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Reshape Our Life「リセットから立ち上がる新しいライフスタイル」

2021.04.21

コロナによる生活者の変化と兆し レポート

2020年1月15日に新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されてから1年あまり。
年間を通じたマスク着用、ソーシャルディスタンス、在宅勤務、テイクアウトやデリバリー、オンライン〇〇、不要不急の外出を減らすなど、私たちの日常生活には大きな変化が起きました。
イレギュラーと思っていた暮らしが日常になったいま、生活者の意識や行動はどのように変化しているのでしょうか。都市生活者の行動や意識に関する新たな兆しを発見し、未来への変化を分析する生活者フォーサイト研究ルームでは、1年を経た生活者の今を見つめ、そこに浮かび上がってくる未来の兆しをレポートにまとめました。その内容をルーム長の小島 正子が解説します。

“臨機応変のくらし”を超え、生活者は 「未来のくらし」 をデザインしはじめている

──今回のレポートは第二弾ですね。まずは、第一弾との大きな違いを教えてください。

小島:2020年4-5月に発出された「緊急事態宣言」をきっかけに、日常は大きく変化しました。急激な社会や日常の変化に戸惑った生活者が大変多かったと思いますが、困惑しながらも同時に、目の前の状況を何とか乗り越えようとして知恵や工夫を発揮していました。2020年5月に発行した第一弾レポート「つくりかえる生活者」では、そんな生活者の持つ「社会や環境の変化を乗り越える適応力」に着目し、その姿から見える未来の兆しをレポートしました。

ただ一方で、その生活者の創意工夫は“当面の対応”であり、いずれコロナ以前の生活が戻ってくるという無意識のもと行われていたように思います。しかし1年が経ちイレギュラーが日常として根づいてきたいま、生活者はコロナ以前の既存の社会の枠組みや常識を見直し、自身や社会が快適なライフスタイルや消費を生みだしはじめています。第二弾レポートでは、「リセットから立ち上がる新しいライフスタイル」というタイトルのもと、そんな新たな生活をデザインしはじめた生活者の姿を取り上げています。2021年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)のテーマも「THE GREAT REST」と“リセット”という単語が使われています。世界的にも新たな未来へと流れが変わる転換期にあるのでしょう。

──この1年で、生活者のなかに「当面のための創意工夫をする→新たに生活をデザインしはじめる」という変化があったわけですね。

小島:例えばテレワークで働き方が変わったことで、生活の時間も生活者が主体的にコントロールできるようになってきました。この1年は、そうした「主導権が生活者側に移る」という出来事が多く蓄積された期間だったと思います。その結果、生活者が「自分の生活は自分でデザインできる」ということに気づき、主体的に自分や社会の新たなスタンダードを本格的に作りはじめた、ということだと考えています。

兆しを大局的にまとめるために、定性的なレポートスタイルを選択

──第一弾に続き、今回も定性的なレポートスタイルですね。

小島:コロナによって生活者の意識行動が次のフェイズへと変化している様子を大局的に可視化する方がビジネスをつくっていくうえでのヒントになると考えました。また具体的な事象に基づくリアリティやディテールの蓄積も、大きな気づきを得るヒントとなります。そこで、事象をベースにしながらも大局的に新たな流れをまとめる分析がもっとも分かりやすいと考え、定性的なレポートスタイルを選びました。リアリティがありながら、同時に大局的に俯瞰するなかで「生活者が潜在的に考え行動していること」を、どういう着眼点と視点で掘り出して皆様に提示できるか。そこが生活者研究専門チームの腕の見せどころです。
もちろんルームの研究活動としては、定量調査でスコアとして確認していくことも重要と考えています。生活者を見つめる独自の視点を大前提に、適切な手法を選び取りながら今後もユニークなレポートを出していきたいと思います。

2つの着眼点と、6つのカテゴリー

──レポートの概要を聞かせてください。

小島:レポートの大きなスタンスともいえる着眼点は2つです。(図1)

(図1)

小島:まず、1つ目の着眼点「リセットから立ち上がる新たな兆し」。
先ほどお伝えした話と重なりますが、新たな生活スタイルがベースになったいま、既存の意識やスタイルをいったんリセットし、生活者はゼロベースから新たに「いまの自分たちに合った生活」を立ち上げはじめています。今回のレポートは、その様子を主軸に据えています。

そして、2つ目の着眼点「コロナがブーストするソーシャルデザイン」。
成長しない経済、進む超高齢化、過疎化する地方、増加するシングル世帯、、、日本にはさまざまな社会課題があり、その課題解決に向けた対策が進んでいますが、その動きがコロナによって生活をデザインしなおす動きと合流し、「より良い未来に向けたビジネスの動きや芽」が出てきていることも見逃せないポイントと考えています。例えば、「2年分のデジタルトランスフォーメーション(DX)が、わずか2カ月で実現した※」というのは分かりやすいケースですね。
※2020年4月、サティア・ナデラ米マイクロソフトCEOの言葉

──「未来のくらし」を新たにデザインしはじめた生活者の動きと、コロナ以前からはじまっていたより良い未来に向けたビジネスの動きや芽が合流して、大きなうねりになっているということが着眼点、というわけですね。

小島:まさに、生活者と社会が、既存の常識から脱し、ありたい未来を自ら描き出す意志を持ち始めた、ということだと思います。そのなかから立ち上がる未来の兆しを、私たちは次の6つのチャプターに分類してまとめました。(図2)

(図2)

小島:どれも面白い兆しなのですが、例えば、Chapter5の【関与できる“余白”が愛着を生む】は個人的にも大変興味深くみています。実はいま、自宅で魚をさばいて楽しむ人が増加しており、You Tubeでも魚のさばき方を動画で見せるチャンネルが人気だそうです。これまでは「切り身」の購入だけだったことを、「まるごと一匹」という素材そのものの購入にすることで、“さばく”というプロセス体験も含めたコト消費にしているわけです。つまり、あえて「余白」を残したものこそ、いまの生活者にとって意味や価値があること、と読み解けます。先ほどお話した通り、コロナによって「主導権が生活者側に移る」という出来事が多く起こり、その結果、生活者が「自分の生活は自分でデザインできる」ということに気づきました。そうした積み重ねの結果が、「余白」への関心になっているのだと感じます。

──いかに完成度が高いパッケージ商品か、を競ってきた作り手側にとっては、大きな時代の変わり目になりそうですね。

小島:これまでは生活者を「消費者」としか見ていなかったわけですが、「生産者」としての側面に光を当ててみると、これからの商品づくりやコミュニケーションを作っていけそうですよね。

──ほかのChapterにも俄然興味が湧いてきました。

このレポートには、こうした、次の時代のビジネスヒントをたくさん詰め込みました。最後には、6つのChapterから導き出す、これからのキーワードも3つ提示しています。ぜひ全編を通してご覧いただき、大きな時代の流れと、そこから掴める兆しをヒントにしていただきたいと考えています。

小島 正子

都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム ルーム長

2005年読売広告社入社。ストラテジックプランニング局やR&D局を経て、現在は生活者研究を主務とする。プランナーとしては、食品・飲料メーカーを中心に担当。この数年は生活者研究のほか、リクルート活動支援のためのオリジナルプロジェクトも主導しており、新卒学生採用のための企業コミュニケーション戦略にも詳しい。