SPECIAL CONTENTS

Reshape Our Life「次の時代に向けて“つくりかえる”生活者」

2020.07.21

コロナ禍における生活者の変化と兆しを掘り下げる オリジナルレポートを発行しました。

「緊急事態宣言を発出いたします」。
4/7に7都府県、4/16には全国エリアに新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が発令されました。生活者はステイホームという未曽有の事態を体験し、5/25の宣言解除後も“ニューノーマル”のもと、コロナ前とは異なる生活スタイルで日々を過ごしています。

生活者視点で未来の兆しを捉える研究・プランニングを行う都市生活研究所・生活者フォーサイト研究ルームでは、今後のビジネスのヒントとすべく、このたびのコロナ禍での生活者の意識や行動に関するレポートを発行しました。本レポートについて、ルーム長の小島正子と、ルームメンバーの西野千菜美と小関美南の3名で、その狙いや概要をお伝えします。

コロナ禍における「生活者の動きや兆し」を考察。新たな環境に自らを適応させるための工夫や創造を行う生活者を「つくりかえる生活者」と名づけ、6つのつくりかえカテゴリーで提示している。

今回のレポートのポイントは、コロナ禍のなかでも「前を向く生活者の力強い姿」に着目したこと。

小島: 弊社は3/27から全社的に一気にテレワークが進みました。
仕事や生活など環境がガラっと変わって、皆戸惑いがとても大きかったと思いますが、生活者研究を主務とする私たちだからこそ、大きく変化する生活者をリアルタイムで見つめ、そこに次のビジネスの兆しをいち早く見出すチャレンジをしよう、とも思いました。ルームからレポートを出そう、と皆さんに提案したのが3月末だったと記憶しています。まずは私たちルームメンバー自身が一生活者として、自分の意識や行動についてメモを持ち寄りましたね。

西野:メモを俯瞰して、その奥底に共通するインサイトを掘り下げていくと、「人って、こういうときにも前を向く強さがあるんだな」と改めて感じました。
例えば、マスクをはじめ品切れした商品も、手に入らないならければ自分でつくろうという発想に発展し、むしろ材料やプロセスなど「自分でつくれる」ことが分かると、サバイバル本を読んだ時のような、なんとかやれる安心や自信につながっていく、という話がありましたね。

小関:未曽有の事態に翻弄されながらも目の前の環境に適応し、そこから何らかのポジティブなフィードバックを求めていこうとする生活者の底力を感じましたし、この底力に焦点をあてることが、今後のビジネスのヒントにつながると思いました。

小島:政治やビジネスの世界でも、そうした転換を促す動きがありましたね。
ニューヨーク州のクオモ知事が、コロナ後は人にも環境にも優しい生活を実現しようと呼びかけた“Build it back better(BBB)”、米ノースウエスタン大学ケロッグスクール教授フィリップ・コトラー氏の“New Normal”などでしょうか。
どちらも単語としては新しいものではなく、例えば“New Normal”は2007-2008年の世界緊急危機の時に生まれた言葉ですし、“Build it back better(BBB)” は2011年の東日本大震災でも聞かれた単語です。パラダイムシフトが求められる環境に直面すると、人々はこうして意識や行動・時間を前に進めてきたんだな、と感じます。

西野:レポートのタイトル「Reshape/つくりかえる生活者」という言葉は、そうした「生活者の底力」を端的に表現するためですよね。ガラガラと変わっていく社会環境を目の当たりにしながらも、生活者は新たな日常に適応していくために生活を再構築・創造していく。そこにこそ、ビジネスをつくっていくヒントが隠されているはずだと考えています。

小関:その意味では、定量調査レポートではなく、あえて定性レポートという形を選択したのも必然でしたね。

小島:定量調査の良さももちろんあるのだけど、そこで丸まってしまうリアリティやディテールの積み重ねから見えてくる大事な気づきや共感がビジネスのヒントになる点を大事にしようと、メンバーで話し合いましたね。生活者自身は気づいていない・意識してないことを掘り起こして、その意味を解き明かしながら可視化することが私たちのミッションであり、腕の見せどころ。ルーム全体の仕事のスタンスにもつながっていくことですが、生活者を見つめる独自の視点を、今後も大事にしていきたいと思います。

生活者フォーサイト研究ルームのルーム員が、一生活者として、自らが体感したことや気づきをもとに、コロナ禍における「生活者の動きや兆し」を考察。次の時代の発想ヒントを得られるよう、あえてリアリティやディテールを大事にしたレポートしている。

レポートは6つのカテゴリーで構成

小島:私たち自身の体験を出発点に、一般生活者の意識や行動事例を広く厚く集め、そこでみられた事象をレポートでは6つのカテゴリーでまとめました。

小関:私はコロナ前、例えばカフェなど物理的に作業場所を変えることで集中したり発想したりといったことを無意識にしていました。それがステイホームでできなくなって、はじめて「あー、脳をサードプレイスに連れ出したい」という自分のニーズを明確に意識しました。自宅内にすべての機能や自宅外の場が果たしていた役割がなだれこんできて、どうやって切り替えようかと思ったとき、「③時間の使い方をつくりかえる」に記載した「脱力リフレッシュ」「没頭リフレッシュ」などは、意識的に脳を切り替える手段として有効だなと改めて感じました。在宅勤務は定着していきそうなので、このマーケットの今後が引き続き気になりますね。

西野:「⑤購買行動をつくりかえる」の事象に載せた「よりよい社会のために、お金を使いたいニーズ」も、面白いですよね。過剰在庫を抱える企業や地元コミュニティでの応援消費ももちろんですが、在宅勤務や時差通勤・特別ボーナス支給など自社の社員を大事にする企業への共感など、いい社会に向けて、生活者がお金の使い道や企業選定の視点が変える兆しが、次の時代を予感させます。

在宅勤務時代の新しいチームワークや成果の発揮にトライする、という裏の目的も実はありました。

小島:数々の定量調査レポートが発行されるなか、定性レポートスタイルで発行するのはチャレンジングな試みでしたが、社内やクライアントのみなさまから「自分もやっていることがあった」「非常に共感できる」「ビジネスを発想する刺激材料になる」など、評価の声をいただいています。
また、ルームのみなさんには明確にはお伝えしていませんでしたが、在宅勤務という新しい働き方のなかで、チームワーク構築やルームのパフォーマンス・成果を引き出すという裏の目的も実はありました。

小関:直接集まってブレストしたいというもどかしさを何度か皆さんと共有しましたが、それでも結果的にはオンラインで完結しました。オンラインだからこそ、お互いに明確に言葉やメモにして大事なことを逃さず語るなど、ニューノーマルならではの創意工夫で成り立ったレポートと言えるのではないでしょうか。

小島:皆さんのお役に立つレポートを出しながら、チームとしての能力もストレッチできたら言うことなしですね。緊急事態宣言は5/25にて全国で解除されましたが、生活者研究チームとしては、引き続き生活者の意識や行動を自らも含めて見つめ続け、新たな気づきを皆様に提供していきたいと考えています。ぜひ、今後の動きにもご期待いただきたいと思います。


左から、
小島 正子/2005年読売広告社入社。ストラテジックプランニング局やR&D局を経て、現在は生活者研究を主務とする。プランナーとしては、食品・飲料メーカーを中心に担当。この数年は生活者研究のほか、リクルート活動支援のためのオリジナルプロジェクトも主導しており、新卒学生採用のための企業コミュニケーション戦略にも詳しい。

西野 千菜美/コンサルティングファームを経て、2010年読売広告社入社。食品、トイレタリー、流通、物流まで幅広く、得意先企業の商品開発、ブランディング、コミュニケーション戦略立案に携わる。2019年より、都市生活研究所へ。近年は「次世代の購買行動研究」「Z世代に関する研究」に従事している。

小関 美南/慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2016年読売広告社入社。ストラテジックプランナーとして、自動車メーカー、コンプレックス商材、女性向け商材など、様々なカテゴリの新商品開発・戦略プランニングなどに携わる。2019年より都市生活研究所に在籍。認知科学の研究視点を活かし、身体とその周辺に潜むささやかな物事を拾い集めながら、メタ認知する日々。