YOMIKO STORIES

「世の中を変えたい」というブランドと、生活者を結びつけたい。デザイン&コピーユニット「ito.」に込められた思いとは?

 2025年9月に始動した、パーパス起点発想のデザイン&コピーユニット「ito.-いと-」。アートディレクターの楠 陽子と、コピーライターの松本 千鶴の両名による新進気鋭のユニットです。元制作会社出身という共通点を持つ2人が意図する、「言葉になる前のアイデアを形にするまで」のプロセスとは?ユニットの全貌について伺いました。

「社会的な意義」を明確化することで 将来的に大きな“売り”へとつながっていく

ーおふたりは今回、どのような経緯で「ito.」のユニットを組まれることになったのですか?

楠:私自身が「アートディレクターとコピーライターが組めば、それだけでいろんな提案が出来るはずだ」と感じたことがきっかけです。やはり、クライアントにご提案する上で実績があることは大きな力になりますし、女性同士で、感覚の近い2人なら、より個性や表現の「色」を引き出しやすくなるだろうなと感じたことも理由のひとつですね。

ユニットを組む以前、私たちは、店頭POP制作や商品パッケージデザインなどを手がけていました。ただ、せっかくご提案するならそのブランドが目指す方向性まで踏み込んで考えて、社会的な存在意義や目的を明確にすることが、最終的にお客様の「売り」につながっていくはずだと考えるようになりました。

徐々にそうしたパーパス起点の表現に考えが変わりはじめた頃、「そういう発想ができるのなら、ユニットをつくって社内のいろんな人たちと仕事をしてみては?」という話につながり、このユニットが誕生しました。

松本:今、世の中にあるサービスや商品はどれもクオリティが高いものばかりで、コモディティ化も一段と進んでいます。そうした状況の中、単純なABテストや「売れる、売れない」だけで判断していては、やがて消耗戦になることは明らかです。

だからこそ、パーパス起点で「このブランドは、なんのために存在しているのか」ということをお客様に一番近いところ、つまり店頭やパッケージなどでも表現して、ご提案すべきなのではないかと考えたのがきっかけです。

ブランドの“意図”と生活者を“糸”のように結びたい

ー「ito.」のコンセプトについて教えて下さい。

楠:「ito.」という名前には、ブランドの”意図”と生活者を”糸”のように結びたいという想いが込められています。

パーパス起点発想で、社会的意義を見据えながら、企業価値の向上につながるクリエイティブをご提案するデザイン&コピーユニットになります。私がアートディレクターを務め、松本さんがコピーライターを担当します。

営業と組むことで、クライアントの商品開発・ブランディング・広告制作をワンストップでサポートすることができます。

ー現在に至るまでの様々なクライアントの担当をした経験が、このパーパス起点の発想につながっているのでしょうか?

楠:そうですね。すでにパーパスを策定しているクライアントは、YOMIKOからの提案の意図がなかなか内部まで届かないというもどかしさを感じることがありました。そんな中、ある企業と仕事をした際に、一緒にパーパスを策定する機会に恵まれました。その時に、パーパスを商品レベルまで落とし込むことの重要性に改めて気づかされたんです。

最初に「新しい気づき」としてのパーパスを立て、それに向けて皆でコミュニケーション方法を模索していく。そうしたプロセスを経ることで、企業の本質的な魅力がより深く伝わるのではないかと感じています。

こんなふうに、ただデザインをつくるチームではなく、パーパスや企業の思いまで伝えられるユニットを目指す。それが、私たちがやりたいことであると同時に、やるべきことだと考えています。

アートディレクター 楠 陽子

時代にマッチしたデザインと言葉で 「アウトプットの旗印」をつくる

ー実際に、パーパス起点発想をどのようにデザインプロセスに落とし込まれているのでしょうか。

松本:パーパス起点発想のデザインとは、「何を提供するか」ではなく、「なぜそれを提供するのか」という”より本質的な価値”に向き合うことだと思います。例えば、「このパーパスを浸透させたいけど、アウトプットの方法がわからない」というクライアントの場合は、私と楠さんによるデザインと言葉のご提案で完結できます。

一方で「パーパスみたいなもの」はあるけれど、現在の社会とマッチしていない、という企業も少なくありません。そうした場合には、今の時代にあった言葉やビジュアルに変換してお伝えすることで、「その会社らしさ」を損なうことなく新しい姿を提示することを目指しています。

いいものをつくっているのに何故か売れない、という企業の多くは「プロダクト発想」でものを届けている傾向が多いと感じます。そういう時には、ブランドを立ち上げた時の思いや、それが社会にどんな価値として受け入れられるのかという部分を、社内で改めて整理する必要があると感じています。

コピーライター 松本 千鶴

楠:私が「コピーライターって、大事だな」と思ったのは、ある案件で‘’いろんな意味に捉えられる言葉‘’がキーワードとして使われていた時でした。関わる人たちが制作過程でそれぞれ異なるイメージを持ったことで、共通のイメージまで辿りつけなかったんですね。そういう意味でも私たちは、皆が共通の認識を持てるような「アウトプットのための旗印」をしっかりとつくっていきたいと思っています。

今必要なのは、「数値では測れないもの」を言語化する力

ークライアントをヒアリングした後、生活者のインサイトと結びつけるためにどのようなことをされていますか?

松本:もちろん、グループインタビューや調査もおこないますが、やはり最終判断につながるのは「自分自身の感覚」だと思います。私がひとりの生活者に立ち返った時にどう感じるのか、そしてまた、自分にとっての世の中がどうあってほしいのか、といった感覚を常に拠り所にするようにしています。

これは割とアナログな作業なのですが、今必要とされているのは、数値では測れない部分を言語化する力、だと感じています。だからこそ、普段からわたしたちの間でも「楠さんは、どうあってほしいですか?私は、こうあってほしい」といった対話を日常的に重ねています。

ー社会的意義の捉え方については、どのような考え方をされていますか?

松本:これはわたし自身の実感に近い話になりますが、端的に言えば「自分にウソをつかない生活」を心がけています。たとえば、何かに対して自分が「これはイヤだな」と感じた時、後から「なぜそう感じたのか?」と振り返るようにしています。

そうすることで「あれをやってしまったら、その先にはこんな未来が待っているんだな。それは世の中にとって良いことではないから、止めようと思ったのか」などと、自分なりに気づきが得られるのではと思っています。

楠:私は、社会的意義とは「どれだけ共感できるか」が大事だと思っています。

私の場合は、サービスや商材の依頼が来たとき、まず「どうしたら私自身が好きになれるかな?」と考えます。とりあえず試してみて、私自身がターゲットではなかった場合は、それが大好きな人を”憑依”させる気持ちで取り組むんです。(笑)そうしていると、さまざまな視点が生まれてきて「意外と、こういう部分が良いんだな」と感じるようになります。そこが世の中の多くの人たちの”共感ポイント”なのだと思います。私の場合は、そうした部分を意識的に広げることでデザインにしていくことが多いですね。

ー松本さんは、そうやって生まれたデザインに対して、コピーライティングによる融合を図っているんですね。

松本:私が心がけているのは、コピーもデザインの一部ということです。文字の見え方はもちろん、絵の中にどうやって文字を配置するのかも重要です。私は趣味で俳句を詠んでいるのですが、俳句というものは「17文字」ではなく「17音」なんですね。

つまり、”音”としてしっくりと耳に馴染み、なおかつ自分の中に言葉として残るのか、といった点を意識して書いています。コピーも同様に、キャッチーさはありつつも、「これは愛されるべき言葉なのか?人の心に残り続ける言葉なのか?」という視点を常に持ちながら、言葉を考えています。

「世の中を変えたい」という意図を汲み取り、紡いでいきたい

ー最後に、今後の展望について聞かせてください

松本:自分の地元の暮らしを見てみると、どれほど都会で大それた理念を打ち上げたとしても、地方まで届いていないと感じることがよくあります。だからこそ、わたしたち「ito.」には店頭支援やパッケージデザインなどを通じて、企業の想いが全国のすみずみまで伝わるアウトプットをつくり上げる使命があると感じます。
そうした思いがかたちにして届けられるように、これからさまざまなクリエイティブに取り組んでいきたいと思っています。

楠:広告の仕事をしていると、「いい広告」と「悪い広告」だけでなく、それに加えて「嫌がられる広告」が意外と多いことに気づかされます。でも、パーパス起点でものを考えてみると、そういう広告を出しているクライアントも最初はきっと「どうにかして世の中を変えたい」と思っていたはず。

そういう「兆し」や「種」のような部分にこそ、本質的な意味があると思っています。だからこそ私たちはそれらの意図を丁寧にくみ取り「糸」として紡いであげられるようなユニットになっていきたいと思います。

楠 陽子

Art director / Planner

2011年から広告制作会社でデザイナーとして勤務、2016年読売広告社に入社。アートディレクターとして飲料、食品、化粧品、自動車、不動産案件等を担当。アートディレクションを軸に、CM・プロモーション・空間デザインなどの企画制作に携わる。 毎日広告デザイン賞 最高賞・朝日新聞広告賞 準朝日広告賞・Graphic Grand Prix by YAMAHA グランプリ・新聞クリエーティブコンテスト デザイン賞・ACC フィルム部門入賞・BRAND OF THE YEAR入賞など

松本 千鶴

Copy Writer / Planner

2014年から広告制作会社でコピーライターとして勤務し、2023年読売広告社に入社。 コピーを軸に企画・CMプランニング・ネーミング・ブランディング・商品開発などを手掛ける。第73回日経広告賞・最優秀賞、第35回新聞広告賞 広告主部門・新聞広告賞、第61回日本雑誌広告賞・金賞、第59回日本産業広告賞・佳作、Japan Six Sheet Award 2022金賞など門入賞・BRAND OF THE YEAR入賞など