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アルファ世代ファミリーの消費を紐とく

2023.08.23

新しい世代がやってくる!

Z世代に続き、最近その名をよく聞くようになってきた『アルファ世代』をご存じでしょうか。今回はユニークなワークも取り入れながら、新たな世代の消費のカギを紐解き、これからのマーケティングヒントを探していきます。

■アルファ世代とは?巷でいわれている特徴

― まずはアルファ世代の定義や特徴を教えてください。

小林 アルファ世代は、オーストラリアの社会学者マーク・マクリンドル氏が2005年に提唱した定義・名称で、「2010~2025年ごろまでに誕生した/する世代」を指します。2023年時点で0-13歳、つまり乳幼児~中学1年生が該当します。

岩切 「アルファ世代」をネットで検索すると、よく出てくる特徴が2つあります。ひとつは「社会課題をごく自然に意識している」ということ。学校教育にも「持続可能な開発のための教育」が取り入れられているなど、アルファ世代は「SDGs」「ダイバーシティ&インクルージョン」「格差解消」といった社会課題を自分ごととして捉えていると言われています。視野が広い世代と言えそうです。

大屋 2つめの特徴として世間一般で良く言われているのが「超デジタルネイティブ」。内閣府の調査※では、乳児期でもインターネット利用率が6割を超えるというデータが出ています。ベビーカーに乗ったお子さんがスマホを見ている光景を目にする方も多いと思います。これまでは、文字が読める・自分のスマホを持つ、といったステップを経てはじめてSNSやネットを通じて社会が広がっていくのが一般的でしたが、アルファ世代は「身近な人間関係の広がり」と「社会との接触・情報取得の広がり」が同時期に起こるのが特徴的です。

― 動画という手段が発達したからこそ可能になったことですね。

小島 まさに、デジタルの進化や社会環境はアルファ世代の特徴に大きな影響を及ぼしていそうです。乳幼児期から社会との接点面積が猛スピードで広がり、接触する情報量も格段に増えていることが「アルファ世代」の意識や行動にどんな影響を及ぼし、どのような特徴として表れてくるか。その興味から今回の研究テーマは生まれました。

今回の研究で分かった特徴

― 研究のアプローチを教えてください。

 アルファ世代が研究ターゲットではありますが、研究対象は「アルファ世代のいるファミリー」としました。ファミリーを対象にした理由は3つあります。①子どもの世代交代とともに、これまでの「団塊ジュニアを中心とする親世代+子がZ世代」というファミリー像が、「ミレニアル親+アルファ世代キッズ」へと完全に移行しているため、家族としての変化も捉えた方が良い、②アルファ世代の言語化能力がまだ発達段階なので保護者の力を借りたい、そして、③ファミリーの財布の紐を握っている保護者の意識は非常に重要、と考えたからです。研究は、まずは定性調査で兆しを発見し、それを検証するための定量調査を組み合わせる、という構成で行いました(図1)。

小島 「1000万円をあげるので、家族会議を通じて自由に使いみちを考えてみて!」というお題を設定し、ワークショップ形式で実施しました。都内の共働きの平均世帯年収(850万円)をベンチマークにし、多すぎず少なすぎず、現実的な買い物を考えられる絶妙な金額設定だったと思います。

― 定性調査は、どんなテーマで行ったのでしょうか。

岩切 もちろん、1000万円は架空の設定なのですが、どのファミリーも目を輝かせて、すぐに家族会議をはじめていました。その様子をモニター越しに観察したのですが、お子さんが堂々と自分の意見を主張していて、保護者の方がじっくりと意見を聞いているのが印象的でした。発言力という点で、すでに家族のキーマンとも言えそうです。本当に物事をよく知っているんですよね。「タワマン(タワーマンション)が欲しい」と小2のお子さんが言ったのを聞き、裏でモニタリングしている私たちは驚きを隠せませんでした。

―ファミリーワークショップを通じて、2つの特徴が見えてきたそうですね。

大屋 興味の大人化、②興味の体感化、です。
分かりやすいケースをご紹介しながら解説しましょう。小3のお子さんのケースです(図2)。このお子さんは、世界中にファンのいるメジャーなゲームや週刊誌で連載されていた人気漫画が好きなのですが、アルファ世代以前のお子さんであれば、他に面白い「ゲーム」「漫画」がないかを探す、というのが一般的な行動イメージだと思います。ところが、アルファ世代のお子さんというのは、こうした子供の定番関心事である「ゲーム」「漫画」を入り口にしながらも、興味関心が「大人化」「体感化」していきます。

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 このお子さんが好きなゲームと漫画には偶然にも「鉱物・鉱石」がキーアイテムとして共通して出てくるのですが、まず「鉱物・鉱石」という大人でも楽しめる世界に着眼し、その世界をもっと掘り下げていく…いわばタテの興味関心ベクトルが発生します。その掘り下げの中で、「子供向け鉱物採掘体験セット」で疑似体験をし、博物館で開催されていた「特別展覧会」で本物の鉱物が生み出す自然の奥深さを肌で感じ、そして最終的には日本各地で行われている「ミネラルショー」で自分好みの鉱物を購入し自宅で愛でる、というところにまで消費が行きついていました(図3)。

(3)

― ゲームや漫画が、まさかの「鉱物・鉱石の購入」にたどり着くんですね! 確かに、目の付けどころが「大人」、しかも「体感」へと進むことが分かります。

岩切 こうした「興味の大人化・体感化」はほかのお子さんからも出てきています。アニメや給食を入り口に、海外旅行での体感志向につながるケースもありましたね。

小林 小さな頃からいろいろな情報に触れ、知識も格段にある超デジタルネイティブだからこそ着眼点が「大人化する」のだろう、という分析をチームではしています。また、デジタル上でも情報は入手できますが、リアルでしか得られない・満たせない感覚や感性というものを無意識に感じ取って「興味を体感化」するところも、デジタルネイティブだからこその動きだとも感じています。この2点は「子供」という【年代】特徴ではなく、アルファ世代という【世代】特徴である、と私たちは考えています。

― 確かに、デジタルネイティブだからこそ、視点が「大人」で、また「体感」を志向するということかもしれないですね。

 実は、その「大人」「体感」という2つの特徴があることで、親であるミレニアル世代がその消費の流れに登場してくる、という3つめのポイントも生まれています。アルファ世代が掘り下げていく視点が大人なので親自身も一緒に楽しめるんですね。また、親であるミレニアルは「体験」に価値を感じ、体験消費にお金をかけはじめた初めての世代と言われており、子供の「体感志向」に共感し、応援したり自身も一緒になって体験を楽しんだりしたい、という気持ちがあるようです。

大屋 この構造を、私たちは今後どのようにマーケティングやコミュニケーション戦略に生かしていけばよいのか。その答えの一つが、「アルファ世代を、大人も含むマーケット形成の火付け役」と捉えることだと私たちは考えています。

岩切 これまでは大人が差し出す情報のなかで育つのが子供でした。しかしアルファ世代は、自分たちから情報を見つけ・掘り出す、いわば発火点になります。少子化の時代ではありますが、非常に重要なカギを握る世代だともいえるのではないでしょうか。また体感志向の世代であることから、子供マーケットと侮らず、このタイミングでしっかりアプローチしておくことでライフタイムバリューも期待できると考えています。



周囲の反応

― 23年6月の都市生活研究所フォーラムで、この研究成果を発表しました。反応はいかがでしょうか。

小林 フォーラム後のアンケートで、実際にアルファ世代の親であるクライアントの方々から「うちも同じことが起こっており共感しました!」というお声を頂戴しています。もちろん定量調査で検証もしていますが、本日お伝えしたことが特異な傾向やケースではなく、アルファ世代を育てるご家庭のリアルな実感が得られる内容であると感じられて、チーム一同で喜びましたね。

小島 アルファ世代の特徴と言われることはネット上にもさまざまな記事があがっていますが、消費につながっていく道筋のヒントまで明らかにできているものはほとんど見当たりません。そのため、ファミリーやお子さん向けなどの業界を中心に、新商品開発やコミュニケーション戦略立案の基礎材料としてすでにこの研究をご活用いただいています。私たちの研究が少しでも次のマーケットをデザインする前向きな材料になっていけば、それ以上に嬉しいことはありません。ご興味がございましたら、ぜひお気軽にお声がけいただければ幸いです。

<プロフィール>(写真左から順に)
マーケットデザインセンター 第1マーケットデザインルーム 岩切 拓史
マーケットデザインセンター 第1マーケットデザインルーム 秦 瞬一郎
都市生活研究所 都市生活コンサルティングルーム 小林 亜也子
マーケットデザインセンター 第1マーケットデザインルーム 小島 正子
統合クリエイティブセンター ブランドデザインルーム 大屋 翔平

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