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〜ポスト・コロナの都市と生活者〜 シビック・コミュニケーション・デザインの時代へ【前編】

2021.06.11

ポストコロナ時代における社会潮流レポートの第2弾 「シビック・コミュニケーション・デザインの時代へ」オリジナルレポートを発行しました。

THE FUTURE IS ALREADY THERE IN THE CITY.

YOMIKO都市生活研究所 都市インサイト研究ルームは、都市や地域、場のあり方を通して見た独自の視点で、生活者の未来の兆しを見つめてきました。

2020年4月に、1回目の緊急事態宣言が発出されてから一年。企業や行政などのあらゆる社会のステークホルダーが “ Build Back Better ” の精神で、次の時代へむけた成長を目指す構造的な改革を推し進めるために試行錯誤を繰り返しています。そのような中で、都市インサイト研究ルームでは昨年の6月に「マルチバーサル・シフトへ向かう都市と生活者」として第1弾レポートを発行。都市に一層求められる“スマート・レジリエンス・シティ”といった視点と兆し、また今では郊外などを中心にさらに顕在化しつつある“ワンマイル生活圏の再創造”、テレワークの加速や可処分時間の増加に伴う“多層化が加速するコミュニティ” “多機能化/多用途化する住まい”といった都市と生活者の関係性変化の兆しをレポートしました。
今回の第2弾では、都市と生活者の関係性の変化の先に見えてきた「未来への新たな原動力」となる潮流についてレポート。都市生活研究所 所長代理の城雄大が解説します。

“市民のチカラ”で、都市をアップデートする時代

──今回のレポートでは「市民=シビック」に焦点をあてていますね。これまで言われてきた市民とは違うのでしょうか。

城:そうですね、いま市民は大きな変化の潮目にいると思います。市民の変化の前に、まずは都市の役割についての大きな変化について整理したいと思います。イギリスから始まった産業革命以降は、都市は産業の近代化と経済成長の器として拡張しました。さらに都市化が進むと、労働者として人口流入が加速。膨れ上がった市民の公衆衛生や生活基盤の整備に対する需要に応えるため都市は高機能化し、住宅や交通網などのインフラを進化させてゆきました。この時代に都市に生きる市民とは、あくまで労働者としての位置づけでした。さらに一定の生活基盤が整い経済も成長してゆくと、都市は大量消費の舞台として花開いてゆきました。そのような都市に生きる市民は消費者として、マス・マーケティングの対象となりました。ただし程なく大量生産・大量消費の時代は消費の成熟化とともに十人十色などの細分化へと向かい、さらに消費行動だけでなく自分らしい暮らし方やライフスタイルを求める生活者として都市における市民は進化してゆきました。

そしていま地球環境の危機に直面し、社会のあり方や産業構造が根本から変わろうとしている中で都市の役割も大きく変わりはじめ、まさに市民が都市における本当の主役となるべく、都市は市民ひとりひとりのウェルビーイングのためのフィールドへとアップデートされつつあります。いまの時代は、都市の恩恵を受身的に享受するだけの市民から、自らの幸せを自分たちのチカラで切り開いてゆくために、より主体性と多様な参画意欲を備えた「シビック」というニュータイプの市民へと変わってゆくプロセスにあると考えています。

※都市の変化とともに進化する市民のイメージ

──都市が変わってゆく中で、生活者も進化しつつあるのですね。そのような新しいタイプの市民=シビックとの「コミュニケーション・デザイン」とは、どういうことなのでしょうか。

城:市民が主体的に都市における活動や場と関わり、その中で新しい価値と仕組みを生む活動をデザインすることを「シビック・コミュニケーション・デザイン」と名付けました。これらが、これからの都市生活をアップデートするためのエンジンになると思っています。企業や行政などの産官学にとっての次の成長を生み出す構造も、市民とのより積極的な関わり/コミュニケーションの中から生み出されてゆくのではないでしょうか。

産官学の新たな成長エンジンとしての市民とのコミュニケーション

シビック・コミュニケーション・デザインを5つのテーマでレポート

──具体的には、どのようなデザイン事例があるのでしょうか。

城:今回のレポートでは、5つのテーマで兆しとコミュニケーション・デザインのポイントをまとめています。

※今回のレポートの全体構造

『シビック・エコノミー』 市民がボトムアップで生み出す経済活動≒ビジネスが、シビック・エコノミー

城:大量生産・大量消費に代表されるような巨大で自分たちでは把握しきれない経済の仕組みから、お金を通じてその先にいる“人やコト”に関与しようとする大きな流が生まれつつあります。
たとえば、渋谷でコミュニティ展開をしている「530WEEK」という活動体。「0 waste」をコアコンセプトに、活動拠点である渋谷周辺地域をより豊かにするために、企業、消費者、行政の全てのレイヤーを巻き込み「ゴミを出さない経済循環」のある暮らしを提案。近隣のショップ店員も多数参加するキャットストリートでのクリーンナップ活動や表参道のけやきの落ち葉での堆肥づくり、それまでは捨てられていたレストランで出るパンの耳を使ったビールづくりなど、ユニークで多彩な活動を行っています。それらの活動を通じて、地域コミュニティを盛り上げながら持続可能な社会と経済を目指す、20-30代を中心とした新しい地域市民の動きと言えます。
このような身近な問題や社会的な課題に対して、生活者が自分らしく関わってゆくための行為のひとつに「消費行動」も含まれつつあり、その大きな流れはグローバルな大企業であるナイキも見過ごせなくなっています。あるバスケットボール選手が「ブラック・ライブズ・マター」への意思表示を試合中に行ったため協会からは排除されたものの、ナイキはその選手の行為を支持する広告メッセージを発信しました。生活者はナイキの商品を購入することで、ナイキという企業・ブランドの理念とその先にある「ブラック・ライブズ・マター」への支持の意思表明にもつながるのです。

──消費という行為の意味が、自己のためだけではなく社会的な側面を拡大させているのですね。

城:そうですね、もちろんそのような潮流は以前から兆しとして顕れていましたが、このコロナ禍によって一気に幅広い層で顕在化してきていると思います。
そんな経済や消費傾向=シビック・エコノミーの流れをとらえる市民とのコミュニケーションをデザインするポイントとして、4つの視点を挙げています。そのひとつが「リニアからサーキュラー」への商流デザイン。製造から消費まで一直線で流れて消えゆく商流から、サステナブルな循環型/円的な商流をいかにデザインするか?その循環のいちプロセスを生活者=市民に担ってもらうような仕組みづくり。そのような消費や経済の流れにユーザーが主体的に参加する(参加意識が持てる)ことで、これまでになく強い企業や製品への愛着につながると思います。

──なるほど。ユーザーを単なる商品やサービスの受け手であり最終地点と捉えるのではなく、循環の「一員」と捉えるイメージでしょうか。レポートではこのシビック・エコノミー以外にあと4つのテーマがありますね。

城:はい。これまでは国や行政が市民へ一律に提供するものだった都市の「インフラ」や「公共空間(プレイス)」そして「教育(エデュケーション)」においても、新しいタイプの市民=シビックが能動的に新しい仕組みやそこで繰り広げられるライフシーンを多数生み出しています。そのような都市における様々な場と暮らしのゲームチェンジの中で、市民の「日常行動(アクティビティ)」も多様に変化しながら社会との新しいつながり方を生み出しています。
詳しくは、ぜひ本レポートで内容をご確認いただきたいです!

──本レポートの最後には、「シビック・コミュニケーション・デザイン」をまさに社会実装されている方へのインタビューも行っていますね。

城:とても刺激的なインタビューとなりました。いま劇的に変化・再生しつつある日本橋兜町にある「K5」という施設をプロデュースした本間貴裕氏と、視覚障がい者のための支援施設「ビジョンパーク」などを設計した建築家の山﨑健太郎氏へのインタビューとなります。詳しくは後編で、その内容をお伝えしますのでぜひご期待ください。

城 雄大

都市生活研究所 所長代理

1999年 読売広告社に入社。
マーケティング・プランニングの部門にて、航空会社や玩具/ゲームソフトメーカーなどのクライアントに対するマーケティングおよびブランド戦略に関する業務に従事。2011年より都市生活研究所に所属。主に地域の再開発に関するコンセプト開発/商品企画や都市と生活者のインサイトに関する研究などを手掛ける。大学時代に学んだ民族学での「フィールドワーク視点」を大切に、研究を続ける。