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 フランス・リヨンの南西およそ70km、車で1時間程行った所に、フェルミニ(Firminy)という山々に囲まれた静かで美しい街があります。しかしこの街はその美しい景色以上に、ル・コルビュジェの設計した作品が一挙に見られる街として世界中に知られています。

 コルビュジェと言えばロンシャンの教会やラ・トゥーレット修道院など、数多くの有名作品が世界中に点在していますが、フェルミニには、文化会館、競技場、プール、ユニテ・ダビタシオン、そして最近になってようやく竣工し、最も新しいコルビュジェ作品として注目を集めているサン・ピエール教会と、小さな街の中にコルビュジェの作品が集まっています。

 それぞれに見所はたくさんあるのですが、まず今回はユニテ・ダビタシオンについてご紹介したいと思います。

●競技場と文化会館

●サン・ピエール教会とプール

●ユニテ・ダビタシオン

 マルセイユにもユニテが建設されていますが、こちらのユニテはマルセイユの後の1967年の作品です。本来は全部で3棟建設される予定だったそうなのですが、オイルショックの影響で現在の1棟のみが建設された段階で計画が頓挫してしまったそうです。

 内部の構成はマルセイユのユニテと同じような構成となっており、中廊下を中心とした上下3層でひとつのユニットを形成しています。北側の一部の住戸は既に分譲されてしまったため、各々リフォームされてしまい建設当時の形をとどめていないそうなのですが、当時のまま残された西側の住戸は今後ホテルや図書館に改装される予定とのこと。ただセキュリティの問題があるそうで、その問題をクリアすることが先決だ、と建物を案内してくれた現地の担当の方がおっしゃっていました。内部はマルセイユのユニテと比較すると、随分とキレイに保たれている印象です。

●アプローチ ●エントランスホール ●中廊下

 モデルルームとして公開されている、約80㎡の住戸を見学しました。非常にコンパクトで無駄のないプランで、家具の雰囲気やインテリアの色使いなどは今見ても古さを感じません。しかし、このサイズの住戸ですと、現在のフランス人ファミリーにとっては非常に狭いそうで、ベランダにコンテナのような物を置き、倉庫代わりに使うなどして生活しているそうです。中でもキッチンは特に狭く、冷蔵庫等の大きな家電製品が置けないなどの問題があるそうです。しかし、コルビュジェの作品ということもあってか、住宅としての人気は依然として高いそうです。

●住居内(LD)

●住居内(主寝室) ●住居内(バスルーム) ●住居内(子ども部屋)

 そして、最上階には幼稚園が入っています。こちらの幼稚園は、建設が予定されていた残り2棟も合わせた、3棟分の家族のお子さんを預かることを想定してつくられたそうで、非常に規模の大きな幼稚園になっています。
 園庭として屋上が活用されており、屋上には円形のステージのある劇場やプールがあります。また建物自体が高台に建っており、さらに周囲に高い建物が無いため、屋上からの眺望は素晴らしく、街全体を見渡すことが出来る、とても気持ちの良いものになっています。

●最上階の幼稚園 ●最上階の幼稚園 ●最上階の幼稚園

●屋上(劇場) ●屋上(プール)

 建物の前には豊かな緑の前庭が広くとられています。これは緑があるところ=豊かなところ、というコルビュジェの設計思想を反映したものだそうです。その向こうにはフランスの建築都市風景遺産保護地区にも指定された、フェルミニの美しい街並みが広がっています。

 街中には新しい集合住宅がいくつも建設されているのですが、規模や形、色が周囲の昔ながらの景観に合うようコントロールされており、街全体としての調和を保ちながら開発を進めていこうという姿勢が垣間見えます。

●建物の前庭

 今見ても新鮮で、学ぶべきところが詰まったフェルミニのユニテ。しかし建設から40年以上も経った作品ですので、当然のことながらセキュリティ面が弱かったり、家電製品を置けなかったり等、現代の暮らしには合わない部分もいくつか見られました。にもかかわらず、この作品が今も空室待ちのウェイティングが出ていたり、あるいは世界各地から私も含め多くの見学者を集めるだけのパワーを持ち続けているのは、「ひとつの建物の中に都市をつくる」というコルビュジェのコンセプトが変わらずに生きているからだと感じました。建築物自体は年々劣化して修復や補強が必要となったり、中で暮らす人のライフスタイルは時代時代で変化してゆくのですが、設計者のコンセプトは建設当時のまま変わりようがありません。
 ハードからソフトへ、モノからコトへ、と言われるようになって久しいですが、コンセプトはその両者を支える根の部分だと思います。どちらをとるかではなく、両者を支える根を確固たるものとして築くことができれば、一時の目新しさを提供するに留まらない、時代を超えた普遍的な価値を提供できるのではないかと考えました。