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グレート・シングル研究Ⅱ「シングルマインドがつくるニューエコノミー」

2021.12.14

「YOMIKO都市生活研究所フォーラム2021」の生活者フォーサイトセッションにてご紹介した、グレート・シングル研究Ⅱ「シングルマインドがつくるニューエコノミー」について、データドリブンマーケティング局 局長代理の平田 みどりに話を聞きました。

──まず、グレート・シングル研究について教えてください

平田:日本における未婚率や単身世帯率の増加、そして、テクノロジーや働き方の進化により、未既婚関係なく「自分にかけられる時間」が増加するであろうことを背景に、社会や経済を「シングル(個)」の視点から見ることで、新しいエコノミーの潮流を見つける、というYOMIKO独自の取り組みです。

──昨年のフォーラムでは「40-50代の独身女性」を取り上げていましたが、今年の研究は、何が大きく違いますか

平田:昨年は、シングルという言葉通り「独身者」の研究でした。その中でもユニークな特徴を持つ「40-50代の独身女性」に注目し、彼女たちの消費意欲や経済活動へ行動原理などを解説したのですが、すでにその研究の最中に「こういう人たちって、少なからず既婚者にもいるよね」という会話をしていました。

また、コロナ禍でよく見聞した言葉として「ソロ活※」がありました。
今回、1万人を対象に調査をしたところ、今後「ソロ活」したい意向が最も高いのは「既婚者・子供あり」の方々でした。
ファミリーで過ごす日々だからこそ、逆に自分というシングル(個)への重要度や関心度が高いのかもしれません。

※「ソロ活」家族や友人と一緒ではなく、あえて独りで行動や体験を楽しむこと

そこで、今年は単なる〈属性・デモグラフィック〉ではなく、シングル(個)という〈精神性・サイコグラフィック〉視点で、日本のファミリー層を中心に検証するという形に進化させました。

──では、いまどきのファミリー層の中で見えてきたという、今回のテーマ【家族内個人尊重消費】について教えてください

平田:先ほど触れました1万人調査によると「いまどきの良好な家族関係に必要なこと」のTOP3は「配慮・距離感・個人の時間」でした。
「個人の空間・スペース」や「個人の選択を尊重すること」などもTOP10に入り、「共感し合えること」「家族全員で楽しむ時間・体験」といった「家族をつなぐ」ことよりも「家族内での個」の重視する傾向が伺えます。

また、家族がイエのナカ・ソトで、“それぞれが個人個人で好きなことを別々に行う”ことについては「大切である」と回答した方が約8割にものぼりました。
具体的には「各自が同じ部屋でそれぞれ好きな動画を見ている」「家の食事メニューはそれぞれが好きなものを食べる」「好みの違いで、自分用と家族用に分ける」といった、家族別々の行動・使い分けなどを指しています。

そしてインタビュー調査では、
「家の中で家族がそれぞれ好きな動画を楽しむために、家族分のイヤホンを購入した」
「スーパーのお惣菜コーナーに家族で行き、バイキングのようにそれぞれが好きなものを選ぶ日を設ける」
といった、家庭内の「個」の充実に対する工夫や消費の姿も伺えました。

そこで、これまでのファミリー層をとらえる視点、①家族の一体感のための【家族消費】と、②ソロ活に代表される一個人としての【個人消費】の間に、家族の個人個人を尊重するための消費=【家族内個人尊重消費】が存在すると、今回提言させていただきました。

──なぜ、いまその【家族内個人尊重消費】が顕在化してきたと思いますか

平田:まず、コロナのインパクトは大きいと思います。突然家族一緒のイエナカ時間が増えました。インタビュー調査でも「イエナカでの個人的な時間・空間の確保」の難しさについて多くの意見を伺いました。
その苦労の経験が、今ニーズとして表れているのではと思います。
また、学生のお子様がいるご家庭では「子供が授業で多様性を学び、人それぞれを当然と捉えているので、“家族みんな一緒で・よそと同じように”と言いづらい時がある」、「プログラミングやダンスなどを学ぶ子供に、(経験や知識がない)親として教えてあげられない」といった声も多々ありました。
お子様のほうが親よりも、時代にアジャストしているがゆえに、家族それぞれの「個」を尊重せざる得ない、というある種の仕方なさも影響しているように思います。

──すると、これからの家族のカタチやあり様も変わりそうですね

平田:はい。あくまでも仮説ですが、この先ますますダイバーシティ&インクルージョンを当たり前とする世の中になった時、いいか悪いかは別として、家族の絆も「一家団欒・求心的」から「一家各様・遠心的」といった“ゆるやかな一体感を持つ状態”に変わっていくかもしれません。
また、家族の幸せも、構成するそれぞれの「個」の居心地の良さの集合体や総量で測られる時代へとなるのではないかと思います。

──【家族内個人尊重消費】のポテンシャルについて教えてください

平田:私たちの調査によると「自身、および家族の個の充実のためなら、家の消費総額のうち13%まで支出できる」と出ており、試算上では約20兆円規模となります。
消費意欲がなかなか持ち上がらない中、家族の「個」の充実という付加価値は、新しい市場形成のチャンスではないかと考えています。

また、家族の「個」の充実に対し、“もっと改善してほしい・不満であるカテゴリー”として【エンタメや娯楽】【お金の見える化】などが表出しました。
お金の見える化については、家族それぞれがスマホやPCでオンラインショッピングをすることが増えたぶん、もっと家計を可視化・共有したいというニーズでした。
また、現状はさほど不満はないけれど、今後ニーズ化しそうなものとして【家事(分担)】なども出てきました。
これからの【家族内個人尊重消費】市場の攻略視点の一助になると思います。

最後になりますが、今回はファミリー層を「個」の立場から見たときに浮かびあがった【家族内個人尊重消費】についてお話させていただきました。

ファミリー層を捉える際、家族の一体感のための【家族消費】も、一個人としての【個人消費】も、今後も変わらず大切な視点ではありますが、 その間にある今回の【家族内個人尊重消費】は、これからの家族の幸せをつくる「もうひとつの重要な視点」に加わるのでは、と考えています。
YOMIKOグレート・シングル研究チームでは、今後この【家族内個人尊重消費】の解像度をさらに高めてまいります。
またこれに留まらず、デモグラフィックとしての「シングル層」、そしてサイコグラフィックとしての「シングルマインド」、2つの側面から「グレート・シングル時代」に向けた研究も、併せて深耕していきたいと考えています。

平田 みどり

データドリブンマーケティング局 局長代理/第1マーケティングルーム ルーム長

シニアマーケティングディレクター

企業のブランドコンサルティング、統合コミュニケーションから事業・商品開発までを手掛ける。
2020年より“個の時代における新市場やターゲットの発掘”を目的とする〈YOMIKOグレート・シングル研究〉のリーダーとして活動。