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広告会社がメタバースを開発する理由——時代の変化に合わせた付加価値を創るゲームチェンジャー3人の思い

2023.06.21

2023年4月、当社はメタバースソリューション開発プロジェクトの第1弾として就活生向けバーチャルオフィスツアーシステム「VirO(ヴァオ、以下VirO)」をリリース発表しました。広告会社が就活生向けメタバースサービスを開発・リリースすることになった背景は何でしょうか。そこには、時代やコミュニケーションの変化に合わせて事業を変革する3人のゲームチェンジャーの思いがありました。本件の担当者である 立田真一郎、白幡一樹、岡村明理がメタバース開発にかける思いを打ち明けます。

当社がメタバース事業を始めた理由

——今年(2023年)の8月に就活生向けにメタバース上で会社訪問ができるバーチャルシステム「VirO」をリリースされるそうですね。なぜYOMIKOがメタバースシステムの開発を進めているのでしょうか。

立田:まずメタバース市場に関してですが、今後も盛り上がっていくと見ています。最近は生成AIの話題に押されがちですが、メタバース分野は現在も進化し続けています。
たとえばオンラインゲーム「Fortnite」は、シューティングゲームという枠を超え、ゲーム内のアバターを使ってユーザー同士がコミュニケーションしたり遊んだりするオンライン空間となっており、オープンプラットフォーム化が進んでいます。最近ではユーザー自身が「Fortnite」の中で自由にメタバースを開発できる機能が強化され、制作したクリエイティブの使用度合いに応じて制作したユーザーに収益が入る新しい仕組みが導入されました。これによりメタバース領域に参入するプレイヤーが増加することで、「Fortnite」というメタバース空間が発展していく形です。プレイヤーは若い人が多いのでなかなか注目されにくいのですが、長い目で見れば日本市場でも1兆円を超えていくと思われますし、総務省の情報通信白書 令和4年版でも「メタバースの世界市場は2030年に78兆8,705億円まで拡大すると予想される」との調査結果が掲載されています。

◇総務省「情報通信白書 令和4年版」soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236a00.html

翻って広告会社の役割を考えると、こうした新しい技術をさまざまな企業の方が利用しやすいようにしていくという役目があります。メタバースに限らず、新しいテクノロジーやソリューションを企業の皆さんが手に取りやすい形にパッケージ化していくことは広告会社に求められていますし、その第一弾として今回のVirO開発がスタートしたという経緯になります。

岡村:超大手の広告会社であれば、こうした新しいメタバースのソリューションを開発するといってもなんら違和感はないと思います。ですが残念ながら、おそらく一般に「YOMIKOはシステム開発ができる」というイメージはないと思います。そのためこうした新しい取り組みを始めるのなら専門のSI企業に開発を頼むか、あるいは超大手広告会社に相談に行くかという2択しかありませんでした。個人的には今回のVirOを通じて、当社でもこうしたソリューション開発ができるということを訴求したいと考えています。

——なぜ就活生向けのメタバースサービスに着目されたのでしょうか。

立田:企業としては、できるだけ多くの学生にエントリーしてもらって優秀な学生を採用したいという思いがあります。そのためほとんどの企業ではリクルートサイトを活用した情報発信に注力していますし、競合と差別化するためにリッチな体験を提供する企業も増えています。就活生は新しい取り組みを展開する企業には敏感ですし、企業の新規性はエントリー数にも影響します。
一方で、採用にかかわる予算には限りがあります。新しいことをやろうと思っても、コスト面であきらめざるを得ない企業もあります。このように「新しいことをやりたいけれども、予算が限られているためできていない」という課題領域においては、利用しやすいようにパッケージ化することで需要を喚起できます。
また一口に「会社訪問」といっても、秘密保持の観点から簡単にオフィス内に入れないこともあるので、自由に人が出入りできる場所は制限されています。そのため社員の方に気軽に話を聞きたくてもなかなか難しい現状があります。
VirOならば、そんな企業のオフィスをバーチャル空間に拡大するイメージで、これまでのリクルートサイトではできなかった企業体験を就活生に提供できます。

メタバース上で会社訪問・説明会を実施できるサービス「VirO」

——VirOはどのようなシステムなのでしょうか。

白幡:基本的には他のメタバースサービスと同じで、3D空間の回遊、チャットやDM(ダイレクトメール)によるアバター同士のコミュニケーション、ライブ配信などの基本機能に大きな違いはありません。ですがVirOが他サービスと大きく異なるのは、3Dや動作のデザイン、クオリティです。

VirOの開発に際し、ほかのオフィス向けのメタバースや、メタバース上での合同説明会の様子は一通り見たのですが、正直にいうと見た目やクオリティ面ではForniteのようなリッチコンテンツに追いついていないと感じました。特に本サービスのターゲットとしているのはZ世代なので、普段からリッチなコンテンツに慣れ親しんでいます。企業がメタバース上で自社の良いところを効果的に訴求するためにも、「ゲームで遊んでいる感覚」で楽しく就活できるようにデザイン面は若干ゲーム寄りにしています。アバターも8頭身のリアルっぽいデザインではなく、かわいらしくデフォルメしています。

【開発時のデザインイメージ】

立田:VirOは企業のリクルートサイト上で展開するサービスで、PCのWebブラウザからアクセスできます。就活生はリクルートサイトにあるVirOに入室して、自分のアバターを選び、バーチャルオフィス内を自由に動き回って社員に話しかけたりライブ配信に参加したり、バーチャルオフィス内に設置されたサイネージで企業紹介動画などを視聴することができます。
同時接続100人までに対応しており、選考プロセスや採用戦略に応じて学生を集めることができます。たとえば会社説明会など幅広く多数の就活生に来てもらうこともできますし、ある程度選考が進んだ段階で限定的にVirOに入ってきてもらうなど、企業によってさまざまな使い方が可能です。導入企業の方に対しては、バーチャルオフィス内に提示する動画やライブ配信などのコンテンツの活用法なども合わせ、当社が並走してオンボーディングします。

岡村:人事の方が使う管理画面も、多忙な採用担当者の手間をできるだけ削減できるように工夫しました。たとえばスケジュール管理も、VirO内で1度の入力で済むようにするなど、画像や動画のアップロードやループ再生の設定も含め、簡単さに配慮しました。実際に当社の人事担当者にもヒアリングを行ったのですが、非常に好評でした。

企業と就活生の活発なコミュニケーションを促進

——VirOの提供により、就活にどのような付加価値を提案していくかお聞かせください。

岡村:インターン向けの研修で「就活生が考える就活生向けのサービス」を研修テーマにしたことがあります。その時、就活生の課題として「孤独感や不安感にさいなまれる」という声がたくさんありました。コロナ禍で就活のオンライン化が進み、ともすると孤独や不安に押しつぶされそうになりますが、もしメタバース空間で別の人のアバターが動いているのが見えたら「この人もこの企業が気になって訪問しているんだな」とわかりますし、孤独感も払拭できると思います。

また、終わりが見えないということも就活の不安感の原因の1つだと思います。VirOでは、特定のミッションをクリアして楽しく企業とコミュニケーションを取る機能を備えており、就活生の達成感を促します。

白幡:開発前に新社会人の方にヒアリングしたのですが、彼らの就活時はコロナ禍だったこともあって、ワンルームの自宅でひとりきりPCの前にずっと座り続けていないといけない閉塞感に悩まされたそうです。普通、就活を進めていくと学生同士で横のつながりができ、励ましあったり情報収集したりするものですが、そんな経験がなかったそうなんですね。
だとしたら、学生がモチベーションを保って就活を進められるように、そして企業とコミュニケーションを続けられるような就活を支援することが必要なのではないでしょうか。広告会社の本業はコミュニケーションですし、企業と学生が相互に楽しくコミュニケーションできる環境を提案することも我々の大切な役割と考えています。

時代に合わせた高い付加価値の企業コミュニケーションを支援

——VirOは8月から本格リリースとのことですが、手応えはいかがですか。 また、VirO以外のメタバースソリューションの開発も進んでいるのでしょうか。

立田:おかげさまでリリース直後から多くのお問い合わせをいただきました。8月のリリース後は当社でも利用し、サービスも機能もさらに洗練していきたいと考えています。
またメタバース事業についてですが、ほかにもいくつか進行中です。他社製パッケージを活用したものだったり、またVirOのエンジンを別のバーチャルツアーに転用したりなどさまざまな試みを展開しています。

——最後にメタバース事業全体に対する意気込みやYOMIKOとしてのメッセージをお聞かせください。

立田:一口にメタバースといいますが、今回のように誰もが使えるメタバースサービスもあれば、ゲームからスタートしたもの、仮想空間に現実の建設現場を構築してシミュレーションするデジタルツインのような取り組みもあり、本当に多種多様になっています。
そんな多様なメタバースのなかでも、やはりコミュニケーションの変化に関わるような分野は広告会社のコアドメインですし、われわれ自身もコミュニケーションの変化に応じて事業も変革していかなくてはなりません。まさにそれが未来に向けて変化へ挑戦する「Game Change Partner」としての当社役割だと考えています。今回の取り組みも、コミュニケーションに関わる分野に関しては先行者でいたいという心構えで取り組んでいます。

白幡:私も同意見で、当社は広告会社なので「人の心を動かす」ことを得意としています。その強みを今回のメタバース事業に活かせればと考えています。
メタバースに限らず、これまで新しいテクノロジーが次々と登場してきましたが、エモーションが抜け落ちていて廃れていくケースをたくさん見てきました。VirOも、まず「楽しい」「使いたい」と人の心を動かすサービスとして価値を提供していきたいですし、そこに向かって開発を進めています。

岡村:そもそも当社の得意とするビジネスは、都市そのものや都市生活者を見つめること、つまり「場」を起点としています。これまでも場から生活者の声を拾い上げ、新たな価値を創造してきました。
今回のVirOに関しても、オンラインの3D空間という「場」のサービスです。この空間からユーザーの声やデータをいかに収集し、そこからいかに新たなインサイトを見つけ出していくか、それも当社が提供する新たな付加価値になります。メタバース事業においても、いかに有益なインサイトを導き出し、企業の方々に有益な情報を提供できるかという価値を展開していきたいと考えています。

——ありがとうございました。

「VirO」サービスサイトはこちら: https://vir-o.com


マーケットデザインセンター 局長代理
デジタルストラテジスト
立田 真一郎

統合クリエイティブセンター
シニアアクティベーションプランナー
白幡 一樹

マーケットデザインセンター
データストラテジスト
岡村 明理

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