YOMIKO NOW

「爆買い」から「体験」へ。 5つの国・地域を対象としたインバウンド意識調査から読み解く、需要の変化とデータ活用の可能性

堅調に推移する国内インバウンド市場。YOMIKOでは訪日外国人の需要をより解像度高く捉えるべく、中国・香港・台湾・韓国・アメリカの5エリアを対象とした「インバウンド需要丸わかり調査レポート」を発表しました。この調査はどのように生まれ、企業のコミュニケーション施策や販売戦略にどう活用されているのか。調査を指揮したマーケティング担当メンバーと、クライアントへの提案など営業を担うビジネスプロデュースメンバーに、その舞台裏を語ってもらいました。

<座談会参加メンバー>
マーケティング担当

小島 正子さん(MDUプロデュースセンター)
尹 娜さん(インダストリーコンサルティングセンター)
吉永 彩さん(インダストリーコンサルティングセンター)

ビジネスプロデュース担当
杉山 智明さん(第5ビジネスプロデュース局)
生方 魁さん(第5ビジネスプロデュース局)
大宮 愛里さん(第5ビジネスプロデュース局)

現場の声がきっかけ。インバウンド調査はこうして始まった

小島:今回の調査は、クライアントから「インバウンドに関するデータはないか」というお問い合わせを複数いただいたことがきっかけで始まりました。

杉山さんをはじめとするビジネスプロデューサーが日々クライアントと接している中でも様々なご要望を受け取っていたかと思います。具体的にどのようなものがありましたか。

杉山:僕は食品メーカーのクライアントを担当しているのですが、国内需要の伸び悩みを感じていらっしゃるクライアントから次のマーケットとしてインバウンドというキーワードが出てくることが増えていました。情報が求められているという感覚は数年前からありましたね。

大宮:私も「訪日外国人に商品を購入してもらえる機会が増えた」というお話を頻繁に耳にしていました。クライアントは「何となく売れているけれども、理由がわからない。もっと後押しすれば売れるのではないか」という感覚をお持ちでしたので、インバウンドに関する提案をすることで、通常のプロモーション以外のニーズにもお応えできるのではないかと考えていました。

クライアントも独自にマーケット調査を行っていますが、インバウンドに特化した調査を実施しているところは多くはありません。ましてや国・エリア別の調査は少ないですから、今回の調査はとても役立つ内容になっていると思います。

尹:今回の調査では中国以外に台湾や香港、韓国といったアジア圏も調査対象に入れたことで、かなり汎用性が高い調査結果になりましたよね。

生方:僕が担当しているクライアントはドラッグストア系商品やサプリ、日用品などを取り扱っています。これらは台湾や香港といったアジア圏が大きな市場なので、そこが対象に入っていることは、提案をするうえでも良かったと思っています。

調査結果で見えてきた国・地域別の消費行動

大宮: 今回の調査では、想定どおりだったことと意外だったことの両方がありました。私はニュースなどをみていて中国人の方の「爆買い」は減っているのでは? と推測していました。そして蓋を開けてみるとやはり、中国の方の買い物意欲は控えめで、体験を求めているという結果が出たのです。改めて数字で見るとやっぱりそうか、と納得感がありました。

尹:昔は越境ECサイトなどもなかったので、中国人が日本製品を買うためには日本に来るしかありませんでした。しかしいまは越境ECサイトが複数あるので、中国にいても日本製品が手に入ります。そのため、買い物から体験にシフトしているのかもしれません。

大宮:物を買うことは自国でもできるようになったいま、日本にいないとできない体験の方が面白くなっているということですね。

吉永:私は訪日回数が多い方ほど買い物から体験にシフトしていくのかと思っていたのですが、実はそこには相関関係がないという調査結果が出たことは驚きでした。経験値というより、そもそもの国民性や価値観による違いが大きいのかもしれません。

生方:僕は、旅前情報源として利用しているSNSに違いがあることが驚きでした。特に、台湾・香港の旅行者が旅前情報源としてビジュアル重視のSNSよりコミュニケーション重視のSNSを利用しているという結果が意外でした。

小島:一方で韓国は逆で、コミュニケーション重視 よりもビジュアル重視のSNS を見ていたりしますよね。私は中国・台湾・香港・韓国あたりはほぼ同じ傾向と捉えていたのですが、それぞれ違いがあることが今回の調査で改めて分かりました。あと消費額が大きい点において、中国はアメリカに近いなと改めて感じましたね。

尹:中国はビザを取る必要がありますし、他のエリアと比べて日本に来るための準備が大変な分、訪日に対する熱量が特に高いのではないかと思います。それだけに滞在日数も長いです。一方で香港などは日本と近いですから、気軽に買い物に訪れる感覚なのでしょう。

生方: 7割程度は「旅前」に購入するものを決めてきているというデータがあったのですが、これも新たな気づきでした。

小島: 業種やカテゴリーによって、購入を「旅前」に決めてくるものと、「旅中」に決めるものの違いもありました。美容系は旅に出る前に買おうと決めて来日するけれど、商品によっては旅の途中で決めている。この結果はとても興味深かったです。

あと個人的には、アメリカの方が地方での体験に興味を持っているという結果が面白かったですね。地方に滞在して住民と交流しながら農業体験をする…ようなことにニーズがあるのは意外でしたが、ビジネスの大きなヒントになるのではないかと思います。

小島 正子(MDUプロデュースセンター)

データを起点としたソリューション提案を目指して

杉山:実は大手企業様でも、免税店のPOSで訪日客の実態を把握しようとされているケースが少なくありません。この方法だと購入を「旅前」に決めたのか「旅中」に決めたのかなど詳細が分からないため、コミュニケーション戦略を立てるのが非常に難しい状況でした。

これまで訪日外国人向けの商品を店頭でPRする場合、POPを翻訳するだけになることが多かったのですが、今後は調査データでわかった訪日外国人の志向性をもとに、より深い提案ができるようになると思います。

大宮:私のクライアントも日本人向けのキャッチコピーを翻訳して、繁体字版で出していることが多いです。でも、日本語のコピーは情緒的に商品の価値を伝えますが、海外の生活者はもっとストレートな商品訴求を求めている感じがありますよね。やはり対象によって、訴求内容も変えていく必要があると、今回の調査を通して痛感しました。

吉永:お土産文化があるかどうかなども、国によって違いますよね。職場に配る文化がない国もあれば、日本に近い感覚で配る国もあります。

小島:同じ買い物をするのでも、それぞれの国・地域の方が何を重視しているか、バックグラウンドが違いますよね。そこを紐解くことができれば、コピーなど広告の内容もより最適化できるのではないでしょうか。

杉山:あと、これまではインバウンド施策を提案するうえでのアプローチ方法が定まっていませんでしたが、これからは「まずこのデータで実態を把握しましょう。そのうえでアプローチを考えましょう」。という提案の流れができるのではと感じています。これまでは「旅前」より「旅中」重視の戦略を打つことが多かったので、調査結果を受けてどう変えていくべきか、いま提案を考えているところです。

生方:以前は訪日外国人の実態がわかるデータがあまりなく、個別の事例などの情報を点で集めていた感じがありましたが、今回の調査データのおかげで点と点を結ぶことができ、線にしたうえで、訪日外国人の行動やニーズの背景を踏まえた戦略的な提案をすることができるようになりました。これも大きな収穫だと考えています。

調査結果によりカスタマージャーニーが明確化

小島:調査結果を見たクライアントの反応はいかがでしたか? 私は、先ほども話題に出ましたが体験重視のスコアが高く出ているのを見て、お客様が身を乗り出して聞いてくださっていたのが印象的でした。

大宮:アメリカの場合、体験重視ではありますが、買い物意欲も高い。「価値観としては体験志向でも、行動としては両方やるというのが面白いね」というお声もいただきました。

吉永:いまは円安の時期なので、欧米から見るとなんでも安く見える、という影響もあるかもしれないですね。

大宮:中国やアメリカなど体験を重視する国に対しては、体験を通じて商品を手に取ってもらう、というやり方もあると思いました。日本だと当たり前にやっていることなのですが、インバウンド施策になると、そこの提案が抜けがちになっていたと反省しています。

尹:商品自体はほぼ現地でも手に入る時代ですから、日本での特別な体験を通して、ブランドとの接点を作ることが大切になってきますよね。それがブランドの価値向上にもつながりますし。

尹 娜(インダストリーコンサルティングセンター)

杉山:大宮さんのいうとおり、国内向けのプロモーションだったら当たり前に考えるカスタマージャーニーが、インバウンドになると抜け落ちる感じは確かにありました。今回の調査結果を受けて、国内と同じように情報接点やタッチポイントを考えてPR設計をすることができるようになり、クライアントに提供できる価値も高まったと思います。

尹:データを見るうえでターゲットを年代やエリアで絞り込んだり、美容・健康への関心が高い層に絞り込んだり…ということができるので、カスタマージャーニーの仮説を立て、その仮説が正しかったかを確認して、微調整していくということができるようになりますね。

大宮:どの店舗で、どの年代が多くて、どの国の方に売れているか、というところまで見て提案を調整できるので、納得感を持って次のステップに進めるのは嬉しいですよね。

地域課題の解決にも?広がるインバウンド調査の可能性

杉山:当社はまちづくりに関わる実績も多くありますが、地域や自治体との取り組みで、何か事例や提案の可能性はありますか?

吉永:例えば高山と富山を合わせた施設名にするなど、地名を組み合わせて発信する、みたいな事例もあるみたいです。地方は地方らしさを活かして、単なるプロモーションではなく「ルートを作る」という発想でデスティネーションとしてブランディングしていく感じでしょうか。

吉永 彩(インダストリーコンサルティングセンター)

大宮:「ここ行きました」って塗りつぶす感覚で観光地を回るのではなく、何度もそこに行きたくなる、という関係性をつくるお手伝いができたら素敵ですね。

吉永:あとは、その地域に住む方の幸せにちゃんと還元されるようなサステナブルな観光ビジネスの実現も、個人的にとても興味があります。

小島:調査結果でも、訪日外国人の興味は首都圏だけでなく地方にも向いていることがわかっているので、今後も戦略を考えていきたいです。

インバウンドの取り込みからグローバルビジネスへ

小島:最後にこれからの展望ですが、できればインバウンドを訪日外国人が日本に来たときだけ掴むビジネスと捉えるのではなく、グローバルビジネスへの入口として捉えて提案していけたらいいですよね。日本市場が縮小していくなか、グローバル視点で成長戦略を考える企業はどんどん増えていますから。

大宮:そうですね。インバウンド施策というと日本に来たタイミングでどれだけ購入してもらえるか、という話になりがちですが、私が大切にしているのは、愛されるブランドに育てることです。1回の商品購入で終わるのではなく、自国に戻ってからも「このブランドいいな、また欲しいな」と思ってもらえるところまで落とし込みたい。日頃からそう思っています。

杉山:「インバウンド」という括りだけではなく、各国の方へのマーケティング、ブランド戦略を、YOMIKOとしてしっかり担います。といえるようになれるよう、これからも頑張ります。

(写真左から)
尹 娜(インダストリーコンサルティングセンター)
小島正子(MDUプロデュースセンター)
吉永 彩(インダストリーコンサルティングセンター)
生方 魁(第5ビジネスプロデュース局)
大宮 愛里(第5ビジネスプロデュース局)
杉山 智明(第5ビジネスプロデュース局)

<参考> 各エリアの傾向