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イベントレポート「産後パパ育休」を起点に考える、本質的な人的資本経営とは【連載:Think Sustainability】

2024.06.28

「産後パパ育休」制度開始から1年以上が経過しましたが、企業にとっても個人にとってもハードルが高いという意見があり、実際の取得率は低調な推移にとどまっています。このような現状に際し、男性育休の必要性を「人的資本経営」のひとつとして捉えたトークイベント「産後パパ育休を起点に考える、本質的な人的資本経営とは」が2023年12月14日にリアル会場&オンライン配信にて開催されました。本イベントは、国内唯一の助産師が対応する従業員支援サービス「The CARE」、助産師向けリスキリングサービス「License says」などを運営する株式会社With Midwifeが主催。当社よりキャリアデザイン局の中澤清美が登壇いたしました。今回は、その模様を Think Sustainabilityの第2弾としてレポートいたします。

厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」(2023年7月公開)によると、男性育休の取得率は17.13%と低率にとどまっています。その背景には、「体制や環境が作れていない」「推進はしたいが、経営層を納得させるのが難しい」「育休取得者の扱いが難しい」といった企業側の声だけでなく、個人からの意見、「男性が育休に入ると収入が減る」「営業成績が落ちるし、職場の雰囲気を見ても休みにくい」「キャリアにネガティブな影響が出てしまう気がする」などが少なからず影響していると考えられます。

当社は、2022年度における「男性の育児休業対象者の取得率100%を達成」しています。今回のイベントでは、当社が100%を達成までのプロセスから課題、さらには取得者のリアルな声とそこで誕生した制度についてもお話をさせていただきました。また、ゲストとして男性の育休支援事業を展開する一般社団法人Daddy Support協会代表の平野翔大氏、イベントを主催する株式会社With Midwife CEOの岸畑聖月氏も登壇。モデレーターには、様々な角度で働く女性を取り巻く社会課題に関するインサイト発掘や調査、情報発信を行う博報堂キャリジョ研プラスの白根由麻氏が務めました。

■ 少子化から少母化へ 男性育休が“絶対必要”な背景

冒頭、岸畑氏より「なぜ男性育休が必要なのか」について、社会的・経済的な観点から解説が行われました。

株式会社With Midwife CEO 岸畑聖月氏

現在、加速度的に進行している少子化問題。厚生労働省のデータによると2015年に100万人を超えていた出生数は、2023年で73万人を割り込む推定で、8年で25%もの減少となっています。

人口減少が局面となっている日本は、政策や法改正の遅れも影響し、少子化だけでなく、子供を産むことができる女性の数自体も減少。少母化が進み、出生数の減少に歯止めが利かない状況であると岸畑氏は指摘します。

加えて高齢者の増加に伴い、社会保険料は拡大。一方で労働人口が減少しているため、労働者の確保が急務であるといいます。このような社会的な背景から、女性活躍の推進と並行して、男性による家事と育児参画の必要性が高まり、男性育休の要請が出ているのです。

そして、経済的な側面でも、3つのフェーズで男性育休のニーズが高まっているといいます。

第1フェーズでは、SDGs対応や行政の進める企画への賛同を通して、社外的なプロモーション、第2フェーズでは、ESG投資対応。そして、現在は政府からの要請を受けた人的資本情報の開示という、経営に直結する事態です。また最近では、非財務的な投資が企業価値に直結する可能性も示されており、男性育休を後押しする要因にもなっています。

このような社会、経済的な背景をベースに男性育休が進みつつあるものの、現在の男性育休取得率は17%で、政府の2030年80%取得目標に対しては課題があるとの指摘がなされました。

■ 広がる世代間ギャップ

このような社会、経済的な背景に加え、白根氏より博報堂キャリジョ研プラスで実施した調査から、世代間での男性の育児、家事に対しての意識のギャップが広がっていることが紹介されました。

博報堂キャリジョ研プラス 白根由麻氏

子供が生まれた後の働き方について、若年層になればなるほど、「今よりも緩いペースで働きたい」という割合が大きくなっています。

さらに、30代女性においては、「共働きであれば家事育児の分担は当然」と考えており、「家事育児の分担ができる相手」と結婚を望む割合が6割を超えています。

結婚相手へ求めるものとしてこれまで言われてきた高収入、高身長、高学歴の「三高」の時代から、共通の金銭感覚、共有できる家事育児、共感できる価値観の「三共」の時代へと結婚観の意識は変わっているといいます。

しかも個人の働きたい会社としては、「出産育児関連の制度が整っていること」をあげる人が、20-30代女性では7割を超え、20代男性においても同回答は5割に迫る結果となっています。また別の調査データから20-30代男性の4人に1人が「男性の育児参加がしやすい社会を望む」といった声も紹介されました。

このように世代間のギャップが、男性育休に対する理解や社内での制度設計に大きく影響を及ぼしているといいます。 ※調査内容の詳細は、博報堂キャリジョ研プラスのホームページからご覧いただけます。

■ 経営、社員、一体となったYOMIKO男性育休取得への取り組み

そのような意識ギャップの中、当社の事例「男性の育児休業取得率100%をいかに実現させたか」について、キャリアデザイン局の中澤清美が紹介をしました。

グループキャリアデザイン局 ワーク&キャリアデザイン部 中澤 清美

当社が行った男性育休取得を後押しするための施策は、大きく4点。「復職一時金の支給」「所属部署へのインセンティブ付与」「申請制度の見直し」「社長による男性育休100%取得宣言」です。これらの取り組みが、2022年度に男性育休100%取得を実現させています。

しかし中澤は、「男性育休が、本来の目的ではない」と強調します。

「今回のテーマにある通り、本質的な人的資本経営、YOMIKOらしい働き方とはどういうものなのか、を議論していくなかでいかにダイバーシティを確保していくか。そして性別に関係なく、1人ひとりが受け入れられ、能力を発揮できる環境こそがYOMIKOらしさではないか、という結論に達したのです。DE&Iに関する様々な施策の一つが、男性育休でした。

男性の育児休業取得を機に、業務の棚卸を行うことで、後輩や部下へ仕事を引き継ぎ、業務の属人化を解消。そうすることで、育休を経験した男性からは、「育児と両立している女性への理解が深まる」という声もあり、相乗効果が生まれます。それは、女性活躍を推進するためにも必要なことで、男性育休と女性活躍推進というのはタイヤの両輪のような施策だと考えています。」(中澤)

また、そのほかにもYOMIKOグループ全社で「アンコンシャスバイアス研修」を導入するなど、社員一人ひとりの「個」を尊重する素地をつくるための施策を並行して行っていることもお話させていただきました。

※当社の男性社員が実際に育休取得した際のインタビュー記事はこちらからご覧いただけます。

■ 男性育休を進めることの本質とは、何を目的に男性育休を進めるのか

YOMIKOの施策を受け、産業医として大小さまざまな企業を担当しながら、男性の育休支援事業を展開する一般社団法人Daddy Support協会代表の平野翔大氏から、男性育休を進めようとして進まない企業の陥りがちな思考について言及します。

一般社団法人Daddy Support協会代表 平野 翔大氏

「産業医として企業の皆さんによくお話しするのは、“何のために男性育休を進めるのか”ということです。トップからの命令で打診したところで、うまくは進みません。また、“男性育休の取得で生産性が落ちるのではないか”という懸念については、生産性低下と男性育休取得との整合性を議論しないといけません。まさにYOMIKOの事例はその目的を突き詰め、男性育休を目的ではなく、一つの指標と捉えて進めている点に、成功したポイントがあると思います。」(平野)

続けて、社内の問題や課題に目を向ける必要があることに言及。そして、「外部から仕入れた施策を取り入れても会社は良くならない。自社の課題に対してどのようなソリューションをあてがっていくのか、そこが非常に重要だ」と述べました。

■ 男性育休にとらわれない弾力性のあるチーム組成が重要

イベント後半では、男性育休を推進するなかで段階的に生じた実際の問題をもとに議論が交わされました。

Phase1:産後パパ育休を始めるときの課題やその乗り越え方について

導入の検討段階で起こる、「経営層の反対」と「組織間の公平性」という2つの問題が起こります。

経営層の反対する意見として聞かれるのは、働き手が減少することに対しての不安感や生産性低下への懸念だと、指摘した上で、岸畑氏からは、「人数が少ない企業の問題として、働き手が減ってしまうことの心配はわかります。しかし、育休は唯一といっていいくらい準備ができる予定の休業です。しかしながら、一人減ることで業務が回らない状況は、そもそも組織として健全ではないと思います。」という意見が述べられました。

また、組織間の公平性については、平野氏から「組織内でもセクションごとに休みがとれる、とれないといった差は必ず生じることです。いきなり組織全体に最適化したルールを作るのは困難です。「平等」という言葉に気を取られることなく取得可能な部署からまずはとり始めることが大事だと思います。多くの企業では、人事部からはじまっています。取得ができる部署において先行事例を作ることで、課題や横への展開の方法が見えてくると思います。」という提案がありました。

Phase2:導入時の社内周知や組織風土の作り方

制度の導入が始まってからは、社内の反対意見や理解の醸成が必要になってきます。そこで、提示されたのが、「取得をどう組織や個人の成長につなげていくか」という視点でした。

「日本は、性別で役割分担をする企業がまだ多いですが、これからはスキルで、最適なポジションで働いていく時代だと思います。産休や育休に左右されることなく、人材を適材適所に配置していく、というのが組織の成長にもつながると思います。加えて、男性も育休を取ることで、「いち生活者」としての視野が広がり、結果として、業務の幅も広がるはずです。それは、様々な業界にいえることだと思います。」(白根氏)

岸畑氏からは、「当社では、育児休業ではなく、“育児出向”と名前を変更して運用しています。子育てのプロセスを通して、個人内の多様性(イントラパーソナルダイバーシティ)が広がると考え、育休を評価してあげるようになってほしいと思います。」という事例が紹介されました。

Phase3:男性育休取得者の主観的/客観的 評価と復職後のフォロー

育休取得を機にメンタル不調になることがニュースでも取り上げられるなど、問題となっています。

そこに対して、平野氏は、多くの人が「家庭は家庭、仕事は仕事」と考えてしまうという問題を提示した上で、「個人の中で、家庭とメンタルヘルスと仕事のメンタルヘルス、というように分かれているわけではありません。1つキャパシティーです。やはり、どちらかに負荷がかかるのであれば、どちらかを減らさざるを得ません。」

続けて、「その問題を把握するためにも、「タテ・ヨコ・ナナメ」の関係がとても重要で。上司部下という、上下の関係だけではなく、隣の部署長や育休を取った先輩など、「ナナメ」の関係で相談できる相手が状態を作ることがサポートにもつながる」という見解を述べました。

■ 男性育休が人的資本経営を考える「起点」に

「『産後パパ育休』を起点に考える本質的な人的資本経営とは」というテーマの通り、ディスカッションの中で、組織のカルチャーや長時間労働、仕事の属人化、ジェネレーションギャップなど、様々なテーマが取り上げられました。

最後には主催でもある岸畑氏のコメントで締められました。

「男性育休を通して、日本の働き方やワークライフバランスはすごく変わってくるのではないか、と思っています。いろいろな組織によって適切な形、取り組みの内容は、違うと思いますが、社員一人ひとりを大切に思う気持ちは、変わらないと思います。ぜひ男性育休を起点にして、自分のチームの中をどう変えていくのかっていうところを議論するきっかけにしてほしいと感じています。」

読売広告社では、2023年度も男性育休取得率100%を達成いたしました。今後も制度やサポート体制の拡充だけでなく、人的資本経営の促進に向けた様々な施策を実施してまいります。

<登壇者プロフィール>(左から)

■博報堂キャリジョ研プラス リーダー 白根 由麻(Shirane Yuma)
2010年入社。アクティベーションプラナーとして​飲料・車・消費財などの統合コミュニケーションを担当。現在は女性の社会課題を中心に新規事業やサービスの立ち上げに関する支援業務を担う。2023年より「博報堂キャリジョ研プラス」のリーダーを務める。

■株式会社 With Midwife CEO 岸畑 聖月(Kishihata Mizuki)
助産師/看護師/保健師 高度実践助産学修士
14歳での闘病の経験と、ネグレクトを目にしたことから助産師を志す。学生時代にも一度事業を起こし全国展開を果たす。助産師の可能性とビジネス経験から「これからの時代を支えるために、助産師の価値を最大化する新 しいシステム構造が必要」と考え、助産学と経営学を学ぶため京都大学大学院へ進学。卒後は助産師として年間2,000件以上のお産を支える、関西最大の産科で臨床を経験。リアルな社会課題に直面し、課題解決は急務であるとプランを前倒し、2019年に株式会社With Midwifeを設立。現在も、臨床経験を継続しながら経営に携わり、その経験を生かして公益財団法人大阪産業局女性起業家応援プロジェクトのプランニングマネージャーも務めている。

■株式会社 読売広告社 グループキャリアデザイン局 部長 中澤 清美(Nakazawa Kiyomi)
2006年にYOMIKOへ中途入社。ストプラ・営業を経験し、第一子出産後に人事局に復職、以降HR領域に携わる。新人研修・階層別研修などの能力開発、働き方改革推進、組織開発、人事制度など、幅広い領域を担当。
2021年度以降はDE&I推進をメインとし、「子育てハンドブック」「ぱぱままメンター制度」「子育て社員座談会」など社内施策を実施する。2022年アンコンシャスバイアス研修全社導入や男性育休を推進し、男性育休100%達成に貢献。2023年キャリアデザイン局 ワーク&キャリアデザイン部へ異動し、社員のキャリア自律支援とDE&Iの推進を担う。

■(一社) Daddy Support協会 代表理事 平野 翔大(Hirano Shodai)
産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト
慶應義塾大学医学部卒業後、産婦人科医として数病院で勤務。現在は産業医として東証プライム上場企業からベンチャー企業まで20社近くを担当し、本社統括も担う。また大企業やベンチャー企業のヘルスケア事業コンサルティングも行い、働き方改革、女性の健康経営やDE&I、不妊治療や健康管理など幅広い講演も行う。医療ジャーナリストとしては男性の育児や妊娠・出産の社会問題、産業保健や医師の働き方改革を論じ、2023年4月10日に単著「ポストイクメンの男性育児」を中公新書ラクレにて上梓。また「男性の育児支援」を社会実装すべく、(一社)Daddy Support協会を立ち上げ、この活動が経済産業省「始動 Next Innovator」に採択。自治体・企業と協働した活動を進めている。