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「多死社会」の到来と求められるサービス

2021.12.17

世界の人口は増え続けており、80億人に近づいていると言われていますが、今世紀中には減少に転じるであろうという予測が多くなっています。
そんな中、日本は人口減少のフロントランナーとも言え、既に10年人口減少が続いています。2020年はコロナ禍の影響もあり出生数が84万人 [1] と史上最少となりましたが、これは1949年の269万人 [2] ( 団塊の世代のピークです )に比べると3分の1以下です。人口も減りますし、世代バランスも崩れますから年金のサスティナビリティも心配になります。
人口が減れば、その分、モノやサービスの需要も減ると考えられるため、日本の市場としての魅力も下がり、投資が減少し、国内の需要や雇用に良くない影響が考えられます。

しかし、そんな人口減少時代にも増えている人口があります。ご存じの通り高齢者です。2021年には65歳以上の高齢者比率は29.1% [3] となり、国民の3割に近づいています。日本の年齢中央値は49.1歳 [4] となっており、もう少しで人口の半分以上が50歳以上になります。高齢者は人口が多いだけではなく、金融資産や不動産も多く所有しているため、市場としての魅力は高く、様々な産業がシニア市場に向けたビジネスに取り組み、成功を収めています。

そして、高齢者の増加の次には何が起きるでしょうか?

日本の平均寿命は伸び続けており、2020年で女性87.7歳、男性81.6歳 [5] 。団塊世代の生まれた1949年には女性59.8歳、男性56.2歳 [6] でしたから、ずいぶん長生きにはなっているのですが、それでも現在70代前半の団塊世代が平均寿命の伸びを超えるベースで加齢していくため、今後亡くなる方が増えていくことは避けられないと考えます。「多死社会」の到来です。
日本の死亡数自体は人口増加に伴い継続的に増加しており、1985年は75万人でしたが、2020年には138万人 [7] 。これが、2040年には168万人にまで増えると予測されています [8] 。昨年比2割以上の増加です。福岡市の人口が約160万人 [9] なのですが、1年にそれ以上の人数が亡くなる時代が来ると予想されます。

人口動態統計:厚生労働省
日本の将来推計人口(平成29年推計)死亡中位予測 国立社会保障・人口問題研究所

また、この増加は地域的な偏りが伴うと予想されます。団塊の世代は、1960年代に集団就職や大学進学率上昇に伴い、地方から首都圏などの都市圏に流入した人口が多く、3割近くが首都圏に住んでいます。この首都圏団塊世代の結婚が1970年頃から増え、その世帯の住宅需要を満たすために、多摩、港北等のニュータウンが作られ、これらを都心と結ぶ鉄道が整備され、首都圏が作り変えられました。このため、首都圏の中でも郊外に団塊世代が多く住んでおり、これからの死亡者数は首都圏など都市の郊外で特に増加していきます。

そんな時代に求められる、商品・サービスにはどのようなものがあるでしょうか?
3つほど注目しているものがあります。

葬祭、墓地関連

直接つながる市場としては、まず葬祭関連の市場が考えられます。この市場における直接のサービス購入者は、本人でなく遺族ではあるのですが、本人が費用を生前積み立てる互助会の存在や、近年家族葬や海洋散骨、樹木葬など、葬儀が多様化し、その選択に故人の遺志が重視されることから、喪主の選好だけでサービスが選ばれる訳ではなさそうです。

相続関連

葬儀の次には、何が求められるでしょうか?私たちは「相続」に関連したサービスに注目しています。高齢者世帯の持ち家率は84% [10] と高く、金融資産と合わせると、世帯平均で4400万円ほどの資産額になるようですが [11] 、2015年に相続税の基礎控除額が「3000万+600万×法定相続人の数」に引き下がったため、相続税が課税されるケースが増えています。東京都では、2020年で亡くなった方の16% [12] ほど課税されているようで、まずは弁護士、税理士などの税務関連サービスに対するニーズは高いと思われます。

その後には、相続した自宅の活用です。郊外の一戸建てが多くなりますが、売るにしろ貸すにしろ、これらをどう活用していくかは、遺族にとっても地域にとっても重要です。テレワークの普及した環境下において、保育園等の子育てキャパシティが大きい郊外で、夫婦そろってリモート勤務可能な広さのある一戸建てを提案したり、学生や外国人労働者向けのシェアハウスに仕立てたり、介護や保育用の施設に転用したり、地域のニーズに応じた様々な活用が考えられますし、そのためのリフォームや仲介、また、これらをアグリゲーションするビジネスといった周辺市場の成長も見込めるのではないでしょうか。

相続対策関連

3つ目に相続対策の市場です。相続を受ける側の中心は60代が中心になりますから、退職金や持ち家など自分の資産を所有していることが多く、ここに親からの相続資産が加わることになり、故人以上の資産になることも多いはずです。更に自分が相続する際、予定していなかった相続税の支払いを課されると、次は自己の相続対策への関心が高まることが多いようです。ここでも、士業や信託銀行などが求められることが多いと考えられますし、生命保険や不動産、アパート建築などにニーズが生まれる可能性があると考えています。

私たちは現在、これらの多死社会関連サービスに関する戦略立案、実行支援を行う準備を進めており、事業主体としてのクライアント様や共同でサービスを提供するパートナー様を探しております。
また、計画立案のための資料として、全国の市町村単位で2045年までの死亡数、死亡率予測を作成しております。事業計画、出店計画や広告展開の最適化にこれらをお役立ていただければ幸いです。


脚注

1.人口動態統計 厚生労働省
2.人口動態統計 厚生労働省
3.人口推計 総務省統計局
4.日本の将来推計人口(平成29年推計)死亡中位予測 国立社会保障・人口問題研究所
5.日本の将来推計人口(平成29年推計)死亡中位予測 国立社会保障・人口問題研究所
6.令和元年簡易生命表 厚生労働省
7.人口動態統計:厚生労働省
8.日本の将来推計人口(平成29年推計)死亡中位予測 国立社会保障・人口問題研究所
9.福岡市推計人口 福岡市
10.平成30年住宅・土地統計調査 総務省統計局
11.平成26年全国消費実態調査 総務省統計局
12.人口動態統計 厚生労働省 及び東京国税局


<読売広告社 多死社会研究チーム>