YOMIKO STORIES

まちがおしゃべりしはじめる「柏の葉イノベーションフェス2023 -TALKING CITY-」、日本イベント大賞を受賞した企画はいかにして生まれたのか?

景色をゆっくり眺められるベンチやバス停、建物など、見慣れているいつもの風景。まちなかにあるさまざまなモノたちが、ある日いきなりおしゃべりできるようになったら?まちで暮らす住民と同じように、まちのことをよく知る彼らが知っている、まちの歴史やヒミツをそっと教えてもらえるかもしれません。

そんな楽しい想像を実現させたのが「柏の葉イノベーションフェス – TALKING CITY –」(以降「TALKING CITY」)です。 YOMIKOが企画・実施したこのTALKING CITYが、日本イベント産業振興協会(JACE)が主催する第10回JACEイベントアワードにて最優秀賞経済産業大臣賞(日本イベント大賞)、企業・業界団体部門 ゴールド賞のW受賞を果たしました!

柏の葉イノベーションフェスとは、毎年秋に千葉県・柏の葉スマートシティで開催されているオープンイノベーションの祭典です。なぜYOMIKOがこのイベントに携わっているのか、受賞を果たした「TALKING CITY」はどのような発想から生まれたのか、そして今回の施策から見えるYOMIKOの強みとは何なのか。制作スタッフチームである大屋翔平氏(統合クリエイティブセンター クリエイティブディレクター)、住吉美玲氏(統合クリエイティブセンター プランナー)、野村葉菜氏(統合クリエイティブセンター プランナー)、原口真央氏(ビジネスデベロップメント局 プロデューサー)に伺いました。

約20年におよぶ柏の葉スマートシティとYOMIKOのつながり

2005年に東京・秋葉原と茨城・つくば市をつなぐ路線として誕生したつくばエクスプレス。千葉県にある柏の葉キャンパス駅もこの時に開業しました。大学や研究機関が集積するこのまちでは、鉄道の開業後、商業施設やマンションも誕生し、公・民・学の連携による課題解決型のまちづくりが推進されてきました。

YOMIKOは、そんな柏の葉スマートシティのまちづくりに、まちの開発当初から並走してきました。

「YOMIKOは、柏の葉スマートシティのまちづくりが始まった約20年前から、まちに関わってきました。柏の葉イノベーションフェスは、そんな柏の葉スマートシティで開催される年に一度のオープンイノベーションの祭典で、2020年から毎年、このイベントの企画・実装をYOMIKOが担当しています。」と原口氏は説明します。

柏の葉イノベーションフェスは、2020年、2021年と、コロナ禍で、トークセッションを中心とするオンライン配信のイベントとして開催されました。コロナ禍を経て、リアルへの回帰が高まり、生まれた企画がこのTALKING CITYだったそうです。まちに設置され、まちを見続けてきたモノたちが、まちのヒミツをおしゃべりする―「自分たちの住むまちを知ることが、まちへの愛着、ひいては『まちに貢献したい』という気持ちにつながっていくと思います。YOMIKOではそんな思いを『シビックプライド※』と呼んでいますが、TALKING CITYはこのシビックプライドを向上させたいという気持ちから始まりました」と住吉氏は話します。

※「シビックプライド/CivicPride」「CIVIC PRIDE」は、株式会社読売広告社の登録商標です。

TALKING CITYとは、AR(Augmented Reality / 拡張現実)技術を使って、柏の葉エリアの計81カ所におしゃべりする顔が現れる施策です。建物や、まちのモノにARが起動するトリガーとなるシールを貼り、スマートフォンをそのシールにかざすと、まちのモノたちが目を開けてそのスポットの成り立ちや特徴を話してくれます。これにより、普段何気なく見過ごしているまちの歴史や魅力を、その場所で楽しみながら知ることができる取り組みです。

「まちづくりが始まってから20年経ち、積極的にまちと関わる人が限られていく中で、住民同士のコミュニケーションを生む何かを作りたいと考えました。そのコミュニケーションツールも柏の葉スマートシティらしいものを、と考えて選んだのがARです。ARは決して最新技術というわけではないのですが、特別な技術であることは間違いないですし、この体験を通じてまちのコミュニケーションが活性化することは柏の葉スマートシティらしいと考えたのです」と大屋氏は説明します。

「自分が暮らすまちのことを知らない」という状態を解消するために

柏の葉スマートシティは、「『世界の未来像』をつくる街。」をミッションとして掲げ、まちのあらゆる人々による“共創”で、それを実現しようとしています。そんな柏の葉スマートシティにとって、まちの人々によるまちへの関心が低い状態は、解決すべき課題でした。

野村氏は「柏の葉イノベーションフェスの企画を考えるうちに、自分たちのまちに対する関心が低い人が増えていることを課題に感じました。人口が増えるなか、最近このまちに住み始めた方も多くなり、あまりまちの成り立ちやまちづくりのコンセプトを知らないという層も増えてきたのではないかと考えられます。そこで今回は、楽しみながらまちのことを知ってもらえたら、まちに対して興味関心がもっと深まるのではと考えました」と説明します。

自分たちが住む地域社会への関心の低さ、関与の希薄さは、柏の葉エリアに限った話ではありません。日本全体に目を向けてみても、住民ひとりひとりの社会参加への意識の低さは課題になっており、地域のつながりやコミュニケーションが途切れているケースが散見されます。

総務省が発表した『地域コミュニティに関する研究報告書』(令和4年4月)でも、内閣府が市区町村を対象に行なったアンケートによると、自治会の課題として、高齢化と共に「近所付き合いの希薄化」(59.2%)や「加入率の低下」(53.3%)という問題が挙げられています。

「『世界の未来像』をつくる街。」を掲げ、課題解決型のまちづくりを推進する柏の葉スマートシティとしては、これを解決すべき1つの社会課題とし、「この現状を解消するために柏の葉イノベーションフェスでどのような取り組みを企画するか」という点に焦点を当てて議論が進められました。

ディスカッションを重ねて社会課題を抽出、住民参加のフレームワークを作る

毎年、その時々の世界の潮流から、その年のテーマを決めている柏の葉イノベーションフェスでは、コロナ禍を経た2023年のテーマとして「CONNECT TO THE UNLIMITED.」が掲げられました。人同士のつながりに限らず、人とAI、人とまちなど、あらゆるものとつながり、共創する、“共同体感覚の拡張”をキーワードに、企画を検討することになりました。

柏の葉スマートシティが、これからも成長し続けるためには、大学や研究機関、民間企業、行政、そしてまちで暮らす人々による“共創”が必要です。そのため、柏の葉イノベーションフェスは、まちの人々とともにつくりあげるイベントとなり、まちの人々が、まちに関与するきっかけになるようなイベントにしたいと考えました。

そこで、TALKING CITYは、まちの人々がまちのモノに声を吹き込み、住民同士でまちの情報を交換するプラットフォームとなるように、設計しました。

住民たちと手を取り合って作り上げたTALKING CITY

まちのスポットを紹介するのであれば、企画・実装するYOMIKOチーム自身が誰よりもまちのことを知らなくてはなりません。柏の葉スマートシティのまちづくりに長く並走してきたとはいえ、まちの歴史や特徴を、81個のスポットに落とし込んでいく過程では大変なこともありました。

「みんなが居心地の良い場所にするために調整池の柵を取り払って整備された池、自動運転バスが停まるバス停、住民の声から生まれた横丁など、住民も知らないまちの歴史や魅力はたくさんあります。」と原口氏は振り返ります。

そんなまちのモノたちが、人間に向かってどのような言葉で語りかけたら楽しんでもらえるだろうか。場所に込められた思いを汲み取りながら、チーム全員で台本を書き、それぞれのキャラクターを具現化していきました。野村氏は「80を超えるスポットについて、どんな表情、どんなキャラクターであれば親しみを持ってもらえるかを考え、キャラクターを設定しましたが、それは楽しくもあり、難しい過程でした」と話します。

企画当初から、まちがおしゃべるする言葉は、住民やこのまちで働く人の声であるべきだと考えており、キャラクターに声を吹き込んでくれる人を募り、音声の収録を行いました。

「音声の録音をお願いするなかで、まちの方にお話を聞いたところ、とてもいい情報が次々と出てきたのです。なので当初決めていた紹介スポット以外にも、『ここも取り上げたいです』と実行委員会や関係者にお願いをして、最終的に81カ所になりました」(住吉氏)

スポット数が増えたことにより苦労はあったものの、住民の方々と一緒になって作り上げていく手応えを感じました。

JACEイベントアワード最優秀賞経済産業大臣賞を受賞! 評価されたポイントは?

「柏の葉イノベーションフェス2023 -TALKING CITY-」が実施されたのは2023年10月28〜29日の2日間。総再生回数は1万4000回を超え、81カ所全部を回った方もいたそうです。

「コンプリートする方はいらっしゃらないかなと思っていたので、驚きと同時に嬉しくもありました。また参加した方の中には、『子どもの教育のためにここを選んだけど、こんなにすごいまちとは知らなかった』と感心する方もいらっしゃって、心のなかでガッツポーズが出ました」と住吉氏は笑顔で話します。

参加者の方にアンケートを取ったところ、イベント体験前後で「シビックプライド」が全般的に上昇していることもわかりました。特に居住歴5年未満の住民は、+31.1ptと大きく上がっています。これまで知らなかったまちの魅力に改めて気付いたこともありますが、プロの声優ではなく住民が声を吹き込んだことに目新しさを感じ、共感した方も多かったようです。

そして今年6月、TALKING CITYは第10回JACEイベントアワード最優秀賞経済産業大臣賞(日本イベント大賞)と、企業・業界団体部門 ゴールド賞の2つを受賞しました。この賞も、住民と共に作り上げ、住民同士がつながる点が評価されたそうです。

「今回のイベントを進めるなか、企画が自走して“みんなのもの”になっている感じがありました。今回賞を取ったことで、関わっていただいた皆さんに『この施策に関わって良かった、嬉しい』と思っていただければ僕たちも嬉しいですし、改めてそんな思いを共有できたという点でも本当に良かったと思います」(大屋氏)

2024年はTALKING CITYがさらにパワーアップ、新たな企画も登場

今回TALKING CITYが成功した背景には、まちづくりの段階からYOMIKOが関わってきたという実績や人脈もさることながら、チームメンバー全員が苦労しつつも「見たことのない新しいこと、新しい企画」を楽しみながら考えてきたという点も見逃せません。「柏の葉イノベーションフェスは、広告と違って、ある意味“何でもあり”という自由なフィールドです。その自由度の高さゆえ大変なこともありますが、ここを起点に新しい研究や共創が生まれる兆しを作っていることがやりがいにもなっています」と大屋氏は話します。

ほか「広告で培った企画力で新しいものを生み出せるワクワク感がある」(野村氏)、「社会に貢献することで、人が幸せになれる活動が好きなので、そんな思いを実現できるこの企画が好き」(住吉氏)、「広告会社の枠を超えて、社会課題解決に向き合うことのできるやりがいがある」(原口氏)というように、企画を実施する自分たち自身も当事者となって企画に携わっているのもYOMIKOの強みなのでしょう。

そんな「柏の葉イノベーションフェス 2024」が、今年も10月26〜27日の2日間にわたって開催されます。TALKING CITYは今年さらに進化し、81カ所から100カ所へとパワーアップ。そして今回は新しく、 TALKING CITY のシンボルツリーが誕生!「TALKING TREE」では、イベント期間中、リアルに声の吹き込み、声を聞く体験ができます。

今後もYOMIKOは、柏の葉スマートシティの新たな価値創造に向けて、まちと共に共創を続けます。
(終)

(左から)
ビジネスデベロップメント局 プロデューサー 原口真央
統合クリエイティブセンター プランナー 住吉美玲
統合クリエイティブセンター クリエイティブディレクター 大屋翔平
統合クリエイティブセンター プランナー 野村葉菜