YOMIKO NOW
2026.03.31
10年後の「街」と「暮らし」を起点に考える ― バックキャスティングで捉える未来市場と生活者の兆し ―
YOMIKOでは、今後の社会変化やそれに伴う生活者の意識・行動の変化を予測し、今から取り組むべき課題の戦略的な解決策を考えるプロジェクト『GAME CHANGE2030』を発足しています。2024年4月にはマーケティングキーワードとして「居」「食」「獣」を抽出し、レポートを発表。社会の未来を見据えた提案やコンサルティングをクライアントに実施しています。今回は、新たに注目したキーワードのほか、これからの未来の捉え方や考え方について、MDUプロデュースセンターの小島正子さん、インダストリーコンサルティングセンターの永井 遥さん、吉永 彩さん、水口 絢さん、阿部 栞土さんに紹介してもらいました。
未来の日本はどのような姿になっているのか
永井:当社では、人口減少や地域・世代格差、単身世帯の増加など、今起こっている社会の変化を起点に、今後の社会や生活者の意識・行動がどのように変化していくのか、またそれがマーケティングに与える影響を予測しています。そのうえで、今から取り組むべき課題を捉え、戦略的な解決策を考えることを目的としたプロジェクト『GAME CHANGE2030』を発足しています。
このプロジェクトでは、「未来の日本はどのような姿になるのか」という問いから、バックキャスティングの視点を取り入れながら未来への予測をまとめた独自レポートを作成し、企業へのコンサルティングを行うほか、課題の抽出や解決のヒントとして活用しています。
今回は、こうした取り組みの背景とレポートの内容についてご紹介します。
永井 遥さん
「課題解決」から、「課題発見・創造」の時代に
吉永:経済成長の時代は生活者の顕在化した不満を改善し、物欲を刺激していくことがマーケティングの主な役割でした。しかし今は、変動や不確実性に向き合うVUCA※1 の時代から、より複雑で予測が難しいBANI※2 の時代へと移り変わり、社会構造や価値観の変化が加速して街の暮らしの前提が大きく揺れています。
具体的には、人口減少、単身世帯の増加、都市への集中と地方の空洞化、労働力の不足、気候変動やAIの進展 —— これらの変化は、生活者の行動・欲求・可処分時間の使い方といった消費や意思決定のあり方を根本から変えています。そのため、従来型の戦略や施策だけでは社会や生活者に対する提供価値が十分にはできない状況となっています。これまでのマーケティングの成功パターンが通用しなくなってきていることを実感されている方も多いのではないでしょうか。
吉永 彩さん
阿部:現代は情報が溢れ、流行が高速で移り変わる社会でもあると思います。それが未来につながる変化なのか、一過性のトレンドなのか、見極める作業は想像以上に複雑です。
AIの活用も進んでいる今、情報の収集や、どう課題を解決するかという課題の解決手法は見つけやすくなったかもしれません。だからこそ今は手法よりも、未来に向けてどんな問いを立て、どう実行していくのかという「課題発見・創造」によって、企業の持続的な成長力や競争優位性に差が生まれるのではと考えています。
阿部 栞土さん
水口:こうした社会の変化に対応し、閉塞感を突破するためのヒントとして、当社のGAME CHANGEレポートを活用していただくことが多いです。
このレポートは、表層的な事象の裏にある“生活者のリアルな感情や意思決定”に目を向けることを大切にしながら、多様なインプットやオリジナルの調査結果など集めた情報を取捨選択し、未来の兆しとして紹介しています。
水口 絢さん
永井:2024年は【居・食・獣(い・しょく・じゅう)】のレポートを発表し、今年は「2035年の街と暮らし」をテーマに新たなレポートを発行しました。
内容を一部、ご紹介します。
■3つのレポート「居・食・獣」
阿部:まずは「居・食・獣」のレポートからご紹介します。
このレポートでは、2030年に向けてキーワードとなる3つのテーマ「居・食・獣」ごとに、すでに社会で起きている数々の事例やプロジェクトで実施した調査の結果から「ミライの課題」を抽出し、今後につながる「オリジナルシナリオ(見立て)」をご用意しています。
【各レポートのポイント】
❶【居】家にパフォーマンスを求める時代?!「イエナカ」をめぐる新たな兆し
例えば、心身ともに健康を保てる、社会とつながれる、イキイキし続けられるといった人生の価値に繋がる状況を自分でコントロールしたいニーズが台頭し、家という“場・空間”が、自身の人生にどんな機能・役割を果たすかが問われています。 そこで、2030年には家=ライフパフォーマンス向上の場になると予測し、拓くマーケットに着目しています。
❷【食】料理や食事の概念が変わる・拡張する~シニアの食の兆しレポート
高齢化が進む日本でのシニア向け商品開発では、「従来のシニアを想定しない(シニア扱いしない)」ことが定説となっており、着想がより難しくなってきています。
そこで、「どんな食品を提供するか」だけではなく、「どんなふうに提供するか」「どんな価値を掛け合わせるか」といった食にまつわる様々な視点を提示し、これからのシニア市場を掴むための「兆し」を取り上げています。
❸【獣】世帯変化で生まれる注目セグメント「ペット」というパートナー
単身世帯をはじめ世帯のあり方が多様化するなか、ペットにも自分自身や家族のように時間やお金を費やし愛情を注ぐ人が増えています。「ペット」はパートナー(伴侶)と考えている人も多く、ペットに対する価値観に注目が集まっています。
そこで、コト消費やウェルビーイングなど人間の社会でも話題となっている4つの視点で未来を予測しています。
■新規レポート「2035年の街と暮らし」
水口:次に、今年発行した「2035年の街と暮らし」レポートをご紹介します。
当社では広告事業のみならず、街区再開発、パークPFI参画、オフィスや商業施設におけるコミュニティ活性化など「場の価値」を新たに創り出し、街をアップデートしています。「2035年の街と暮らし」レポートは、そのような事業を通じて得た経験値や知見を取り入れて分析した内容となっています。
「居・食・獣」は2030年を想定していましたが、このレポートはさらに先の2035年を見据えました。
日本だけでなく海外の先進事例も分析し、「ミライの暮らし予測」を導き出しました。今後起こりうる生活者の価値観や行動の変化を見据え、企業が次の一手を考えるときのヒントとなるよう「暮らし篇」と「街篇」に分けて仮説を立てています。
【各レポートのポイント】
❶【暮らし篇】生活インフラが変わる、未来の暮らし
異常気象、エネルギー不足、食料問題、ごみ問題など、地球環境をめぐる課題は、私たちの行動設計を左右する生活インフラ(安全・快適な日常の暮らしを支える設備やサービス)の課題となっています。
例えば長引く夏や近年の気候変動において注目されるのは、気象マーケティングです。海外の先進事例を踏まえ、予測される価値観や行動の変化を考察しています。
❷【街篇】普遍でありながら、時代性や多様性を反映する街の姿とは
テクノロジーの進展、教育・人材不足、人口過密や地域間格差といった社会構造の変化と、日本ならではの特性や受け継がれてきた文化が重なり合い、街そのもののあり方が変わり始めています。
街の機能や暮らし方の可能性を広げて考え、これからの潮流を掴むための「兆し」を取り上げています。
ここから創造したいマーケットをイメージする
吉永:ご紹介したレポートは、中長期スパンの視点や、街の視点から生活者を考える視点など、ちょっとユニークなアプローチが特徴です。そのためか、これまで本レポートをもとに、議論や検討の場を設けてきた企業の方々からは、次のような声をいただいています。新たな視点や気づきを提供できていることに、私たちも手応えを感じています。
「短期最適化になりがちな業務の中で、バックキャスティング思考の重要性を再認識した」
「10年後、15年後の街と暮らしを起点に考えることで、今の戦略の前提を問い直す必要性を強く感じた」
「生活者の行動分析は日常的に行っているが、街や暮らしから考える視点は新鮮。商品開発にも応用できそう」
永井:本レポートが提供する未来視点のインプットは、いつもとは異なる思考のスイッチを入れ、新しいアプローチを具体化するための手がかりになると考えています。俯瞰した中長期の視点から、自社の未来を考える契機になれば幸いです。
未来予測は “確率の高い変化に備えて、柔軟な戦略を作るための道具”
小島:確実に予測できる未来は、案外、人口統計ぐらいしかないのではないでしょうか。
未来をつくる変数要素は非常に多くあり、私たちにはコントロールできないものも少なくありません。むしろコントロールできないものがほとんどかもしれない。だからこそ、未来を「当てる」のではなく、変化に早く気づき、戦略をアップデートできる体制をつくっていくことが重要だと考えます。
大事なのは、未来予測を “確率の高い変化に備えて、柔軟な戦略を作るための道具と捉えること”です。未来の「兆し」を見出し、シナリオを描き、挑戦を繰り返す。そのプロセスをサポートするツールとして、GAME CHANGEレポートをご活用いただければと思います。
※1 VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語。社会環境・ビジネス環境の複雑性が増大し、先行きが不透明で将来予測が困難な状態を指す。
※2 BANI:Brittle(もろい)、Anxious(不安)、Non-Linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)の頭文字をとった造語。VUCA以降、パンデミックや地政学リスク、AIの急速な進化などにより、より不安定で混沌とした状態を指す。
プロジェクト『GAME CHANGE2030』に関するお問い合わせ メール:gc2030@yomiko.co.jp
(写真上段左から)
MDUプロデュースセンター 小島正子
インダストリーコンサルティングセンター 秦ルーム 阿部 栞土
インダストリーコンサルティングセンター 秦ルーム 永井 遥
(写真下段左から)
インダストリーコンサルティングセンター 藤田ルーム 水口 絢
インダストリーコンサルティングセンター 佐々木ルーム 吉永 彩
番外トーク
次のテーマは?
永井:次のレポートはどんなテーマにしたいですか?
水口:わたしは昨今、「遊び」や「余暇」の価値が、衣食住に続く “第4の生活軸” として生活基盤の中に組み込まれ始めていると感じています。
吉永:確かにワーケーションや地方移住、コミュニティ型のイベント参加など、「余暇」の過ごし方そのものが働き方、住まい方、人間関係といった生活全体の組み立て方にも影響を及ぼすようになってきていますね。もはや「余白」ではなく「生活を構成する要素」のひとつへと拡張しているように思います。
阿部:それらをまとめて「エンターテインメント」として研究するのがおもしろいかもしれません。
例えば推し活も、いまや単なる趣味ではなく、「生活を構成する要素」として、行動の原動力や消費行動を左右する軸になりつつあります。
永井:わたしは、「遊び」や「余暇」の多様化だけでなく、“好き”や“楽しさ”の感情を軸に人生の優先順位を組み替える動きも進んでいると感じています。このような広い意味での「エンターテインメント」が生活の幸福度や行動選択にもつ影響力は、今後も確実に増していきそうですね。
小島:今の潮流をつかみ、未来を見据えることはとてもワクワクしますね。意見を出し合って検討を始めましょう!