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シビックプライド醸成への取り組みと渋谷区が目指す未来とは【前編】

2021.01.28

市民が都市に対して持つ「愛着」や「誇り」のことを指すシビックプライド。ダイバーシティとインクルージョンを掲げ、「ちがいをちからに変える街」をスローガンに、まちづくりに取り組む渋谷区において、IT活用を推進し、地域・住民との関係づくりや、職員の意識改革に取り組んでいる澤田副区長に、シティプライドやシビックプライドの醸成にどのように取り組み、また、どのような都市づくりを目指しているのかについて、都市生活研究所所長の水本が話を伺いました。

「シビックプライドランキング調査」と、渋谷区の政策に対する考えについて

水本:2020年3月に実施した、関東・関西圏の人口10万人以上151都市を対象とした「シビックプライド調査」をもとに「シビックプライドランキング」を発表したところ、渋谷区は総合ランキングで11位でした。特徴的だったのは、「アパレルショップの充実」、「おしゃれ」、「他者からの評価」、「ジェンダー平等」の評価が高めだったことです。あと「時代の先端にいると感じる」という答えと、「ステータスを感じる」が特に高めでした。こういった結果をご覧になった感想をお聞かせください。

澤田副区長(以下、澤田):上位にランキングされているのは当然嬉しいですが、あくまでも総合的な評点なので、渋谷区のどの政策が、どう評価されているのかというところまでブレイクダウンできればいいなと思っています。渋谷区は、およそ1,000を超える事業を抱えていますが、それぞれの政策を評価してPDCAを回すことはほとんどできていません。御社の「シビックプライド調査」のように、他の自治体や過去との比較ができるような資料は市場に存在していないので、参考にさせていただき、一つひとつの政策に対する地域の方々の評価に基づいた、グットスパイラルを回していくようなまちづくりを進めて行きたいと思っています。

渋谷区副区長 澤田伸氏

水本:ちなみに、どこかベンチマークされている自治体はありますか?

澤田:兵庫県加古川市は、我々が去年から研究しているバルセロナのDecidim(参加型合意形成デジタルプラットフォーム)の日本版をいち早く導入された動きもあるし、注目していますよ。ただ、べンチマークしているかどうかは別です。我々はどちらかと言うとベンチマークされる側にまわりたいので、どこかを真似るってことは恥だと思っています。

水本:渋谷区は先端を行かないといけないってことですね。

澤田:我々はファーストペンギンであり続けないといけないと思っています。コロナを誰も想定できなかったように、不確実性がものすごく高くなっている中で、これをやれば間違いないという政策を作ること自体が難しくなっています。だからこそ、地域の方々の発想や気持ち、潜在的な気づきみたいなものを深く掘り起こしていく「リビングラボ」のような活動が必要であり、この活動を成長させて行きたいと思っています。

日本の都市が参考にすべきヒントが詰まっている、北欧の都市(デンマーク)の取り組みについて

都市生活研究所所長 水本宏毅

水本:私が参加しているシビックプライド研究会では、シビックプライドを醸成する事例を研究するために、昨年 (2019年) 9月にヨーロッパの都市を回って来たのですが、その中で、デンマークには色んな意味で感銘を受けました。

澤田:ベンチマークでは無いですが、我々も北欧の先端都市の情報は常に取り続けたいと思っています。私も去年と一昨年にエストニアとフィンランドに行きました。

水本:エストニアは電子国家として注目されていて、色々な企業が視察してますよね。北欧の国々は社会福祉政策の関係で個人データを把握する必要があり、デジタル化が進んでいて、行政と市民が近い関係にあります。また、デンマークの首都コペンハーゲンでは、生活者のアクティビティを中心とした「ヒューマンコンシャスな都市」がデザインされていて、環境問題にも市民が関与できるような取り組みが行われています。それがシビックプライドの醸成を後押ししていると感じました。ちなみに、コペンハーゲンは2025年にはカーボンニュートラルにすると宣言をしています。

澤田:日本は脱炭素化が遅れていて、環境団体から「化石賞」という不名誉な賞をもらってますからね。

水本:また、渋谷区がダイバーシティとインクルージョンを掲げていらっしゃるように、コペンハーゲンでも多民族共生の象徴となっている公園「スーパーキーレン」や、LGBTの大規模なお祭りイベント「コペンハーゲンプライド」など、生活者の多様性を受け入れる取り組みが行われています。デンマークは世界で初めて同性婚を法的に認めた国ですからね。

澤田:ダイバーシティやインクルージョンの観点で言うと、政治家の多様性もありますよね。北欧は首相や大臣が若くて女性も多いですよね。先日、ネットで、日本は「おじいちゃん内閣」と揶揄されていました。おじいちゃんがやってるからダメだと言う訳ではありませんが…。

水本:北欧は民主主義がすごく成熟しているので、市民の政治への参加度が非常に高いですよね。民主主義をテーマにしたイベントをやるとすごい人数が集まるんですよ。その辺の感覚も日本とは違います。

澤田:民族の成り立ちの違いは当然ありますよね。例えば北欧はやっぱりバイキング。スペイン、ドイツなども、国土を自分たちの力で守ったり、独立運動も盛んだったのに対して、日本人は島国の中にいて、そういった経験がほとんどないですよね。

水本:デンマーク第二の都市オーフスには「DOKK1」、フィンランドのヘルシンキには「Oodi」という有名な図書館があります。両方とも市民と一緒にビジョンの策定やプロジェクト管理の検討を行うプロセスをデザインしながら完成させた施設です。図書館と呼ばれていますが、中にはイベントスペースやスタジオ、ワークスペースなど、市民が集まる仕掛けがふんだんにあって、結果、シビックプライドを高める施設になっています。

澤田:どこかを真似るのはかっこ悪いと言いましたけど、こういうのは作ってみたいですね。図書館ってもっと賑やかでいいと思っているんです。日本の図書館は、知のアーカイブと言えばかっこいいですけども、やはり利用者も限られています。公共施設というのは、誰もが使えて、しかも多様に交流できる場所にしないと、税のフェアネスの観点から、大変まずいと思っています。こういう建物の付加価値づくりというか、建物の稼働を高める仕組みは参考にしたいですね。

水本:また、オーフスには、「ReThinker」というシニアを中心としたボランティア集団があります。2017年にオーフスが「欧州文化首都」に選ばれたのをきっかけに、オーフスを訪れる人を案内したり、イベントをサポートするために立ち上がったんですけど、今でも活発に活動しています。

澤田:シビックプライドの高い人たちの集団ですね。

水本:そうです。この活動をやるためには、自分達の街をもう一度見つめ直す必要がありますから、シビックプライドが高まるわけです。市民を巻き込む、こういった活動も見習いたいところですね。

澤田:オリンピック・パラリンピックは、本来のボランティア精神、ボランティアのあり方をいろんな形でアウトプット出来ると思うので盛大にやりたいですけどね…。ボランティアがたくさん活躍する、これはまさに、シティプライド、シビックプライドを高める大きなきっかけになると思います。

市民参加を促し、シビックプライドを醸成するための4つのポイントについて

水本:デンマークを視察、取材して、シビックプライド醸成のための市民参加の取り組みには、四つほどポイントがあると感じました。一つ目は、先程ご紹介した「スーパーキーレン」や「DOKK1」など、「市民のアクティビティを促す活動拠点や象徴的な場を設ける」ということです。
二つ目は、「市民参加のハードルを下げる」こと。いろんなレイヤーの市民が参加できるようなリビングラボやオンラインを活用したオープンプラットフォームなど、市民の声を拾えるシステムや仕組みが重要なのではないかと思いました。声を上げる市民ってプロ市民というか、街に対して意識の高い、一部の人になりがちですよね。

澤田:意識の高い人と言いますか、都市部の首長選の投票率はだいたい35%で、その中身は、比較的高年齢で、居住歴が長い方だとか、自治会に入っていて地域活動に熱心な方とか、あと商店を営んでいる方に多いかと思います。こういった方々は、もちろん、大切な地域の構成員ですが、重要なのは選挙に来ない65%のサイレントマジョリティが意見を発する機会を作ることです。65%の中身は、たまたま渋谷に越してきた単身者だったり、子育てが忙しかったり、共働きで日中の大半はこの街に居なかったりで、地域活動に参加することはほとんどありません。こういった人たちが、ソーシャルメディアだとか、ネットを使って、政策に対して意見を発するような社会にしないと街は活性化しないと考えています。時間や場所にとらわれないで意見を発することができる「コミュニケーションプラットフォーム」づくりに、どんどん取り組みたいですね。

水本:そして、三つ目は、「運営を市民に委ね、自走するように心掛ける」ことです。自治体が何でも用意してあげると市民は受け身になってしまいますので、市民が意思を持って自走するための仕掛けが大事だと思います。未完成のオープンエンドの仕組みというか、市民に余白を与えて、皆さんで使ってくださいというやり方も必要ですよね。

澤田:我々が、「ササハタハツ地域(笹塚、幡ヶ谷、初台)」でやっているリビングラボは、基本的に自走できる仕組みになっています。立ち上げだけは、沿線事業者の京王電鉄と渋谷区、渋谷区の外郭団体である「渋谷未来デザイン」という官民でやっていますけど、その後は地域の方々が具体的なアクティビティを行っていて、我々は補助金などを使って、それを支援するようなプログラムを始めています。

水本:四つ目は、「アイディンティティを感じる、楽しい体験を提供する」ことです。堅苦しいと市民がアクティブにならないので、「ReThinker」のようなボランティアプログラムや、「コペンハーゲンプライド」のようなお祭りイベントを提供するなど、市民がどうやったら楽しく参加してくれるかを考える必要がありますね。

後編では、渋谷区の取り組みと、渋谷区が目指す都市づくりの未来をお届けします。


澤田伸氏プロフィール
渋谷区副区長。飲料メーカーのマーケティング部門、大手広告代理店、外資系投資ファンドのマーケティング部門などを経て、2015年10月より現職。東京23区では初の民間出身の副区長となり、CIO/CISO兼務で渋谷区のIT改革の立役者としても注目されている。


※この記事は2020年11月に実施した対談をもとに構成したものです
※「シビックプライド/Civic Pride」は、株式会社読売広告社の登録商標です

水本 宏毅

都市生活研究所 所長

1990年読売広告社入社。大手不動産クライアントの再開発事業や住宅プロモーション業務に携わったのち、経営企画局長を経て、2016年に都市生活研究所所長に就任。「シビックプライド研究会」や再生都市研究「都市ラボ」など、都市と生活者研究を通じて、企業や自治体のプロモーション業務に取り組む。
著書(共著)「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(2019年 東京法令出版)