SPECIAL CONTENTS
2023.08.29
連載企画「Think Sustainability」。第1回のテーマは、「男性育休100%をなぜ達成できたのか」。前編では、実際に育休を取得した木村浩尚と上長である横山恵二の取得までの道のり、部署間やクライアントとの調整、育休期間中の心境などを振り返りました。
後編では、「広告会社としての働き方の変化」や「育休取得による本人・周囲への影響、これからの展望」について、キャリアデザイン局 部長・中澤清美を中心に語り合います。
―― 育休取得を通した成長機会というお話をお聞きできましたが、会社として、育児休業取得を推進するに至った背景は、どのようなものだったのでしょうか?
中澤:22年度期初に、社内改革の一環で「YOMIKOらしい働き方」を定義しました。YOMIKOは「人」が資産の会社だからこそ、社員のウェルビーイング向上につながる働き方への変革は急務という考え方から様々な施策を上申し、その中の1つが男性育休の全社での推進でした。
これは単に今、国が進めているからやりましょうという理由だけではなく、推進していくことで、「性別に関わらず社員が育休を取得できて、子育てでも仕事でも、どちらでも活躍できるように応援したい」という思いが込められています。
また企業としても、長時間労働や属人化といった課題に対するアクションが進むというメリットがあると考えています。具体的には、①②③が挙げられます。
①仕事をシェアする習慣形成
②仕事を棚卸すことで周りが育つ環境
③休むことが価値になるという文化形成
中澤:今回の木村さんの例では、これら全てを体現していただいたと思います。
よく「男性育休を進めると、結果として女性活躍推進にも結びつく」と言われるのですが、すごく納得がありますよね。横山さんの部長としての関わりも素晴らしいですよね。
―― 具体的な支援制度は、どのようなものでしょうか。
中澤:育児休業取得については、男女問わず以下の制度があります。
●育休取得者への復職一時金支給制度(全取得者対象)
育児休業取得者が復職する際に、復職一時金を支給する制度。男女問わず、復職後に支給。
●育休取得者の所属チームへのインセンティブ支給制度(全取得者所属部門対象)
一定期間の取得を条件に、育児休業取得者の所属部署に対するインセンティブを支給する制度。
チームメンバーなど周囲のサポートを促し、休業取得のハードルを下げることを目的に制定。
育児休業を取得した全社員の所属部署が対象。
木村:会社としては金銭的なフォローも大事ですよね。それも社長が保証すると宣言してくれたおかげで安心して育休に入れました。現場からだとなかなか言いづらいし、浸透しにくいと思うので、経営陣の宣言や、広報活動でこういう発信をしていく姿勢は非常に大事かなと思います。
中澤:おっしゃる通り、収入減を気にして育休を取らない人が多いということはわかっていたので、そのフォローをすることも経営陣がゴーサインを出してくれました。
育休からの復職後に、復職一時金という形でお渡ししています。結果的に、社長に社内外に発信して頂いた22年度に100%を達成することができました。社内制度の整備と本人と部署へのメリット設計、経営トップの発信などが全てつながった結果ですね。これまで取得したいという相談はほぼなかった状態と比較すると、取得する本人である男性社員の意識の変化を大きく感じました。
―― 実際、木村さんは、戻ってきたときに仕事が棚卸しできたという感覚はありましたか。
木村:かなり棚卸しできたと思っています。「この仕事は本当に必要なのか」というところから、優先順位を含めてできた感覚があります。自分で仕事を囲ってしまうと後輩が成長する機会を失ってしまうこともあるので、これは自分でやる必要がないと思ったら、それを預けたり渡したりする勇気は大事だなと思いました。
―― YOMIKOも以前と比べ、だいぶ雰囲気や働き方が変わりましたよね。
横山:勤務時間も含めて、ザ・体育会系の気質だったと思います。僕の時代は、男性社員が育休を取るという概念すら全くなくて、育児は妻に任せて、僕は僕で仕事を頑張るという感じでした。だから、気づいたら子どもが大きくなってしまったという感覚があります。
息子が幼いころ私は、週末も家にはいませんでした。当時、担当していた得意先対応を行っていたのです。
週末も家にいないことを知った息子の幼稚園の園長先生が心配をされて、電話がかかってきたことがありました。「お父さんが毎週末、一人で出かけていると息子さんが言っています。大丈夫ですか?」と。
「育休を取っていたら、何か違ったかな」という思いがありますし、頭の片隅には「育休取得をできて羨ましい」という気持ちも正直、あります。
中澤:法律改正も含めて、働き方はここ数年でぐっと変わりましたし、人財を資本として捉える人的資本経営の重要性はどんどん増していて、今回取り上げて頂いたような男性育休推進もその1つです。しかし、まだまだ広告会社の働き方には課題がたくさんありますね。
横山:僕らは0→1を生み出す仕事です。アイデアを出して価値を見出して、それを得意先にお買い上げいただく。営業でも相当クリエイティビティを問われる仕事をしています。
これは9時17時で会社にいればできる仕事ではないし、土日きちんと休んだからといっていい仕事ができるかはわからない。かといって、僕が入社した時代の働き方ともまた違うと思います。
今は、家庭を持っていてもいなくても、子どもがいてもいなくても「プライベートがあるからこそ仕事が充実する」という雰囲気になってきている。これはいいことじゃないかなと思います。
それに営業は営業、モノを考えるのはクリエイティブ、まとめるのはマーケの仕事ということではなく、みんなでクリエイティビティを出していこうとしているのもすごくいいことですよね。
―― YOMIKOでは営業が「ビジネスプロデューサー」という名称になり、現場の意識も徐々に徐々に変わっているのではないかと思います。
横山: 先輩から指示をもらってこなすのが仕事だと思っている人は、存在感もなくなっていくし、面白くない環境になっていくだろうと思います。
むしろチャレンジすればしただけ、いろいろなチャンスを作れる会社ですし、協力してくれる人も多い雰囲気になってきました。そういった変化の1つとして、男性育休取得も普通にみんなが受け入れられているような気がします。
―― 今後、広告会社の働き方がもっと良くなるために、どんなことが求められると思いますか。
木村:先ほど横山さんからのお話にもあったように、私たちの仕事はオーダーメイドで、その都度クライアントの課題を解決したり、課題そのものを発見したりしながらサービスを提供しています。
指示を待って動くという働き方だと仕事は無くなっていくし、自ら動ける人は新しい仕事をどんどん作っていくように、二極化が進んでいくと思います。
ただ、良いものを作りたいという気持ちはいくらでも突き詰められるのですが、考えに考え続けて長時間労働になることは、どこかで割り切らないといけないとも思います。時間的な制約があってこそ「生産性のある仕事」になると思うので、区切りを自分でつけて臨む必要があります。
―― 今、考えている施策などあれば教えていただけますか。
中澤: 男性育休を根付かせていくために、実際に育休を取得した社員による座談会を予定しています。(※7月に実施)際の声を社内でどんどんシェアしていき好循環を生むことで、毎年の育休取得率100%達成を積み上げ、子どもが生まれることを報告すると同時に「いつ育休取る?」と上司から働きかけてもらえる風土を目指したいです。
また、取得者が育児により長い期間携わることで、公私ともにより一層深い気づきを得られたり、仕事に活きるコンピテンシーを新たに習得できたりする側面もあると思います。取得すること自体が目的とならないよう、取得期間の延長も目指していきたいと思っています。
あとは、ぱぱままメンターという形で、日々どんな風に過ごしているのかパパの視点・ママの視点で語っていただくオンラインイベントを開催したいと思っています。特に女性は、「自分が母になっても働き続けられるのだろうか」と不安に思う声があるので、情報をもっとシェアすることで不安を取り除いていきたいです。
横山:子どもが欲しい・欲しくない、結婚する・しない、性的な多様性等も含めて、多様な生き方が尊重される時代です。だからこそ、正面から育児休業に対して会社として向き合わなければいけないということをすごく感じます。
あと木村のような実際に取得した人が、「俺はこうやって取ったよ」とか「きちんと部長や先輩を巻き込んでおくといいよ」などと後輩に伝えることがすごく大事になると思います。
育休を取った方がその後の家庭関係も良くなると思いますし、部署の中に育休を取った先輩が何人もいる状態ができてくると、さらに取りやすい環境ができてくると思います。
中澤:YOMIKOでは、ダイバーシティ推進を経営基盤の強化の一環として位置付けていて、男性育休推進はその中の1つです。企業としてダイバーシティを進めることは、社員のウェルビーイングやエンゲージメントが向上するというだけでなく、イノベーション創出や生産性向上などにも繋がり、その影響は大きいものだと思っています。社員の皆さんの声を聞きながら、今後もより一層推進していきたいと思います。
<プロフィール>(写真左から)
第1ビジネスプロデュース局 横山 恵二
第1ビジネスプロデュース局 木村 浩尚
キャリアデザイン局 中澤 清美
本記事に関するお問い合わせは、下記よりお願いします。