SPECIAL CONTENTS

シビックプライド醸成への取り組みと渋谷区が目指す未来とは【後編】

2021.02.04

市民が都市に対して持つ「愛着」や「誇り」のことを指すシビックプライド。前編に引き続き、IT活用を推進し、地域・住民との関係づくりや、職員の意識改革に取り組んでいる渋谷区の澤田副区長に、シティプライドやシビックプライド醸成への取り組みと、渋谷区の都市づくりの未来について伺いました。

水本:渋谷区は「渋谷区まちづくりマスタープラン」の中で、目指す将来像として、「多様なライフスタイルを実現する生活環境の創出」、「人々がいきいきと過ごせるパプリックスペースの創出」、「環境問題や災害リスクに対応するみどりや仕組みの構築」、「多様な文化や新しいビジネスを生み育てる舞台づくり」の4つを挙げていらっしゃいます。具体的な取り組みの中では「おとなりサンデー」が、シビックプライド的なイベントだと感じているのですが、今年も実施されたのですか?

澤田副区長(以下、澤田): 今年はオンラインでやりました。これは区長の長谷部がフランスのパリでやっている「隣人祭り」を参考に立ち上げたイベントです。今年で4年目になりますので、「おとなりサンデー」は、ほぼ自走できるところまで来ています。最初のきっかけづくりは行政がやっていましたが、今は100を超えるグループが企画を考えて実施しています。ポスター用のロゴをダウンロードできる仕組みと、企画を公開するWEBサイトなどのサポートを事務局がやっているくらいです。逆に区の職員もそこに入って、一緒に盛り上がろうという企画になっています。これはヒット政策なんで、来年はリアルでやりたいですね。

渋谷区副区長 澤田伸氏

水本:「ササハピ(ササハタハツピープルまちづくりサポート)」についてもお聞かせください。

澤田:「ササハピ」は、笹塚、幡ヶ谷、初台の地域アクティビティを支援する公募型の仕組みです。具体的な活動がいくつか選定され、自走した取り組みが始まって行きます。このエリアは具体的な再開発も動いていて、2.7kmの甲州街道の南側に並行して走っている玉川上水旧水路緑道の暗渠の公園は、「ファーム」という都市農園をコンセプトに、2026年頃にかけて完成する予定です。ここには、環境面に配慮した技術やセンシング技術などを実装する予定です。センシングをしっかり作っておけば、将来、AIセンサーを搭載したドローンに警備させることができる。農園なので、例えば、勝手にイチゴを獲られたらマズイですからね。こういった仕組みに合わせて、地域の方々が、マルシェとか、期間限定のカフェや採れたて野菜を使ったレストランやパン作り教室などをやってくれたらいいなと。それを大学の有識者や地域づくりに長けた方々がサポートする。行政もそのひとりでありたいと思っています。

水本:我々も少しお手伝いさせていただいている「MIYASHITA PARK」がオープンしました。以前、お話を伺った時に、渋谷区としては、もっと公園を活用したいとおっしゃっていましたね。渋谷区には代々木公園という大きな公園がありますが…

澤田:代々木公園は、都立公園なんですよ。東京都には代々木公園を区立公園に変えてくれと頼みましたがダメだと言われました。広さで決まっているらしいですね。

水本:そうなんですか。渋谷区で活用できないのは残念ですね。

澤田:我々がオンラインとリアルで開催した「SOCIAL INNOVATION WEEK 2020」で、「MIYASHITA PARK」を使って、YOGAやスケートボード教室などのイベントをやりましたが、あれが公園の魅力ですよね。「MIYASHITA PARK」は公園の在り方も今までとは変わっています。

水本:その他に、渋谷区はこういった活動もやっていると言うものがあれば、お聞かせください。

澤田:区長が長谷部になってから、昔でいうところのタウンミーティングをカジュアルなワークショップ型にどんどん変えて行っています。地域の皆さんとの対話を通じて計画を策定していくプロセスは、今や当たり前になっています。この当たり前のサイクルが、シビックプライドを作って行くエンジンの一つになってきています。これからのパブリックの在り方は、北欧がそうであるように、行政や市民・民間企業・NPO法人・大学も含めた、様々なセクターが、それぞれのリソースを持ちだして、それらをかけ合わせてあるべき方向に動いて行くのが、オーガニックな姿だと思います。

水本:渋谷区は住民の方にどのような方法で情報を伝えていますか?

澤田:住民のほとんどの方は行政のアクティビティに興味がないと言う前提に立って、丁寧に情報をお届けする必要があります。例えば、「しぶや区ニュース」のような紙メディアを従来のような読みにくく、何が書いてあるか分からないようなものから、写真を中心としたカラフルなタブロイド判にした結果、今では閲読率が8割を超えています。こんなメディアは他にはないですよね。それ以外に、Facebook、Twitter、LINE、Instagramなど、公式のSNSだけでも、リーチが5万件くらいあり、23区の中では突出しています。高齢の方はまだまだデジタルに慣れていないので紙媒体は必要ですが、もっとリーチを上げるために、最終的にはすべてを紙メディアからデジタルに変え、情報プラットフォームの発信力を使って、リアルタイムにいろんな情報をお届けしたいと思っています。

IT化の推進は、シビックプライドを醸成するための有効な手段でもある。

水本:シビックプライドを醸成するためには、職員のスタッフプライドも必要だと思うのですが、区の職員の方々の意識変革など、何か取り組まれている事はありますか?

澤田:渋谷区は、電子化が自治体の中では断トツに進んでいます。場所・時間・メディアなど、何の制限もなしに、自分のデバイスを使って業務を進めることができる環境にあります。デジタルの力で事務作業の省略化やスピード化を進めています。さらに、我々は、全27事業のRPA(Robotic Process Automation)化を図ろうとしています。お問い合わせは24時間365日、すべてAIが受ける。WEBサイトやLINE上ではAIチャットボットですべての質問にお答えしています。ちなみに、渋谷区はほとんどの会議がオンラインです。職員には、効率化によって削減された時間を作って、いろいろなカンファレンスに行くとか、地域のワークショップに参加するなど、自分を創発させる時間にあてて欲しいと思っています。

水本:シビックプライドは短期間で醸成されるものではないですから、職員の方々がなるべく多く市民と接する必要があると思っています。しかし、自治体の職員は事務作業などが忙しく、なかなか市民と接する時間が取れないというのが課題だと思っていましたので、職員の時間創出のためのIT活用は素晴らしい取り組みだと思いました。

都市生活研究所所長 水本宏毅

澤田:IT関連で言うと、渋谷区は、子供たちの教育に対して、かなり投資をしています。ほとんどの基礎自治体は、子供たちにPCやタブレットを渡してICT教育と言っていますが、我々は、これまで作ってきた仕組みを全て捨てて、教育に関するあらゆるデータが連携できるシステムネットワークに作り変えました。他の地方公共団体は、5年はキャッチアップできないでしょうね。データドリブンの教育モデル、これが最初から実装できているのは渋谷区だけではないでしょうか。こういった取り組みもシビックプライドを作るひとつの源泉になる可能性があると思います。

水本:子供の教育環境の整備によるシビックプライドの醸成は、確かにあると思います。

澤田:コロナだからって縮こまってもしょうがない。オンラインを活用して地域とつながることをやっていく。今年は区民フェスティバルも全部オンラインでやりましたし、「バーチャル渋谷」のように、デジタルツイン空間を使ったイベントもやってみました。市民のウェルビーイング、リバブルなまちにするためには、できることを全部やる。職員の業務効率化と生産性を高め、それを見える化する取り組みもそうです。そのために必要なところについては、デジタル化を推し進めようと思っています。

ストリートカルチャーを再構築して、渋谷ならではのフラットなコミュニティによる都市づくりを目指す。

水本:渋谷区は、区民だけではなく、企業や来街者など様々なステークホルダーがいる区なので対象が幅広いと思うのですが、それも踏まえて、今後の渋谷区の都市づくりに関するビジョンをお聞かせください。

澤田:我々は、「渋谷が好きな方々」、「渋谷に思い入れがある方々」をひとつのかたまりだと思っています。私たちはそれを「渋谷民」と呼んだりしています。英語で言うと「シブナー」「シブヤピープル」かな。シティプライド、シビックプライドが高い街には、「ニューヨーカー」とか、「パリジャン」のように、その街にいる人たちを指す言葉がありますよね。そういった街になることが、すごいことだと思います。
渋谷は、「若さ」や「エネルギッシュ」なイメージを持っています。それはなぜかというと、ストリート性が強い、カルチャーの街だからなんです。人をひきつける大きなエネルギーは、ストリートの個性的なお店や、ストリートから生まれて来るカルチャーだと思います。「ビームス」も「シップス」も道玄坂の坂の上のちょっとした個店から始まっていますよね。また、渋谷はある種、音楽やお芝居や映像文化の情報発信の街になっていました。今でも、渋谷にしかないものが、次から次へと生み出されています。バーチャル空間上に街を再現する動きも、ある種、渋谷ならではですよね。
話は変わりますが、私は、最近、都市づくりというのは「対等性」だと思っているんですよ。

水本:「対等性」ですか?

澤田:そう、「対等性」。つまり「フラット」です。行政だろうが区長だろうが、街の将来やビジョンについて意見交換するときは対等であるべきなんです。これは、渋谷区のスローガン「ちがいをちからに変える街」に表されているように、都市づくりの根幹の発想です。また、これからの都市づくりは、経済効果だけではなく、コミュニティづくりが新たな尺度になってくると思います。もう一度ストリートに立ち戻って、渋谷区を個性的な店がある街に戻したいと思っています。それはカルチャーやコミュニティの中から生まれてくるものなんですよね。スタートアップへの投資などでお金を回す経済的なエコシステムとは違う、カルチャーを活用したエコシステムを同軸で回したいと思っています。

水本:いいですね。私も渋谷にはストリートカルチャーの個性的なイメージを持っていて、もう一度、その渋谷が戻って来ればすごく嬉しいですし、シビックプライドの醸成につながるのではないかと思います。
本日は、ありがとうございました。


澤田伸氏プロフィール
渋谷区副区長。飲料メーカーのマーケティング部門、大手広告代理店、外資系投資ファンドのマーケティング部門などを経て、2015年10月より現職。東京23区では初の民間出身の副区長となり、CIO/CISO兼務で渋谷区のIT改革の立役者としても注目されている。


※この記事は2020年11月に実施した対談をもとに構成したものです
※「シビックプライド/Civic Pride」は、株式会社読売広告社の登録商標です

水本 宏毅

都市生活研究所 所長

1990年読売広告社入社。大手不動産クライアントの再開発事業や住宅プロモーション業務に携わったのち、経営企画局長を経て、2016年に都市生活研究所所長に就任。「シビックプライド研究会」や再生都市研究「都市ラボ」など、都市と生活者研究を通じて、企業や自治体のプロモーション業務に取り組む。
著書(共著)「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(2019年 東京法令出版)