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withコロナで見えてきた住宅ニーズの変化<後編>

2020.11.24

YOMIKOオリジナル「withコロナ住まい調査」

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2020年7月の東京への転入数は前年前月比12.8%減の2万8735人と大きく減少した一方で、東京への転入が小幅に止まり転出超過になったと発表されました。後編ではコロナ禍での住宅検討エリア(都心・郊外エリア)のニーズ変化や「生活者」の変化についてのレポートを紹介します。

本レポートではエリアを以下のように分類します。都心エリアでの住宅の購入を検討しているサンプル=【都心派】とし、郊外エリアでの住宅の購入を検討しているサンプル=【郊外派】として比較分析します。
※都心エリアと郊外エリアのどちらも検討しているサンプルについては、双方のグループに含めることとします。

住宅購入検討エリアから見る「都心派」の減少傾向!

コロナ禍前後の住みたいエリアの全体傾向を見ると、「都心派」が減少傾向。「郊外派」での微増傾向が全体として見られました。特に、マンション購入検討層では、コロナ前はほぼ拮抗(郊外派が+2.1p)していましたが、コロナ後は都心派を郊外派が14.5pと大きく上回る結果になりました。

コロナ禍でも、購入意欲は上昇傾向。中でも、都心派の購入意欲の上昇が高い傾向が。

「購入意欲」は、都心派・郊外派とも「高まった」が「減退した」を上回る結果となりました。中でも都心派の購入意欲が高い傾向が見られ、コロナ禍であっても住まいへの要求度や重要性が顕在化したと見られます。

コロナ禍をチャンスと捉える“都心派”、ライフステージ要因の“郊外派”

都心派・郊外派とも、コロナ禍を経て住宅購入意欲が減退しなかった主な理由は「コロナと自身の住宅購入は無関係」だから。
特に、郊外派に比べて都心派は、「不動産の価格・供給・流通や株価」など、マクロ経済的視点での回答の比率が高い傾向が見られました。一方で都心派に比べて郊外派は、「年齢・結婚・子供の成長・社宅退出期限」など、ライフステージ要因が高い傾向が見られました。つまり、「都心派はエコノミー視点」。「郊外派はライフ視点」という差が明確に見られる結果となりました。

コロナ禍でエリア・立地に求めるものは、都心派・郊外派「買い物・医療・治安」がTOP3で共通。 急上昇は“医療” “住民サービス” 。

都心派・郊外派共通で、「1.買い物」「2.医療」「3.治安」の“便利・安心・安全”がTOP3。1位買い物・2位の医療はコロナ前より順位が上昇。
さらに、TOP10内で、都心派・郊外派共通で順位を上げたのは「緑や公園」「住民サービス」で、自治体サービスへの注目が非常に高まる傾向が見られた。
逆に、都心派・郊外派共通で順位を下げたのは「駅に近い」「通勤通学に便利」で、近さ・速さ至上主義が多少弱まった様子が伺えた。

コロナ禍で施設・設備に求めるものは、基本性能は共通だが、都心派・郊外派ならではのニーズ差異もうかがえる結果に

都心派・郊外派共通で、「1.日当たり・風通し」「2.セキュリティ」「3.防災」という、住宅の基本性能への要求がTOP3に。
TOP10内で、都心派のみに見られる回答は、「駅直結」「信頼の大手企業」で、順位変動は見られますが、都心派の高い利便志向やブランド重視志向の健在が伺える結果に。
TOP10内で、郊外派のみに見られる回答は、「一戸建て」「共働きに便利」で、普遍的戸建て志向に加え、“共働き層の郊外志向化”が見え始める結果となりました。

今まで見た結果から、エリアや住まい購入の重視ポイントの多様化傾向が顕著に見られるようになったと考えられます。

ここからは視点を少し変え、マンション検討層=「生活者」に視点を変え、都心派・郊外派の違いを見ていきます。

世帯年収が増加傾向・高予算層の割合が高くなった都心派。 世帯年収は減少傾向だが、6,000〜7,000万円予算層が増加した郊外派。

都心派は、コロナ禍をまたいで世帯年収が平均1,498⇒1,557万円、1,500万円以上比率が30.4%⇒34.0%と増加。世帯年収・高年収割合ともに上昇傾向が見られました。
一方、郊外派は、コロナ禍をまたいで世帯年収が平均1,225⇒1,220万円、1,500万円以上比率が17.5%⇒17.2%と、ともに微減傾向に。
以上からコロナ禍を契機に、「世帯年収1,500万円を境にした、都心派/郊外派の分化傾向」が見られるようになったと考えられます。

コロナ禍をまたいで、購入予算平均額は都心派△102万円、郊外派△30万円、それぞれ低下。
都心派は、現実的な予算「4,000~9,000万円台」比率が低下する一方で、予算「1億円台」以上の比率は上昇傾向に。
郊外派は、予算「4,000万円台」が低下して「2,000~3,000万円台」にシフト、都心派からの移行か「6,000~7,000万円台」が増加傾向。この「6,000〜7,000万円台」は都心マンションを購入可能な予算層で、この層が郊外派シフトを検討していると考えられます。

コロナ禍前後のマンション購入検討層の各エリアプロフィールが変化。よりアッパーへ偏る都心部。都心・都内共働き子あり層の郊外シフトも。

マンション検討層都心派は、コロナ禍をまたいで、都心をキープしたい購買力の高い50代ミドル層、経営層・パワーカップル。「都心に居住しているため都心の価値を知っている」「経営層・管理職だからオフィスに駆けつけられるようにしておきたい」「コロナでも都心の価値は変わらない」と考える人たち。

一方、郊外派は、コロナ禍をまたいで、新天地を求めるプチ高予算40代以下、共働き子あり層が都心から流入傾向が!?「テレワークなどで毎日出勤する必要がなくなった」「同じ予算でも大きい部屋を買うことができる」など無理して都心を希求していたが、コロナ禍で無理をしなくても良いと考え出した人たち。

このように、コロナ禍にも揺らぐことなく、都心マンションを求める人がいる一方で、これを契機に、戸建てに、あるいは郊外へと、柔軟なシフトを考える人も存在。生活者のダイバーシティ化傾向が見られはじめました。

コロナ禍を経て生活者たちは、既成概念として提示された“幸せ”や“成功”に自らをはめ込むのではなく、 また、世評や人の目を気にしすぎて流されるのでもなく、ほかの誰でもない自分(たち)にとっての、“幸せ”の再定義。そして、それを実現する条件の、優先順位の整理を、あらためて行い、再認識するきっかけになったと考えられます。

withコロナ時代の住まいは、住まいの役割の“多機能化” 住まいの理想の“多様化”  これからの住まいは、あらゆる生活者の人生をデザインするプラットホームとしてあらゆる理想に答え、その可能性を広げていくことが求められると私たちYOMIKOは考えます。

佐々木 崇秀

データドリブンマーケティング局 都市生活マーケティングルーム ルーム長

シニアストラテジックプランニングディレクター

1973年宮城県生まれ。2009年読売広告社入社。
デジタルマーケティングセクションを経て、2011年より都市生活研究所へ。主に不動産デベロッパー関連の業務に軸足を置き、首都圏タワーマンション事業のマーケティング分析から販売戦略立案の他、地方都市の大規模街づくりプロジェクトにも参画。その他業種のブランドでも、コミュニケーション戦略からプロモーション・プランニングまで、幅広い業務に従事。