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企業の未来を想像・発見し「何を言うか」をクリエイティブしていく

2021.09.10

〜第88回毎日広告デザイン賞(主催:毎日新聞社 後援:経済産業省)・一般公募・広告主課題の部・最高賞受賞にあたって〜

課題:牛乳石鹼共進社「企業広告」

はじめに

日々の業務で得意先の方々とお話しする中で、その分野の専門家として商品や企業に対する強い想いをお聞きする度に、私は自分自身の役割を強く意識するようになりました。私はアートディレクター兼プランナーとして、得意先の想いをどう表現に変換すれば、生活者に伝わる最適な表現が導き出せるのか?を軸にアイデアを考えています。しかし、それは単に良いビジュアルを考えることではなく「得意先のあるべき未来の姿を想像・発見し、それを生活者に届く表現に変換すること」が重要だと考えています。イラストレーターやフォトショップといった制作ツールが発達し、誰もが簡単にクリエイターを名乗れる世の中になり、表現手法だけで新しいものを生み出すのは難しくなる中で、得意先の未来について「何を言うか」から考えることこそが、これからのクリエイティブ表現に必要だと考えるからです。

最高賞受賞の経緯とそのクリエイティブ企画の趣旨

コロナ禍で不安の中にいる私たち。社会への不満がつのり、流れてくる情報にも疑心暗鬼になりがちな時代の中で、私は広告で何ができるのかを考え続けていました。そんな時に出会ったのが、毎日広告デザイン賞・牛乳石鹼共進社の、『「withコロナ」で牛乳石鹼共進社が企業として発信する「清潔」に支えられた暮らしの提案』という課題です。企業広告の課題ということもあり、まず考えたのは、牛乳石鹼共進社の企業理念にある「ずっとかわらぬ、やさしさを。」のメッセージを、この社会の未来を見据えていかに体現するか。そのためには、企業と生活者を結ぶ「やさしい行動」そのものを提示することがこの企業ならではの使命だと思いました。そして、手を洗うこと(ポーズ)は、大切な人のことを想い一日でも早いコロナの終息を願う「やさしい行動」の象徴と考え、今回の表現に至りました。

クリエイターとしてクリエイティブする際の4つのポイント

今回の広告賞への取り組みでも実行したことですが、得意先の課題にチームで答えを出す際には、下記の4つのポイントを意識することでより良い表現が生まれると思います。

【 1.チームでの共通目標の設定 】

1つ目は、チーム内で目指すべき表現の共通認識をつくることです。例えば、想像を掻き立てる余白はあるか、家族や身近な知人に説明しなくても伝わる表現になっているか、(今回の広告賞であれば)課題・企業理念からブレない「清潔」「やさしさ」はあるか。という点です。はじめにチーム内で共通認識できるような基準をつくることで、お互い納得しながら検証を進めていくことができると考えます。

【 2.言葉をデザインにしてみる 】

2つ目は、簡易的にでも気になった表現は実際に形におこしてみることです。例えば、写真かイラストか、レイアウトはセンターか左右によせるか、コピーは日本語か英語か。など、実際に形に起こすことで、表現が研ぎ澄まされ、その表現に理由が生まれてくることを改めて実感できます。

【 3.疑う 】

3つ目は、その表現をもう一度疑うことです。制作が進んでいくと物理的に時間がなくなり、夢中になってしまうあまり独りよがりな表現になってしまうことがあるため、自分たちでネガを探すのはもちろん、今回のような一般公募のコンペの場合は、家族や身近な知人など、普段広告を意識的に見ていない人からも意見をもらうようにしています。そうすることで、頭の中で考えている個人のアイデアや想いを、広く世の中の人に伝えるための最適な表現が導き出せると実感しています。

【 4.一言で説明できるか 】

4つ目は、その案の表現を一言で説明できるかということです。私個人の考えですが、良い広告の多くは、実際の表現を見せなくても、企画を一言で説明した時点で「いいね!」と理解してもらえるものだと思います。実際の仕事の中でも、通る案と通りにくい案の表現の差は、やはり一言で説明できているかいないかです。自信がないと言い訳をするように、つい説明が長くなってしまいがちですが、広告表現はスピードが大事なので、端的に説明できるものがベストだと考えます。そこで重要になるのが、説明しなくても伝わる、突き詰められた表現意図になります。

上記のポイントを意識することで、グラフィックはもちろん、CM・プロモーション・商品開発など、企業や商品のブランディング全般へ活かしていけると考えます。

おわりに

このコロナ禍のようなタイミングでなければ、今回の賞とも、企業課題とも出会えていなかったかと思います。この受賞作品が、少しでも見ていただいた人の心に届けば幸いです。
未だ世界はコロナウイルスと戦いの真最中です。今は一日でも早い新型コロナウイルス感染症の終息を願っています。

楠 陽子

クリエイティブ局 第1クリエイティブルーム

アートディレクター/プランナー

2015年、読売広告社入社
クリエイティブ部門にて、食品/飲料メーカーをはじめとする多くのクライアントを担当。伝えたいメッセージをシンプルに紐解き、多様な人に届くものへと昇華させるアートディレクション力が強み。近年では、そのアートディレクター発想のクリエイティビティを活かし、広告制作・プロモーション・商品開発等、幅広い業務に携わっている。また、個人応募の広告賞/デザイン賞でも数々の賞を獲得し、常にクリエイターとしての鍛錬を重ねている。