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これからの都市生活における、関係性のデザイン<後編>

2021.02.10

前編では、「場を起点」とした関係性変化や、関係性構築のデザインについて、世界的潮流など、私たち都市生活研究所がこのテーマに着目した背景をお伝えしました。
今回は、「場を起点」としたコミュニケーションデザインの可能性について、現在進行中の協業プロジェクトの内容に触れながら、研究パートナーである建築家・西田司さんとの対談形式でのレポートで、お届けします。

生活者・マイクロプロジェクトの集積が面白い街をつくる

小林:私たちの協働プロジェクトの舞台は、町田市の「芹ヶ谷公園」になります。西田さんの最近のプロジェクトをみると、この「芹ヶ谷公園」だけでなく、「ISHINOMAKI 2.0」(復興プロジェクト)、「横浜市みなと大通り再整備計画」(街路空間)など、公共/街を舞台にしたお仕事が増えてきているような気もしますが、公共/街をフィールドにする面白さは何でしょうか?

西田:まず、公共/街をフィールドにするプロジェクトが増えたきっかけでもある「ISHINOMAKI 2.0」に触れたいと思います。
この石巻のプロジェクトは、震災復興行政主導の復興を“待つ”のではなく、「まちなかの空間をハンズオン(自力建設)で更新していく」という考えで立ち上がったプロジェクトなんです。震災前に“戻す“のではなく「新しい人の活動や集まりを、“場所”をつくることでつなぎ、持続させていく」というコンセプト。
生活者の「こんな場所があったらいいな」「今度こういうイベントをしてみたいな」という妄想を集め、その声を具現化する「場」づくりをサポートするのが僕たちの役割です。

△被災したガレージをDIYで改修し生まれたオープンシェアオフィス「IRORI石巻」は、今では「街のロビー」に。そのほか、被災ビルをスクリーンにした「野外映画上映会」、空室になっていた元書店を再活用した本好きのコミュニティスペース「まちの本棚」、空き地に仮設コンテナでマーケットをつくった「橋通りコモン」など、それぞれは小さなプロジェクトではあるものの、それが群となることで、ここにしかない街再生が具現化している。

西田:街づくり=生活者・マイクロプロジェクトの集積。
プロジェクトのひとつひとつは「マイクロプロジェクト」であっても、それが集まることで豊かで魅力的な街が生まれるんです。生活者・住民と一緒に、一歩一歩取り組み前進することが「街の未来」に繋がっていきます。公共空間の面白さは、そこに生活者・住民がいるということ。

小林:西田さんの手掛けているプロジェクトは、生活者・住民の方々が「主人公」になっていますよね。生活者・住民の方々が能動的に街づくりに参加していることで、「場」といった空間(ハード)だけでなく、シェアする機能だったり、発信する機能だったり、遊びや学びを自らつくる機能だったりが生まれている気がします。

西田:「誰もが主人公」というのは意識しています。「ISHINOMAKI 2.0」には合言葉があるんです。「世界で一番面白い街を作ろう」、というもの。「石巻を世界で一番面白い街にする革命にあなたも参加しませんか」「世代や立場を超えて、誰もが主役で、楽しく、遊ぶように未来を作ろう」と住民に投げかけています。

小林:西田さんとの協働プロジェクトを通して私が感じている、公共/街空間の面白さのひとつは「誰もがアクセスできる」ということです。生活者・住民の方々が能動的に参加したくなる、そのアクセシビリティをデザインしていくのも、これからの関係性のデザインには必要な視点な気がしています。

パブリック→「プライベート・ギャザリング」という価値転換

西田:最近は、公共を「パブリック」という概念で捉えないようにしています。公共というものは「すごく小さなプライベート(個)が集まったもの」と考えるようにしているんです。
例えば、好きな料理を持ち寄って、シェアし合うギャザリングパーティのように、何かを一緒に楽しんだり、育てたりする感覚をシェアするイメージ。その先に、魅力的な公共というのが生まれていくのだと感じています。

西田:「公共=パブリック」ではなく、「公共=プライベート・ギャザリング」。
「ギャザリング」という言葉のように、価値を持ち寄ると、シェアするだけでなく、影響し合うということが同時に起きていく。いろいろな人(=わたし・個)の知恵や経験が積層することで、好循環が生まれ、魅力的な街や空間が育まれていくのでは。

△プライベートギャザリングの概念図

小林:パブリックではなく「プライベート・ギャザリング」という価値転換はとても共感できます。
今まさに西田さんとプロジェクトをご一緒するなかで、街づくりは「生み出していくプロセスであり、変わっていくプロセスでもある」ということを体感しています。
みんなで力を合わせてつくり上げていくプロセスの中で、人が集い、新たなコミュニティが育っていく、その先に魅力的なパブリックが生まれる、「プライベート・ギャザリング」という言葉はそれを言い当てていますね。
いわゆる公共という言葉には、誰のものでもない、大きなスケールで、どこか人を寄せ付けていない印象がありますが、「プライベート・ギャザリング」と言われると、一気に自分スケールで考えることができます。

実証実験しながら形作られていく「芹ヶ谷公園」

△2020年より、私たち都市生活研究所と西田さんが代表を務めるオンデザイン・東京理科大学の西田研究室で、東京都町田市の「芹ヶ谷公園“芸術の杜”パークミュージアム」を舞台としたフィールドワークをスタート。西田さんが代表を務めるオンデザインが、芹ヶ谷公園で、公園の改修と美術館の増築を町田市から受託している。

小林:「芹ヶ谷公園」は、コロナ禍でも、小さいながらイベントを実施したり、美術館や公園がどうなっていくかということを、実証実験しながらデザインしています。「場を起点」としたコミュニケーションデザインの可能性を探る舞台として、とても魅力的なフィールドです。

西田:今の時代は、「建築も街も、経験的・実験的につくる時代」だと考えています。こうすればうまくいくというモデルがあまりないですよね。だからまずは実験してみる。その中での経験だったり知恵が集まることで、いい方向に建築が変わり、街が変わっていく。それが面白いと感じています。
芹ヶ谷公園が面白いのは、「活動を試すプロセス」「その受け皿としての公園」という価値があること。住民が計画段階で入っていることがサスティナブルなデザインへ繋がっていくと感じています。

小林:確かに、先ほどの石巻の取り組みもそうですが、建築家だけで作っていくのではなく、計画段階(=プロセス)から「住民がプレイヤーとして入っている」ことがポイントになっている気がします。「経験や知恵を集めた先に新しいデザイン生まれる」という視点では、様々な人の関わりや、試行錯誤のプロセスが重要ですね。

西田:公園は「妄想を重ねられる場」ともいえます。
芹ヶ谷公園の理想の未来像とは、カタチではなく「未来像に向かっていくプロセス」であり、日々の関係性の先にあるもの。芹ヶ谷公園の主役は「活動」。活動を試すプロセス、その受け皿として公園があるんです。

当事者化する生活者を生み出す「かかわりしろ」

小林:西田さんとご一緒している芹ヶ谷公園のプロジェクトでも、そこで活動する人、その人たちが関わった結果、愛着を持ち、フィールド自体がその人にとっての街のリビングになるといったプロセスこそ重要、ということを私も肌で感じています。
「住民がプレイヤーとして入っていく」ためのデザイン、プロセスデザインとして、西田さんが使われるキーワード「かかわりしろ」について、少しお話し頂けますか?

西田:「かかわりしろ」というのは、関係の繋がり/ネットワークの話ではなく、そこに自分が関わる余白があるかどうかということを意味している造語です。
「かかわりしろ」は、一緒につくっていく関係が生まれた結果、場に生まれた時間、それ自身が建物や場の価値につながっていく、その時間軸が本質的な価値だと私は考えています。
公園はこういうものだという1つのアイデア・結論ではなく、「さまざまな人が自分ごとだと思って考えてくれる状況を如何につくっていくか」という部分を大事にしています。

小林:「生活者を巻き込む」という話は複数年に亘って各所で語られているテーマのひとつですが、西田さんの言うように「自分ごとだと思って考えてくれる」ことの大切さを改めて感じています。これからの時代は、巻き込むという次元ではなく、「当事者化する、させる」ということがポイントに。「芹ヶ谷公園」のプロジェクトでは、生活者の方々が“受動的に巻き込まれる”ということではなく、生活者発の能動的な活動が生まれています。

「かかわりしろ」を戦略的に埋め込むことで生まれる「多中心」

小林:「さまざまな人が自分ごとだと思って考えてくれる状況」のことを西田さんは「多中心」とも表現されていますが、「多中心」である良さは何でしょうか?

西田:建築家としてモノづくりを行う立場ではあるけれど、今の時代「自身(だけ)がいいと思うものを提供する、そしてその受け手がいて喜ぶといったストーリーは古いと感じるんです。

西田:建築家(および事務所)のアイデアはどんなに素晴らしいものであっても、数量として小さい。
関わった人たち(生活者/住民)全員の、一つ一つの知識や知恵・クリエイティビティを束ねることでの総量の方が価値が大きい。その関わった時間や熱量が、場の価値につながっていくのではないでしょうか。

小林:この「多中心で生まれる魅力」のお話は、先ほどの「プライベートギャザリング」にも繋がる話ですね。生活者同士が知識や知恵を持ち寄る「当事者化の連鎖」は、「ファン化のスパイラル」や「ロングバリュー」を生み出す、これからの時代のサスティナブルデザインのヒントになるのではないでしょうか。
時が経つにつれて「価値が高まる」、いわば経年深化・進化する関係性デザインのヒントとして、「かかわりしろ」や「多中心」は大事なキーワードになりそうです。

【弱い枠組み】でつくる、【タフな関係性】デザイン

西田:生活者は単純な使い手としてコントロールする時代ではないのでは。
今の時代「作りこみすぎず、生活者に委ねる」ことも重要、と考えています。こちらから「コントロール」する感覚よりも、ちょっと「後押し」するぐらいの感覚でいます。

小林:「芹ヶ谷公園」のプロジェクトを通して、生活者をコントロールし、シェアさせるのではなく、生活者の「意思」を主導的に「引き出す」デザインが重要なのだと感じています。「適度に放任する設計方針」で生まれた場や空間には、生活者にとって「発見」の余地が多数見受けられられますよね。

西田:自分自身もそうですが、生活者は「自分でみつけたい」「発見したい」という欲求がありますよね。こういった「発見欲」への呼応をインストールするというのも、これからの関係性デザインのポイントである気がしています。

小林:「発見」への欲求は、原動力にもなりますよね。
生活者の方々の、自分から「出会いたい」「見つけたい」という気持ちだったり潜在意識が満たされた時の充足感は、次の能動的な活動に繋がっている気がしています。
作りこみすぎない「弱い枠組み」は、すべてをコントロールすることはできないのですが、うまく環境が整えば生活者が自らマーケットを大きく育ててくれるともいえますね。
生活者が当事者化する導線は、弱い枠組みだからこそ。西田さんとの協働プロジェクトを通して、「弱い枠組み」は、結果として、生活者の発見欲を充足させたり、生活者同士の関係性を強化したり、「タフな関係性」を構築していくという発見もありました。

最後に、
私たちの協働研究の舞台である「芹ヶ谷公園」では、地域と共に、オープンでフラットな、参加型(生活者も企業も)で実証実験をしながら、“芸術の杜”パークミュージアムを形作っている最中です。ご興味がある方は是非お問い合わせください。


今後も、この「場を起点」としたコミュニケーションデザインの可能性について、私たちが西田さんと進めている協業プロジェクト報告を通してレポートしていく予定です。


西田 司 Osamu Nishida
建築家
設計事務所オンデザイン代表。グッドデザイン賞審査員、東京理科大学准教授、明治大学特別招聘教授。
場から新しい生活提案/コミュニケーションデザインを行う、カルチャーリーダーともいえる存在。
時代を見据えた、新しい生活・新しい関係性をデザインし、社会と生活の変革に取り組む建築家。
30代で日本建築界最高峰の新人賞を獲得し、その後も世界最大の建築祭典で、特別表彰を共同受賞。
個人邸から、街づくりプロジェクトなど、様々なスケールのプロジェクトで新しい文化を生み出している。
http://www.ondesign.co.jp/
https://beyondarchitecture.jp/

小林 亜也子

都市生活研究所 都市インサイトルーム 担当部長

2005年読売広告社入社。
営業を経て、2008年より都市生活研究所に所属。街づくり、マンション開発、商業、玩具、飲料、食品と幅広い業種・領域で、商品開発・ブランディング・コミュニケーション戦略立案に携わる。特に住領域での商品開発やエリアコンセプト開発を多数担当。近年は、建築家を中心とした有識者ネットワークを活かし、街・場づくりを基軸とした研究(「都市ラボ」「次世代サードプレイスラボ」)に従事。