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新しい体験型マーケティング ―都市の「生活者モード」抽出によるプランニング手法―

2020.03.05

日本の都市はいま、大きな環境変化にさらされています。少子・高齢化や未婚率の上昇などによる世界最先端の人口減少で、都市の活動を担う総体が縮小。AmazonやNETFLIX、UBER EATSなど、自宅にいながらにして快適に過ごせるサービスの台頭。個人・法人の移動がグローバル化することで、日本から海外の都市へワーカーが流出するなど、日本の都市に人を集めることがより難しい時代になってきていると考えられます。
そんな「集客戦国時代」を見据えると、これまでの都市集客の考え方や手法では立ち行かなくなるのでは?という思いから、私たちは都市の集客やそのための体験価値づくりの新しいプランニング手法を体系化する研究に取り組みはじめました。

都市にはその都市ならではのインサイト(潜在ニーズ)が存在する

私たちは、まず都市の洞察を深めるための独自調査で、首都圏の53都市についての特性を調べました。その結果、その都市ごとに中心となる特徴的な生活シーンや気分が異なる、ということが分かりました。例えば、大手町なら「勤務中」で「緊張している」、渋谷なら「友人・恋人と外出」で「のびのび・自由・充実している」といったように。このように都市ごとに特徴的な生活シーンや気分が異なるということは、その奥に眠っている生活者のインサイト(潜在ニーズ)も異なるはずで、その都市ならではの生活者の動かし方が存在すると考えました。

【都市の「生活者モード」】という新しい概念を取り入れることでより効果的に生活者を動かすことができる

さらに、都市ならではの特徴的なインサイトについて、株式会社博報堂DYホールディングスのグループ横断型組織「デジタルロケーションメディア・ビジネスセンター」が定義した新しいインサイトの概念:「生活者モード」を取り入れることで、より効果的に生活者を動かせるプランニング手法の実現を目指しました。

これまでは、ターゲットの興味関心や価値観など静的な特徴(ペルソナ)に着目してインサイトを考えていましたが、そのインサイトの状況が24時間続くわけではありません。例えばコーラ好きだからといって、朝の満員電車に揺られているときにコーラは飲めませんし、コーラ文脈の情報を欲しいとは思わないでしょう。逆に仕事の合間の疲れたタイミングにコーラ文脈の情報に触れれば、コーラを飲みたいと思ってくれる可能性は高いはずです。このように生活シーンや気分に代表される、その生活者が置かれている「状況」までも踏まえてインサイトを考えていくのが「生活者モード」の概念であり、従来より効果的に生活者を動かせる考え方であるため、この概念を都市ならではのインサイト抽出にあたって応用できないか、と思い至ったわけです。

そこで私たちは、ひとつの都市をひとりの生活者のように捉えて考えてみることにしました。ひとつの都市には、様々な生活シーンや気分が混在しているわけですが、その中で、最もその都市らしい特徴が存在することはすでに述べました。ということは、都市にはその最も特徴的な「状況(生活シーン&気分)」に内包される特徴的なインサイト:「生活者モード」が存在すると考えたのです。私たちは、その都市に眠る最も特徴的なインサイトのことを、【都市の「生活者モード」】として定義し、都市において生活者を動かす様々なマーケティング活動において、この要素を抽出して、捕えることが重要だと考え、新しいプランニング手法として体系化することを試みました。

人のことは深く洞察するのに、意外に都市のことは深く洞察されていない?!

一般的に、都市における体験型の施策をプランニングするにあたって、その都市の実態を深く診てプランニングされていることは、意外に少ないのではないかと感じています。例えば、都市における体験装置づくりの際に、こんな議論は結構あるのではないでしょうか。

しかし、この議論には結構落とし穴があるように思えます。都市ごとに特徴的な「生活者モード」が異なるとすると、新宿と梅田が同じ施策で大丈夫なのか。渋谷は最近100年に一度の開発で「大人化」していると言われるのに、単純に若者の都市と捉えて良いのか。銀座は訪日客の割合が増えているのに、オシャレな大人の都市と捉えて大丈夫なのか、などキリがありません。つまり、従来の思い込みや感覚だけでプランニングを進めてしまうのは、ちょっと危険ではないかと考えています。また昨今のマーケティングでは、パーソナライズやOne to oneがキーワードになっていますが、都市における体験型のマーケティング活動においても、その都市ごとにパーソナライズして考える必要があるのでは、と思います。

新しいプランニング手法のキーは解像度の高い都市の診断

私たちは「都市は生き物のように変化する」と考えています。まさに現在の渋谷は、その真っ只中です。だからこそ、感覚的ではない実証的なプランニングによって、その都市の持つ本当の姿を浮き彫りにする必要があると思います。そのために、都市生活研究所が長年蓄積してきた知見を活かしながら、新たなリソースとして「都市生活データ」を活用することで、解像度の高い都市の診断を起点にした、データドリブン型のプランニングが可能になると思っています。

3つのプランニングステップと都市の診断書:「都市カルテ」

具体的には、解像度の高い都市の診断を起点に、3つのステップによるプランニング手法として体系化しました。
また、①都市の診断 ~ ②都市の「生活者モード」の抽出までをまとめたものを、都市の診断書:「都市カルテ」として、プランニングに活用します。

この新しい手法により、都市における様々なマーケティング活動、都市そのものの開発や施設開発、都市における体験装置開発やメディア開発、そしてプロモーション開発まで、都市を舞台に生活者を動かす活動すべてをサポートしていきたいと考えています。

次回は、具体的にどのようなプランニングができるのか?をご理解いただくために、私たちが保有している都市生活データと、そのデータを活用することで、思い込みや感覚では見えてこない本当の都市の姿を浮き彫りにした都市の診断事例をご紹介させていただきたいと思います。どうぞご期待ください。

伊藤 雄大

データドリブンプランニング局 第1プランニングルーム ルーム長

シニアストラテジックプランニングディレクター

1975年鹿児島県生まれ。1999年読売広告社入社。中長期的なブランド育成・管理から短期的な集客/販促戦略の構築まで生活者視点でのニュートラルな戦略プランニングを核にソリューション開発・効果にまで責任を持つ。博報堂DYホールディングスのグループ横断型組織「デジタルロケーションメディア・ビジネスセンター」の構成メンバーでもあり「生活者モード」の開発案件にも従事。