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都市生活者の価値観と消費が変わる「リライフモーメント」とは<前編>

2020.02.28

都市生活研究所において、生活者視点で未来の兆しを捉える研究・プランニングを行う生活者フォーサイト研究ルーム。その研究活動のなかで今回は、都市生活研究所フォーラム2019で発表した「リライフモーメント」について、生活者フォーサイト研究ルームを率いる、ルーム長の小島正子に聞きました。

「リライフモーメント研究」のポイントは、生活者の価値観変化と、その奥底にある潜在欲求が表出される可能性を発見したこと

──さっそくですが、まずは「リライフモーメント」とは何か教えてください。

小島:みなさんも経験のある、いろいろなライフイベントってありますよね。例えば、就職、転職、退職、再就職、同棲、結婚、子の誕生、子の独立…など。そのタイミングに大きな消費のマーケットが存在すること自体はご存じのことかと思います。しかし、私たちが新たに着目したのは、ライフイベントを経験することで、実は生活者の「価値観」自体が大きく変化している、という事実です。さらに価値観の変化というのは、その奥底にある過去からの潜在欲求が表出された結果ではないか、という仮説が生まれました。そうした機会を「リライフモーメント」と名づけ、現在研究を進めています。

これは、研究員それぞれが自身のライフイベント経験を話し合うなかで、「そもそも消費の背景には、生活や人生の価値観そのものの変化があり、それは自分たちの潜在的な願望が、ライフイベントによって引き起こされたからなのでは?」という気づきを得たことが、発想の原点になっています。即物的な消費行動だけに焦点をあてるのではなく、その奥底にある生活者のインサイト自体の変化にも着目することで、新たなマーケティングのヒントを得られるのでは、と感じたわけです。

実際、定量調査で価値観の変化について検証したところ、ライフイベントを経験することで、9割もの人が「自分自身の価値観や消費スタイルが変化した」と回答しました。具体的な変化としては、「自分の生き方や大事にしたいものを考えるようになった」「理想の暮らしについて考えることが増えた」といったことがあげられます。

──単に消費が盛り上がるタイミングということではないわけですね。

小島:そうなんです。ライフイベントで起こる消費というのは、それまでの生活や意識の延長線上でモノやサービスを新調したり新規に購入したりする、という単純な話ではないのです。
ライフイベントを機にいったん立ち止まって「自分が本当にしたい生活や、大事にしたいものは何なのか」を突きつめて考えるというプロセスがあり、その結果として、以前とは変化した消費行動が起こる、というのが実態なのです。「RELIFE」というネーミングは、まさにそうした生活者が生まれ変わるような瞬間を表現しようと考えたものなんです。

マーケットサイズも大きく、価値観の変化もダイナミックな「自宅購入」というリライフモーメントに着目

──ライフイベントによる消費行動だけではなく、その奥底にあるインサイトもセットで分析していくのが、この研究のポイントなんですね。今回は、そんなリライフモーメントのなかでも、「自宅購入」に注目したそうですね。

小島:自宅購入に注目した理由は3つあります。
1つは、さきほどお伝えした「価値観変化」ですね。「自宅の購入」経験者に限ってみると、「自分の生き方や大事にしたいものを考えるようになった」「理想の暮らしについて考えることが増えた」という傾向がさらに強く出ており、消費行動としても「モノ(商品)の選び方や買い方のポイントが変わった」という自覚が高くなっていたので、リライフモーメント研究の第一弾として、非常に分かりやすいタイミングの1つであると考えました。

2つめはマーケットサイズ。下の図は主なライフイベントをピックアップしたものですが、「自宅の購入」は実はメジャーなライフイベントと肩を並べるだけのサイズがあります。昨今の「自宅購入」は、子供の誕生に限らず、金利情勢や老後を見据えた住み替えなど、様々な理由・幅広い世代で起こっていることが背景にあるのでしょう。

□マーケットサイズ

3つめは、“財布の紐のゆるみ度”です。定量調査で各モーメントの「消費意欲の向上度」を調査したところ、「子供の誕生(86.3%)」、「結婚(85.0%)」に次ぎ、「自宅購入(81.4%)」が第3位にランクインしました。

「自宅購入」のリライフモーメントを攻略する、4タイプの価値観・消費変化の傾向

──実際に「自宅購入」というリライフモーメントを経験したご家庭にも、インタビュー調査に行ったと聞きました。

小島:最近首都圏で自宅を購入された2軒のお宅を訪問し、話を伺いました。
事前のアンケートでは、住宅ローンを抱えて節約意識が高まっているといった話が多かったのですが、実際にインタビューを進めると、対象者自身も自分では気づいていなかったインサイトの変化が顕在化し、非常に面白かったです。

例えば、うかがったお宅の1軒からは、自宅購入後に、通販で評判のちょっと贅沢な冷凍食品を買うようになったという話が出てきました。ローンによる節約意識が高まるなかで逆行する消費行動ですが、その理由を掘り下げていくと、自宅購入を機に「夫婦の時間が豊かであることが大事」という価値観が非常に明確になった、という話が出てきたんですね。

また、新しい暮らしによって価値観が顕在化したことで、その先に新たな消費行動が生まれる様子も見られました。例えば「充実した日々や人生を送りたいという願望が顕在化」→「焼き菓子を作るような生活が素敵で憧れていたことを思い出す」→「大型のオーブンレンジの購入を検討」といった感じです。

実際に大きなライフイベントに際して、生活者の価値観が大きく変化したことで、その先の消費も変化し、さらに新たな消費も続いてく様子がリアルに起きていることが確認でき、大変興味深かったです。

──ライフイベントの後も消費が続いていくということは、「リライフモーメント」には、まだまだ企業が攻略できそうな潜在マーケットがありそうですね。このマーケットを攻略するヒントは、何かありますか。

小島:定量調査を因子分析した結果、大きな方向性としては4タイプの価値観・消費変化が確認できました。

□価値観・消費変化

1つめは「家族とのしあわせ重視」で、家庭や家族を中心に置き、日々の満足感や幸福感を高めるような傾向が高くなっています。2つめは「友人・知人など社会積極交流」。1つめとは違って、仕事関係者や友人・知人と楽しい時間を過ごすための消費といった外側へ向かっていく点が特徴的ですね。3つめは「自己のこだわり実現」で、自分の好きなように時間やお金を使い、好みのものに囲まれた暮らしを実現しようとします。最後に4つめは「時間・お金の合理性追求」。シンプルで合理的な生活に向けて消費を行います。これは単に物のない暮らしということではなく、お金で時間を買うような消費や、将来の自己価値を高めるための投資的な消費も含みます。

このように、これまで漠然と想像されていた価値観・消費変化の方向性が、改めて客観的に把握できました。さきほどのインタビュー調査でのヒアリング内容を照らし合わせたところ、こちらもそれぞれの価値観・消費変化の方向は、定量調査結果を裏付けるものになっていました。今後、個々の商品/サービスのマーケティングを考えるうえで、この4つの要素は、新たなヒントになるのではないかと思います。

──具体的なマーケティング活用アイデアや、「自宅購入」以外のライフイベントについても、知りたくなりますね。

小島:そのあたりは、チームに所属する研究員それぞれの「リライフモーメント」体験も踏まえながら、後日<後編>でご紹介したいと思います。


「ライフイベントに伴う価値観と消費スタイル変化に関する調査」概要
■調査手法:インターネット定量調査 ※実査委託先:楽天インサイト
■配信対象:全国に住む20~74歳の男女
■サンプル数:3000人 ※人口構成比にあわせてウエイトをかけた2998人で集計
■分析対象:最近1年以内のライフイベント経験者(846人)
■調査期間:2019年11月


小島 正子

都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム ルーム長

2005年読売広告社入社。ストラテジックプランニング局やR&D局を経て、現在は生活者研究を主務とする。プランナーとしては、食品・飲料メーカーを中心に担当。この数年は生活者研究のほか、リクルート活動支援のためのオリジナルプロジェクトも主導しており、新卒学生採用のための企業コミュニケーション戦略にも詳しい。