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2021.11.29
昨年の都市生活研究所フォーラム都市インサイトセッションでは、私たち都市インサイト研究ルームが研究する“「場」を起点とした関係性のデザイン”について、研究パートナーの西田氏との対談を通してお話しました。
その関係性デザイン視点をさらに深めるべく、今年は、場によってうまれるものとはなにか、それはどのようにしてうまれるのか、に着目し研究を進めています。
これまで都市は、産業革命をきっかけとして拡大した「産業都市」や高度経済成長を背景とした「消費都市」など、人やモノ・企業を集積させ、物理的規模を大きくしながら成長してきました。その後、情報社会・技術革新などの社会変化によって、さまざまな仕組みを柔軟にアップデートさせることで、多様な生活者のニーズに応える都市へ移り変わりました。このような都市を私たちは「自己実現都市」と定義しています。
「自己実現都市」は、マズローの欲求5段階説の頂点にある「自己実現欲求」を満たす都市であり、自分のアイデンティティを尊重し、自分らしく歩むという個の時代を象徴した都市の形態といえます。その一方で、自分の幸せを追求したいという自己実現欲求に加え、周囲や社会の幸せも考える必要があるのではないかと気づいた生活者が、周囲への幸せを考えたモノゴトを選択するようにもなってきました。
「自分らしさ」だけではなく周囲の幸せも考えたいという想いは、マズローの欲求5段階説のその先にあるといわれる「自己超越」につながる想いであり、そのような想いを実現する都市を私たちは「自己超越都市」と定義しました。
周囲・社会の幸せを考えた行動をとることが、めぐりめぐって自分の幸せにもつながると理解した生活者によってアップデートされる「自己超越都市」が、これからの都市や社会のあり方において、スタンダードになっていくと考えています。
では、「自己超越都市」はどんな風にうまれるのか。そのカギとなるのが「生活者同士のつながり」です。生活者同士がつながることで、お互い(=社会)の幸せについて共有し合え、社会の本当の幸せを理解することができます。また、そのつながりを通して自分ができることをやってみようと、それぞれの能動性を引き出すことにもつながります。このように都市のアップデートには、生活者のアップデートも欠かせないのです。
生活者のアップデートが都市のアップデートを引き起こしている都市の先行事例があります。昨年のフォーラムでもご紹介したデンマークのDokk1。こちらは10年の歳月をかけて、ビジョンの策定からデザイン・運営管理方針まで、自分たちが使う場として生活者が主体となって開発された図書館です。また、台湾で展開されているデジタルプラットフォームvTaiwan。台湾に住んでいる人であれば誰でも投稿したりディスカッションしたりできる場です。行政との意見交換の場ともなっています。新型コロナウイルスのパンデミック時には、このプラットフォームを通して開発されたマスク在庫管理アプリによって、流行拡大の抑制につながったといわれています。
このように個々の能動性を引き出す生活者同士のつながりは、能動性が引き出されやすい“新たな場”によってうまれ、それがどんどん拡がることで「自己超越都市」が実現します。この新たな場がこれからの社会の可能性を拡げるポイントだと考え、次なる時代の視点として都市生活研究所は注目しています。
この視点をより深めようと、昨年、私たちは町田市の芹ヶ谷公園にて、フィールドワークを実施しました。町田市では芹ヶ谷公園の整備を計画しており、生活者と一緒に未来の公園を考えようと市民参加型プラットフォームを立ち上げました。そこで、これからの公園を見据えどんな公園にしたらいいか、生活者とともに公園活用の実証実験を行っています。様々な取り組みを実験するイベントの場で私たちは、利用者観察調査を行ったり、利用者・実証実験に参画する生活者へのヒアリングを行ったりしました。
このフィールドワークを通して、①共感を創る、②参加を生む、③つながりを育む、という3つの生活者の能動性がうまれていることがみえてきました。この発見からさらに、これらの能動性がどんなきっかけや仕組みでうまれ拡がっているのかという根幹に迫ろうと、現在、有識者とともに研究を進めています。
現在、私たちは“新しい場のチカラ”を検証するプロジェクトを計画しています。プロジェクトの場は、多様な都市生活者が集まる渋谷の最新の都市公園、MIYASHITA PARKを予定しています。MIYASHITA PARKの地域貢献還元型自主事業として実施をし、YOMIKOは共同主催者の立場で、事業企画を全面バックアップします。
このプロジェクトを通して検証したいのは、“新しい場のチカラ”によって生活者の自己超越のきっかけをつくり、能動性を引き出すこと。さらに、お互いの幸せを追求する生活者のつながりが社会全体に拡がっていくこと、つまり“能動的なつながりの伝播”です。
検証する上で、東京・渋谷のMIYASHITA PARKの“新しい場”の特性を活かすことによって、そこに集まる生活者のつながりをデザインしようと考えています。
例えば、渋谷の持つ 「ダイバーシティ」に目を向け、子供やお年寄りがまだまだ少ない渋谷を誰もが参加できる生涯スポーツで解決できないか、体を動かすことを通じて渋谷を誰もがすこやかになれる街にしていくきっかけをつくれないだろうか。もしくは、渋谷駅周辺の「自然」の少なさに目を向け、MIYASHITA PARKの持つ広大なグリーンを活かして、渋谷を四季が感じられる街へしていくきっかけにできないだろうか、など様々な視点を検討しています。
私たちは、“能動的なつながりの伝播”によって、Well-beingが都市へ広がっていくこと、幸福が社会へ広がっていき、都市がアップデートされていくことを検証したいと思います。そして、広告会社として、大きく変化する新しい都市と都市生活者を動かすコミュニケーションデザインへトライアルしていきます。
<研究メンバー>
●大屋 翔平|都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム
1984年宮崎県生まれ。2010年読売広告社入社。
街、エリアを基軸にした研究から、マーケティング、コミュニケーションプランニング、プロモーション、商品開発、事業開発まで幅広い業種・領域を手掛ける。都市ラボ所属。
●相澤 恭子|都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム
読売広告社入社後、都市生活研究所に所属。
マンション開発・商業・ホテルなどの不動産領域を中心に、マーケティング戦略やコンセプト立案、商品企画を担当。「次世代サードプレイス」や「生活者モード」など、場と生活者に関する研究にも従事。