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2021.10.29
都市生活研究所の生活者フォーサイト研究ルームでは、生活者研究の一環として、新型コロナウイルスによる、「イエナカ」の意識や行動の変化に着目した研究を行っています。
新型コロナウイルスの流行は私たちの日常生活に大きな影響を及ぼし、マーケットを取り巻く環境も大きく変化しました。その結果、「旅行」や「外食」といった業界ではマイナスのインパクトも大きく、業績を落とす企業が多くありましたが、一方で巣ごもり需要が拡大したことにより、いわゆる“イエナカ”に関連する企業では業績を伸ばしています。
実際、外出自粛が続き、オンライン飲みをはじめ外食や娯楽など今までイエソトで行っていた消費をイエナカで行うようになった方は多いでしょう。では、そのようなイエナカにおけるライフスタイル変化の背景には、具体的にどのような生活者のマインドがあったのでしょうか。
今回は、イエナカ需要のなかでも特に伸長が目立った「食」をテーマに取り上げました。2021年7月に独自に実施した調査からみえてきた動向や兆しについて、調査を担当したプランナー青山 貴哉に聞きました。
青山:まずお伝えしたいのは、生活者自身がコロナの影響のなかでも「食生活」への変化が大きかったことを自覚しているということです。食生活は娯楽・レジャーや買い物に次いで、高いスコアを示しています(図1)。具体的には、イエナカでの食事や料理の頻度が増加しました(図2)。そして、これらに大きな影響を与えていたのは、コロナによって一気に浸透した「在宅勤務」だということも着目ポイントです。
-図1-
-図2-
青山:コロナ前と比較して食事の時間帯にズレが生じているのもポイントです。全体的な傾向として「平日の朝食」が遅めに、「平日の夕食」が早めにシフトしています(図3)。
-図3-
青山:家の中で食事にかける時間も増えています。特に、在宅勤務層にその傾向が顕著であり、平日のイエナカ食にかける時間が非常に増加していました(図4左)。通勤時間がなくなったことで、在宅による“ゆとり”が食事時間に影響を与えていることがうかがえます。
さらに、一日の中で食べる回数が増加したり、好きな時に好きなだけ食べるスタイルに変化したりしている様子も見て取れます(図4右)。
-図4-
青山:私自身、在宅勤務を行うようになってから、今まで通勤のために慌ただしく食べていた朝食をゆっくり食べるようになりました。さらに、一人暮らしなので、誰にも合わせることもなく、自分のお腹の具合に合わせて遅い時間に昼食を摂ったりしています。
青山:最も食にかける時間が増加していたのは若年シングル、という結果が出ています。加えて、自分のリズムで食べるようになった結果、食べる回数も量も増加しているとデータも出ています。さらに、若年シングルは夜更しが増えており、夜食を食べる人が増加していることも新しい発見でした。
青山:イエナカでの料理や食事の頻度が増加したことで、メニューのマンネリ化や料理をすることにストレスを感じる人が多かったようです。その結果、簡単に調理できる食材を使ったり、手間の省略や時短のため、レパートリーの幅を広げるために新たな調味料を購入するという動きが出てきました(図5)。いろいろな策を駆使して目先の変化をつけようと工夫している生活者の姿が垣間見えます。
-図5-
青山:その一方で、イエナカでの料理や食事の機会増を前向きにとらえ、チャレンジ精神を発揮して食を楽しんでいる生活者の姿も浮かび上がってきました。
食事を楽しめるように工夫したり、料理を積極的にするようになったりと、ポジティブな意識変化の声が多数ありました(図6)。これまでとは違った食材や目新しい商品を購入するようになった人も多く、次々と新しい領域を開拓している姿が見て取れました。
日常での楽しみが減ったことで、そのエネルギーがイエナカの食へと向かったのではないかと考えています。
-図6-
特に、在宅勤務層は積極的に新しいレシピにチャレンジして、自炊を楽しんでいる様子が伺えました。さらに、新しいレシピの開拓のためにYouTubeの動画を活用していることも特徴的でした。
今ある食材から何ができるか?という既定路線ではなく、未知のワクワクする料理との出会いを求めてYouTubeを活用しているのではないかと推測しています。
青山:調査の自由回答から、いくつかご紹介しましょう(図7)。
-図7-
手作りは、ピザだけでなく、うどんなどに挑戦した人も複数見られました。今まで手作りをしたことがないような料理にまで挑戦するようになった姿がうかがえます。また、多国籍料理を作るチャレンジは“イエナカであっても自分の領域を広げていく冒険”をしているのでしょうし、コロナ禍でも少しでも外国気分を味わって気分転換したいというニーズの現れだとも推測できます。その他、調理家電・器具をグレードアップさせてみるなど、いろいろな視点から自分のチャレンジの幅を拡大させている取り組みも多数ありました。
青山:今までよりも手の凝った料理を作るようになり、自らの手で作る充実感や達成感などを実感してきました。生活者は、「イエナカ」食を通じて様々な工夫や新しいことに挑戦し、その過程で、自分のできる範囲を拡張していくことに楽しさを見出したのではないでしょうか。今回の調査は「食」がテーマでしたが、生活者の「自己成長したい・自己効力感を味わいたい」という、人としての本質的なニーズを感じさせる調査結果だと感じました。
場がイエナカであっても、むしろイエナカに制限されたからこそ、「食」を通じて、そのニーズが顕在化したのかもしれませんね。
今回の調査結果詳細はフルレポートとしてまとめています。在宅勤務の有無や、家族形態別など複数の軸での分析結果を記載しています。ぜひ全編を通してご覧いただき、大きな時代の流れと、そこから掴める兆しをヒントにしていただきたいと考えています。
私たち生活者フォーサイト研究ルームでは、引き続き「イエナカ」に着目して研究を行っていく予定です。「食」以外の変化についても、あらためてご案内できるように準備を進めていきたいと思います。
「『イエナカ』食意識・行動の変化調査」概要
●インターネット定量調査
●20代以上の男女/在宅勤務の有無・開始時期、家族形態/首都圏・関西圏
●サンプル数:2,000人
●調査期間:2021年7月
青山 貴哉
都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム
2020年読売広告社入社。
Z世代研究をはじめとして生活者フォーサイト研究に従事。一方で、一般クライアントのストラテジックプランニング業務、商業施設のマーケティング戦略立案などにも取り組む。