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これからの都市生活における関係性のデザイン<フィールドワーク実践編>

2021.05.31

■はじめに

シリーズでご紹介している「これからの都市生活における、関係性のデザイン」。前編では「場を起点」とした関係性変化や関係性構築のデザインについて、世界的潮流など私たち都市生活研究所がこのテーマに着目した背景をお伝えしました。また後編では「場を起点」としたコミュニケーションデザインの可能性について、2020年より、私たち都市生活研究所と研究パートナーである建築家の西田司さんと東京都町田市の「芹ヶ谷公園“芸術の杜”パークミュージアム」を舞台とした協業プロジェクトについて、対談形式のレポートをお伝えしました。
今回の「フィールドワーク実践編」では、現在進行中である協業プロジェクトである「芹ヶ谷公園」を舞台にしたフィールドリサーチの調査報告について、お届けします。

■町田市の「芹ヶ谷公園“芸術の杜”パークミュージアム」を舞台とした協業プロジェクト

東京都町田市の「芹ヶ谷公園」では、将来構想を「“芸術の杜”パークミュージアム」と名付け、その実現に向けた取り組みの中で“公園で〇〇したい”という市民の声を集め、イベント運営やワークショップなどを開催する市民参加型の「Made in Serigaya」という活動があります。今回私たち都市生活研究所は、その「Made in Serigaya」で集めた市民の声を実現していく実証実験イベント「Future Park Lab」に参加してきました。
そこで、目に見えない公園の現状や課題を“みえる化”し公園の未来の活用方法を探る為の第一弾としてイベント来園者アンケートを実施しました。また東京理科大学 西田研究室と共に人の動きの流れを把握するトレース調査や特定のアクティビティをする人を数えるカウント調査などを行い、多角的な視点からフィールドリサーチを行いました。それらの調査結果について町田市のご担当者や有識者の方々と共有・議論をすることで、更なる公園の発展に向けたアクションにつなげていこうとする取り組みを行いました。

フィールドリサーチを通して、みえてきた「芹ヶ谷公園」の現状と課題

イベント来園者アンケートでは男女10代~70代を対象に行い、①芹ヶ谷公園のイメージ ②芹ヶ谷公園であったらいいイベント ③芹ヶ谷公園にあったらいいこと/できたらいいことの3点をヒアリングしました。

①芹ヶ谷公園のイメージについては、芹ヶ谷公園には、版画美術館や芹ヶ谷冒険遊び場などシンボルとなる施設があるのにもかかわらず、イメージが「自然」や「広さ」に関することが多く、偏ってしまっていることから単なる「自然公園」としての印象に留まっていることが課題として挙げられます。

②次に、芹ヶ谷公園にあったらいいな!と思うイベントについては、「BAR」から「フリーマーケット」までジャンルを問わず実に多様な内容が挙げられました。このように、一般的に公園に備わっていたものを利用したイベントだけではなく、従来の公園の使われ方とは異なるモノ/コトを求める多様なニーズが実は市民ひとりひとりに内在していることが見えてきました。

③最後に、芹ヶ谷公園にあったらいいな!?できたらいいな!?と思うことについては、男女10代・20代においては、市民が自由に「自分の趣味を発信」できることを求める意見があったことから、自分たちの趣味や考えを発信できる場として「公園」を一種のプラットフォームとして捉えはじめている兆しが見受けられました。

公園が市民にとっての「主体性の受け皿」になりつつあることが明らかに!

「芹ヶ谷公園」の過去・現在のイメージは、「緑が多い」など固定化されてしまっているものの、「やってみたいイベント」などの市民の生の声をヒアリングしてみると実は市民には「内在している多様なモチベーション」があることがわかり、そのモチベーションを実現できる場として「芹ヶ谷公園」を捉えていることがわかりました。
このことから、「芹ヶ谷公園」が市民にとって「アクティビティの主体性の受け皿」としてのポテンシャルを持っていることが明らかになりました。これは公園としての「場」の意味が単に遊具などで遊ぶといった受動的に受け入れる「場」としてではなく、パブリックスペースであるからこそ市民が主体となって創造性を発揮し、能動的に使いこなしていく「場」として変わりつつある兆しなのかもしれません。

リサーチ結果について有識者を交えて議論! アクティビティを見える化するための今後の方向性

今回のフィールドリサーチ結果を西田研究室の公開ゼミという形で、ゼミ生の調査結果と共に町田市役所の戸田氏(以下、戸田氏)、東京理科大学 高柳助教(以下、高柳助教)、about your city代表 小泉氏(以下、小泉氏)、日本大学助教で一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長 泉山氏(以下、泉山氏)にご参加いただき、産官学の視点からも議論しました。

西田研究室では、日常時とイベント時の比較による公園の使われ方の詳細を可視化しました。生活者にとって公園はどのような可能性があるのか、その未来像を生活者に共有することを目的として、特定のアクティビティを行っている人を数えるカウント調査やエリアにいる人の「配置」を記録するマッピング調査、そしてエリアにいる人の「動き」を記録するトレース調査を行い、結果を共有しました。そこでは「芹ヶ谷公園」に目的を持って訪れる人だけではなく、生活導線として利用している人も見受けられるなど発見の多い結果となりました。

都市生活研究所のフィールドリサーチと西田研究室の研究報告を踏まえて、高柳助教からは「Park-PFIなど民間が主導する公園とは違うパブリックな公園として、今後の調査視点を空間設計の視点で行うのか、またはアクティビティの視点で行うのかを考えていかなければいけない」との指摘がありました。それを受け小泉氏からは「調査の活用方法として、実際にデザインした都市スケールやランドスケープを市民のアクティビティ視点で定点的に調査することで、予想とは異なったアクティビティを観測することができ、そのアクティビティに合わせハード面を改良していく。それによって、常に変化し続けられる公園になっていくのではないか」との意見をいただき、また泉山氏からは「アクティビティの視点だけではなく、1人の市民が『芹ヶ谷公園』で過ごす利用頻度や1日に過ごす時間の長さを調べていくことによって、より多角的な目線で調査していけるのではないか」との意見をいただきました。
最後に、戸田氏からも「公園を測る指標として、イベント時に何人来たかといった指標だけではなく、市民がどのようなアクティビティをしているのかといった質の評価も大事にしていくことで、市民にとっての公園づくりをしたいという行政としての目標を達成するひとつの指標となるのではないか」との意見をいただき、議論を締めくくりました。

私たち都市生活研究所は、この「芹ヶ谷公園」をフィールドとして、引き続き「場を起点」とした関係性の変化や関係構築のデザインへむけた様々な取り組みを行ってゆきます。
次回レポートにも、ご期待ください。

隅 智也

都市生活研究所 都市インサイト研究ルーム

上智大学経済学部卒業後、2020年読売広告社入社。
街開発に関するコンサルティング業務、商業施設のマーケティング戦略立案、その他ゲームメーカーなどの一般クライアントのストラテジックプランニングなどに従事。 一方で、「これからの都市生活における関係性のデザイン」などの都市インサイト研究にも取り組む。