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2019.02.21
これまでの3回は各領域にフォーカスしたテーマ設定でしたが、後半の第4回・第5回に関しては、各領域にフォーカスするのではなく、それらを越境する視点で研究会を行っています。
第4回は、「次世代サードプレイス」というキーワードを受けて、「同居・あいだの時代」の空間づくりを第一線で実践する、カルチャーリーダーともいえるSUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻氏・吉田氏を講演ゲストとしてお招きしました。
谷尻氏・吉田氏とともに、同じく建築家の山﨑健太郎氏(山﨑健太郎デザインワークショップ)、大野力氏(sinato)、エディターの塩田健一氏、YOMIKOメンバーでディスカッションを行いました。
会の前半では、谷尻氏・吉田氏から「次世代サードプレイス」というテーマをもとに、3つのキーワードと4つの事例をお話いただいた。
「世の中/Scene」
カフェ的写真(カフェと呼称される空間で、ラップトップを手元に何か仕事をしている風景写真)を例に、日常風景の中にある次代潮流への気付きを示唆いただいた。
特に印象的だったのは、カフェと称されているその定義を疑うということ。「行為から空間を創る」という本来の空間づくりの重要性。これは通常業務で陥りがちな名前発想の空間づくりの警鐘でもある。
「あいだ/Between」
路地の写真を例に、「あいだ」とされる場が持つ、豊かさの可能性を示唆いただいた。シロかクロかの議論ではなく、シロとクロの境界の太さや質の議論の重要性、ここに新たな発想のヒントがあると感じた。
「古いは新しい」
日本古来の民家の写真を例に、現代の既成概念を疑うということを示唆いただいた。既成概念に囚われない姿勢・スタンスは、3つのキーワードに通ずる考えでもある。
「THINK」では、空間を創らずとも、空間が多彩に生まれるということを証明。「なんとなくそれっぽいものを創ることの危険性」が示唆された。「つくらなくてもつくれるという前提に立ち、何のためにどうつくるべきなのか?ということを提案する」ここに新たな発想のヒントがあると感じた。
「hotel koe tokyo」では、ストアの8時間営業に対し「ホテルの24時間というシーンを使ってブランディングしたほうが有効」という発想転換を提示。事業成立するために「設計領域の越境」を多領域に亘って実践している。
「空間以外の設計領域の職能」が大きな価値軸となっている。
「12SHINJUKU」では、ファースト(家)、セカンド(職場)という概念を越境した「12(ジュウニ)」という空間提案が新規性へつながっている。働き方を設計するpjだが、このpjをきっかけに住まい方、暮らし方も変わるという「ライフデザイン」までがデザイン領域として提案されている。
「社食堂」では「エントランス論」というキーワードが興味深かった。この計画は、食堂というエントランスの先にオフィスがあり、設計事務所というエントランスの先にレストランがある。本来の名前と中で起きることに「不一致」「予定外」を意図的にデザインする、ここに新たな発想のヒントがあると感じた。
会の後半では、「サードプレイスの新定義」の現仮説を、YOMIKOメンバーの事前課題とし、各自持参し発表。それを受けて有識者の方々とサードプレイスの新定義について議論をさらに深めた。
(塩田氏)
課題の10の方向性を俯瞰すると、共通点はあるが、着地点が異なると感じた。
我々が「サードプレイス」と呼んで求めているものは、「本当の自分に戻れる場所」なのでは?と感じる。現代人は、世の中の何らかの役割の中に組み込まれ、何らかの役割を担わされている。サードプレイスにはこの「やらされている感」から外れる場所を期待しているのでは?と感じた。
なぜ着地点が異なったのか?という点は、その「内発的な、自分の中から湧き上がるもの」の質が異なるからではないか。大きく2分するのは、一人派とコミュニケーション派。ひとりで籠る系(A)と、人やモノと出会う系(B)の2つ。この質の差によって着地点が異なってくるのだと感じた。
(塩田氏)
やらされている感がある暮らしをしていればしているほど「サードプレイス」を欲するという仮説に立つ。となると、やらされている感がほとんどない暮らし、常に内発的な暮らしをしている人は「サードプレイス」を必要としないのかもしれない。
(谷尻氏)
我々もストレスはある。マネジメントがうまいだけ。ストレスをどうマネジメントするか?、サードプレイスを求める人は、マネジメントがある意味下手で、逃げ場としてのサードプレイスを欲してしまうのでは?ストレスがあってもマネジメントによってエネルギーに変える。その場を居心地の良い空間に変換する。となると逃げ場としてのサードプレイスという概念を必要としない。
(吉田氏)
クライアントワークというよりも、ONワークに好きなことを持ち込む。社食堂はカフェで働きたかったという「好き」が上手く作用している。好きを仕事にしている。
(谷尻氏)
塩田さんの言ったサードプレイスの役割は、ある種「タガを外す」場所。自分たちはタガを外さなくても、外れたままで仕事をできる場所をつくっている。最近は、仕事を受ける際、やりたいことに近いかどうか?が重要な視点。仕事は経済がイニシアチヴをとりがちだが、やりたいことを仕事にする。今の指標は、自分たちに合うか?自分たちがやることに意味があるか?
作品例として紹介された「12 SHINJUKU」。
この事例で呈示された空間を、上記視点で見つめなおすと、、
ストレスをマネジメントできる補助線がデザインされていることが伺える。
このコワーキングスペースを見ると、逃げ場としてのサードプレイスではなく、「食べる・作る」という、建前だけでない人間の生活を挿入することで能動性・自発性が喚起されている。
(大野氏)
自分にとってはこの研究会もサードプレイス。日常のルーティンの仕事から離れることのできる「時」「場」「空間」「視点」は自分にとってサードプレイス。
かつて、スタバというサービスが登場した際は、「家、オフィス、家、オフィス、家、、、」というルーティンの中に、新たな場としてスタバが入ってサードプレイスになりえた。今はサービスが浸透しすぎて、スタバがルーティンに組み込まれている人も多い。場はルーティンに組み込まれすぎてはいけない。変わり続ける必要性があるのかもしれない。場がある程度システム化されたり、時間の経過とともにサードプレイスの賞味期限が短くなっていく。賞味期限を延ばしていくためには、場を変わり続けさせてくれる人や、場自体の操作としては、変容できる寛容な場の設計や能動性を引き出すしつらえがセットされていることがよさそう。
場の設計手法としての変容性・寛容性のセットと、人を介した場の変化を生み出す仕組みが、これからのサードプレイスには必要と言及した視点がYOMIKOメンバーの新定義でも散見。
(山﨑氏)
空間と人がセットではなく、もっと設計のみでできることもある。大野さんの言った「常に流動性を担保する」「変わり続ける」ことでルーティン化を防ぐという手法もあるが、もうひとつの視点として「変わらないけど良いものをセットする」という視点があるのでは。
みんなが共感できる幸せな風景があることがサードプレイスに繋がっていくという感覚。社食堂やスナックも喫茶ランドリーにも、幸せな風景がそこにある。この変わらない風景をつくること、これも設計で重要な視点では。
「“幸せな風景”の共有化」が居心地の良いサードプレイスに共通しているということがうかがえる。
幸せな風景の公開は、人と人との距離を近づけ、会話を誘発し、リアルな承認欲求を誘発する場へと繋げているのかもしれない。
(谷尻氏)
サードプレイスは逃げる場所という側面だけでなく、成長できる場としての可能性がある。
(YOMIKO)
現代は閉塞感のある時代。進化するためにサードプレイスに身を置くという(潜在的)ニーズもあるのでは?
(山﨑氏)
社食堂を体験することで、ふるまい方を学ぶ。サードプレイスの役割として、他者のふるまい方を見ることで、自身が感化されアップグレードする、、、そんな場としての側面があるのかもしれない。
(谷尻氏)
ダブルワーク、トリプルワークがもっと当たり前になった時に、帰るのではなく、もっと働いて楽しんじゃう、というサードプレイスというのがあっても良い。休む・リセットするという方向性もサードプレイスだが、もっと自分を活かす、もっと働くことを楽しむという場というサードプレイスの可能性。
(吉田氏)
これからのサードプレイスは、仕事の新しい作り方を生む場。職能も混ざり合うということで、新たな仕事に繋がっていくことも増えるのでは?
これまでサードプレイスという領域で自己成長という論点はあまり語られて来なかったが、「他者のふるまいを見ることで、自身がアップデートできる」というサードプレイスの新たな視点が見出された。
上記視点で事例を見つめなおすと、、、
さまざまな階層やクラスターを混ざり合わせる空間設計と仕組みづくりを行なっているからこそ、サポーズデザインの空間設計はリアルな生活者からも支持が高く、カルチャーリーダーとして時代を牽引できるのだと結びつけられる。
昨今、場づくりの成功事例として取り上げられる「社食堂」や「喫茶ランドリー」。
実際、今回の研究会でもメンバーから何度も事例として引用されている。これら事例に共通する感覚とは何なのか?、、、
■現代が求めるサードプレイス
第4回の研究会で、谷尻さん・吉田さんのお話をうかがった後にサードプレイスを見つめなおすと、 現代が求めるサードプレイスとは、 居心地がよい、ある種1stと2ndから離れる「逃げ場としてのサードプレイス」ではなく、 「より自分らしく生きるため」のサードプレイスや、「自己成長にさえ繋がる」というサードプレイスというイメージにつながった。
第4回の研究会では、サードプレイスを陳腐化させないためには、①「常に流動性を担保する」「変わり続ける」ことでルーティン化を防ぐという視点と、②「みんなが共感できる幸せな風景を描く」ことで普遍的な価値を担保するという視点が重要という話があがった。
前述の「自分らしく生きられる場」は上記②の幸せの風景に繋がる視点であり、「自己成長にさえ繋がる場」というのは空間の触媒となる人がアップデートする、上記①の流動性の担保に繋がる視点とも捉えられる。
■境界線の「質や太さ」を考える
今回お話をうかがった谷尻さん・吉田さんから感じたのは、既成概念からの脱却の重要性。
「同居・あいだ」の時代において、オフィスだからオフィスを作る、住宅だから住宅を作るという既成概念がそぐわなくなってきている。
「社食堂」はオフィスなのか?食堂なのか?、「12SHINJUKU」はオフィスなのか?住宅なのか?、「hotel koe tokyo」はホテルなのか?レストランなのか?ライブ会場なのか?、、、
機能が混ざり合い、境界線があいまいになっている。その前提に立つと、谷尻さん・吉田さんが実践するように、境界線を単なる境界線としてデザインするのではなく、境界線の「質や太さ」まで考え、如何にデザインするのかが重要ということが分かってくる。前回までの議論にあった余白と補助線のデザインという話にも通ずるテーマといえる。
現代が求めるサードプレイスは、「自発的な行為・活動の器」という側面が強くなってきている。これからのサードプレイスは谷尻さん・吉田さんが実践するように、行為から空間をつくることの重要性が増していくことを実感した。
本件についてのお問い合わせ
都市生活研究所 城
TEL:03-5544-7223
(都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム 小林 亜也子)