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人生100年時代の新しい消費価値観「Well-ME消費」

2023.10.20

人生100年時代、そしてVUCA時代と言われる現代。当社は、「YOMIKO都市生活研究所関西フォーラム2023」にて、 “長い人生に対する価値を重視した自己投資”の新しい消費観「Well-ME消費」を提唱しました。本稿で詳しく紹介します。

人生を長期的な視点で考える生活者

現在、日本では人口減少が進み顧客獲得が困難になるなか、一人の顧客から得られる売上が重要になっています。そこで、出てきた考え方が、「LTV(=Life Time Value)」。このLTVの重要性が増してきているのは、皆さんご存じのことかと思います。「顧客生涯価値」ともいわれるLTVですが、ポイントはひとりの顧客から企業が得られる収益を増やすために、企業が顧客との関係を「長期視点」で考えるようになっていることです。また、生活者自身も人生100年時代を迎え、一人ひとりの自分の人生を長期的な視点で考えることが当たり前になってきています。
そこで私たちは、企業が「長期視点」で生活者との関係を考えるように、生活者も「長期視点」で商品・サービスで選んでいるのではないかと考えたのが研究の出発点でした。

急速に拡大する“ライパ”を重視した自己投資消費

私たちが注目したのは、コロナ以降急速に増えている「自己投資」消費です。

例えば、スポーツジムや健康食品などの「ウェルネス・健康市場」、投資信託や株式購入などの「金融市場」、英会話講座やリスキリングなどの「キャリア市場」ほか、自身はもちろん、周囲でもこれらの自己投資消費が増えていることを実感している方も多いかと思います。今回、その理由を探るために、様々な聞き取り調査を実施すると、

・『筋肉ムキムキになるためではなく、あくまで老後まで自分らしく生きるためにジムに通っている』(30代)
・『社会人初めてのボーナスは長い人生のために投資信託を購入しました』(20代)
・『スキルアップをしてこれからも自己実現できる選択肢を広げるため、大学に通い始めています』(50代)


のように、近年急速に増加している自己投資は単なる投資に留まらず、“長い人生に対する価値”を重視していることがわかってきました。

私たちはこの、“長い人生に対する価値”を、「コスパ」や「タイパ」という言葉に習い、「ライフパフォーマンス」を、ここでは通称「ライパ」ととらえました。

この「ライパ」を重視した自己投資の代表例である、スポーツジムや健康食品がもたらす価値を考えてみると、短期的には体力や筋力、運動能力があがる「身体的な価値」があります。しかしもっと長い人生で考えると、理想の体型になることで自己肯定感が上がる「精神的な価値」や、健康寿命が伸びることでより長い時間を自分らしく生きていけるようになる「自己実現の価値」など、短期的も長期的も含め“長い人生に対する価値”を与えてくれる商品・サービスであることがわかります。

人生100年時代という「長期視点」で商品・サービスを選び、関係を築いていくという、これまでの消費とは全く違う「ライパを重視した自己投資」こそ、新しい消費観の潮流です。

Well-ME消費とは

これまで説明してきた長く先の見えない人生という長期視点で価値をもたらす商品・サービスを選ぶ「ライパを重視した自己投資」という新しい消費観。私たちは、この長期視点で自分の人生のウェルビーイングを豊かにしていく生活者の消費観を「Well-ME消費」と命名しました。

では、なぜこのWell-ME消費は増えてきたのでしょうか。

Well-ME消費 増加の背景

増加の背景を探ると、先述の「人生100年時代」で人生を長期的な視点でみるようになったことで、商品やサービスにも、長く役立つことを求めるようになりました。また、不況や大災害・老後問題など、先行きが不透明で将来の予測が困難な時代を表す「VUCA時代」により、蓄えるようにもなりました。そして、直近のコロナ禍によって、より一層今後の人生に何があるかわからないという気持ちが強まり、自己投資意識も高まっています。

このように、「長く」そして「先の見えない人生」に価値ある効果を求めるようになったことで、Well-ME消費が急速に増加していると考察しています。

私たちは、よりこのWell-ME消費を詳しく捉えるため、業界・商材に縛られず、様々な市場を俯瞰して事例分析、大規模なソーシャルリスニングを実施。そこで3つのポイントでWell-ME消費を分析しました。

① 日常に溶け込むWell-ME消費

1つめの分析ポイントは、Well-ME消費は「健康ウェルネスや金融市場など、これまで例にあげてきたような限られた市場でのみ発現するのか?」ということです。

事例収集を行っていくと、私たちが当初想定した以上に、様々な商材でWell-ME消費の兆しがあることがわかりました。

例えば不動産市場における住まい選びの際、資産価値以上に自分好みの空間にし続けられ、長い人生で、結婚・出産・老後などライフステージの変化に合わせた間取りで自由に変えられることを重視する傾向が見られます。

さらに、日常に溶け込んだWell-ME消費の兆しとして、入浴から就寝という1日の大切な時間を守りながら、就寝中にヘアケア習慣を続けられるシャンプーなどが注目を浴びています。

このように投資という少し重いイメージとは異なる日常生活のなかに溶け込んだ多くの兆しを見つけることができることから、Well-ME消費はあらゆる市場にチャンスがあると考えます。

② ヒットの秘訣は成果が出るまでの過程

2つめの分析ポイントは、「様々な市場に拡大中の先行事例はなぜヒットしたのか?」ということです。

その秘訣を探るべく、「ライパを問わない自己投資」と、新しい消費観「WellーME消費」である「ライパを重視した自己投資」の違いに着目して分析を行いました。

まず、ライパを問わない自己投資といえば、辛いトレーニングを「乗り越えないといけない」筋トレや、贅沢を「我慢しないといけない」資産形成が浮かぶと思いますが、いずれも共通しているのは、投資の成果つまり“リターン”までは「我慢」が多いということです。

その一方で、Well-ME消費を行っている方々に話を聞いてみると、『自己投資って気持ちいい!』や『自己投資をしているこの時間も気分があがってわくわくする!』など投資の成果が出るまでの過程もポジティブに楽しんでおり、「その時間もリターンのひとつ」と捉えていました。しかもその楽しみ方は、決して無理をしている様子はなく、あくまで自然体で投資成果がでるまでの時間をも楽しんでいました。

③ 投資の原理で明らかになったWell-ME消費へのスイッチ

3つめの分析ポイントは、「我慢が多い」と思われていた従来の自己投資に対し、「成果がでる過程も楽しめている」Well-ME消費。この違いを、意図的に生み出すためには、どうすればいいのか?ということです。

今回の「投資」という基礎原理に立ち返ると、Well-ME消費の仕組みを明らかにすることができました。

下記の図は投資状況を、「リターン・コスト」の時系列で整理したものです。 実線が「自己投資のリターン」、点線がお金や時間などの「自己投資のコスト」、そして、黒字化し始めるタイミングを表す「損益分岐点」です。

この原理に、WELL-ME消費を当てはめたとき、投資を始めてから損益分岐点になるまでの時間は、まだ「自己投資による成果がでていない時間」です。

下の図のように、「自己投資による成果がでていない時間」もムリなく楽しめる確信が持てるかどうかがWell-ME消費の大きな特徴であり、「成果が出ていない過程も無理なく楽しめる」ことを確信できることが「Well-ME消費へのスイッチ」です。

Well-ME消費のマーケティングメリット

これまで述べてきたように、Well-ME消費では自己投資をしている瞬間もポジティブに捉えるので、成果が出ていない過程も楽しめる確信が持てれば、Well-ME消費へのスイッチが押されます。それにより損益分岐点を、より”右側に”おけるようになります。

例えば、成果が出ていない期間が長くても、投資活動自体を気長に取り組みます。また、人生という長期的な視点で投資コストを回収できれば良いと考えているので、こちらもWell-ME消費へのスイッチが押されることで、例えば「長い目でみれば安い!」のように、多少コストが高くても問題だとは思いません。

以上2つの効果を踏まえると、Well-ME消費を捉えることで、「長く繰り返し使ってくれやすく」、競合消費よりも「多少価格が高くても、購入してくれる」傾向があり、LTVの向上という企業側のビジネスニーズに対しても、答えうる消費と捉えることができます。

Well-MEスイッチは「過程の楽しませ方」

「成果が出るまでの時間を無理なく楽しめる」というWell-MEスイッチの押し方はなんでしょうか。私たちは、数多くの事例分析で明らかになった、成果が出るまでの「過程の楽しみ方」にここでは着目します。

・ゆる~く気長に

1つめの事例は「健康、教育、不動産など」離脱率が高く、ビギナーにとって参入障壁の高い商材で効果的な「ゆる~く気長に」という楽しみ方です。

コロナ禍以降、急速に市場拡張しているスポーツジム業界ですが、なかでもいつでもどんな格好でも、ゆるく取り組める「低単価24時間ジム」が急速に伸びています。

そもそもトレーニングは、過程が楽しい以上にストイックさが否めない自己投資的な側面があります。運動をしたくてもこの意識の高さが壁となって離脱率が高く、新規顧客の定着がしづらいために市場を広げにくいという問題点がありました。

そのなかで、この「低単価24時間ジム」は、気軽に気長に取り組めるジムとして新たなユーザー獲得戦略を確立。これまではなかなか取り組めなかった運動による自己投資を楽しめる人が増えて市場拡張をしています。

・のびるが見える

2つめの事例は食品や、コモディティ商品など継続利用が少なく、リピート層の少ない商材で効果的な「のびるが見える」という楽しみ方です。

コモディティの代表と称される緑茶市場におけるトクホの緑茶が自社開発の健康サポートアプリと合わせて提供している事例をご紹介します。

特定保健用飲料は、摂取により当該特定の保健目的が期待できる飲み物です。そのため即効性や効果を実感しづらく、続きづらい自己投資です。 そのためリピート層を確保し続けることが難しいという問題点がありました。トクホの緑茶は取組過程を可視化することで、成果が積みあがっていくさまが楽しめるサービスを整備し、リピート利用者が増えて市場拡張に成功しています。

企業・商材ごとに最適なWell-MEスイッチを発見し検証する「Well-ME診断」のご提供

今回は2つの事例をご紹介しましたが、私たちは多くのケーススタディから業界や商品、サービスによって多種多様なWell-MEスイッチの押し方があり、常に社会や市場は変化していくものと考えています。

そこで私たちの幅広いケーススタディ知見を活かしながら、企業・商材ごとに最適なWell-MEスイッチを見つけ出す「Well-MEスイッチ発見調査」とスイッチの押し方の受容度をはかる「検証ワークショップ」の二つのステップからなる「Well-ME診断」を開発しました。

まず、「Well-MEスイッチとは何か」について、調査フォーマットを使った定量調査から洗い出します。次に、洗い出した仮説の受容度を、ターゲットに参加してもらうワークショップを実施することで、「Well-MEスイッチの押し方」も含めて精度高く抽出していきます。

以上、大きく分けて2つのステップで、「Well-MEスイッチ」と「その押し方」を見つけ出し、これらを基にした商品開発・コミュニケーションまでプランニング・実装いたします。

さいごに

長く先の見えない人生という「長期視点」で商品・サービスを選びはじめた生活者の新しい消費観「Well-ME消費」。

この消費観を捉えることで、コモディティ商品の付加価値やLTV向上、新商品開発、事業開発など皆様の商品、サービスの新しい価値発見にお答えできると考えております。

岩下 響

関西支社

関西マーケット デザインルーム