペーン。

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カンヌから帰国すると、すぐに飛び込んできたのは、「プラスチック製ストロー廃止(自粛)」のニュース。こんなところにも、半歩先の世界的イシューを取り上げ続ける国際賞の先見性を感じました。(他の例をあげれば、2015年のGlass Lions 新設が、その後2017年の #Me Too運動の兆しであったように。)

HACK 人間は裏技を見つけだす

ふたつめの「人間だけができること」は、ハック。いわば、システムの抜け道を“ちゃっかり”発明するという、人間らしい所業。

既に2017年のカンヌで、Burger Kingの「Google Home of the Whopper」や、jet.comの「Innovating Saving」などのグランプリに、ハックは体現されていました。

今回Film Lions のグランプリのひとつ、P&Gの「It‘s a Tide Ad(それ、タイドの広告)」は、出演者がシミのない服を着ていさえすれば、すべて洗剤タイドのCMに錯覚させてしまうという、目から鱗のマインドコントロール(笑)CM。

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Print & Publishing Lions のグランプリは、バドワイザーの「TAGWORDS(検索ワード)」。「有名ミュージシャンがバドワイザーを持つ画像」がWEB上に多数存在することに目をつけ、検索ワードだけが書かれた広告を出稿することで、画像検索で見つけてもらうという作戦。“権利・許諾”をちゃっかり飛び越えるハック技。

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またBurger Kingのセミナーは、その名も「HACKVERTISING(ハック+アドバタイジング)」とのタイトルで開催。業界に先駆けて「ハック型アイデア」を手がけてきた数々の事例と秘訣が披露されました。

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INNOVATION 技術革新ではなく新発想

「人間だけができること」の3つめは、イノベーション。日本ではよく“技術革新”だけを指すと誤解されますが、本来の意味は、新結合・新定義・新活用法などの「新発想」のこと。

ここでは今回のカンヌで大変多く目にした、「ブランドアイデンティティへのイノベーション」について触れたいと思います。

ブランドにとって自らのロゴやシンボルの活用は、灯台もと暗しになりがち。あるいはタブーになりがちです。それを掘り起こし、見つめ直し新発想で活用するというアイデアです。

Outdoor Lionsのグランプリ、マクドナルドの「Follow the Arches」をはじめ、
ラコステの「Save Our Species 」、そしてDIESELが自らのフェイクを販売する「DEISEL」をご紹介します。

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KFCとWieden + Kennedy のセミナーでは、AE担当としてまずブランドの歴史を掘り下げ、その結果、当時ブランドが手放しつつあったシンボルキャラクターを大復活&アップデートさせたことが語られていました。

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EXPERIENCE & INFLUENCE 人間はつながりたい

人間は“体感したい”“繋がりたい”“影響を発揮したい”と願う生物。「人間だけができること」の4つめです。

新設のCreative eCommerce Lions のグランプリは、マイクロソフトXboxの「The Fanchise Model」。Fanchise(ファンチャイズ)は、“ファン+フランチャイズ”の造語です。ファンを起業家に変える、アフィリエイトの次元を超えた、いわばフランチャイズのパーソナライズ。

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同じく新設のBrand Experience & Activation Lions のグランプリは、アップルの「Today at Apple」。店舗とは体験の場であり、店舗とはコミュニティの場であることを再認識させてくれます。

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もうひとつ新設のSocial Influencer Lionsのグランプリは、ナイキのソーシャル動画「Nothing Beats a Londoner」。258人のパーソナルな一般人と一緒に創り上げる、いわばコミュニティ動画。

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CRAFT 人の心を動かす

訳せば「手わざ」。5つめに触れたいのは、人間ならではの「共感づくりの技術」です。それは、コンセプトや手口から導かれた最終アウトプットにおいて人の心を動かす「決め手」となるもの。

新設のIndustry Claft Lionsのグランプリは、靴クリームKIWIのグラフィック広告「First Steps – Ali」。モハメド・アリのボクシングシューズが、アリさながらの口調で滔々と語るボディコピーの手わざに、カンヌがスポットライトを当てました。

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Film Lionsもうひとつのグランプリは、P&Gの企業広告「The Talk」。
話そう。黒人への偏見について。彼ら親子がこんなつらい会話をしなくてよくなる日まで。

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Entertainment for Music Lionsのグランプリは、アップルHomePodのCM 「Welcome Home」。ここで描かれているのは、いみじくも「AIと人間との共生」。AIによって人間がより人間らしくなれることがエモーショナルに表現されており、2018年のカンヌライオンズを象徴する一作だと思います。

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人間らしくイノベーションしたいな

さて、2018年のカンヌライオンズにおける、「HUMAN」というキーワードについて述べてきました。
考えてみれば、「思いつく」「視点をずらす」「逆転の発想」「軌道をそれる」など、イノベーションが生まれるきっかけは、すべて人間の無限に自由な発想力なのだといえるでしょう。

(AIとテクノロジーによる働き方改革にはもちろん賛成しながらも、)
私たちはもっと、人間の脳が生みだすアイデアのイノベーションに挑戦できるはずだ、と思いを新たにしました。

アイデアは、無限です。