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2021.01.20
都市生活研究所 都市インサイト研究ルームでは、都市や地域、場、空間のあり方を通して見た独自の視点で、生活者の未来の兆しを見つめています。今回はそうした研究のひとつとして、「場」を起点とした関係性変化や、関係性構築のデザインについて、前編・後編の2回シリーズでご紹介していきたいと思います。
まず、関係性のデザインを考える理由としては、社会構造の大きな変化があります。
第四次産業革命、少子高齢化、そしてニューノーマル対応など、中にはこの変革期を令和維新と呼んでいる方もいるなど、この構造変化による、都市/生活者/モノ・コト・情報とのつながり方の変化を皆さんも感じているのではないでしょうか。
例えば、生活者変化としては、情報との関係性も受け取る側から、受発信する側へと変化しています。また生活者と企業の接点でみると、かつての瞬間的な購買といった一時的な「点」での関係性から、サブスプリクションなど中長期的な「線」での関係性へと変化が起きています。
そこで私たちは、こうした関係性の変化、そしてその再構築、「場や空間」のあり方からデザインする、という新しい可能性に着目して研究を進めています。
従来「場」というのは、生活者ニーズから生まれる、というイメージがあります。
近年増え続けているコワーキングスペースを例にすると、「働き方のニーズがまず変わり、コワーキングスペースが誕生した」といった流れをイメージするのではないでしょうか。生活者ニーズの先に、「場」の変化が呼応する形で起きている、そういったイメージです。
一方、世界に目を向けてみると、場・空間を使って関係性の変化を“戦略的に生み出す”流れが加速しています。
都市の成長戦略のひとつとして「場」を積極的に使っていく、「場を起点」として変化を引き出し、都市や生活者のライフスタイルをアップデートしていくという考えです。
ニューヨークのハイライン:廃線を広場へと変えた、鉄道高架橋の「遊歩道化」プロジェクトで、この場を起点に、新しいライフスタイルやビジネスが生まれている。
これらが潮流となっているということは、「場」を起点に「新しい関係性」をデザインするヒントがたくさんあるのではないでしょうか。私たちは、これからの新しい関係性やイノベーションを考えるのに、「場」は最高のフィールドであると感じています。
成長戦略のミッションを持つ「場」の多くは、複合的な課題を抱え、課題解決型の場づくりが求められています。だからこそ、私たちは「場の担い手や仕掛け人」にも着目しています。
例えば、「新しいライフスタイルやビジネスを生み出す」場の担い手や仕掛け人を代表する存在として、新しい職域の建築家が世界的に注目されています。こういった方々は、(従来通りに)街のランドマークとなるようなデザインをつくることだけでなく、街の求心力・経年価値につながるような人々の関係性の構築をデザインしたり、情報デザインからワークショップの企画や運営まで、関係性の再構築を推進させるデザインにも取り組んでいるのです。
デンマーク・オーフスのDokk1(公共図書館/文化センター):形としてランドマークになるだけでなく、活動・アクティビティが戦略的にデザインされ、公共建築というよりも「生活インフラ化」され、市民に愛される場所に。ここでは場起点での人々の関係性の構築が生まれている。
写真提供:Schmidt Hammer Lassen Architects
変容する生活者と向き合う「場の担い手」は、社会における新たな関係性を次々と生み出す触媒ともいえる存在です。
私たちは、生活の器とされる「街や建築」に対し、瞬間的なデザインではなく、本質的な関係性デザインの構築を模索している人を、「建築家」というより「イノベーションデザイナー」として注目しています。
そこで私たちが共感するのが、建築事務所オンデザイン代表の西田さんが掲げるコンセプト=「ビヨンドアーキテクチュア」です。
西田さんは、ご自身のデザイン環境を俯瞰し、建築物を作ることは圧倒的な「善」な時代ではなく、建てる意味をまず問う時代であると言います。西田さんが手掛けるデザインは、運営のデザイン・仕組みのデザインなど多岐に亘り、10 年以上前からいち早く「建物を設計するだけが建築ではない」というスタンスで職域を拡げていているのですが、私たちは、そこに生まれている新しい関係性デザインに着目しているのです。そして今年度から、都市生活研究所とオンデザイン、東京理科大学の西田研究室で共同研究をスタートしました。
西田 司 Osamu Nishida
建築家
設計事務所オンデザイン代表。グッドデザイン賞審査員、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授。
場から新しい生活提案/コミュニケーションデザインを行う、カルチャーリーダーともいえる存在。
時代を見据えた、新しい生活・新しい関係性をデザインし、社会と生活の変革に取り組む建築家。
30代で日本建築界最高峰の新人賞を獲得し、その後も世界最大の建築祭典で、特別表彰を共同受賞。
個人邸から、街づくりプロジェクトなど、様々なスケールのプロジェクトで新しい文化を生み出している。
西田さんとの会話では、「社会」「カルチャー」「人々の暮らし」という言葉が多く、ハード的な建築物だけがデザイン領域ではないことを肌で感じることができます。西田さんの手掛ける建築は、建築をつくることが目的ではなく、目的に対して建築の手段をどう使うか、何をデザインするかという課題解決デザインが設計領域となっています。
また、西田さんの事務所では、2017 年より「BEYOND ARCHITECTURE」というオウンドメディアをスタートしています。いち建築事務所がオウンドメディアをスタートし、高頻度で記事を更新しているのは、とても珍しい取り組みでもありますが、このサイトを介した「メッセージ」も、ビヨンドアーキテクチュアそのものではないかと感じています。
△ビヨンドアーキテクチュア概念図
△西田さんの事務所のwebメディア https://beyondarchitecture.jp/
西田さんは、(人口が減っていく中で)建築は作り・増やす場ではなく、「働き方、生き方から都市や建築を考える」という発想に着目しているそうです。そんな中、いま一番刺激を受けている「場」は、世界の「広場」的空間だと言います。ポストコロナ時代には、自分の生活圏の「広場」がより重視されるだろうと実感を伴った予測もされています。
ニューヨークのブライアントパーク:思い思い座ることのできる芝生広場と可動椅子が、この街の日常を形作っている。街の風景に生活者の個性的で多様な価値観が色濃く反映されている。
都市計画家ヤンゲールの名言でもある、「私たちが街をつくり、街が私たちをつくる」という言葉を例に出しながら、西田さんは、広場が受け皿となる「住民発」「オーナーシップ」の重要性についても話しています。
今までつくられた街というのが、そのままあるということではなく、
自分たちの街の使い方を考える。 使い方が反映されることで、
その結果、街から学びや出会い・新しい時間が動き出すのではないか。
これからは(街の中でも)
“自分”を反映しやすい「広場」がさらに大きな価値を持つようになってくる。
こういった広場が都市の中にあると、住民は街を、自身のリビングのように使いこなしていく。
世界的に注目されている広場の凄さ・見習うべきポイントは、「一人一人の使い方が多様」ということです。「自分たちで選び取り、生活者が使いこなしている」デザイン・関係性の在り方は、今後、日本でも参考にすべき視点だと感じています。
後編では、この「場を起点」としたコミュニケーションデザインの可能性について、現在、私たちが西田さんと進めている協業プロジェクトの内容を中心に、対談形式でのレポートをお届けします。
小林 亜也子
都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム 担当部長
2005年読売広告社入社。
営業を経て、2008年より都市生活研究所に所属。街づくり、マンション開発、商業、玩具、飲料、食品と幅広い業種・領域で、商品開発・ブランディング・コミュニケーション戦略立案に携わる。特に住領域での商品開発やエリアコンセプト開発を多数担当。近年は、建築家を中心とした有識者ネットワークを活かし、街・場づくりを基軸とした研究(「都市ラボ」「次世代サードプレイスラボ」)に従事。