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「グレート・シングル時代」のニューエコノミー

2021.01.07

「40-50代シングル女性」から見る、これからの兆し。

日本の人口の約半数が「未婚者」になる時代は、もう目の前です。(2040年度推計値・未婚率46.8%/出典:国立社会保障 人口問題研究所「平成30年度 日本の世帯数の将来推計」)
また、年々増える単身世帯率、そしてIoTやAIの進化により暮らしにゆとりが生まれると、「既婚者」でも夫婦・家族だけでない、「自分」単位での思考や行動が増えるとも言われています。
これからの社会や経済を見つめる際、「シングル(個)」からの視点も重要度を増すという仮説のもと、中でも注目すべきトライブとして「40-50代シングル女性」たちにフォーカスし、その独自性・重要性、今後のポテンシャルなど、女性をテーマにした生活研究を続けるデータドリブンマーケティング局の平田が紐解きました。

なぜ今、シングル研究が必要なのか?

──このテーマを選んだ理由をおしえてください。

平田:普段の仕事の中で「未婚者を狙う」という課題はさほど多くありません。消費パワーへの不安や、個々多様なライフスタイルなど、ファミリー層や既婚者層と違う、「魅力を感じにくい・わかりにくい」といった、捉えづらさもその背景にあると思います。
ただし、今後は人口の半分が未婚者になる時代です。いつまでも「わかりにくいままにしておく」のは避けられないのでは?というのが原点です。

──中でも「40-50代シングル女性」に注目したのは?

平田:大きく3つあります。
まず、性別視点では2011年のメディア報道に端を発する「シングル女性の貧困化」という論調。昨今では「貧困女子」なんて呼ばれ方もしています。また、世代視点では「ロスジェネ」というくくり方。どちらもネガティブに語られがちな層です。悩み苦しむ人たちに注意を創るために、名付けたり、話題にすることには意義があると思いますが、一方で見方をずらすと、シングルは「自分だけに時間・お金をかけられる人たち」、世代では「ある程度のポジションを持っている人たち」という捉え方もできるので、実は世のネガな論調の裏に埋もれた、ポジティブな顧客像が見えるのではと考えました。

次に、少子化傾向が続く日本で、今後現れることがない「最後の人口ボリューム層」ということです。
「団塊世代」というボリューム層が、シニア市場へ注目と新たなマーケットを生み出したように、「新人類世代・団塊ジュニア世代」を含む40-50代をウォッチすることは、今後のシニア市場に対する“兆し発見”につながるのではと考えました。

最後は、周りの40-50代シングル女性たちが非常にパワフルだということ!
みなさんとお話しすると、趣味や興味へのこだわりが強く、お持ちの情報もマニアックで面白い。また、自宅や人間関係など「自分の好き」に囲まれた生活を送っているのでストレスが少なく、幸福度が高いという印象がありました。
定性的な感覚でしたが、彼女たちをぜひ対象とした研究を行いたいと思いました。

見えてきた40-50代シングル女性のユニークネス

──研究を通じてわかった「40-50代シングル女性」たちの特徴をおしえてください。

平田:今回、20代~60代の全国・男女3万人を対象に定量調査を行ったのですが、仮説通り「“40-50代シングル女性” かつ “このままライフスタイルを維持したい”」と回答した女性たちの7割以上が、「今の暮らしは楽しい」と感じていました。

3万人を様々な属性に切って比較しましたが、7割というスコアはとても高いものでした。

そして「ライフスタイルを維持したい」というマインドの背景を探るため、141項目のアンケート結果を構造的に分析した結果、【自分の人生を自分で決めたい】【マイペースに生きたい】という意思が強く表れました。そして、“自分で決める・自分のペースを知る”ために【私らしさが大事】であると考え、その確立のためには【好奇心を旺盛】にし、それをきっかけに得られる【知識・経験を蓄積したい】というニーズが伺えました。

一方で結婚・子供・仕事は、あまり強い結びつきが見られませんでした。
定性インタビューなどでも「結婚・子供を拒否する、いわば“独身主義者”ではないので、この先突然結婚するかもしれない」だったり、「仕事は嫌いじゃないし生活時間の多くを占めるが、自分の“すべて”ではない」という声を多数聞きました。

調査でも、ひとつのことに興味を持つと「それをきっかけに興味が拡張する」「一つの興味を深堀する」という傾向も現れました。

※カッコ内は比較とした「40-50代・既婚女性」のスコア

また、興味をきっかけに情報収集し、お金を使い、手に入れれば長く愛用し続けるという特徴もありました。「ある意味“オタク的”である」と自認している傾向もあり、一度ファン化すると長く付き合ってくれる良質な顧客となる素質を持っています。

私たちは、この彼女たちが持つ「自己追及」に費やすエネルギーを【自己所有欲求】と名付けました。今後はその【自己所有欲求】に火をつけるために、どういう接点を作ればいいのかというポイントで研究を深めていきたいと考えています。

さらに、「今と今後の人付き合い」について聴取すると、「40-50代・既婚女性」は、自身と同じような属性の方々と今後も長くお付き合いしていきたいと回答したのに対して、シングル女性たちは、同じような方々はもちろん、今後はいろいろなカテゴリーの方と今以上にお付き合いしたいとの願望を持っていました。 この世代は、現在のシニア層に比べてオンでもオフでも「デジタル、SNS」を当たり前に使いこなす人たちです。今後、10年後、20年後、自身が持つ広く深い情報を様々な人たちにリーチアウトする、いわばインフルエンサー的存在になる可能性も秘めています。

シングルという概念は、未婚者から「個」の価値観へと拡張する

──今後のシングル研究の展望は?

平田:まずは、今回の対象である「40-50代シングル女性」の“攻略方法”などの具体化・鮮鋭化を進めていきたいと考えています。

(左)出典:Morgan Stanleyウエブサイト/(右) 出典:FOXBusinessウエブサイト

昨年アメリカでモルガンスタンレーが、働くシングル女性たちがつくる経済活動を「SHEconomy(シコノミー)」と名付け、レポートを発行しました。アメリカでも、日本と同様に未婚化が進んでおり、伸び行く市場として独身女性に注目したそうです。レポートでは5年後の世界中のシングル女性の経済規模は約3,000兆円を超すとの見立てで、これはインドと中国の市場を合わせた以上の金額だそうです。
日本でも今後、40-50代シングル女性を中心としたニューエコノミー、“日本版SHEconomy”が脚光を浴びるかもしれません。彼女たちが持つ、自分だけにかけられる時間・お金・マインドをどうこれからのビジネスデザインに活かせるか、ぜひ追究してみたいです。

また、今回は「40-50代シングル女性」を取り上げておりますが、今後日本は、LGBTQをはじめとした、個々の多様性を認め合うことが当たり前の社会となり、そして既婚者でも「個」の単位で考え、行動することが増加すると思われます。単に「未婚者」ではない、「シングル=個」は、これからの時代の大きな視点に意味を変えつつあること、それをこのテーマタイトルである「グレート・シングル時代」に込めています。
属性としての「シングル層」、そして価値観としての「シングルマインド」、2つの側面から「グレート・シングル時代」に向けた見解を培っていきたいと考えています。

平田 みどり

データドリブンマーケティング局 局長代理/第1マーケティングルーム ルーム長

シニアマーケティングディレクター

1995年読売広告社入社。
食品・飲料・化粧品・健康食品・航空会社・DMO ・IT・不動産・インフラなど、多岐にわたる業種業界のブランドコンサルティング、事業・商品開発、統合コミュニケーションなどに従事。生活者研究では、2006年「上流な私?下流な私?」(PHP出版/三浦展氏との共著)の出版以降、「その時々の(個人的に)旬だと思う女性たち」をテーマとし、取り組みを続けている。