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Civic Pride ~欧州のシビックプライド事例にみる都市と生活者の潮流~

2020.12.09

2020年11月19日(木)のリアル開催と、11月24日(火)~27日(金)のオンライン配信で開催された「YOMIKO都市生活研究所フォーラム2020」。そのオープニングスピーチのテーマである「欧州のシビックプライド事例にみる都市と生活者の潮流」について、都市生活研究所所長の水本 宏毅に話を聞きました。

シビックプライドとは、生活者の能動性・主体性を引き出すためのコミュニケーションの研究

──フォーラムのオープニングスピーチで、「シビックプライド」をテーマに選んだ理由をお聞かせください。

水本:「シビックプライド」は、市民がまち(都市)に対して持つ愛着や誇りのことで、「まちを良くしたい、自分はまちの一員なんだ」という「当事者意識に基づく自負心」のことだと、シビックプライド研究会では定義しています。「シビックプライド研究」とは、活力のある都市づくりのための研究に止まらず、生活者の能動性・主体性を引き出すための取り組みに関する「コミュニケーションデザインの研究」だと私は考えています。インターネットやSNSが隅々に行き渡り、情報との関わり方が多様化している現代では、発信した情報を生活者が受け取り、能動的に関与してもらうのは簡単ではありません。その意味では、シビックプライドの研究は、都市づくりとは関係のない一般の企業においても、生活者とのコミュニケーションデザインを考えるうえでの参考になると思い、今回のテーマに選びました。

──欧州のシビックプライド事例として、デンマークの都市を挙げていましたが、デンマークに注目した理由はなんでしょうか。

水本:シビックプライド研究会メンバーとして、デンマーク、イタリア、フランスの都市を視察・取材してきた際に、世界幸福度ランキングで常に上位に位置付けられているデンマークの都市デザインや社会課題への取組みに感銘を受けたのが、その理由です。
環境問題や格差問題、生活者の多様性、政府との信頼関係に基づくスマートシティへの取組み、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を重視したライフスタイルなど、これからの日本が参考にすべきヒントがたくさん詰まっていると感じています。

環境への負荷を低減し、多様性を受け入れ、人のアクティビティに寄り添う“ヒューマンコンシャスな都市デザイン”がこれからの都市の主流

コミュニティの再生を目的に、多様な住民の声を反映した世界のストリートファニチャーを設置した公園「スーパーキーレン」。写真は黒の広場にある「日本のタコの滑り台」

──デンマークの「都市デザイン」に感銘を受けたとのことですが、具体的にどのような点なのでしょうか。

水本:デンマークの首都コペンハーゲンで、1960年代に整備された、全長1.2㎞に渡る歩行者空間「ストロイエ」を、滞在中、何度も歩いたのですが、毎日、とても賑わっていました。音楽を演奏したり、ゆっくりとショッピングを楽しんだり、ウォーカブルなまちの価値を改めて感じました。
また、2025年までにカーボン・ニュートラルにするという環境政策の一環として利用を後押ししている自転車を使って街なかを走ったのですが、地形が平坦なのと、自転車専用道路を整備しているので、とても快適に回れました。自転車は行動範囲が広く、気になる所があれば、すぐに立ち寄れるので、都市との近さを感じます。自転車を使って、「スーパーキーレン」という、世界各国の遊具が置いてあり、多民族共生の象徴となっている公園や、1960年代後半のヒッピー文化を思わせる、住民独自のルールで運営されている政府公認の自治区「クリスチャニア」も回りましたが、市民がそれぞれに、思い思いに都市を楽しんでいました。

デンマーク第二の都市オーフスでは、生活者との関係性を深めるプログラムデザインがシビックプライドを醸成している

オーフス「欧州文化首都2017」をきっかけに結成されたボランティア集団「ReThinker」。港湾倉庫をリノベーションした「GeLinde」を活動拠点として、オーフスを愛する市民が主体的にボランティア活動を行っている。

──シビックプライド研究とは、「生活者の能動性・主体性を引き出すためのコミュニケーションデザインの研究」との事でしたが、デンマークではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

水本:ユトランド半島東部のデンマーク第二の港湾都市オーフスで、「ReThinker」というオーフスを訪れる観光客の案内やイベントの運営をサポートするボランティア組織を取材したのですが、この組織への参加を促し、主体性を引き出すプログラムが秀逸でした。
「ReThinker」を運営するボランティア・マネージャーのウラ・ルンド氏は、市民参加を促す三要素として「アイデンティティ」、「コミュニティ」、「動機づけ」を挙げてましたが、まさに三要素を活かしたプログラムデザインが行われていました。
また、オーフスには、「DOKK1」という「Public Library of the Year 2016」に選出された施設があります。この施設は、市民と一緒にビジョンの策定やプロジェクト管理の検討を行うプロセスをデザインしながら10年かけて完成させています。ここでも、市民の能動性を引き出す取り組みが行われていました。

──最後に、これらデンマークの事例から、日本の「都市」と「生活者」が参考にすべき点を教えてください。

水本:日本でも若い世代を中心に、デンマークをはじめ、北欧諸国が先行して取り組んできた、環境問題やジェンダー、社会格差などのSDGsに対する意識や、ソーシャルグッド、ウェルビーイングと言った価値観が広がっています。デンマークと日本では、社会システムの成り立ちや地理的な環境が異なるので、デンマークの事例をそのまま真似をするのは難しい部分もあると思いますが、ヒューマンコンシャスな都市デザインや生活者との関係性を深めるコミュニケーションデザインは、今後、日本でも参考にすべき視点ではないかと感じています。

※ 「シビックプライド/CivicPride」は、株式会社読売広告社の登録商標です。 

水本 宏毅

都市生活研究所 所長

1990年読売広告社入社。営業職として大手不動産クライアントの再開発事業や住宅プロモーション業務に携わったのち、営業戦略推進部長、経営企画局長を経て、2016年に都市生活研究所所長に就任。「シビックプライド研究会」や再生都市研究「都市ラボ」など、都市と生活者研究を通じて、企業や自治体のプロモーション業務に取り組む。
著書(共著)「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(2019年 東京法令出版)