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“クリエイティブシティ”ロンドンの潮流から見る、東京へのヒント。

2020.01.23

「RE:」初回の特集記事を執筆した、プランナー大屋翔平

都市と生活者視点で、未来の兆しを捉える研究・プランニングを行っている都市生活研究所。その中でも、世界の都市を研究し考察する研究グループ“都市ラボ”が、その活動を発信する冊子『RE:』(リ・コロン)を発刊した。初回の特集記事を執筆した、プランナー大屋翔平に、今回取材をしたロンドンの潮流と、そこで発見した視点などについて聞きました。

ロンドンには、これからの東京のヒントがある。

キングスクロス

ロンドン キングスクロス|ヨーロッパ最大の都市再生プロジェクト。学生や家族など様々な人で賑わい、googleなどが本社を置く、活気溢れる注目エリア。

──なぜ、広告会社として世界の都市を研究をしているのでしょうか。

大屋:私の所属する都市生活研究所が行っている“都市生活研究”のスタンスは、「都市から生活者を捉え、生活者から都市を考えること」です。
それは、様々な企業の課題とともに社会の課題発見を行う広告会社において、生活者のステージである「都市」の中にこそ未来へのヒントが潜んでいると考えるからです。
都市ラボでは、世界の都市に目を向けることで、東京や日本を考える上での新たな視点を持ち、日本にいるだけでは気付くことができないヒントを探す活動を行なっています。

──初回の特集でロンドンに注目した理由はなんでしょうか。

大屋:都市ラボは、注目する世界の都市を選ぶにあたって、共通の基準を持っています。それは、生活者が活発に動き、モノやコトを積極的に生み出そうとするウェーブが再び起ころうとしている、再生している都市です。冊子のタイトルも『RE:』つまり「再」と言う意味からネーミングされています。
世界の中でロンドンは、いまとても勢いがある都市のひとつです。今年は2020年、日本で2度目のオリンピックイヤーです。私自身が仕事でオリンピック選手村の開発や広告プロモーションに携わっていることもあり、8年前にオリンピックを迎えたロンドンには、これからの東京を考えるヒントがあるはずと考え、注目しました。

ロンドンはクリエイティブシティ。世界から多様な人が集まり、ミックスされ、モノコトをつくりだす。

ペッカムレベルズ

ロンドン ペッカムレベルズ|立体駐車場をそのまま再利用したコワーキングスペース。木材で簡易的にパーテーションされたブースには、ロンドンのクリエイティブパーソンが集まる。

──ロンドンは、いまどんな都市なのでしょうか。

大屋:ロンドンは、クリエイティブシティです。Cool Britanniaを発表してからの30年間で、大きく変化しています。都市のGDPや人口、地価も上昇し続けていますが、ファッション/映画/アート/ゲーム/広告などのクリエイティブ産業就業者は、12人に1人の割合にも上っています。背景としては、世界の様々な地域出身の人が住んでいる、多国籍都市である点が挙げられます。世界中から多様なクリエイティブパーソンが集まり、ミックスされた文化がモノやコトをつくりだす。それがどんどん加速している空気を、現場で感じることができました。
例えば、今回訪れたサウスロンドンエリアでは「UK JAZZ」という新しいストリートジャズの分野が生まれ、世界的に注目されています。そもそもアフリカ系やカリブ系をルーツとする人が多く住んでいたテムズ川以南の地域に学生など若い人々が流入し、彼らの社交場としてのクラブシーンからUK JAZZは発信されるようになりました。若い人たちが持ち込んだヒップホップやJAZZのエッセンスが、もともとの居住層のルーツであるアフリカン、カリビアン的な楽器やリズムと融合し、さらに新しい音楽カルチャーが生まれている様を目の当たりにしました。

──ロンドンカルチャーの潮流で、日本にも届いているものがあるのでしょうか。

大屋:ロンドンでは、数年前から「クラフトジン」が注目を集めており、この10年ほどで小規模の醸造所が各地に誕生しています。UKといえば、ビールやスコッチウイスキーのイメージが強いですが、1700年代には多くの家庭に蒸留器があり、ジンは家庭に密着したお酒でした。それが、近年アメリカのクラフトビールの影響もあって復活し、ブームとなっています。クラフトジンは、ボタニカルと呼ばれる果実などの香りを加える素材を変えることで、複雑で多様な風味を持つお酒です。日本でもブームの兆しがすでに来ていて、酒屋にクラフトジンのコーナーや専門のバー、さらには醸造所ができ始めています。日本で作られるクラフトジンは、ボタニカルに山椒やゆず、お茶などの日本ならではの素材を使っているものが多く、日本人にも親しみやすいジャパニーズクラフトジンとして一分野が生まれつつあります。

──ロンドンは様々なおもしろいカルチャーが次々と生まれている都市だということがわかります。どうして、そのようなことが起こるのでしょうか。

大屋:カルチャーを生み出すのは人です。ユニークな人が集まり、影響し合っておもしろいカルチャーが生まれていると思います。ただ、ロンドンという都市は、人々の影響を想定しながら、場づくり・街づくりをしているのではないかな?と思います。
例えば、ロンドンのオリンピックの会場や選手村は「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」として、運動施設・学校・医療施設・オフィスに、劇場や住宅まで含む1つの大きな公園になっています。オリンピックでメインスタジアムとなった「ザ・スタジアム」は現在サッカーのプレミアリーグ、ウエストハムのホームスタジアムです。競泳の会場「アクアティクスセンター」は、自転車競技施設やテニスコートとともに、市民の交流の場所になっています。また、元メディアセンターは「ヒアイースト」として産学連携の拠点としてリノベーション。ロンドン大学ロボティクスセンター、ラフバラ大学、スポーツ専門TV局、スタートアップ向けイノベーションハブスペースなど、新しいビジネスなどを生み出し、発信する場所になっています。
オリンピック・パークでは、スポーツ/教育/ビジネスなど多様な分野で、人々が影響しあえる場や仕組みを意図的につくり、都市に埋め込んでいます。それがおもしろいカルチャーを生み出す装置になっているのではないかと感じました。

ロンドンは人のクリエイティブな能力を孵化させ、羽ばたかせていく、“巣”のような機能をもった都市。

大屋

──『RE:』の特集のまとめとして、ロンドンのキーワードを、「インキュベイトシティ」としていますが、どのような意図があるのでしょうか。

大屋:INCUBATEは、“孵化させる”という意味です。先ほどお話しした、ロンドンの「クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク」のように、人を成長させる、育む。そういう場や仕組みをロンドンの中で、たくさん発見することができました。そのような点で、ロンドンは人のクリエイティブな能力を孵化させ、羽ばたかせていく、“巣”のような機能をもった都市なのではないかなと思いました。INCUBATEの考え方はビジネスにも共通しています。例えば、クラウドファンディング。WEB上で人々が影響し合いながら、新たなアイデアを孵化させていく様は、クラウドの「インキュベイトシティ」のようにも思えますね。
今年、東京はたくさんの世界中の異文化との新たな出会いが待っています。その経験を2020年以降の都市の仕組みづくりに活かせれば、東京ならではの「インキュベイトシティ」へと進化する可能性が見えてくるのかもしれません。

──最後に、都市ラボとしてこれからの意気込みを教えてください。

大屋:今後『RE:』では、“芸術と都市”という視点で欧州文化首都イタリア・マテーラ/マルタ・ヴァレッタ、“工業破綻都市の復活”という視点でアメリカ・デトロイトなどを特集していきたいと思っています。また、本誌には、建築家を交えた座談会や、インタビュー、コラムなど様々なコンテンツが載っています、ご興味のある方は、ぜひご連絡ください!
都市ラボでは、世界の都市を広告会社ならではの視点で切り取り、そこで得た発見をヒントに、都市のコミュニケーションやビジネスを考え続けていきたいと思っています。

RE: London 2019 Vol.1

RE: London 2019 Vol.1
Contents

FEATURE
RE:London
“人”を育てる、クリエイティブシティ。


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ロンドンの多様な都市再生

大屋 翔平

都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム プランナー

1984年宮崎県生まれ。2010年読売広告社入社。街、エリアを基軸にした研究から、マーケティング、コミュニケーションプランニング、プロモーション、商品開発、事業開発まで幅広い業種・領域を手掛ける。2020TOKYOオリンピック/パラリンピック選手村プロジェクトに参画。都市ラボ所属。