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〜ポスト・コロナの都市と生活者〜 シビック・コミュニケーション・デザインの時代へ【後編】

2021.07.30

ポストコロナ時代における社会潮流レポートの第2弾の発刊にあたり、今回のテーマである「シビック・コミュニケーション・デザイン」を社会実装されている実践者へのインタビューを行いました。
「場づくりを各所でプロデュースし、この領域のカルチャーリーダーともいえる存在:本間 貴裕さん」と、「国内外で話題のプロジェクトを手掛ける注目の建築家:山﨑 健太郎さん」という、注目の2人へのインタビューを振り返り、今回のテーマの可能性について、都市生活研究所の城 雄大・小林 亜也子がお伝えします。

△インタビュー時の様子 (左)山﨑 健太郎さん、(右)本間 貴裕さん

「シビック視点」への注目は、特別なことではなく、自然な流れ

△ポストコロナ時代における社会潮流レポート第2弾「シビック・コミュニケーション・デザインの時代へ」資料より

城:今回インタビューさせて頂いた中で、本間さんも山﨑さんも、「消費者ではなく、市民=シビック」「より主体性と多様な参画意欲を備えた“シビック”というニュータイプの市民」という部分に大きく共感頂けたのが印象的でした。

小林:「市民=シビック」こういった感覚がネイティブになってきている層がこれからはカルチャーを牽引していくというお話もありました。今回注目した「シビック・コミュニケーション・デザイン」というテーマは、今後さらに重要性が高まっていく、この予感が確信に変わったインタビューだったと思います。

いま色々なところでシビックという言葉が使われるようになりましたよね。でも個人的には特別なことが起こっている気はしてないんです。上の世代は「地域活性=行政」というイメージで、「市民」とは分かれていたと思うんですが、、、僕らの世代くらいからは、「別に分かれてない、ひと続き」っていう意識が普通になってきていて。そういう意識を持つネイティブ世代が流れをつくっているということだと思います。

ー 本間さん

昔の茅葺の「葺き替え」は、村の人たちみんなでやりますよね。あの時代に勝手に村の人が人の家の土間に入ってきちゃったりするのは、たぶん「手伝ったから」なんですよね、自分たちがやったから。本当の居場所づくりのためには、自分たちがやった、ということをデザインすることは重要な視点ですよね。

ー 山﨑さん

視点①シビック・エコノミー:市民がボトムアップで生み出す経済活動

城:今回のレポートでも取り上げている「シビック・エコノミー」の視点でインタビューをまず振り返りたいと思います。レポートでは、巨大で自分たちで把握できないお金の流れではなく “人”中心にシフトする、大きな兆しが起こっていることに注目しましたが、インタビューではどんな気付きがありましたか。

小林:「シビックが動く、結果として街が変わる」という言葉が印象的でした。「その街に主体的になれるのは個人の好きが原点にある、その先に街としての発展がある」という考えは、まさに私たちがレポートで取り上げた「シビック・エコノミー」に通じるお話だった気がします。

「都市を変えよう!」「街づくりをしよう!」という行政的な意識ではなくて、好きだからつくるし、好きだから広げたいという感覚で動いています。街づくりが目的でなくて、まず最初に、愛をこめて強い点をその場に打つ。その点(手掛けたプロジェクト)が次第に面になって、結果として街づくりになっているという感じですね。だからまず「シビックが動く、結果として街が変わる」のは僕らにとって普通のことなんです。

ー 本間さん

△本間さんが手掛けた「K5」のプロジェクト関係者集合写真 ※本間さんInstagramより

視点②シビック・インフラ:必要不可欠なまちの基盤を市民で整備・構築する

城:つぎは「シビック・インフラ」としての視点。人口減少・働き方改革・コロナ禍などの社会変化によって、社会や行政に任せきりにせず自分たちで暮らしを高めていく必要性を実感している方も多いのではないでしょうか。

小林:これまでインフラというと「公共」が準備してくれる最たるものだったと思います。生活者は受動的な立場。これに対して、本間さんや山﨑さんのプロジェクトでは能動的に働きかけていることが印象的です。インタビューでお話があった「無限の資源をインストールする」という発想。この視点はシビック・インフラとして重要なキーワードとなる気がしました。

資本主義的な「減る資源」の交換は、どうしても上下関係や敵対関係を生む。でも「体験という資源」は減らないからフラットでいられるし、むしろ関われば関わるほどどんどん増えていく。そういう資源にタッチできる場を街につくることは、これからとても大事になる気がします。

ー 本間さん

ローマの広場は、街の中にある自分のリビングにいるように自由に振舞える。今まではそういう「誰もが持つことができる資源」が日本の街の中に少なかったのではないかと思います。そこでの体験を通じて、自分たちの体に色んなものをインストールしていけるような場をつくることは、いわば「無限にある資源に自由にタッチできる」機会をつくる、ということ。これは生活の質を高めていく重要な視点ですよね。

ー 山﨑さん

△本間さんが手掛けた「CITAN」~三井不動産の日本橋エリアの界隈創生プロジェクトのひとつ ※公式HPより

視点③シビック・プレイス:市民の意思が反映され、ボトムアップで創り出された「場や空間」

城:最後に「シビック・プレイス」としての視点。レポートでも、市民たち自ら場を創り上げていく、ボトムアップで創り出された場や空間に注目しましたが、本間さんや山﨑さんが手掛けているプロジェクトでは、まさにそれが具現化されています。今回取材で訪れた「K5」というプロジェクトも、ただ場を享受する立場ではなく、これまでにない繋がりと関係性を生み出すきっかけとなっていますね。

小林:「シビック・プレイス」のように、個の「好き」が集積してつくられた場は、幸せを創造するための「場や空間」につながっていくのではないでしょうか。QOL(Quality of Life)の受け皿になる、こういった場への共感は、コロナ禍も経て「生活圏」をより重んじる価値観や自分らしい暮らしニーズの高まりを背景に加速する気がしています。

審査員を務めたグッドデザイン賞でも、人が関われる余白があったり、プロセスも含めて小さな工夫を積み重ねたプロジェクトが目立ったり、「個が公を成す」といったキーワードが出たり。僕自身の最近のプロジェクトでも、「様々な人が関われるような状況を建築の“計画”を通してつくっていく」ということが増えた気がします。
今手掛けている「52間の縁側」のプロジェクトで意識しているのは、建築は誰のための場所だとか、どう振る舞う場所だといったメッセージを発しがちだけれど、それがない建物を作るということ。だから今回デザインしたのは、本当に「縁側」。縁側は誰がいてもいい場所だし、関われる余地がたくさんある。「人」が役割を担ってくれればそんなに建築は作り込まなくていいんです。

ー 山﨑さん

何かが好きだ!という感情は、時代が変わっても変わらない感覚。お互いその好きという気持ちは尊重する。そうすると、サラッとした 手触りのいいコミュニティになる。そもそも良い街とか都市って、そんな「好き」の集積なのではないでしょうか。
因みにK5の空間デザイナーも想いを込めてつくってくれるかどうかで依頼しました。何となくデザインされたカフェで話す内容と、コミュニケーションについて考えつくされてデザインされた場所で話す内容って、違うんですよね。愛情をもってつくられた空間にいると会話も豊かになる。想いの総量が高ければ、コミュニケーションも豊かになると思っています。

ー 本間さん

△山﨑さんが設計中の「52間の縁側」~子供と高齢者が一緒に過ごす宅幼老所 ※山﨑さん提供

市民としての想いとその連鎖が、これからの都市のあり方をアップデートさせてゆく

小林:インタビューを通して改めて「個人=シビック」の「好き」や「想い」があらゆる原点というのは、次代への重要なキーワードとなる気がしました。本間さんは、生活者としての自らの「好き」という想いを課題発見につなげ、それが同じ想いを持つ仲間とのつながりを生み出し、その結果として、地域の活性化や新しいビジネス創造につなげています。本間さんがまさにスペシャリストであるように、こういった「好き」や「想い」の「つながりの連鎖」を如何に生み出すか?は、これからのデザイナーに求められる職能かもしれません。

城:建築家である山﨑さんが描こうとしているのは、単なるハードとしての建築物のデザインではなく、人の意識と行動、そしてそれに付随する情報や体験を、市民同士が共鳴〜共有するための都市生活のデザインなのではないでしょうか。
ひとりの生活者=市民としての想いとその連鎖が、これからの都市のあり方をアップデートさせてゆく…まさにお二人はその先駆者であると感じました。
レポートでは、視点①シビック・エコノミー、視点②シビック・インフラ、視点③シビック・プレイス以外にも、視点④シビック・エデュケーション、視点⑤シビック・アクティビティという切り口で、時代潮流を紹介しています。ぜひ全編を通してご覧いただき、大きな流れと、そこから掴める兆しをビジネスヒントにしていただきたいと考えています。

□■お話を伺った方

株式会社Backpackers’ Japan創業者
株式会社Sanu代表取締役
本間 貴裕さん

2010年にゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。「ゲストハウスtoco.」「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」「K5」など6軒の宿をプロデュース、運営。コンセプト立案、デザイン、設計、オペレーションまですべてワンストップで行えるのが強み。新事業として❝Live with Nature.❞をコンセプトに、人と自然が共生していくライフスタイルを提案する「SANU」を手掛ける。
https://backpackersjapan.co.jp
https://sa-nu.com

建築家
株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ代表取締役
山﨑 健太郎さん

地域住民とともに地元の琉球石灰岩を積んで建設した「糸満漁民食堂」(2013年)をはじめ、斜面を活かし子どもの原体験をデザインした「はくすい保育園」(2015年)、視覚障害者の支援施設「ビジョンパーク」(2018年)など、国内外のアワードを多数受賞。
工学院大学、東京理科大学、早稲田大学非常勤講師。明治大学、法政大学兼任講師。2020年~グッドデザイン賞審査員。
https://ykdw.org/

□■お話を伺った場所

△本間さんが手掛けた「K5」※公式HPより

【K5】
https://k5-tokyo.com/
日本橋兜町・東京証券取引所の西隣に2020年に開業した複合施設で、国内外から取材の問い合わせがある話題のプロジェクト。Brooklyn Breweryの世界初フラッグシップ店「B」など最先端の飲食店と、ホテル「HOTEL K5」(2-4階)などで構成。都心で希少な、大正12年竣工(築約100年)・延床面積2,000㎡超の石造りの建物(地下1階、地上4階建て)を、「Revitalize -新しい命を吹き込む-」「マイクロ・コンプレックス」をテーマに大規模リノベーションした。
開発スタンスの「マイクロ・コンプレックス」の意味合いは、より地域に寄り添った小規模の複合施設であるということ。「K5」では「1つの企業が開発を行うのではなく、感性を共にした様々なジャンルのチームが集って共同でプロデュースする」という要素もマイクロ・コンプレックスの定義の1つと捉えているという。

※この「マイクロ・コンプレックス」という開発スタンスも、今回のレポートで注目した「シビック・コミュニケーション・デザイン」と通ずるテーマ

城 雄大

都市生活研究所 所長代理

1999年 読売広告社に入社。
マーケティング・プランニングの部門にて、航空会社や玩具/ゲームソフトメーカーなどのクライアントに対するマーケティングおよびブランド戦略に関する業務に従事。2011年より都市生活研究所に所属。主に地域の再開発に関するコンセプト開発/商品企画や都市と生活者のインサイトに関する研究などを手掛ける。大学時代に学んだ民族学での「フィールドワーク視点」を大切に、研究を続ける。

小林 亜也子

都市生活研究所 都市インサイトルーム 担当部長

2005年読売広告社入社。
営業を経て、2008年より都市生活研究所に所属。街づくり、マンション開発、商業、玩具、飲料、食品と幅広い業種・領域で、商品開発・ブランディング・コミュニケーション戦略立案に携わる。特に住領域での商品開発やエリアコンセプト開発を多数担当。近年は、建築家を中心とした有識者ネットワークを活かし、街・場づくりを基軸とした研究(「都市ラボ」「次世代サードプレイスラボ」)に従事。