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次世代サードプレイス・ラボVol.6 〜注目のサードプレイスの現場から〜
個人運営だからこそ気づいた、サードプレイスのあり方
「ふかさわの台所」

2020.04.27

はじめに

次世代サードプレイス・ラボの連載レポートも6回目を迎えることとなりました。
ここまでのレポートでは、都市の新しい場のあり方を切り拓く「仕掛け人」の方々と議論を繰り広げることで、都市と生活者の関係がどう変化しつつあるのか?これからの時代には、どんな視点が必要になるのか?を読み解いてきました。
「混ざり合う場」「空間と空間の『あいだ』に生まれる可能性」「余白と補助線」などの論点に加え、これからのサードプレイスに必要な視点として竣工して終わり…ではない、「運営の重要性」というテーマも浮上しました。

そこで今回、われわれは“注目すべき、新たな公共の場”について、実際に現場へ足を運び設計者やオーナー/運営者のみなさんに取材を行うフィールドワークを実施しました。竣工・オープンしてから1年程度を経過したサードプレイスの現場で、いま何が起こっているのか?!関わる方々の熱い想いとリアルな場の姿を、新シリーズとしてレポートしてゆきます。

□■場の概要

新シリーズの初回は、世田谷区にある「ふかさわの台所」。区長のあるひとことをキッカケに、主宰する成見さんが深い思いと共に立ち上げた「個人運営の公民館」ともいえるような、まさに新しいスタイルのサードプレイスといえる事例として取り上げた。

平成29年度世田谷区空き家等地域貢献活用助成事業により、築約50年になる2階建ての一軒家をリノベーション。「おでかけひろば すぷーん」(NPO法人せたがや子育てネット運営)をはじめ、地域交流スペースとしての活用を進めている。

  • 施設名|ふかさわの台所

  • 所在地|158-0081 東京都世田谷区深沢2-15-3

  • 2018年4月オープン。

□■お話を伺った方

「ふかさわの台所」主宰  成見 敏晃さん

1977年京都生まれ。建築家。一児の父。
夫婦共働きで、奥様は出版社勤務。
子育てを機に、「ふかさわの台所」を設立し、運営している。

□■現地の様子

最寄り駅からしばらくバスに揺られて「深沢一丁目」のバス停を下りる。
そこから少し歩いて閑静な住宅地を奥に入ると、2階建ての一軒家が。

ここが「ふかさわの台所」。
まるでお友達のおうちに遊びに行くような気分。ウッドデッキが目を引く。

玄関の引き戸を開けると、目に留まるのはたくさんの「お知らせ」。
子育て関係のイベントやセミナーの案内が、ところ狭しと並んでいる。

ダイニングの一角には、子どもの遊び道具がいっぱい。
大きな窓に囲まれて、外の空気を感じながらめいっぱい遊べそうだ。

「こんにちは~」と中へ入っていくと、台所に立つ成見さんが。

台所は明るくきれいで、まさしく“台所が主役”なおうちといった感じ。
この日は、成見さんが研究会メンバーのためにおいしいコーヒーを淹れてくださった。

1階の、カーテンに隠された階段を上っていくとそこは…

階段を上って左側が書斎スペース。
普段、成見さんもこちらでお仕事をされていることが多いそう。コワーキングスペースとして利用することもでき、この日は取材中に大学生が利用していた。古民家ならではの穏やかな空気の中で、作業に没頭できそうだ。

階段を上って右側には、大きなテーブルのあるスペース。
上記の書斎スペースともつながっていて、自由に行き来ができる構造。ここで打ち合わせをすることもあるそう。窓からちょうど玄関の木が見えて、思わず深呼吸したくなる。

□■成見さんへインタビュー

|きっかけは、世のため・地域のためではなく、個人的な欲求だった

成見さんご夫妻は共働き。子どもが生まれる前は、深夜まで仕事に没頭し、終電で帰るのが日常。これが2人のワークライフバランスだった。
しかし子どもという“効率とはかけ離れた存在”を前に、そのバランスは崩れた。実家が遠く、頼れる人が近くにいない状況で、ストレスがたまる一方だったという。

そんなときに出会ったのが、世田谷区の保坂展人区長が主催する「世田谷をみんなでDIYしよう」というWSに参加したときの「観客からプレイヤーへ」という区長からの呼びかけと発想
これが、「ふかさわの台所」の発想の契機だった。

だれかがどうにかしてくれるのを待つしかないと思っていた。でも、自分が“あったらいいな”と思うことは、やってみればいいんだと。
僕の場合、両親は近くにいないけど、「家族のように親しい人」が近所にいたら解決するんじゃないか。その発想でここが始まりました。地域のためとか世の中のためではなくて、自分の小さい頃にあった、ご近所さんと気軽に声を掛け合えるような関係性を作りたかったんです

実際、ここを介して新しい関係性が生まれ、子どもを「預かるよ~」と言ってくれる人が何人もいた。ベビーシッターサービスではなく、その方々にお願いすることも増えたそうだ。

|肩書きや属性にとらわれない「協働機会」が心地よい結びつきを生む

新しい関係性が生まれたきっかけはなんだったのだろうか。成見さんはふと思い出したように、ハイネケンのCM「Open your world」を例に出しながら、「協働機会」が要だったのではないか、と話す。

人って、まず話して、話が合うか確認して、かかわるかどうかを決めてしまうところがある。それだと、自分と合う人ばかり集まってしまって、異なる考え方を知る機会を失ってしまう。でも、なにか作業を共にすることで一旦仲良くなれば、たとえ考え方が違っても、その違いに向き合いやすくなる
ここに来る人の中にも、考え方が違うと思う人はたくさんいる。でも、一緒に料理やDIYをしたから、話せる。そうやって、以前だったら出会ってなかったような人とも仲良くなれました。

肩書きや属性から入ると、相手が何者かを分かった気になれるけれど、そのせいで折り合いが悪くなることもある。
でも、自己紹介なくかかわり始めることのできる、料理やDIYのような“共働する機会”が入り口になることで、本当はもっと結びつきを生むことができるのだ。
思い返せば “サードプレイス”とは、属性や役割を脱いで、そのままで居られる場所。「ふかさわの台所」は、まさにそれを体現しているというわけだ。

|個人運営だからこそ辿り着いた、“コスパ・効率” ではない、本能的な欲求への回帰

思いもよらない新しい・心地よい結びつきを生み出した「ふかさわの台所」。でも、もしこれが行政や企業の取組みだったら、“心地よい結びつき”は生まれなかったのではないか。

子どもを預けることもそうですが、最近はあらゆるもの―思いやりすらも―がビジネスやサービスになってきて、何もかも“消費”の対象になっているように思います。
発端は“思いやり”でも、「サービス化」すると効率化へ向かうんですよね。
サービスは、提供する側も根底ではビジネス(=マネタイズ)を考えているし、一方で消費する側も、効率を求めるから対価を払って利用するわけで。つまりサービスを研ぎ澄ませるほど効率化へ向かっていく。
でも、ふかさわの台所はそうではないところを試している段階です。僕にとってここは、ワークでもライフでもない。ワークとライフの間にここがある感覚です。
もしこれがビジネスなら、きっとレンタルスタジオやカフェにしたほうが効率がいいし、
ぱっと見は“コミュニティができている”ように見えるかもしれない。でも、子どもを預けられるほどの深い関係性はつくれないんじゃないかなと思うんです。

「僕は効率の悪いことをしているのかもしれませんね(笑) 」と笑いながらも、「効率がいい」とされるものは、あくまで「短期視点」であり、もっと長期的に見たら、深い関係性が生まれることのほうが効率がいいのかもしれない、と成見さんは語る。
マネタイズを目的とせず、成見さんご自身の“パーソナルな欲求”で動いている=効率とは別の部分(ここでは“パーソナルな欲求”)が運営のエンジンになっていることが、行政や企業の取組みとの一番の違いなのだろう。

ここがプラットフォームとなってみんなに使われて、場が育つといいなと思っています。
でも、運営者の僕も、利用者・使い手の一人でもあるという立場でいたい。僕はこう使う、というのを見た人が、それなら私たちはこう使おうかな、と使い方を生み出していくような。

ふかさわの台所の運営の根幹にあるのは、やはり成見さんの人柄であり、成見さんへの信頼がベースとなって、様々な糸がつながり交じり合っている。
“契約”をベースとした運営ではなく、運営者の顔が見え、その人の信頼でつながっていく“信頼”をベースとした運営こそ、ここを有機的に動かす原動力だ。

□■まとめ

ふかさわの台所は、行政や企業のかかえる“事情”にとらわれない、人間の根源的な欲求に一番近づいたモデルといえるかもしれない。
利便性を追求することで進化を遂げてきた社会の中で、ビジネスとしての成功(=投資対効果)を優先するあまり(下図左側)こぼれ落ちてしまったものは数多ある。
しかし、そんな“ビジネスにならない”と淘汰されてしまったこと(下図右側)を取り戻そうとする動きが今、起こっている。“心地よさは利便性だけでは生まれない”ということに気づき始めたのだ。
そんな“場のあり方”の変わり目の中で、ビジネスを考える上でも、ここに見られる“エッセンス”を取り入れることが求められるだろう。

たとえば、場や資金は行政/企業が提供、運営は成見さんのような“個人的な欲求を持つ人”が行う、という形も、場づくりのひとつのスタイルとして、今後増えてもいいのでは?

編集後記

窓を開け、穏やかな風を感じ、鳥のさえずりが聞こえる中での取材。思わず“仕事モード”という鎧を脱いでしまいそうになる。
こちらの質問の意図を確かめながら、じっと考え、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく成見さん。あらかじめ用意されていた流暢な言葉ではない、その場で紡がれた生身の言葉によって、その場にいる全員が深淵な問いへ没入していく― 実に豊かな時間だった。
あらためて生活を見つめると、効率化によって淘汰されたことへの息苦しさがそこここに蔓延していることに気づく。
システム化されると、余白や“一見”無駄に見える部分が淘汰されていく。システムは役割を与え、分断するものだから、役割以上のことは“私の責任の範疇”ではなくなる。これでは「子ども、預かるよ~」なんていう会話は出てこなかっただろう。
一方、システム化されていないと、動く余白ができる。親切心やおせっかいは、役割という概念を超越しているからこそ生まれるわけ 「ふかさわの台所」はまさにそういう場なのだ。
そこに居合わせた人たちが偶発的に生み出す様々な可能性に身をまかせる。そんな試みが、ふかさわの穏やかな空気の中で、実を結び始めている。

小関 美南

都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2016年読売広告社入社。
ストラテジックプランナーとして、自動車メーカー、コンプレックス商材、女性向け商材など、様々なカテゴリの新商品開発・戦略プランニングなどに携わる。2019年より都市生活研究所に在籍。2019年度「都市生活研究所フォーラム」にて「ジャパン・ミレ二アルズ <今こそ知ってほしい!日本ミレ二アルの消費のツボ>」を発表。
認知科学の研究視点を活かし、身体とその周辺に潜むささやかな物事を拾い集めながら、メタ認知する日々。