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2020.02.03
近年、商品開発や生産活動でのデータ活用の重要性が高まっており、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が積極的に推進されています。
今現在はまだ過渡期と呼べる段階であり、業界によってデジタル化の浸透度はまちまちです。色々なところで直接話を聞いていると、DXの解釈の段階から三者三様に違いが生まれていて、最終的な課題のスコープが全く異なっている様相が伺えます。
これらDXに対する各社の取り組みが、今後どのようにマーケティングとして帰着していくのか、個人的にも大変興味深いテーマの一つです。
さて、こうした多様なDXにおいて、コミュニケーションをプランニングする側として注目しているトレンドに「モノのサービス化」というテーマがあります。
「モノのサービス化」とは、リアルな商品にデジタルサービスをかけ合わせて、サービス形態をサブスクリプション型に移行にすることだと、概ね理解されています。
この理解は半分正しく、半分は不十分です。
「モノのサービス化」の本質的なインパクトは、モノを使用する人と、モノを製造する人が直結することにあります。決して収益モデルを変えることを指している話ではありません。
もしも想像し難いのであれば、日頃利用しているスマホアプリを思い浮かべるとよいでしょう。プログラマーとアプリ利用者は直結し、ログデータに基づいて日々アプリはアップデートされて、サービスメニューが更新されていると思います。「モノのサービス化」の本質とは、このことと同じ状態を指しています。
使用する人と製造する人が直結するプロダクトの、コミュニケーション・プランニングでは、これまでの常識とは全くかけ離れた抜本的なパラダイムシフトを求められます。
なぜならば、プロダクトの形そのものが日々変化してしまうからです。
極端な話、世界一強力な風が出る能力を持って発売されたドライヤーであったにも関わらず、データアナリストがユーザーの利用傾向を解析した結果、ソフトウェア・アップデートによって、穏やかな風しか出ないよう出力を抑えたドライヤーに変わってしまう、といったこともあるかもしれません。
先日までニュースアプリだと思っていたものが、ある日からクーポンアプリになってしまうこともあるぐらいですから、あながち杞憂とも言い切れないでしょう。
さて、プロダクトの形が変わってしまう世界を目前にして、私達はどうコミュニケーションを設計したらよいのでしょうか。
今すぐ伝えるべき、あるいは中長期的な視野で伝えることができるメッセージとはなんだろう?
そもそも、認知を起点としたDAGMAR(認知→理解→購入のモデル)アプローチは適切なのだろうか?
・・・いくつも疑問が湧いてきます。
こうした世界をまっすぐに捉えた一つの解答の提示が、本稿のタイトルに掲げた、コミュニケーション・プランニングにおけるDX(以降CPDXと表記)であります。
CPDXに大きな示唆を与えてくれるのが、アプリやECなどの、D2Cサービスのプロモーションです。これらのサービスでは、TVCMを用いたマスプロモーションであっても、広告の反応(CPIやn日継続率、ARPPU)に基づいて、サービスの改善にフィードバックしている事例が数多く見られます。
プロモーションの反応が良ければ、ユーザー向け機能として開発リソースを強化し、反応が悪ければ開発リソースを減らす、あるいは別の機能開発に転換するといった塩梅です。
コミュニケーション・プランニングの業務プロセスに置き換えてこのことを再解釈すると、デジタルマーケティングにおけるPDCAサイクルとほぼ同じであると解釈できるのではないでしょうか。
テストセグメントに広告を配信し、ランディングページの導線を改善するかのごとく、プロダクトそのものを変えていくという捉え方です。
たしかに、広告の反応をCPIや継続率で計測している点でも似ていますね。
CPDXでは、まるでデジタルマーケティングのランディングページのように、プロダクトを変化させる前提のコミュニケーション設計という捉え方で構えておくのがよいのかもしれません。
あるいは、全ての機能がパーソナライズされているプロダクトをレコメンドしていく設計、といった考え方もできそうです。
いずれにせよ確かに言えることは、プロダクトの変化の起点となるのは生活者のデータによる、ということです。ここで今一度「モノのサービス化」の本質を振り返りましょう。モノを使用する人と、モノを製造する人が直結する、ということに。
直結しているプロダクトにおいて、モノを製造する人にとってみれば、モノを使用する人のデータは不可欠です。たとえば特定の利用傾向がある人の性別や年齢といった基礎的なデータであっても、製造プロセスの想像力を働かせるには不可欠なものでしょう。
直結したモノですから、コミュニケーション・プランニングにおいてもそれは等しく同様であり、コミュニケーションにおいてはセグメントの意識やインサイトが不可欠といえます。
これらを合わせて設計するならば、CPDXに求められるコミュニケーションフレームワークとは、プラットフォームのアフィニティやキーワードといった、セグメント最小単位の意識やインサイトを捉え、正確に製造する人までフィードバックなされるフレームワーク、と理解できます。
将来のデジタルテクノロジーを予測することはむつかしいですが、ここで今現時点の技術で用意できるコミュニケーションフレームワークとして表現してみると以下のようになります。
従来型のDAGMARとCPDXが異なるポイントは、各アフィニティの粒度で、認知〜意向のスコアを取得し、広告配信のキャンペーン設計を用いて、ユーザーデータをプロダクトにフィードバックできる設計になっていることです。
また、各アフィニティの粒度でスコアを取得することで、対象となるアフィニティにとって必要なメディアを把握することができます。
まだ不透明な部分は多いものの、3rdParty製のCookieはマーケティング利用することができなくなることが想定されますから、ターゲットとメディアの関係性を精緻に把握することは、より一層重要性が増すのではないでしょうか。
おそらくはもっとより良い技術がこの先現れてくるのだとは思いますが、プランニングする側としては、なによりも生活者の意識をいかにしてDXへの取り組みに届けていくかというあたりに興味を持ちながら、これからもよりよいコミュニケーションを設計していきたいと思っています。
立田 真一郎
営業戦略推進局 デジタル戦略推進部 担当部長 デジタルストラテジスト
2014年読売広告社入社。
最先端のデジタルとストラテジックプランニングを活用した、企業のマーケティングのデジタル化支援業務を担当。事業戦略支援、プロモーションプランニング、CRM設計、DMP導入〜MA活用など、幅広い領域においてマーケティングマネジメントを実践。