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男性育休取得100%達成で考える、広告会社のこれからの働き方/前編 【連載:Think Sustainability】

2023.08.21

社内外にまつわるサステナビリティ推進活動を紹介していく連載企画「Think Sustainability」。第1回は、「男性育休100%がなぜ、達成できたのか」、会社からの働きかけと実際に育児休業を取得した社員の両側面から解き明かします。

前編では、ビジネスプロデュース局で活躍する木村浩尚が、昨年実際に育休を取得した際のプロセス、育休期間中の心境、木村の上長である横山恵二を中心とした部署間やクライアントとの調整などを、キャリアデザイン局 部長・中澤清美を交えて振り返ります。

■ 育休取得の相談をしたら、快く受け止めてくれて安心した

―― お子さんのお誕生おめでとうございます!夜泣きや授乳の手伝い、家事のサポートなど大変かと思いますが、復職されて、育児と仕事の両立はいかがでしょうか?

木村:ありがとうございます!今回2人目が生まれたのですが、上の子は手がかからなくなってきたと思ったらイヤイヤ期に突入したり、下の子に嫉妬したり。下の子も急に夜泣きが始まったり、寝返りしては元の体勢に戻れなくなって大泣きしたりと、次から次にいろいろなことが起こっているので体は休まりません。ですが、できることはなるべくやろうと思っています。

但し、家事に関しては役立たずで、妻には感謝しかありません。だからこそ土日は、少しでも妻の負担を軽くすべく、なるべく子どもを公園に連れていったりするようにしています。

―― 今回の育休取得の際のお話をお聞きしたいと思います。初めに、育児休業取得の意向を上長の横山さんに伝えたのはいつ頃でしたか。

木村:帝王切開での出産というのが決まっていて、出産日がほぼ確定していたので、半年くらい前の段階から横山さんにはお話していました。

―― 当時のお仕事の状況はどうだったのですか。

木村:基本的に競合コンペの形式をとられるクライアントを担当しているので、どこでどのような業務が発生するかわからない面がありました。そういったこともあったので、早めに取得の相談をしていたんです。

ほどなくして、実際に案件が獲得でき、育休取得時がちょうどプロジェクトの開始タイミングと重なるという状況でした。考え方によっては、よいタイミングだったかなと思います。

―― 育休取得の相談をするにあたり、木村さんの中で心理的なハードルはありましたか。

木村:ありましたね。人手が欲しいタイミングだったこともあり、チームのまとめ役が休むのは調整が大変です。また、部署メンバーもお子さんがいない家庭はもちろん、「自分の時は育休なんかなかった」という方もいるので、「迷惑だ」「面倒だ」と感じる人もいるかもしれないと思いました。

ただ最初に横山さんに相談を入れたとき、快く受け入れてくださり、そこで不安は解消されました。

―― 横山さんは実際に木村さんから相談を受けたとき、どんな心境でしたか。

横山:「驚き」や「困惑」というのはなくて、むしろ、木村は新人のころから知っているので、2人目のお子さんと聞いて感慨深かったですね。

会社としても男性育休取得を積極的に支援していたので、「じゃあどう調整しようか」とすっと受け入れられたと思います。

木村:実際、僕が相談したときに横山さんが全然嫌な顔をしないで、「体制を整理するのは部長の仕事だから」と言ってくださり、かっこいい大人だなと思いました。

■ 「得意先-営業-スタッフ」一体となった育休取得応援の体制づくり

―― 引継ぎはどのように進められましたか。

横山:チームごとに、木村の育休取得期間に業務の何がどこまで動くのか、事前にどこまでクリアにしておく必要があるのか、などシミュレーションを重ねて、具体的なスケジュール調整なども含めて分担を割り振りました。

上長としては、新たに役割を持つメンバーに個別依頼をしつつ、全体の場で改めて「これ頼むな」と伝えていきました。

また、得意先にも「実はこの期間、木村が育休をとりますが、こういう体制でやりますし、いついつには戻ってきます。実質この辺りは連絡がつくと思うので・・・」と言いながら育休取得へのご理解をお願いしました。

横山:つまり、「この期間はこいつの人生のためにこれを認めてください」と言うのも管理職の仕事だと私は思っているので、そういった情報の入れ方・タイミングにも留意しました。

「得意先-営業-スタッフ」一体での育休取得応援になったことは喜ばしいことです。

中澤:そこまで、しっかりとした段取りで、体制を作ってくださったのですね。

――育休期間中どのような心境でしたか。

木村:育休自体は2週間で、有給も併せて取得して、年末年始も挟んだので実質1ヶ月半くらい仕事から離れたことになります。これは社会人人生で一番長い休暇でしたし、最初は不安しかありませんでした。育休復帰時には自分の仕事や居場所がなくなってしまうのではないかと思ったこともあります。

だから、育休取得が近づくにつれて徐々に不安が膨らみ、出社最終日は「本当に帰宅して大丈夫だろうか」「明日から会社に行かなくても本当にいいのだろうか」とソワソワしていました(笑)。

実は育休中もスキを見つけては、メールチェックをしていましたが、滞りなく流れる業務を見て、不安はなくなっていきました。

―― 育休取得中はどのように過ごしていたのですか?

木村:妻が10日ほど入院していたので、その間はずっと上の子の世話をしていました。朝食を作って食べさせて、服を着替えて保育園に送り、夕方までに掃除、洗濯。合間に役所への申請関連をして帰宅後、夕食の準備。

おかずの作り置きをしてから保育園に迎えに行って、帰宅後に夕食を食べさせて、風呂に入って寝かしつけて……。1日があっという間でした。正直ナメていましたね(笑)。

妻の退院後も基本的に行うべきことは変わらないのですが、昼間は下の子の面倒と妻の食事を作らなければいけないので、やることが増えて大変でした。でも、育児経験だけでなくこれだけ長い期間、家族と向き合う時間を作れたのは本当によかったです。

実際に育児や家事を経験したことで、「こういうときにはこれをやっておかないと」といったことがわかるようになったので、復帰後も柔軟な対応が可能になりすごく良かったです。

■ 新しい成長機会にもなり、部の雰囲気は前向きだった

―― 一方、現場の皆さんはどのように働いていましたか。

横山:プレゼン案件が取れて進めなければいけない中で、月末、四半期締め、年末が重なり忙しかったですし、「これは木村じゃないとわからないな」ということが頻発したのは事実です。

しかし、そんな中でもみんなとても前向きにはやってくれたと思います。

実はその新しい案件には、ベテランの方にも加わってもらったのですが、引き継いだメンバーも経験したことのない領域の業務で、悪戦苦闘しながらも楽しく、取り組んでいました。

若手社員が先輩を教える場面もあり、部員の多くが新しい経験の機会にもなっていたので、雰囲気は良かったです。木村の配慮もあって、安心して仕事が引き継げたのでしょう。

―― 男性育休を推進する意味合いとして、属人化部分をみんなで分け合ったり、それによって成長を促したりすることも本質の1つだと思います。実際に部署の皆さんも成長機会になったということですね。

横山:それはすごくあったと思います。僕らの仕事は属人的なところが大きいですよね。

シェアできればいいし、引き継ぐことができればいいけど、どうしても1つのことに向き合っているとよい意味でも悪い意味でもその道のエキスパートになってしまう傾向があります。

それがどういうきっかけであれ、全く違うことに短期間でも触れることで、自分を振り返ることができます。

ちょうど、昨年、部署方針をつくるときに、「先輩が後輩を育てる」「部長が部下を育てる」だけではなく、「後輩が先輩を育ててもいい」という話をしました。それを体現したのが、まさにこの案件だったと思います。

木村が抜けて、若手が先輩に教えるという素敵な図式が見られました。上が下を育てるのではなく、みんなでお互いに育つ。僕も良い経験をさせてもらったと感じています。

―― 自分の弱みとともに強みが再確認できるような時間になりますね。

木村:部署として、いろいろな人を巻き込んでクライアントの担当領域を拡大していくことをテーマにしていて。ちょうど育休取得を絡める形にはなりましたが、それはうまくできました。任せた若手が一つの仕事を1人で完遂してくれました。僕が戻った後も「これはこのまま僕がやります」と言ってやり通して、一通り経験したことで大きくスキルアップしてくれました。やっぱり、自分でやらないといけない立場になって、本人がやろうと思ったらできるんですよね。

中澤:木村さんの育休取得をきっかけとした属人化解消や後輩の経験値UPという点は、まさに制度を設計した際に、男性育休推進によって部署やチームに波及するメリットとして発信していたことでした。それを部署の皆さんが体現して下さり、本当に素晴らしい連携だと感じました。


後編では、男性育休の取得を進めた背景とまだまだ長時間労働のイメージの強い広告会社において、どのような働き方改革が進んでいるのか、現在の課題、社員として感じている悩みなどを通じて、広告会社の働き方の今と今後について考察していきます。