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ヤングライオンズ2026 日本代表に―152作品の頂点に立った「引き算」と「断定力」―

世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」のオフィシャルプログラムとして開催される、30歳以下対象の広告コンペ「ヤングライオンズコンペティション(通称:ヤングライオンズ)」。2026年度の国内予選プリント部門において、当社クリエイティブセンターの田畑 良と博報堂アイ・スタジオの奥村 浩平氏のペアがゴールドを受賞し、日本代表の座を獲得しました。高校時代からの友人というコンビに、152作品の頂点に立つまでに何を考え、どのようなアイデアを磨き上げてきたのか。6月に控えるカンヌ本選に向けた意気込みとともに、制作プロセスを聞きました。

3度目の正直で掴んだ悲願 高校時代からの絆が実を結んだ

― まずはプリント部門でのゴールド受賞、日本代表選出本当におめでとうございます。発表の瞬間はどのような状況でしたか?

田畑:ありがとうございます。発表当日は奥村が公式サイトをチェックして、電話で知らせてくれました。僕にとっては年齢制限の関係もあり、今回が参加できるラストイヤー。これまで何度も落選していた分、「まさか獲れるとは」というのが正直な感想です。

奥村氏:ヤングライオンズの予選結果は、定期的に公式サイトをチェックしながら待っていました。僕は過去の受賞作品と比べても見劣りしないアイデアを出せたと思っていたので、結果を見たとき驚きよりも自信があるものがちゃんと評価にも繋がった喜びの方が大きかったです、発表日はお祝いにご飯を食べに行きました(笑)。

― 周囲からの反響はいかがでしたか?

田畑:局長が社内に速報メールで発信してくださり、普段一緒に仕事をしているメンバーからだけでなく、事務手続きでお世話になっているバックオフィスの方も声をかけてくださいました。賞の知名度と影響力の大きさを改めて実感しました。

田畑 良

奥村氏:3年前に初めて挑戦したときに会社の目標シートに「ヤングライオンズで受賞する」と書いていました。色々な方からお祝いの連絡をいただきましたが、当時の上司から「ついにやったね」と連絡をもらえた時は、特に嬉しかったです。 

― お二人は会社が異なりますが、ペアを組むに至った経緯とそれぞれの役割を教えてください。

田畑:高校の同級生で、ダンス部で3年間ずっと一緒に汗を流していました。大学は別でしたが、社会人1年目のコロナ禍でのオンライン飲み会をきっかけに、再び交流が深まりました。お互い広告業界に進んでいたこともあって「一緒にヤングライオンズに出てみようか」と意気投合したのが3年前です。

奥村氏:通常、ヤングライオンズに出場するペアは「プランナーとアートディレクター」といったように、職種で役割分担することが多いですが、僕らの場合は違います。田畑はCMや新聞広告などを手掛けるコピーライター兼プランナー。僕はデジタル領域中心に戦略構築からUX設計を得意とするプロデューサー兼プランナー。専任のデザイナーがいない異例の組み合わせです。それでも、高校時代から関係性があるからこそ、職種にとらわれずにアイデアを練り上げることができたと思っています。

奥村 浩平氏

1次審査の勝因は、残り3時間で研ぎ澄ませた「引き算の美学」

― 1次審査の課題は「障がい者雇用の促進」でした。難解なテーマだったと思いますが、どのようなアプローチをとったのですか。

田畑:ブレインストーミングを重ねる中で「障がいがあることの大変さ」だけを強調するメッセージでは、雇用促進という課題解決にはつながらないと考え、「広告を目にした経営陣が、『障がいをもつ方も雇用したい』と純粋に思えるものをつくる」ことを目標にしました。
そんな中、雑談の中で出てきた「最近リモート会議の打ち合わせが当たり前になったよね」という話を起点にアイデアをまとめていきました。
オンライン会議では、画面に映るのは上半身のみで、求められるのはビジネススキルと、画面越しのコミュニケーション能力です。車椅子を利用しているかという身体的な違いは、オンライン会議上では全く変わらない。その事実をうまく伝えようと思いました。

― そこから生まれたのが、「 Fit everyone into a mold. (全員を型にはめろ)」という力強いコピーですね。

田畑:「型にはまらない」個性が重視される現代の就活やビジネスシーンにおいて、あえて「型にはめる」という逆張りのメッセージを打ち出しました。最初は「 Fit it into a mold. 」という案だったのですが、「itって何を指しているのか分かりづらいよね」と議論になり、「 Everyone (全員)」に変更しています。
ビジュアルでは、オンライン会議の枠で全員を囲み、話している人に緑の枠がつくUIまで細かくつくりこみました。全員をあえて同じ「型(画面の枠)」にはめることで平等になり、身体的な違いという壁が取り払われるような表現にしています。
サブコピーの「 Unmute your potential equally. (等しく可能性を開放しよう)」も、オンライン会議で日常的に使われる「Mute(ミュート)」の逆手を取った表現。「 Unmute しよう」という必然性のある言葉を添えました。

― 限られた時間の中で、どのようにこのクリエイティブを完成させたのですか?

田畑:実は、プリント部門へのエントリーを決めたのは、締め切りのわずか数時間前。
元々はPR部門とメディア部門に注力していて、プリント部門は応募するつもりはありませんでしたが、夕方頃に他部門の提出が終わり、「ラストイヤーだし、出せるものは全部出そう」と急遽決まりました。

奥村氏:お互いに、障がい者雇用について散々考え抜いていたからこそのスピード感だったと思います。「この切り口ならプリント部門でいけるかも」というストックはありました。

田畑:プリント部門は、審査員が膨大な数の1枚画の作品を並べて見るため、「目立つこと」と「真意が一瞬で伝わること」の両立が欠かせません。そこで僕たちは、徹底的な「引き算のデザイン」で純度高く伝えようと考えました。キャッチとサブをそれぞれ1行に収める「ワンキャッチ+ワンサブコピー」の構成にし、少しでも説明的になってしまう要素は全て削ぎ落としたわけです。

奥村氏:他の部門と違い、プリント部門は資料を添付できません。だからといって、ビジュアルの中で意味を補足して初めて成立するものでは意味がないし、説明不足になってもいけない。そのちょうどいい塩梅を探すのが本当に難しかったですね。

20パターン以上の検証から生まれた訴求で2次審査を突破

― 今年から新たに導入された2次審査の課題は「電気自動車(EV)の普及促進」でした。ここでは1次課題とは打って変わって、非常にエッジの効いた表現に挑戦されていますね。

奥村氏:審査員は2つの作品を通じて「安定感」と同時に「ポテンシャルの振れ幅」を見ているはずと仮説を立てました。1次審査で僕たちは気づきを与えるアプローチをしたので、2次審査ではあえてトーンを変え、強い言葉とビジュアルを用いた感情を揺さぶる「恐怖訴求」で勝負しました。

田畑:審査員が一目みて「本選でもゴールドを獲れそう」と感じられるものをつくりたいと考えていました。そのためにはビジュアルの強度と、ロジックの説得力を両立させることが不可欠です。

― そこで、ガソリン車の給油ノズルを「銃」に見立てたビジュアルになったのですね。

奥村氏:EVのメリットとして語られがちな「環境性能」や「静音性」を訴求した広告は、世の中に溢れすぎています。そんな中、未だにガソリン車を使い続けている人に対しても感情を強く揺さぶる今までにない切り口を探す中で、ガソリン車の給油ノズルと拳銃の形状が非常によく似ていることに気づきました。さらに、使う時には「人差し指で引き金を引く」というアクションまで共通しています。これをモチーフにすると面白いのでは?と感じました。
ただ「形が似ている」だけでは表現が弱い。そこでリサーチを重ね、大気汚染によって年間約700万人が命を落としており、WHOが「サイレントキラー」と呼んで警鐘を鳴らすほどの深刻な問題であるというファクトにたどり着きました。

― そして「 Don’t be a Silent Killer. 」というコピーが生まれたのですね。

奥村氏:はい。“医学的な意味”と“暗殺者”というダブルミーニングで、ガソリン車を使い続けることが無意識のうちに誰かの命を奪っていないか、というメッセージを込めました。

田畑:たとえば「 You are the Silent Killer (あなたは暗殺者だ)」と断定してしまうと、反発を招く恐れがあります。そこで、「Don’t be〜(ならないで)」と呼びかける表現に調整しました。

奥村氏:2次審査では、とにかく検証を重ねました。レイアウト、フォント、構図、コピーなどを変えたプロトタイプを20〜30パターン作成し、壁に貼って議論をします。「どこにフォーカスを当てるべきか」「この余白に意味があるのか」「不要なニュアンスが入っていないか」といった違和感を一つずつ潰していきました。方向性が比較的早い段階で決まったので、見せ方のブラッシュアップに割けた点は大きかったと感じています。
具体的には、給油ノズルを握る手の袖をスーツにすることでマフィアのような「暗殺者感」を演出し、スポットライトと影のコントラストで「Silent」という言葉の意味を視覚的に補強しています。すべての要素に「なぜそこに置くのか」という必然性を持たせ、審査員の心を一瞬で掴むクリエイティブを目指しました。

田畑:視線誘導も徹底的に検証しました。左に給油ノズル(銃のシルエット)、次に弾丸に見立てたキャッチコピー、そして右下に課題のクライアントのロゴを配置し、視線が自然と解決策であるEVへと落ちるように設計しています。

奥村氏:さらに、この広告を見た人がガソリンスタンドで給油ノズルを握るたびに、銃のイメージを想起するという体験設計もしました。日常のアクションに結びついて継続的に効いてくる、強い訴求になったと思っています。

世界で求められるのはロジックの先にある「ジャンプ力」

― 公式サイトに掲載されている審査員からのフィードバックを受けて、どのような学びを得ましたか?

奥村氏:コピーの「断定力」を高く評価していただいたことは、大きな自信につながりました。一方で、「海外基準で見ると、全体的に見て日本の作品は少し真面目すぎる」という指摘もありました。海外のゴールド受賞作品を見ると、極めてロジカルでありながらも、どこか論理の飛躍とも感じられる「ジャンプ力」やユーモアが内包されていることが多いんです。

田畑:過去の本戦の受賞作品を見ても、シルバーまではロジカルな広告が多いのですが、ゴールドには“人間らしさ”や“発案者の熱量”が感じられるものが多いように思います。本選で勝ち抜くためには、ファクトに基づいて強固なロジックを構築することは前提として、そこからどれだけ大胆に跳べるかが鍵だと考えています。

― 制作時間が限られているからこその学びもあったのではないでしょうか。

田畑: 1次審査では、ギリギリまで「何をどう伝えるか」の切り口を粘り強く探し続けることの大切さを学びました。一方2次審査では、検証に多くの時間を割くことができました。瞬発力と検証力、両方を実践できたのは学びが大きかったですね。

奥村氏:デザイナー不在のチームでありながらプリント部門でゴールドを受賞したことで、この部門がクラフト力勝負ではなく、どんな着眼点で課題を捉えるかという「切り口の勝負」であると気づけたことも、大きな発見でした。

田畑:結局、何をどう伝え、いかに行動変容を促すかというのは、仕事の本質であり、日々の仕事の延長線にあると気付かされました。

チームワークと発想力で「有終の美」を

― 6月には、世界中の代表チームが集うカンヌ本選が控えています。本選は、課題発表からわずか24時間で企画、制作、提出までを完了させなければならないですよね。

田畑:時間制限以外にも、他国の代表チームがひしめき合う大部屋での作業時間もあるため、周囲の会話や進捗が気になる環境で心理戦を勝ち抜かなければならないと聞いています。そういった対策として、あえて雑音の多い場所で制作リハーサルを行おうと考えています。

奥村氏:本選の審査員は世界中のトップクリエイターたちが毎回入れ替わりで担当し、直前まで発表されません。審査員の趣味嗜好によって評価軸が大きく左右されるため、発表され次第、彼らの過去の仕事や傾向をリサーチし柔軟に対応して臨みたいです。

田畑:英語特有の言いまわしや慣用句のストック拡充にも取り組みたいですね。「英語ならではの言い回し」は、日本での1次審査でも生かせたところなので、本選でも活用できたらと思っています。

― 最後に、本番への意気込みをお聞かせください。

奥村氏:世界中から集まる各国を代表する同世代のクリエイターたちと競うことになりますが、僕たちには長年培ってきた信頼関係と、誰にも負けない発想力があります。焦っても面白いアイデアは出ないので、普段通りに、気楽に取り組みたいです。

田畑:「ゴールド」が届くところまで来た、という実感があります。会社のサポートにも応えられるよう、そしてこの経験を仕事で還元できるようヤングライオンズラストイヤーを有終の美で飾れるように頑張ります。

<プロフィール>


田畑 良
クリエイティブセンター 第2クリエイティブルーム
コピーライター/プランナー
キャンペーン・マスコミュニケーション・企業タグラインなど、コピーを軸に企画を実施。広告が好き。「SDGs CREATIVE AWARD」GOLD受賞、「CREATIVE AD」最優秀賞、交通広告グランプリ優秀作品賞、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARD」ファイナリストなど、豊富な受賞歴を持つ。

奥村 浩平
博報堂アイ・スタジオ
第3ビジネスディビジョン
プロデューサー/プランナー
数多くのナショナルクライアントのデジタルプロジェクトを上流の戦略構築から現場での実行まで一気通貫でリード。データグロースを通じた定量的な視点と、定性的なUXの視点を掛け合わせ、ユーザーへの最適な体験を設計・実装することを得意とする。主な受賞歴に「ACC TOKYO CREATIVITY AWARD」シルバー、GOOD DESIGN AWARD BEST100など