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2020.10.22
YOMIKO都市生活研究所では、若者研究の一環として、Z世代の研究を行っています。
次世代の購買行動やコミュニケーションを探るために、産業能率大学小々馬ゼミとともに、定期的にディスカッションを重ねています。
コロナ以降、大学ではオンライン授業体制がとられ、依然としてステイホームが続く状況の中、いまZ世代の大学生たちは日々どのように過ごし、この状況にどう対応していこうとしているのか。
ソーシャル・ネイティブと言われているZ世代なら、このコロナ禍も、SNSやオンラインを駆使して上手につながっているのでしょうか。それとも・・・?
Z世代ならではのコミュニケーションの工夫や楽しみ方についてディスカッションしながら、今後のコミュニケーションのヒントを探りました。
今回は、緊急事態宣言下の4月27日と、外出自粛緩和後の8月3日に実施したオンライン・ディスカッションの内容をベースにお伝えします。
緊急事態宣言下の4月、自宅で過ごす時間が増えたことで、オンラインツールやコンテンツに触れる機会が劇的に増えたことは誰もが体感されたことと思います。それはZ世代も同じでした。
ただし、Z世代に特徴的だったのは、単にコンテンツ自体を楽しむだけではなく、コンテンツを起点に、みんなで楽しめる「場」を作り出そうとしていることです。
たとえば、このような例が見られました。
「朝ドラ」「オンライン動画」を起点に、家族や仲間と一体感を感じられる時間をつくりだす。まさに今、彼らが欲しているのは「お茶の間」的な“場”なのです。
そしてそのお茶の間は、 自宅の居間(リビング)に限らず、友人とのオンラインの場にも広がっています。
さらに、自粛期間中に大流行した「オンライン飲み」も、気軽にみんなが話せるお茶の間になるように工夫されていました。
※人狼ゲームとは:心理ゲームの一種で、だれがうそつき狼なのかを当てるために、みんなで会話をするゲーム。
〈4月の過ごし方から見えてきたこと〉
友達と直接会えなくなり、自宅で家族と過ごす時間が増えた4月。「だれかと一緒に過ごす方法をつくりかえる」必要が出てきたからこそ、「どうしたら、ここにいるみんなで一緒に楽しめるか」を軸にコンテンツを選び、参加者一人ひとりが一緒に楽しむための工夫をしている。そんな姿が見られました。
周りのみんなのことを考え、だれもが楽しく参加できる“フェアな場”をつくろうとする、まさにソーシャル・ネイティブな一面が発揮されているといえます。
4月の緊急事態から4カ月が経過した8月、都市生活研究所では再び学生とのディスカッションを実施。
4か月ぶりの学生とのディスカッションで、開口一番出てきたキーワードは「オンライン疲れ」。特に大学生は、授業や手続きの全てがオンライン、登校の機会がない夏季休暇に入り、自粛期と同様のステイホーム状態が依然として続いており、オンラインでのコミュニケーションに疲れを感じている。
驚いたのは、「意外と、みんなとつながらなくてもいいかも、と思い始めました」という学生の一言でした。実際、Instagramをやめた、という学生も。
ソーシャル・ネイティブで積極的にSNSを駆使する世代と言われているZ世代に、コロナ以降、変化がみられたことがわかります。
たとえば、緊急事態宣言下によく実施していたオンライン飲み会やおしゃべりはほとんどしなくなったといいます。
わざわざ予定や環境を整えなければいけない―そんな用意周到なつながり方ではなく、
今はもっと気兼ねなく、手軽に、思い立った時に話せるようなつながり方を求めています。
その代わり、今まで以上に「地元」の友達とのつながりを大切にしたり、本当に仲の良い友達とだけ電話をしたり、より近しい人との関係を密にしようとしている姿が見られました。
〈8月の過ごし方から見えてきたこと〉
4月との大きな違いは、「オンライン疲れ」が出てきたこと。
それを機に、あらためて人とのつながり方をつくりかえ始めたのが8月の特徴でした。
ソーシャル・ネイティブゆえに、周りの人のことを気にしながら過ごしていたZ世代が、あらためて、自分に必要なものを見定めるようになった。その結果、「地元」や「電話」といった、「自分にとって本当に必要な人・大切な人」との密なコミュニケーションを重視するようになったわけです。
みんなとつながらなくてもいい。でも、親しい人とはもっと密につながっていたい。だからこそ、近しい人と気兼ねなくつながることのできる場がほしい―ここでも結局、「お茶の間」が必要とされているのです。
ただし、緊急事態宣言の頃の「お茶の間」とはちがいます。
4月時点では「とにかく楽しくみんなで過ごすためのお茶の間」でしたが、8月以降は「自分にとって本当に必要な人と気兼ねなく過ごせるお茶の間」へ。「お茶の間のつくりかえ」が必要になってきたということです。この変化は、本来的なお茶の間への原点回帰ともいえます。
そんな“新しいお茶の間”をつくる上でカギになるのが、「同時性」。
集まることよりも、オンタイム/リアルタイムで「同時に」楽しむことを大事にしている。
離れているからこそ、気兼ねなく、思い立った時にパッとその瞬間を一緒に過ごせることに価値を見出していることがうかがえます。
「みんなで一緒にZoomでゲーム」よりも「近しい人と電話」。
「みんなの顔を見ること」よりも、「近しい人の気配を感じること」。
彼らの意識の中で、人とつながることの意味が変わりつつある。
この数か月で、Z世代は人とのつながり方を着々とつくりかえていたのです。
4月(緊急事態宣言下)と8月(外出自粛緩和後)の特徴には、それぞれ、ソーシャル・ネイティブなZ世代だからこその知恵が発揮されている姿が見られました。
緊急事態宣言下の4月は、みんなといかに楽しく過ごす場をつくるか、ということを考えて工夫していたのが、8月になると、あらためて、自分に必要なものを見定めるようになった。それによって、つながり方も、みんなと、ではなく、自分にとって本当に必要な人との大切な時間を過ごすための場をいかにつくるか、という方向へと変化していきました。
このように、4月と8月では、行動に変化はあるものの、そんな変化の中でも一貫して変わらないのは、家族や友人のみんなで過ごせる場=一体感を求めているということ。オンライン飲み会での人狼ゲームも、同時に観始める試合観戦も、電話しながらの買い物も、まさに「一体感」をつくりだすための工夫でした。
Z世代は、単にオンラインだけでつながることではなく、自分にとって大事な人の気配を感じながら、「気兼ねなく一緒に過ごせるお茶の間」を、リアルでもオンラインでも自らつくりだしている。
このような「場」の形成につながるようなコミュニケーション設計やコンテンツ設計が、企業やブランドとZ世代の関係性を築くカギになるのかもしれません。
YOMIKO都市生活研究所では、
産業能率大学小々馬ゼミの協力を得て研究を進めています。
西野 千菜美
都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム
コンサルティングファームを経て、2010年読売広告社入社。
食品、トイレタリー、流通、物流まで幅広く、得意先企業の商品開発、ブランディング、コミュニケーション戦略立案に携わる。2019年より、都市生活研究所へ。近年は「次世代の購買行動研究」「Z世代に関する研究」に従事している。
小関 美南
都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2016年読売広告社入社。
ストラテジックプランナーとして、自動車メーカー、コンプレックス商材、女性向け商材など、様々なカテゴリの新商品開発・戦略プランニングなどに携わる。2019年より都市生活研究所に在籍。認知科学の研究視点を活かし、身体とその周辺に潜むささやかな物事を拾い集めながら、メタ認知する日々。