YOMIKO NOW
2026.07.17
キャラクターで、世の中の分断を超える。クリエイター・オブ・ザ・イヤー 2025メダリスト受賞記念インタビュー 田中 龍一
日本広告業協会主催「クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞」で、当社クリエイティブディレクター/アートディレクターの田中龍一がメダリストを受賞しました。田中がクリエイティブの軸に置いているのは、「旗印発想」という考え方。プロジェクトの本質を象徴し、そこに愛着をつくり、育てる。今回は受賞の感想を起点に、その考え方が具体的な仕事の中でどのように生きているかを、事例とともに語っていただきました。
自分には縁のない賞だと思っていた
― 受賞の率直な感想を聞かせてください。
田中: 正直、自分には縁のない賞かもしれない、と思っていたので、驚きました。身に余ります。
あとは、“クリエイター” という個人を褒める賞ですが、どの仕事もチームで築いてきた仕事なので、ちょっと恐縮です。でも嬉しい。だから複雑ですね(笑)。
「クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞」には2023 年に一度、ノミネートさせてもらっていて、そのときはメダリストにはとどかなかったのですが、自分のエントリーシートやビデオをつくるという体験がとても勉強になり、収穫でした。
企業を主語にして考える普段の仕事とは異なり、「自分のパーパスってなんだろう」「自分はなにができて、なにがしたいのか」を改めて考える機会でした。そこから、仕事への向き合い方としても、「どういう仕事をしていきたいか」を逆算して考えられるようになった気がしています。だから今回の受賞は、その分特別に嬉しかったですね。
― 今回のエントリーシートでは、何を意識しましたか。
田中: キャラクター開発とキャラクター拡張です。
世の中には大小様々な分断がありますよね。キャラクターって、その分断を軽やかに越える力があると実感しました。そして、キャラクターはつくって終わりじゃない、使って終わりじゃない、バズって終わりじゃない、拡張させビジネスにつなげるという考え方を意識しました。
つくって終わりじゃない。「デリ丸。」が旗印になるまで
―キャラクター「デリ丸。」はどんな経緯で生まれたのですか。
田中: 三菱自動車さんからのオリエンで、はじめてクルマのデザインを見せてもらったときは、かわいい顔とカッコいい色のバランスが独特で、キャラクターにしたい!とそのとき瞬間的に思ったのを覚えています。デリカミニにそっくりなそのキャラクターが人気者になればイイのではないか!と思いました。
― どんなキャラクターにしようと考えましたか。
田中: 初回の企画打ち合わせに早速キャラクター案を持っていきました。当初はサイコロ型のロボットのようなデザインを考えていました。チームや三菱自動車さんと議論を積み重ねていく中で、相棒感や愛着を感じることができる犬のようなデザインに決まりました。今見ると本当にこのサイコロロボットじゃなくて良かった(笑)。
三菱自動車さんからはオリエンで「カッコかわいい使えるアウトドア軽」という言葉をもらっていたこともあって、「まわりからはかわいいと言われる。でも本人はカッコいいと言われたい、ちょっとひねくれた男の子」という性格像や、「かわいいって言うな」というセリフや口調、「♪年下の男の子」の楽曲へとつながっていきました。 “カッコいい” と“かわいい” を両立させるアンバランスな絶妙なバランスを意識しています。
―「 デリ丸。」グッズが大人気とのことですが、ここまで広がるという想像はしていましたか。
田中: 想定以上ではありました。デリカミニをご成約いただいた方が必ずもらえる「ほぼ実寸大のデリ丸。ぬいぐるみ」も広がる大きなきっかけになったと思います。CM の世界観がご自身のデリカミニの中でも続くような感覚が、愛着につながったんだと思います。三菱自動車さんの中でも「デリ丸。」が大きなエンジンになって、グッズ企画やコラボ企画、コミュニティ創出など、様々な展開を見せています。
出版社さんから絵本出版を提案してくださったり、いろんな立場の方々が「デリ丸。」に命を吹き込んでくださっていることがここまで広がっている理由だと思います。
60クラブをリボンでつなぐ
― Jリーグとサンリオの「フェアプレーリボンプロジェクト」は、どんな経緯で始まったのですか。
田中: サンリオさんのコーポレートブランディングのお手伝いをさせていただく中で、J リーグとサンリオがフェアプレーパートナーとして何かできないかという相談があったんです。サンリオの企業理念に「みんななかよく」という幹のような大事な言葉があります。「みんななかよく」と、J リーグの「フェアプレーの精神」はすごく親和性があるということで両者が手を組んだという流れです。
― どんなコンセプトで設計したのですか。
田中: サンリオの代表的キャラクター ハローキティのリボンは、気持ちと気持ちを結ぶ“なかよしのしるし”という意味が込められていることを知り、それとフェアプレー精神がつながりやすいと思って、リボンをキーにしました。
もうひとつ大きかったのが「全60 クラブで行う」という方針です。プロモーションとなると通常どうしてもJ1 中心になりがちですが「サッカーが好きな想いはみんな同じ」というメッセージのもと、J1、J2、J3 の全クラブを等しく扱うこと。クラブのデザインをヒントにした60 のリボンとキティが並ぶシンボリックなビジュアルや、「フェアプレーリボンプロジェクト」というプロジェクトを掲げました。
正直なところ、60 パターンのリボンデザインをつくり分けるのは大変でした(苦笑)。色の入れ方ひとつとっても、各クラブのファンが見た時にも「ちゃんとうちのクラブのことをわかっているな」と感じてもらえるものにしないといけません。例えば川崎フロンターレのリボンは、川崎市7区のルーツからストライプを7 本にしています。
― プロジェクト期間の2か月で、新規来場者が18.4 万人だったと聞きました。
田中: Jリーグの試合の来場者は、熱狂的なコアサポーターがリピートするケースが多く、新しい人を取り込むことが課題でした。一方でハローキティには、女性やお子さんを引き寄せる力があります。そのかけ合わせで新規来場者が増え、グッズも即完売。 もっとつくっておけばよかったという話も出るほどでした。全60クラブが一斉にSNSで発信していただけたことも大きかったです。
キャラクターは、言葉より遠くへ、自然に届く
― 田中さんがキャラクターにこだわる理由は何ですか。
田中: こだわっているつもりはないです(笑)。ただ、キャラクターには、無条件に人を笑顔にする力があると思っています。言葉にすると理屈っぽくなってしまうことも、キャラクターを通すと感覚的に届きますし、国も立場も関係なくキャッチボールできることがあります。
例えば、イギリスのチャールズ国王が日英晩餐会のスピーチでロンドン郊外生まれとされるハローキティの背景に触れながら「50 歳の誕生日おめでとう」とユーモアを交えた祝意を伝えたことがきっかけで、サンリオのロンドンへの恩返しとして大相撲ロンドン公演への協賛に至ったということもありました。
― キャラクターをつくる時に、何を意識していますか。
田中: とくにメソッド的なものはないですが、商品やブランドを中心において発想すること。生活者だけでなく、得意先にも好きになってもらえることは意識しています。BtoB の企業さんにとっても大事なんです。
工事現場や屋外イベントなどで使う発電機メーカー「デンヨー」さんのキャラクターをつくった時は、製品の特徴的な青いカラーや形をキャラクターに落とし込みました。キャラクターを知ることで、生活者が街中に点在する製品が目につきやすくなるんです。「あ、こんなところにもデンヨーの発電機があったんだ!」って。また、社員の方々にとっても会社に愛着を持てるきっかけになります。
賃貸マンションなどの管理・運営を行う「東急住宅リースグループ」さんのインナーブランディングでつくったキャラクターは、社名やロゴはもちろん、事業内容やグループシナジーから、“緑色のシマリス” をキャラクターに落とし込みました。経営・社員の方々を巻き込んだ様々な施策を通して社内の人気者になっています。
― 仕事の軸にある「旗をつくる」という考え方を聞かせてください。
田中: 思えば昔から、国旗が好きでした。国旗の図鑑を見たり、小学校の運動会でも応援もしないで空に吊らされたたくさんの国旗をずっと見ていた記憶があります(笑)。例えばアメリカの国旗“星条旗” は、13 のボーダーが独立時の州の数、50 の星が現在の州の数を示していて、過去(大地)と未来(空)が込められたシンボルと捉えることもできます。キャラクターも、人格が宿ったシンボルです。キャラクターをつくっているというより、旗をつくりたくて、その結果キャラクターを選択することが多いという感覚です。
好きを武器に、愛着をつくる
― クリエイターとして、これからどんなGAME CHANGEを起こしていきたいですか。
田中: 今年から部門長を任されていて思うのですが、まずは 自分の好きを武器にできると、やりがいも出てきますし、「あなただから頼みたい」という仕事が来るようになりますよね。一人ひとりが自分の武器で仕事ができる、ウキウキワクワクするような部門・チームをつくっていけたらいいなと思っています。
「デリ丸。」がいなくてもクルマは走るし、キャラクターがなくてもビジネスは成り立ちます。ですが、人の記憶に残るかどうか、長く好きでいてもらえるかどうかは全然違うと思っています。キャラクターに限らずですが、ブランドに感じてもらえる愛着を、つくり続けていきたいなと思っています。
田中 龍一
クリエイティブセンター センター長
クリエイティブディレクター/アートディレクター