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今こそ知ってほしい!日本ミレニアルの消費のツボ

2020.03.16

JAPAN ミレニアルズ ―今こそ知ってほしい!日本ミレニアルの消費のツボ―

近年、世界全体で注目されているミレニアル世代(1981年~1996年生まれ [出典:米国シンクタンク「Pew Research Center」の発表])。かつては“新しい若者像”として取り上げられてきましたが、そんなミレニアルもいまや社会人となり、家庭を持つ人も増え、様々な消費を牽引する中核層になりつつあります。
しかしながら一般的に、ミレニアルは「消費に興味がない世代」とも言われ、バブル後の金融危機などを経験してきた時代背景から、上の世代よりも消費を控える意識が強いとされています。果たして、育った時代背景だけが理由なのでしょうか。私たちは、同じミレニアル世代の立場として、今を生きる彼らの思考はそう単純なことではない気がします。
そこで今回、ミレニアルの意識調査をベースに(図1)、ミレニアル世代のマーケターが、「今」のリアルなミレニアルの“消費”について紐解いていきたいと思います。

► 図1

|ミレニアルの消費を紐解くカギ:実は「保存」に落とし穴があった

消費を紐解くにあたって着目したのが、「保存」。最近ではSNSマーケティング等でも「保存」は注目されていますが、ミレニアルを中心に、「いいね」や「スクリーンショット」、「ブックマーク」などを駆使して、とにかく興味を持った情報はとりあえず保存するようになっています。つまり、カスタマージャーニーに変化が起きているということです。

しかし一方で、保存しただけで満足しており、保存した情報をちゃんと見返す人は1割にも満たないという実態があらわになっています(図2・3)。日々大量の情報の中で生き抜くうちに、「保存」することを無意識にゴール化してしまっている可能性すらあるわけです。

► 図2

► 図3

これは、すごく厄介な現象だと思いました。たとえば広告施策のKPIを決める際に「興味醸成」や「エンゲージメント」をウォッチすべき指標として設定することがしばしばありますが(図4)、たとえ興味の指標が上がったとしても、それはもしかすると「保存」の落とし穴に陥っているだけかもしれない― せっかく心を込めて情報設計をしていても、落とし穴に陥っていたらもったいないですよね。だからこそ、「即行動化」がミレニアル攻略のポイントになると考えます。(図5)

► 図4

► 図5

では、どうすれば即行動化につなげることができるのか。そのヒントとなるミレニアルの3つの習性と、その習性を利用した動かし方のTIPSをご紹介したいと思います。

|ミレニアルの習性1:「知ったつもりになりやすい」

デジタル・ネイティブと呼ばれるだけあって、ミレニアルは多感な時期をSNSとともに過ごしてきました。これが意味するところは何か。それは、「既読(LINEなど)」や「足跡(mixiなど)」といった、情報を開くと「済」マークがつく環境で育ってきたということです。すると無意識のうちに、内容を読むことよりも、情報を開封することが目的化し、たとえばニュースも見出しをタップしただけで、知ったつもりになってしまう。

ただ、実は知ったつもりになりやすいミレニアルだからこそ、“自分の思い込みを覆すようなギャップ”には弱いのです(図6)。実際にデータを見ていて興味深かったのは、ミレニアルのおよそ2人に1人が、「先入観や思い込みを壊されることは嫌いじゃない」と思っていること。自分の「知ったつもり」を“破壊してほしい”ニーズすら垣間見えます。

► 図6

|ミレニアルの習性2:「情報を取捨選択するスピードが速い」

かなりのスピードでいくつものタイムラインを渡り歩くミレ二アルは、サーッとスマホで流し見するその“一瞬”で、「この情報は自分に必要か、不要か」を判断しています。つまり、情報を提供する立場からすると、この一瞬の中で「自分に必要な情報だ」と思わせなければならない、というわけです。

その“一瞬”で即行動化へと後押しするカギとなるのが、自分自身を投影できる、「入り込めるリアリティ」のある情報です。実際、既に様々なブランドやメディアが、「入り込めるリアリティ」を意識した商品の見せ方へシフトしていますね。たとえばファッションブランドは、首から上を写さない(=自分を投影しやすい)見せ方のものが増えていますし、モデルで魅力的に見せる・ブランドの世界観を“作り込む”といった見せ方から変化しつつあるのを感じることができます(図7)。

► 図7

|ミレニアルの習性3:「何事も確認して安心したがる」

ミレ二アルには、“王道”が存在しません。その背景には、2つの環境要因があると考えられます。
ひとつは、バブル崩壊後の世の中で幼少期を過ごしたということ。それまで当たり前とされてきた価値観のものさしが消滅し、「この道を行けば正解」というものもありませんでした。
もうひとつは、ゆとり教育。「個性重視」「絶対評価」という教育方針のもとで、みんながそれぞれ自分の個性を探し求めるようになったことで、分かりやすいロールモデルも“共通の普通”もない―そのような環境で育ってきました。

“共通の普通”がないからこそ、自分の行動や立ち位置を都度確認して安心したい、そういう気持ちが生まれてきます。ミレ二アルが仕事でフィードバックを頻繁に求めるのも、「自己肯定感」がある種のバズワードになっていることも、このような思いのあらわれなのではないでしょうか。

ただ、これは決して“ミレ二アル=消極的”・“臆病”というわけではないのです。

「プレ花」「卒花」というワードをご存知でしょうか。最近ミレ二アルを中心に、結婚式の前後の期間を「#プレ花」「#卒花」と名付け、「そのタイミングに何をすれば安心か」を確認し合う現象が生まれています。
たとえば「#プレ花」では、自分の準備が間違いないか、遅れていないかを確認し、「#卒花」では結婚式が終わったあとの過ごし方を確認しているようです。
ここで興味深いのは、最初は安心を求めて投稿・コメントし合っていたはずが、いつの間にか「#花嫁DIY」や「#水引きアート」、「#卒花ヘアカット」といったハッシュタグが生まれ、確認作業を積極的に楽しみ、そのために消費活動もし、そこにマーケットすら生まれている

実はこの現象は、結婚式に限ったことではありません。たとえば最近では「#育休復帰」「#パタニティ」「#副業女子」など、迷いやすい/悩みやすいモーメントがハッシュタグ化されています。
このように、これまで顕在化されていなかった“悩みモーメント”を、名付けたりキーワード化する=フラグを立てて顕在化させると、潜在的にニーズを持つミレ二アルが自ずと動き出し、消費もするし、そこに新たなマーケットが生まれる可能性もある。そのように捉えてみると、ミレ二アルを起点に新市場を創出できる兆しも見えてくるかもしれません(図8)。

► 図8

|近い将来、日本全体がミレ二アル的価値観に。

あらためて3つのTIPSをまとめたものが下図になります(図9)。

► 図9

ここでは3つの習性をご紹介しましたが、商材のカテゴリやブランドによって、使える習性は変わってきますし、そのカテゴリならではの特性もあると思います。

また、ここでご紹介したミレ二アルの特性は、決してミレ二アル世代に限ったことではないと考えています。ミレ二アルはこれから様々なライフステージの変化を経験し、社会の中核層となり、上の世代にも下の世代にも影響を与えることでしょう。既に、上の世代の方の中にもミレ二アル的な習性・価値観を持つ人もいますし、下の世代は今Z世代と呼ばれて注目されていますが、まさにミレ二アルの習性がより成熟した形で表れていると感じます。
ミレ二アル世代の分析を、単に一世代の分析ではなく、日本のそう遠くない未来の姿の片鱗として捉えていただければ嬉しいです。

小関 美南

都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2016年読売広告社入社。
ストラテジックプランナーとして、自動車メーカー、コンプレックス商材、女性向け商材など、様々なカテゴリの新商品開発・戦略プランニングなどに携わる。2019年より都市生活研究所に在籍。認知科学の研究視点を活かし、身体とその周辺に潜むささやかな物事を拾い集めながら、メタ認知する日々。