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新しい消費スタイルの兆し ―「都市」から生まれる新たな消費スタイルとは?

2020.02.18

2008年のリーマンショック以降、地価や建設費等の高騰により、上昇が続くマンション価格。それにもかかわらず、首都圏の高額商品であるマンションは一定数売れ続けています。それはなぜなのか?私たちは、こうした首都圏の高価格帯マンション(7000万円~1億2000万円)を購入できる=購入している生活者は、「これまでの一部の富裕層とは全く違う、新しいタイプの生活者なのではないか」という仮説を持ちました。そこで、独自調査をもとにその“生活者像”を探り、彼らがどのような“消費スタイル”を持つのか?を解き明かすことが、新たな都市型消費スタイルの兆しを発見することに繋がると考え、考察をはじめました。

価格上昇率の高い東京23区の新築マンションの購入者を探ることが都市の新たな消費のヒントに!?

まず初めに、消費者物価指数の推移から見てみたいと思います。この10年間で、いくつかの商材を例にその変化を見てみたところ、モノの価格というのは思ったよりも上がっていないことがわかります。個人の買い物としては高額な部類に入るクルマをとって見ても、さほど大きな価格上昇には感じられません(図1)。

図1

そのような社会環境の中、約30%近くも価格が上昇したものがあります。それは “東京23区の新築分譲マンション”です(図2)。住宅は個人で購入するもので最も高額な商材です。それにも関わらず、価格上昇の幅が最も大きい、という結果が明らかになりました。

図2

その中でも、平均価格7000万円以上のマーケットは価格が上昇傾向であるにも関わらず、供給量・成約率ともに大きく伸張しており、高価格帯のマンションの売れ行きは堅調に推移していると見て取れます(図3)。

図3

このような規模で高額マンション市場が活況になっているという状況に、私たちは「購入している人たちは一部の富裕層とは全く違う、新しいタイプの生活者なのではないか?」という仮説を持ちました。そこで、首都圏の高額マンションを購入した生活者調査をもとに、その“生活者像”を探り、彼らがどのような“消費スタイル”を持つのか?を解き明かすことが、新たな都市型消費スタイルの兆しを発見することに繋がると考えました。

【生活者像】 富裕層でもパワーカップルでもない新たな都市のアッパー層が存在!

オリジナル調査でその生活者像を見てみると、やはり、昨今メディアなどで話題になった「夫婦ともに年収700万円以上」という、いわゆるパワーカップルがボリュームゾーンではないことがわかりました。(図4)。

図4

今回の調査で新たに見えてきた生活者の属性的特徴は、夫の年収が高く管理職クラスで1000万円超。一方、妻は一般職などパート勤務や専業主婦という、“夫が家計を牽引している世帯”が多い、という結果になりました(図5)。私たちはそのような人たちを、従来の富裕層やパワーカップルとは違う「都市の新しいアッパー層」と定義することにしました。

図5

「都市の新しいアッパー層」の特徴と消費に繋がる3つの意識・行動。

「都市の新しいアッパー層」は、仕事とプライベートをはっきり分けている人たちが多く、可処分所得は首都圏にお住まいの一般の方よりも約2倍以上も高い615万円(一般層292万円)となっています。また、デパ地下や高級スーパーの利用も、一般の方の約2倍も高いという結果でした。可処分所得が高く、良いものを買いたいと思う一方で、決して無駄遣いしない人たちで、消費の際は「あらかじめよく調べてから購入する」非常に計画的な人たちであることもわかりました。

さらに彼らの消費の傾向を紐解いていくと、3つの意識・行動のパターンが見えてきました。
一つ目は、生活する上でのモチベーションは「自分自身が成長すること」と同時に「家族を幸せにすること」も高く、そして、子供の可能性を引き出すためには、お金を惜しまない傾向があります。将来に対する備えも万全で、自分だけではなく家族全員の幸せを願う、いわば“ファミリーマネジメント”という特徴があります。

二つ目は、東京暮らしの魅力をたずねると、「ビジネスチャンスが多く、高収入になれる」 「文化に触れ、自らを高めるコトができる」「都会の刺激的な暮らし」などが一般層よりも高く、都市への共感が強い傾向が見えてきました。都会の刺激的な生活の中で自分を磨くことや、海外への親和性も高い。“アーバンプライド”といった特徴です。

そして、三つ目は、お金の使い方も自分なりの価値基準に基づいた消費を好み、消費や資産運用も計画的で、大きな出費の際には消費というより投資という意識が高い傾向もあり、お金を使うのは「消費」というより「何かを生み出すこと」、言わば“生産的消費”といった特徴がありました。

最新の都市型消費スタイル「バックキャスティング消費」

さらに、“ファミリーマネジメント” “アーバンプライド” “生産的消費”という3つの特徴の背景にあるものは何か?について探ってみました。それは“未来志向”ロングスパンで消費を捉えるという考え方です(図6)。

図6

実際、調査データで見ても一般層と比べ「人生100年時代に対して備えや計画を持っている」「自分の将来像を持つように習慣づいている」「自分の将来のことについてかなり計画的だ」の回答の割合が非常に高い傾向にありました(図7)。
さらに、「自分の人生を何年先くらいまでイメージできますか?」という調査でも、一般層が「10年より先」の回答が46%だったのに対し、「都市の新しいアッパー層」は67.8%のが「10年より先」をイメージしています。さらにそのうちの40%超の方が「15年以上先まで人生をイメージできている」と回答があります(図8)。彼らは将来のことについて非常に計画的な人たちで、“未来志向≒ロングスパン”で消費を考える人たち、と言えそうです

図7

図8

さらにその消費スタイルは、一般的に多く見られる「これまでの経験や現在の価値観で、今必要な商品を判断する “フォーキャスティング消費=今やちょっと先の豊かさを求める消費”ではなく、“理想の未来像をイメージ”した上で“今必要な商品を判断”するスタイル。未来像から逆算してお金を使う、消費というよりは投資に近い消費スタイルと言うことができると思います(図9-10)。

図9

図10

私たちは、その消費スタイルを“バックキャスティング消費”〜未来の自分や家族のなりたい姿を見据え、逆算する消費〜と定義しました。それは、単なる合理的なメリハリ消費とは異なり、将来たどりつきたい自分像に向けてメリハリをつける消費。自分や家族の経験値や能力を上げることで、今だけではなく、将来に渡って幸せに過ごし続けられることを考えた「投資的消費」とも言えるのではないでしょうか。

このように、新しい消費スタイルには新しいインサイトが存在し、マーケティングにも新しいアプローチが必要になると考えられます。様々な商材やサービスを、こうしたバックキャスティング的な消費視点でみることで、これまでとは違った商品ポジションや、商品・サービスの新しい可能性が広がることに期待しています。


調査概要
■調査手法:インターネット定量調査 ※実査委託先:楽天インサイト
■配信対象:首都圏(一都三県)に2014年以降に新築マンションを購入した20~74歳の男女
 ※比較用の一般層は住宅、マンション購入を問わない、首都圏(一都三県)に住む20~74歳の男女
■サンプル数:533人 (第1回)、 861人(第2回)
■分析対象:ターゲット層200人(第1回)、ターゲット層211人 一般層300人 合計511人(第2回)
■調査期間:第1回:2019年6月15日(土)~20日(木)、第2回2019年11月2日(土)~6日(木)


佐々木 崇秀

データドリブンプランニング局 都市生活プランニングルーム ルーム長

シニアストラテジックプランニングディレクター

1973年 宮城県生まれ。2009年読売広告社入社。デジタルマーケティングセクションを経て、2011年より都市生活研究所へ。主に不動産デベロッパー関連の業務に軸足を置き、首都圏タワーマンション事業のマーケティング分析から販売戦略立案の他、地方都市の大規模街づくりプロジェクトにも参画。その他業種のブランドでも、コミュニケーション戦略からプロモーション・プランニングまで、幅広い業務に従事。