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2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS ACC 地域賞 受賞記念 ~県民と真剣に向き合い、クライアントとワンチームとなって生まれた作品とは~

2024.04.26

2022年11月に公開した富山の定番おみやげ「しろえび紀行」の初のCM。本作品が2023年11月に「2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のフィルムA部門において、「ACC地域賞(北陸・中部)」を受賞しました。これを記念し、制作チームで座談会を実施。作品が生まれた背景、今回の生活者のインサイトなどについて語り合いました。

クライアントとも‘’ワンチーム‘’となり生まれた作品

― まずはACC地域賞 (北陸・中部)受賞おめでとうございます。

市川:ありがとうございます。自分にとっては幼い頃からなじみのある富山県内の企業の仕事で、ACCの受賞に作品リストに載っているのが今でも信じられないです。今回の作品は基本的には富山県内で放映されたローカルCMですが、多くの方に見てもらえるチャンスをつくるという意味でも、受賞できてよかったです。

橋本:クライアントとは距離感が近く、いいものをつくろうという共通認識を持って進行できたのが良かったです。企画としても面白くて出来栄えに自信があったのですが、2023HCC賞に続き、具体的に賞というかたちに繋がって嬉しいです。

小林:受賞した事はなによりクライアントが喜んでくださいました。今回はエリアが限定されている中で、橋本さんや市川さん、そしてクライアントとも「広告賞が取れたらいいよね」と話していましたが、まさか本当に受賞できると思っていませんでした。

市川:クライアントにとっては初のCMで、こちらの提案をとても熱心に聞いてくださいました。10案のCM企画をプレゼンしたうち、特におすすめの案に決めていただき、嬉しかったです。自分の地元ということでロケ地も地図マップで資料をつくり「ここがいいと思います!」と積極的に提案しました。

橋本:CMって制作現場が大きければ大きいほどスタッフの人数も多くて、最後まで関わらない人もいるのですが、今回は比較的少人数のチームで仲間という感じがありました。そのチーム規模が結果的にアウトプットにも影響したのではないかと思います。

「インフォメーション」ではなく「コミュニケーション」を意識した作品

― “お土産だけど地元の人も食べたくなる”というCMのコンセプトはどのように決まったのですか?

橋本:あれは富山県民である市川さんの実感からだよね?

市川:実は、東京へ向かう新幹線のなかでお土産用に買った「しろえび紀行」をぜんぶ食べてしまった経験がありました。その時に本当は地元民だって食べたいし、食べ出したら止まらない美味しさだよねと思ったんです。「しろえび紀行」は、県特産の白えびの粉末の甘じょっぱさがクセになる県民誰もが知る定番のお土産なのですが、私自身来訪先で食べる機会がある程度で。実はお土産って、地元の人にとっては「身近だけど食べる機会が少ない」不思議な距離感があるんじゃないかと思いました。

小林:私は関東出身なのですが、インサイトは理解もできますし、面白いなと感じました。営業的な視点でいうと、富山県民の方が買ってくれたらクライアントは喜んでくださるだろうし、そういうコミュニケーションがとれたらいいなと思っていました。

市川:食べる機会は少ないけれど、地元の人に愛されている“身近で特別な存在”というのを伝えたいと。そのコンセプトがブレないように制作をしました。

― どういった点が評価されて、今回の受賞に繋がったと思われますか?

橋本:ローカルCMだからといって、クオリティを下げずに制作したところがよかったかも知れません。この作品は他のCMに埋もれることなく圧倒的に目立つんです。ローカルCMだとしても全国レベルの作品ができたことが勝筋だったのかなと考えています。

市川:富山で地元のCMを見て感じることは、商品を好きになってもらいたいという前提のCMってあまりなくて、商品を売るための訴求したいことを優先するケースが多いと思います。なので、どれだけ観ている人の感情に寄り添えるか、その要素がエンタメとして入っているか否かに違いがでるのではないでしょうか。「しろえび紀行」は認知の高いロングセラー商品ですから、すでに知られているため、その先の「愛されること」を考えたのが差別化に繋がったと思います。

橋本:インフォメーションとコミュニケーションとの違いですよね。僕は出身が和歌山県なのですが、地元のCMはチラシのような感じのものが多いです。それはそれで機能していて大切なのですが、もう一歩踏み込んでつくり込むのも大事かなと思います。

― 一方で「しろえび紀行」にはローカルCM独特の雰囲気の良さも感じますよね。

橋本:確かに地方と全国、どっちともとれるバランスがあります。制作したわたし達も不思議です。東京で見ても目立つんですよね。

市川:商品について説明してないからですかね。「しろえび紀行、お土産だから食べちゃだめなんだよ」って、県民が商品を知っている前提の作品で、特に商品の特徴について推してないじゃないですか。だから商品を知らないエリアの方が観ると、不思議な違和感があるのかもしません。

橋本:ターゲットが限定されているWEB広告などのアプローチ方法に近いですね。マスのCMだと商品について言わなければならないことが10あるとして、8か9番目くらいに地元の人へのメッセージがでてくる。全国だとまずそこをクリアしなければいけないと思います。

小林:そうですね、クライアントは15秒という限られた秒数の中でもっと商品の自己紹介したくなりますよね。それで言うと、クライアントからのオーダーは初めから「地元の方に愛されること」でした。制作当時コロナ禍で人の流れが滞るなか、いまいちど「しろえび紀行」の価値を見直したいという気持ちもあったのではないでしょうか。

橋本:結果的にそのお題設定がよくて、そこに焦点を当てられたのが幸いでした。

県民の声に真剣に向きあった、地元視点のCM

― ローカルCM制作ならではの課題やそれに対する工夫などがあれば教えてください。

市川:地域密着型のCMの場合、制作側の地域に対する理解度とCMと視聴者との間に距離感がでてしまう可能性があるかと思います。地方独特の雰囲気が掴めるか否かが大切で、できるだけ県民に寄り添う必要があるわけです。それをいちばん理解しているのはクライアントさんですから、いつも以上にコミュニケーションを密にする必要があります。

橋本:市川さんの富山県民としての実感に嘘がないというところがコンセプトによく出ていて、地元の人達の気持ちとCMの内容にギャップがないのが成功のカギだったのではないかと思います。

小林:他の地域密着型の案件だと、基本的に動きだしは営業が担って、まずは地域出身のスタッフを探すことから始めケースが多いのですが、今回は市川さんからの相談がスタートでした。市川さんがいてくれれば富山のことは任せられるというのがありました。

橋本:また今回は調査会社を通さず当社でWEBアンケートをとった事もあり、生の声が聞けたことも良かったですよね。

小林:社内に富山出身の社員がいて、その方のご両親に「実際に食べているお菓子は?」や「ふだん使いしているお菓子は?」など、本音でWEBアンケートに協力をいただきました。実制作にあたりこのWEB調査レポートも頼りになりました。

市川:もうひとつは、演者に方言をしゃべらせるどうかが大きな分かれ道だと思います。一瞬でもイントネーションが違うと違和感が先行してしまって、セリフや内容が入ってこなくなりますから、今回は演者が富山出身ではないので、無理に装うよりも標準語でセリフを言っていただく方向にシフトしました。会話を自然に聞いてもらうことを優先したというか。

橋本:嘘っぽさが少しでも出るとターゲットが一瞬で離れてしまうローカルCMならではの課題で、今回の企画はとくにそこのクオリティを大事にしました。

市川:子役を地元でキャスティングするかどうか迷いましたが、地域を限定せずにキャラクターを優先してオーデションを行った結果、永尾柚乃ちゃんに決定しました。このCMを撮影した後に、ドラマの影響で大ブレイクされたので動画サイトやSNSでは「富山のCMに柚乃ちゃん出てくれている~」などコメントされていて、全国で流れても違和感のない作品になりました。

制作を通して、今後挑戦したいと感じたシビックプライド発想への思い

― 受賞をきっかけに感じたローカルCMへの想いや、今後、挑戦したいことなどを教えてください。

市川:なんだか地元への恩返しができたというか、もしCMを見て「しろえび紀行」や富山県のことを知るきっかけになるかもと思うと、嬉しいです。

小林:今後クライアントはさらに地域と向き合いながら、お土産以外の産業を作っていきたいというビジョン掲げられています。YOMIKOは「シビックプライド」という商標・知見をもっているので、今いちど地域の価値などを見直して新しい創造につなげる、そのフレームづくりをクライアントと挑戦したいなと思います。

橋本:今回の作品を通して僕の地元でもCM制作したいなと思いました。小さいころから慣れ親しんできた商品の良さや楽しさを、大人になってからのスキルを活かして皆に伝える、そんなお手伝いが日本全国でできたいらいいですよね。

(左より)
統合クリエイティブセンター  (パートナースタッフ )
クリエイティブディレクター/プランナー
市川 晴華

第3ビジネスプロデュース局
ビジネスプロデューサー
⼩林 淳貴

統合クリエイティブセンター
プランナー/コピーライター
橋本 祥平