SPECIAL CONTENTS
2020.12.24
前編では、若者マーケティングの研究実践に取り組む 産業能率大学 小々馬ゼミとの「リアルZ密着サーベイ」から見えてきたZ世代のリアルな価値観をご紹介しました。
今回は、小々馬ゼミと共同で研究を行った、Z世代が求める「理想の買い物体験」とその広がりについてご紹介していきます。
そんな彼らに対するコミュニケーションの在り方とは…?
小々馬ゼミの学生へヒアリングを重ねるうちに、ひとつの足がかりが見えてきました。それは、
「買い物がどんどんオンライン化して便利になる中で、Z世代は、“物を買う”という体験それ自体を楽しみたいと思っている」ということ。
昔と比べて、はるかにスマートに買い物ができるようになった中で、彼らは買い物を、商品を得る・サービスを使えるようになるための行為としてだけではなく、買い物という体験自体を、楽しむものとして捉えていました。
そんなZ世代に向けた新しいコミュニケーションを作るため、彼らの印象的な“理想の買い物体験”を深堀、Z世代本人が「本当にいいと感じた買い物体験」について、Z世代本人の言葉で紐解くことから始めました。(*産業能率大学の小々馬ゼミとの共同研究)
そこで見出された、彼らを動かす5つのHOTボタン。それは、
「1.Encount」「2.Inspire」「3.Encourage」「4.Event」「5.Play」
5つの頭文字をとって、「EIEEP(イープ)」です。
この5つのHOTボタンについて、ゼミ生とのディスカッションや、定量調査での発見とともに、それぞれご紹介していきます。
印象的だったのは、ゼミ生から多く挙がった「ターゲティングされている広告ってすぐわかる」「広告が押しつけに感じる」という声。
彼らは、ターゲティングなど効率を求めるコミュニケーションに気付いてしまっているのです。
日々「自分の関心と遠くはないけれど想定内」な情報に触れ続けている意識があるからこそ、意外なものとの出会いに対して、店頭でもオンラインでも、積極的に自分から「遭遇しに行く」姿勢を持っています。
ゼミ生の話からは、使い方や性能をただ知りたいのではなく、自分に当てはめて想像を膨らませたいという意識が伺えました。
だからこそ、彼らは、気になった商品に対して、自ら積極的にInstagramやYouTubeなどに情報を探しに行き、ワクワクを高めていくのです。これは「自分にぴったりかも」「自分の生活に取り入れたら楽しくなるかも」と、“運命の出会い感”を作りにいく過程とも言えるかもしれません。
情報を見つけ出すことに慣れているZ世代ですが、気になるものに対して、多くの情報から比較検討したいわけではありません。
定量調査でも、半数以上のZ世代が「情報の比較をするのが面倒」と回答しており、他の世代と比べて、悪い評判よりも良い評判を調べる傾向にあります。
彼らが求めているのは、「今自分が買うべきなんだ」と思わせてくれる情報。
家族・友人の声や、ブランドの言葉に背中を押され、購買に踏み切った、という話が多く聞かれました。
Z世代は、「お金を払ってものを得る」ことだけが目的なのではなく、「買い物体験自体」を楽しんでいます。
特徴的なのは「あえてブランドの公式サイトで買いたい」という声。これは、定量調査で検証してもZ世代で顕著です。
リアルでもオンラインでも購入できてしまうからこそ、その場所で買う意味や、その場でのコミュニケーションなど、手に入れる瞬間のストーリーが大事になるのです。
彼らの理想の買い物体験には、ものを手に入れた後のことまで含まれます。それは、嬉しくてたまらずSNSに投稿したり、自分なりの使い方を試したり、同じ商品を人にプレゼントしたり、といった行動です。これらの背景にあるのは「この買い物体験で得た嬉しさを持続・増幅させたい」という気持ち。「購入後のシェア」という行為自体に注目が集まりがちですが、この気持ちこそ、捉えるべき本質ではないでしょうか。
理想の買い物体験「EIEEP」から見えてきたものは、商品との出会いから購入後まで一貫している、自分で自分をワクワクさせるために“工夫”するアクションでした。
あらゆる可能性にフラットに目を向け、自ら選び取る力のあるZ世代。
彼らを振り向かせるには、この工夫心を掻き立てることが重要になってきそうです。
さて、私たちがZ世代の「理想の買い物体験」を紐解いたのは、彼らが本当に求めている買い物体験を「作り出す」ためです。
例えば、購入する行為自体のエンタメ化、想像をかきたてるネーミング、自分なりのアレンジを試したくなるパッケージ開発など「EIEEP」に沿うことで、彼らの積極的なアクションを引き出す新たなコミュニケーションの可能性が広がっていきます。
そんな「EIEEP」、実は、いい買い物をしたときには、Z世代ほどではないものの、他の世代にも「EIEEP」の兆しが見られることが分かっています。「EIEEP」はこれからの幸せな買い物の可能性すら秘めているのではないかと考えています。
私たちは、引き続きZ世代とディスカッションを重ねながら、これからの幸せな買い物・消費を生み出すべく研究を進めてまいります。
小々馬 敦 Atsushi Kogoma
産業能率大学 経営学部 教授
産業能率大学大学院 総合マネジメント研究科 教授
大手広告代理店、世界的なブランド・コンサルティング企業の代表などを経て、2010年ブランド・エンジニアリングを設立。2013年より現職。
若者市場研究のカンファレンス『AgeMi!マーケ!2030』(2019年3月)や日本マーケティング協会との共催で「ミライ・マーケティング研究会(2020年)」を主宰するなど、教育・研究を通じてマーケティング実務家とZ世代をつなぐ取り組みを行っている。
産業能率大学 小々馬ゼミ
「マーケティングとブランディング」を専門領域とし、企業とのコラボレーションや公開セミナーの企画運営、出版、研究レポート・論文の発信等の研究活動を行っている。企業とのコラボレーションでは、商品開発やマーケティングチームにメンバーとして参加したり、企業が直面している実際のマーケティング上の問題を解決するために多様な専門性を有する実務家の方々と協働する「ハンズオン・プロジェクト」に取り組み、企業活動をライブに実体験することにより専門的な資質を高めている。
小関 美南
都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2016年読売広告社入社。
ストラテジックプランナーとして、自動車メーカー、コンプレックス商材、女性向け商材など、様々なカテゴリの新商品開発・戦略プランニングなどに携わる。2019年より都市生活研究所に在籍。2019年度「都市生活研究所フォーラム」にて「ジャパン・ミレ二アルズ <今こそ知ってほしい!日本ミレ二アルの消費のツボ>」を発表。認知科学の研究視点を活かし、身体とその周辺に潜むささやかな物事を拾い集めながら、メタ認知する日々。
三上 詩央
データドリブンマーケティング局 第1マーケティングルーム
2018年 読売広告社入社。
ストラテジックプランナーとして、アプリ・金融・飲料・消費財など、幅広いクライアントのコミュニケーション戦略設計・オウンドメディア運用等に携わる。