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2024.08.05
2024年に創業40周年を迎える環境計画研究所は、空間の企画・設計・プランニングを中心に幅広い事業を展開しているYOMIKOのグループ会社です。同社の強みは、単純な空間設計にとどまらず、空間そのものや周囲の環境が生み出す「体験」に目を向けていること。その体験価値を伝えるストーリーを作ったり、最新テクノロジーを活用して体験価値を高めたりなど、独自のアイデアやソリューションによって場づくりを展開しています。YOMIKOグループの一員として、体験価値をもとにゲームチェンジに取り組む環境計画研究所 代表取締役社長 秋和悟之、クリエイティブ・ディレクター 進藤然子に、空間づくりで大切にしていることやYOMIKOグループとしてのシナジーについて伺いました。
― 環境計画研究所のこれまでの歩みと、YOMIKOとの関わりについてお聞かせ下さい。
秋和:環境計画研究所は照明分野で博士号を取得した先々代創業者が立ち上げた会社です。専門誌を出版し、「照明による人間の行動変容」や「照明が購買力に与える影響」などのテーマを発表していました。役員も専門分野に長けた人たちが多く、アートやIT系など個々人のプロジェクトがそのまま会社の事業になっていったのです。
YOMIKOとはそのころから付き合いがありました。一緒に手掛けた案件で最大規模のものは、大手不動産デベロッパーが開発した湾岸マンションの仕事です。
それまでマンション販売はお客様をモデルルームに案内して販売するというやり方でしたが、YOMIKOと一緒に立地の魅力や建物の価値を訴求しつつ、「ここに住んだらこんな暮らしになる」ということを伝えるためのストーリーを動線上に配置した空間をつくりました。
これが大きな反響を呼び、ほかのデベロッパーでも同様の手法が取られるようになってマンションギャラリーという新しいスタンダードが生まれました。
当社は単に機能的な施設・空間を設計するというよりも「そこでどのような体験をするか」ということを生業の軸としています。「こんな施設をつくってほしい」というオーダーではなく「こんなことをしたいのですが、どうしましょう」という段階から関わることが多いです。
― 現在はどのようなプロジェクトを手掛けられているのでしょうか?
秋和:オフィスでは2023年に西千葉に建設した「ZOZOSTUDIO」があります。これは「千葉市都市文化賞フォーラム2023」の「景観まちづくり部門 優秀賞」を受賞しました。またエキシビジョン(展示会の企画・デザイン・設計など)ではスペイン⼤使館が主催するスペインのインテリア製品展⽰会「SIESTA SHIFT」のプロデュースも行っています。
ZOZOSTUDIO内観:2023年竣工
スペイン大使館主催「SIESTA SHIFT」:2023年
― ZOZOSTUDIOプロジェクトを手掛けられた進藤さんにお伺いしますが、ZOZOSTUDIOはどのような目的や狙いの下、企画されたのでしょうか。
進藤:きっかけは幕張につくった「MAKUHARI NEIGHBORHOOD POD」(現在は竣工した街区へ移設)でした。これは当時、海浜幕張での大規模開発におけるエリアマネジメント施策の1つで、マンションへの入居が開始した時点でコミュニティ組織が自走するための装置として、当社が建屋の企画・設計に携わった案件です。
当時は現在のようにリモートワークで郊外が注目されている状況と異なり、非常にハードなプロジェクトでした。
MAKUHARI NEIGHBORHOOD PODは、マンション建設予定地の横につくった施設で、カフェやブルワリー、レンタルスタジオなどの機能を備えたコミュニティスペースです。新興エリアなので、住まわれる方も新しく来られる方々ですし、そうした地域に文化的なものをどうつくっていくかが課題でした。そこでマンションギャラリーに来ていただいたお客様が立ち寄って、これから成長していくまちのコミュニティを先取り体験していただこうという擬似的な施設を企画したわけです。
これを見たZOZOさんからお話をいただいたのが、ZOZOSTUDIOプロジェクトがはじまったきっかけです。現在ZOZOさんの本社は西千葉ですが、コロナ禍が落ち着きつつある頃に本社屋の向かいに新たな新社屋をすることになり、「本社屋にないアトリエ機能をつくりたい」「社員の座席数を確保したい」「社員の活動を活性化したい」などのアイデアがあり、そこでご相談を受けました。規模感やイメージの参考としてくださったのが、MAKUHARI NEIGHBORHOOD PODだったそうです。ZOZOさんは千葉に拠点を置く企業として地域との関わりや貢献について積極的に取り組んでおり、それも体現したいというお話でした。
また、ZOZOさんからは「正解がないことを一緒に考えていくパートナーが必要」というとで、お声がけいただきました。そこで地域の人が集える開かれたオフィスを提案させていただき、ZOZOさん、施工会社と共につくりあげていきました。
― コロナ禍では、オフィスや商業施設などの存在意義が問われる事態もありました。こうした変化を経て、場や空間に対する問題意識は変わりましたか?
秋和:デジタルの進化や便利さを感じる反面、物理的な「場」があることでしか生まれないセレンディピティ(偶発性)だったり、感動だったり、それをシェアしたい気持ちだったり、場の体験価値がより高まったような気がします。そんな場に「行きたい」というモチベーションや、その体験を人に話したくなる思いなど、人の感覚的な部分にダイレクトに影響するもの、それが場の価値になるのではないでしょうか。そうした意味で、当社が提案するような体験価値の設計の意義も高まっていますし、今後もその分野でのチャレンジを続けていきたいです。
進藤:違う視点で見ると「選択肢が増えた」という見方もありますね。たとえば仕事も、オフィスでやってもいいし自宅でもカフェでもいいというように、選択肢はさまざまです。そういう選択肢を突き詰めていくと、自分は何が好きなのか、どんな判断基準を持っているのか、自分の感性がより研ぎ澄まされていくと思います。そして感性を研ぎ澄ますきっかけになるのが、やはり体験だと思うんですね。
ZOZOSTUDIOをつくる時も、社員の方たちが愛着を持つ場所にするため、社員自らが手をかけたり工夫したりできるようにして進めていきました。そんな形で、自分が大切にしたい価値や基準を見つめ、そこにアプローチできるような設計をしていきたいと思います。
― そのような提案を続けていくため、環境計画研究所のチームが持つ強みや特長を教えてください。
秋和:真面目で個性豊かな社員がそろっています。ユニークな点は「一般消費者の目線で発想できる」というところだと思います。空間づくりのプロではなく、実際にそこに集う人々の視点で「ここではこんな感情が生まれるのでは」という仮説を立て、体験のストーリーを作り、提案できることが当社のメンバーの特長だと思います。
そして進藤は、そんなメンバーの個性をよく見て、個性を活かせるような場づくりが得意です。クライアントもプレイヤーに巻き込んで一緒にプロジェクトを進めていく手腕も優れているんですよ。個性豊かなメンバーと、その個性を発揮できるチームづくりが当社の強みですね。
― ありがとうございます。進藤さんがチームづくりで心がけていることを教えてください。
進藤:特筆すべきことはないのですが、チームに関しては「全員にとって良い状態になること」を心がけています。誰かひとりが得したり損したりするのではなく、全員のモチベーションを保てるように、個々人の得意領域を活かせるような環境づくりは意識していますね。また、自分自身も仕事を楽しいと思えるように「自分が楽しめる」ことも重視しています。
またプロジェクトを進めるうえでは、考えを広げる「発想するフェーズ」と、そのアイデアを実際に落とし込んでいく「空間を作って納品するフェーズ」の2つのバランスを取るように意識しています。
クライアントに対してあまり遠慮はしません。もちろん私たちはオーダーに応える立場ではありますが、実際の空間づくりではクライアントに動いてもらわないといけないことも多数あるので、遠慮せずに膨大な“宿題”を出すこともありますよ。
― 近年は新しいテクノロジーを活用した新しい試みを発表していらっしゃいますね。プロジェクションマッピングを使った没入空間の設計のほか、ページにあるQRコードを読み取って能動的にコンテンツを表示する「動く絵本」など、空間だけにとらわれないソリューションを提案なさっていますが、これらにはどのような狙いがあるのでしょうか。
秋和:最近はDXが注目されていますが、世の中を見ていると「デジタル vs. アナログ」という対立構造になっている傾向だったり、DXといいながら単なるデジタル化だったりという事例が散見されます。そんな状況を「体験」という視点から見て、「どちらも活用すればいいのに」と感じていました。そして数年前からデジタルもアナログも両方活用して新しい体験をつくるという取り組みを始めるようになったのです。
そこで始めた「カンケン+(カンケンプラス)」という発表イベントは、当社のアイデアを実際にクライアントの方々に体験いただく場であり、自分たちの発想を実証する場でもあります。実際に体験してみて、自分たちが本当に仮説と同じ感じ方をするのかを検証しないと、説得力ある提案にはなりません。「新しいテクノロジーでできることがあれば、それを使えばいい」という雑な議論になってしまい、「実際にその場を体験する人たちが何を感じるか」という視点が抜け落ちてしまいます。
実際の案件でもそうした取り組みが増えています。最近ではAIなど最新技術を使った不動産展示場をデベロッパーさんと一緒に開発しました。
― 新しいテクノロジーを組み合わせたプロジェクトを手掛けられているんですね。
進藤:最近ではLEDビジョンを使ったマンションギャラリーの空間づくりに参加しました。輝度が高い大きな画面にマンションの部屋や付近の環境を投影し、疑似体験していただくバーチャルモデルルームです。コロナ禍をきっかけに増えてきた取り組みで、現在はコンテンツの種類を拡充したり、内容をブラッシュアップしたり、適切なコンテンツを取捨選択していくなど新しいフェーズに入っている感じです。
秋和:それも理屈でいえば「VRで十分」という話になりますよね。VRは個人体験ですが、マンションの購入は違います。家族で部屋を体験したり、周囲の環境を見たりして相談しながら決めるものです。このような体験の使い分けを提案できるかどうかが大切だと思います。
進藤:個人的にはアナログの方が直感的で、人間の感覚に直結しているという気がします。手段を増やすためにデジタルをうまく活用していくイメージですね。
― 今後の目標を教えてください。
秋和:私たちは自らを「体験設計のプロフェッショナル集団」と定義していますが、これが実現できたら面白くなるなと感じています。
たとえば将来、機械がどんどん進化して何でも正確にできるようになると、人間の駄目なところが逆に「人間っぽいよね」と貴重な体験になるのではないでしょうか。そうなると、実態や体験は現在よりもより価値が高くなってくるでしょうし、そんな未来で「体験設計を支えるプロ集団」として、より面白く価値のある体験をつくっていけると思います。
注力したい分野は、まちづくりのプロセスです。「すでにコンセプトが固まってあとは設計するだけ」というものより、「これからこういう体験価値のできる場をつくっていきたい」というプロセスから関わっていくと、うちのチームの力も最大限発揮できると思います。
進藤:1人ひとりのユニークさや個性を活かしながらそれが仕事になるという環境をつくっていきたいです。クリエイティブの仕事は多かれ少なかれ自分の身を削っていく作業なので、やりがいを見いだせないとモチベーションも上がりませんし、つらいことも増えてきます。理想論かもしれませんが、熱量を持ってチームが仕事に取り組めるような場をこれからもつくりたいです。
取り組みたい分野は、小さくても社会にとって少しいいことに貢献できることですね。たとえばマンション販売センターにしても、不動産の購入といえば一般的には一生に一度の大きな買い物なので、そこで何か楽しいいい思い出につながるような体験を提供できればいいなと考えています。オフィスづくりも、こちらは建てれば終わりですが、働く人にとってはそこからがスタートです。実際に使う人の視点を忘れずに日々取り組んでいくことが目標です。
― 最後に、YOMIKOグループとしてどんなシナジーを期待しているのか、どんなシナジーが生み出せるのかお聞かせください。
代表取締役社長 秋和 悟之 クリエイティブ・ディレクター 進藤然子
秋和:私たちはYOMIKOグループである一方で一企業として自律的にさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。YOMIKOのシナジーとしては、そうしたプロジェクトをグループの実績としてクライアントに訴求できることだと思いますし、それをきっかけに双方の強みを生かした新たなプロジェクトや提案につながる可能性もあるでしょう。
私たちは単なる空間デザインの設計や施工をてがけるだけではありません。先ほどもお話ししたように、「こんなことができるといい」「ここに何かをつくりたい」という課題やシーズの時期から入って体験を考え、設計していける点が強みです。そんなプロジェクトにご一緒できると、より強いシナジーが生まれると思います。
これからもこの強みを活かし、様々な取り組みの中で、新たな体験や価値を生み出していきたいです。
― ありがとうございました。
株式会社 環境計画研究所
スペースプロモーションを中心に、空間の企画・デザイン・設計・施工で記憶に残る体験設計をつくる専門会社
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