YOMIKO STORIES
日本広告業協会 会報誌『JAAA REPORTS』2024年度の表紙を担当したアートディレクターが語る、わたしらしい「アートディレクター」の現在地
一般社団法人 日本広告業協会(JAAA)が、広告ビジネスの最新動向やトピックスを紹介する会報誌として発行している『JAAA REPORTS』。昭和32年(1957年)11月から発行され、毎号さまざまなテーマの特集や、今知っておくべき広告業界の知識が紹介されています。2024年4月号~2025年3月号はYOMIKOが表紙を担当。そのアートディレクションを務めたブランドアクティベーションセンター 金 燦さんと統合クリエイティブセンター 中村 満里奈さんに、表紙制作の舞台裏や仕事への思いを語ってもらいました。
つくり手の思いを込めた、「ギフト」という通年テーマ
─ 『JAAA REPORTS』の、2024年度の表紙テーマは「ギフト」。お二人が提案して採用されたそうですね。どんな思いを込めたのでしょうか?
中村:私たちつくり手は常に、誰かの心に残るものをつくれたらという思いを持っています。
それだけに、試行錯誤の上、できあがった企画をプレゼンするときは、クライアントにプレゼントを渡しているような感覚があります。おそらくそういうマインドは広告に携わる全ての人に共通すると思い、「ギフト」というテーマをご提案しました。
─ 同誌は月刊発行です。毎月、制作はどのように進めていましたか? 役割分担などを教えてください。
金:表紙デザインは各月の特集を踏まえて企画していたので、特集テーマをお知らせいただいたら2人でブレストして、一緒にデザインのコンセプトや表現を決めました。そこから、デザインの具体化やデザイン作業、色校正などの制作進行は月ごとに交代で行いました。
─ 一見すると「なぜこれがギフト?」と思うデザインもあったので、表紙をめくって目次ページに書かれている“今月のデザインの意図”の解説を読むのが楽しみでした。
金:ありがとうございます。
テーマに対して思いついたことを2人で雑談的に広げていったのですが、正直、アイデア出しは毎回難しかったです。
中村:でも、2人でブレストして、自分では思いつかない発想やアイデアをもらえたので、私はすごく助けられました!
金:それは私もそう!1人だったら煮詰まっていたんじゃないかと思います(笑)
印象に残っている表紙は「韓国料理」と「ネコ」
─ 金さんは、ご自分が制作を担当したほとんどの表紙でイラストも描いたそうですね。担当した中で印象に残っている作品を教えてください。
金:韓国料理のイラストを描いた2024年6月号(No.840)です。
この号は「もはやブームではない ~日本に韓流が根付いた背景とその魅力~」という特集だったので、日本と韓国に共通する文化を考えてみました。それで浮かんできたのが、韓国料理を食べに行った際に、最初におかず(バンチャン)がたくさん出てくることの嬉しさです。
さまざまなおかずを出すことで、お客様が飽きずに、好きな料理をたらふく食べられるようにしているあの文化は、日本の“おもてなし文化”にも通じるものがあり、「ギフト」というテーマにうまく落とし込めたのではないかと思っています。カラフルな料理のイラストを描いている時間もすごく楽しかったです。
中村:私も、金さんが制作を担当した中ではその表紙が一番好きです。韓国料理がグラフィカルに表現されていて、トーンが可愛くて。金さんは絵がとてもお上手です。
金さんが「韓国料理」のイラストを描いた6月号
(左:表紙、右:裏表紙)
目次に記載した表紙の紹介には、韓国と日本のおもてなし文化からも着想を得たことを説明している
─ 中村さんは、ご自分が担当した中ではどれが印象に残っていますか?
中村:「広告を見ないことに課金する時代の広告のあり方」という特集が組まれた2024年10月号(No.844)です。
広告が邪魔、不快と思われがちな現状について考える内容だったのですが、「それでも、ネコのCMってつい見ちゃいません?」という思いがあり、ネコに登場してもらいました。モデルになってくれたのは社員の飼いネコちゃんです。撮影では、食事や歩いているところなど色々なシーンを撮りました。めちゃくちゃかわいくて癒やされました……。
金:私も中村さんが担当した中で一番好きな表紙です。 「もふもふ~にゃあ~」というイメージから少し離れたネコの表情がいいですよね(笑)。
中村:そうですね(笑)。つくり込んでいない自然な表情の方が好感を持たれるかなと思い、この写真を選びました。
ネコのクールな表情が特徴的な10月号
(左:表紙、右:裏表紙)
広告に携わっている者が、“広告を見ないこと”に関する特集を画で表現するアイロニカルな号
─ 1年間の表紙制作を振り返り、感想を聞かせてください。
金:通常、広告の制作チームの中では、アートディレクターは自分1人だけなので、同じ職種の中村さんと組むことで、いつもと違う刺激をもらえて楽しかったです!また、クリエイティブの自由度が高く、生成AIを使ったり、表紙と背表紙に違いを持たせたり、実験的な切り口や見せ方にチャレンジさせてもらえたことも貴重な経験になりました。
中村:私は金さんとブレストして考えを伝えたり、気持ちを共有したりといったこと自体が新鮮でしたね。企画のつくり方も、とても勉強になりました。
『JAAA REPORTS』 2024年度の表紙を一挙ご紹介!
自分の仕事が形になり、風景になり、気持ちを動かす
─ 普段のお仕事についても伺いたいと思います。まずはあらためて、お二人の職種であるアートディレクターの役割について教えてください。
金:多くの場合、制作チームはクリエイティブディレクター、アートディレクター、コピーライター、プランナーなどで構成されます。
その中でアートディレクターの役割は、ひとことでいうと「ビジュアルの責任者」でしょうか。グラフィックデザイナー、イラストレーター、カメラマンといった方々とコミュニケーションを取り、ビジュアルに関するアイデア出しや制作進行、クオリティ管理を担います。
─ お二人は、どのような経緯でアートディレクターになったのでしょうか?
金:私は新卒でYOMIKOに入社して、クリエイティブの部署に配属され、アートディレクションだけでなく、企画やコピーライティングなどさまざまな経験を積む機会をいただきました。
その中で、ブランドや商品の魅力を“ビジュアル表現でどう伝えるか”を考える仕事がすごく面白いと思い、アートディレクターを希望しました。
中村:私は転職してYOMIKOに入社しています。前職はグラフィックデザイナーでした。
その前職で関わったクリエイティブディレクターやアートディレクターが、クライアントに寄り添いながらも、自分の考えや信念を持ってつくり上げていく姿を見て、自分もアートディレクターになりたいと思って転職しました。
─ アートディレクターとして、やりがいを感じる瞬間や楽しい瞬間を教えてください。
中村:思い描いていたものが実際のビジュアルになるとテンションが上がります。
特に、自分が想像していた以上の上がりになるとうれしいですし、一緒に闘ってくれたデザイナーには頭が上がりません。
金:私は、自分が関わったグラフィックが駅や街頭に大きく出て、街の風景になったときが一番アガります。
SNSを通じて世の中の反響を見るのも楽しいですね。私たちの仕事が、こんなに多くの方々の目に触れて、気持ちを動かすことができるんだと思うと感慨深いです。
世の中に刺さる、ポジティブな広告をつくりたい
─ 様々な案件を担当し、忙しい毎日かと思いますが、仕事を効率的に進めるために意識していることはありますか?
中村:自分が仕事のボールを持ったら、いつ頃返せるかを、はやめに相手に伝えるよう気をつけています。効率は苦手分野ですが……。チームにスケジュールの見通しを提示して進めたいと思っています。
金: 1人で抱え込まないように、周りの人に助けを求めることを意識しています。また、企画などを考えるときは、予め「〇時まで」と時間を切るようにしています。そうしないと没頭していつまでも考えてしまうので……。
─ お二人が考える、仕事の現場における「いいアートディレクター」「憧れのアートディレクター」とは?
金:制作全体の責任者であるクリエイティブディレクターのいい相棒、いい壁打ち役になれる人でしょうか…。かつ、得意先や、チームのみなさんに信頼される人が「いいアートディレクター」のように思います。
見た人がポジティブになる表現で、シンプルで太いけど裏には細かいこだわりもある。そんなクリエイティブができるアートディレクターが理想です。
中村:ポジティブで、軽やかで、体力がある人ですかね。どれだけクライアントと向き合えるか、仲間と向き合えるか、表現と向き合えるか。納得するまであきらめない、胆力のあるアートディレクターになりたいですね。
─ これから、仕事でどんなゲームチェンジを起こしていきたいですか?
中村:自分はアートディレクションがきっかけになっていくんだろうなとは思いつつ、正直、これだ!というものが解像度高く見えているわけではなくて……(笑)
自分が好きだったものや原風景、ミーハーさを生かしたゲームチェンジができるとうれしいなと。
─すごく面白そうなテーマですね。金さんはいかがでしょうか?
金:広告はクライアントも商材も多種多様です。
プライベートで鑑賞した映画、音楽など日常のすべてを制作に生かすことができる可能性があることも広告クリエイティブの大きな魅力だと思うので、未経験のクリエイティブにどんどんチャレンジしたいです。
そして私たち個々人のチャレンジが、ゆくゆくはYOMIKOやクライアントの大きなゲームチェンジにつながったらいいなと思っています。これからも頑張ります!
金 燦 (きん さん)
ブランドアクティベーションセンター 第1アクティベーションルーム
アートディレクター / コミュニケーションプランナー
2018年4月に新卒入社し、クリエイティブ局に配属。いくつかの職種を経験後、2年目以降はアートディレクター・プランナーとして活躍中。飲料、サービス、エンタメなど幅広いクライアントを担当。仕事のモットーは「夢中をつくる」
中村 満里奈 (なかむら まりな)
統合クリエイティブセンター 第2クリエイティブルーム
アートディレクター
2023年中途入社。アートディレクターを目指してYOMIKOに入社し、飲料、食品、ほかさまざまなプロジェクトに参加。仕事のモットーは「やりすごさない」