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オールターゲットの居心地のよさはつくれる。「武蔵野市立 ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」の場の作り方【次世代サードプレイス・ラボ vol.3】

2023.11.09

レポートの概要

 2023年の次世代サードプレイス・ラボでは、Vol.1で提示した以下の2つの仮説をもとに、次の時代の生活者や社会の理解につながるヒントとなる次世代サードプレイスへ取材。


次世代サードプレイスの仮説

  1. 次世代サードプレイスはただの居心地のいい場所ではなく、 人間的な居場所であり、生活者のインサイトと社会の兆しが 表出している場所ではないか。

  2. 生活者が主観的に、自分が人間らしくいられるサードプレイスを見つけはじめているのではないか。


 Vol.2に続きVol.3となる今回は、開館から10年以上が経ち、東京都武蔵野市周辺の人々にはおなじみの複合施設となっている「武蔵野市立 ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」(以下、武蔵野プレイス)を訪ねた。性年代のしばりなく、あらゆる人が日常的に利用する施設を取材することで、誰にとっても居心地のよい、本当のオールターゲットのあるべき姿を明らかにしたい。

■お話を伺った方

武蔵野プレイス館長 平之内 智生さん(2023年3月取材時)

1.駅前に佇む、市民の場

 武蔵野プレイスは2011年に開館した、東京都武蔵野市・武蔵境駅前に所在する複合機能施設。倉庫跡地の再開発として、地域から需要のあった図書館をメインする公共施設として建設された。「生涯学習支援」「市民活動支援」「青少年活動支援」の機能も併せ持ち、開館から10年以上、継続して多くの地域住民に利用されている。
 リピート利用も多く、かつ他の取材先と異なる“公共施設”という側面にも注目すべく、今回次世代サードプレイスの取材・研究をさせていただく運びとなった。オールターゲットである地域の公共施設として、どのようにあらゆる人の居心地の良さをつくっているか、導き出したい。

(武蔵野プレイスホームページより)

 武蔵野プレイスに向かうと、まず大きな楕円の窓を備えた地上4階建の建物と対峙することになる。地域の図書館が持つ従来のイメージとは異なる印象を受ける。そして1階の入り口から入館すると、天井の高い広々とした空間に迎え入れられる。本棚やカフェ、スタジオなど各機能に明確な仕切りはなく、曲面の交わりをもってゆるやかに部屋(コーナー)が配置されている。ドームのような空間は柔らかい雰囲気をもたらし、立ち入ると身体が包まれているような感覚がしてくる。

 所々で人が行き交う音や、カフェの音・香りなども、部屋の連なりや吹き抜け、ガラスドアを通して微かに感じられる。静寂がもたらす緊張感はそこにはなく、程よいひと気が、空間設計とも相まって安心感を与えているように感じられる。

 平之内館長は、次のように話す。

ふらっと入った時に、図書館っぽくない、ということを大事にしています。それは、図書館を目的とする人だけが来る施設にしたくないからです。ふらっと、「この施設面白そう」と思ってくれた人もウェルカムです。なので、そんな第一印象になれていたら私たちは成功できているかな、と思います。(平之内館長)

 このような特徴を持つ武蔵野プレイスがオールターゲットに居心地のよさを提供できている理由は何なのだろうか。

2. 外でも中でも、ゆるやかにつながる

 武蔵野プレイスは前述の通り、武蔵境駅前の再開発として建てられた、地域に根ざした施設である。実際、利用者の半分以上は武蔵野市民だ。この“地域に根ざした公共施設”という特徴が、まず心地良い居場所を生み出す土台になっていると考えられる。知人でなくとも共通項を意識せざるを得ない地域住民同士の関係、そして色々な人が居合わせる前提で成り立っている“公共の場”という性質が、互いの気配を程よく感じる空間を生み出しているはずだ。

 このゆるやかなつながりというのは、武蔵野プレイスのコンセプトである「アクションの連鎖が起こる施設」にもリンクしていく。気づき、知り、参画し、創造する、その過程でまた新たに気づく…というような、興味を深掘り課題解決へと導く動線が用意されているのである。ひとつは、武蔵野プレイスの情報発信によって気づいた事象を、自主的に図書資料やデータベースで深く知り、その事象と関連のある市民活動に参加し、最終的には自身が発表する(新たな知識を「創造する」)といった流れを、武蔵野プレイスのあらゆるリソースを用いて実現できる、というソフト面での動線。利用者の中にはアクションの連鎖を経て、市民活動を企画・主催する側になる方もいるという。

 サードプレイス研究の視点から考えると、必要なシステムや設備に加えて、武蔵野プレイスを継続的に利用したくなるような、安心して自分の行動を遂行できる空間づくりも重要である。この安心につながる武蔵野プレイスの考え方が、「居心地の良さは人によって違う」というものである。

その人らしい、その人の居心地がいい、場所は人によって違うと思っていて、静かな方がいい、賑やかな方がいい、囲まれている方がいい、色々タイプがあると思っています。この施設はそういった色々な人の好きな場所を、館内の色々な場所に配置して対応できるようにしています。(平之内館長)

 この考え方に基づき、ここでこれをしなければいけない、ここでこれをしてはいけない、などといった制限するルールは必要最小限にしている。館内ではできるだけ“禁止”という言葉を使わないようにしているという。本を読む場所ひとつ取っても、ロビー付近の賑やかな場所や静かな地下など、ゆるやかにゾーニングされた施設内で利用者自身の選択で行動することができる。1章でも言及したように、2階にある子どもや子育て世代向けの書籍コーナーは吹き抜けで1階のカフェとつながっており、他の閲覧スペースよりも様々な音が感じられる環境になっている。そのため利用者は過度に遠慮することなく、読み聞かせなど自由なスタイルで本を楽しむことができる。

 こういったゾーニングなどのハード面での動線を工夫することで、武蔵野プレイスが目指す姿がある。

自分が発信している意識がなくても、ところどころ吹き抜けになっていたり、学習スペースや会議室がガラス張りになっていたりすることで、そこに居合わせた他の人は「何かやっている」と感じることができます。自分たちも、他の人にとってみればひとつの環境。「あっ、〇〇しているんだ」と気づくことで繋がったり触発されたり。他人の活動が朧げにわかる、ゆるやかにつながれる環境を目指しています。(平之内館長)

 制限するルールを持たず利用者自身が感じる居心地のよさや興味に委ねた運用が、それぞれのアクションと居場所を生み出し、武蔵野プレイスを継続的に利用したくなる居心地の良い場所=サードプレイスとしていると考えられる。

3.“守る”ためのルール

 一方で、武蔵野プレイスには制限のあるルールが存在する場所がある。それは、青少年のみが利用できる「ティーンズスタジオ」である。

(武蔵野プレイスホームページより)

                                               

 中学生(一部小学生)〜20歳の年度末までという年齢制限で青少年のみが空間や設備を利用でき、それ以上の大人はフロアに立ち入ることはできても「ティーンズスタジオ」には入ることができない。制限しない武蔵野プレイスにおいてこのような場所が設立された経緯には、青少年の居場所についての課題があった。

青少年の居場所がなかったわけではないですが、青少年が夜に複数人で集まっていると、大人との間で誤解が生じてしまうこともあります。フードコートを利用されることが多いと思いますが、お金が掛かりますし、夜遅くまでお店が開いていると逆に親御さんは安心できなかったりする。それなら管理されていて安心できる場所をつくれば、子どもたちの居心地のよさもつくれるし、親御さんも「(武蔵野)プレイスのあの場所にいるなら」と安心できるのではないか、と計画段階の初期から構想していました。(平之内館長)

 子ども自身と親、そして地域住民の三方の不安を解消するには、誰でも利用できるオープンな場に青少年を含めることではなく、「青少年のみが利用できる」クローズな場をつくることが有効だったのである。当人は自身のために用意された場所を堂々と利用できる。親は公共施設が運営していることと利用者像がわかることに安心し、近隣住民の不安も解消される。

 コロナ禍以前の実際の使われ方としては、勉強をしても、ゲームをしても、ごはんを食べてもOK。電子レンジやポット、Wi-Fiも用意され、それぞれが思い思いにこの場所を利用する。こちらもルールらしいルールはなく、気になる様子があれば職員が声を掛けにいく。放課後から19時頃までのピーク時、多い日で120〜130人の利用があった。(取材時(2023年3月)は、コロナ禍以前の状況に徐々に戻していけるよう、検討されている最中であった。)

 保護者や学校に守られながらも、外に出れば居場所を失いがちな青少年であるが、彼・彼女らのために必要な制限と場所を設けることが結果あらゆる人に安心をもたらし、武蔵野プレイス自体の安心感や居心地の良さにも寄与しているのである。

まとめ. オールターゲットの居心地のよさとは

 武蔵野プレイスから学べる居心地の良い場所のつくり方は、まず、「居心地のよさは人によって異なる」 という前提を、運営側が意識することである。“オールターゲット”とひとくくりにするのではなく、“たくさんの個人”として利用者を認識することが重要だ。その前提の上で、さらに気をつけるべきポイントが以下の3つである。

  1. すべての人にオープンかつ公平である
    (誰でもウェルカム、特定の人だけにルールを課さない)

  2. ゆるやかなつながりは、ソフト・ハードの両方で設計する
    (自主的に動けるシステムや空間を両立することが、他者とのゆるやかなつながりを導く)

  3. 優先度の高い(守るべき)利用者のためには、それ以外の利用者に制限を掛ける
    (施設全体ではなく、部分を利用して)

 すべての人にとって居心地の良い場所を目指すとなると、互いの我慢によって成り立つことをまず想像してしまうかもしれない。しかし武蔵野プレイスのようにゆるやかなつながりを保つためのソフト・ハードでの工夫や、守るべき利用者を守るための制限を設けることで、利用者に我慢や過度な配慮を強いることなく、それぞれにとって居心地の良い“オールターゲットのサードプレイス”を提供できるのである。

■編集後記

 図書館然とした図書館が好きで、学生の頃から国立や都立の大きな図書館に通っている自分にとって、武蔵野プレイスはカルチャーショックな場所だった。実際に訪ねてみて、私のように静かに読書をしたい人も、心地よいざわめきを感じながら過ごしたい人も受け入れてくれる、あの建物の面構え通りどっしりと懐の深い、図書館という言葉には収まらない複合施設、まさに“プレイス”であった。そして武蔵野プレイスでは自分がうろちょろしながら本を読んだり、読まなかったり、している姿を容易に想像できた。
このネット時代、リアルな場に行くことの意味や価値については、運営側、利用者側、様々な立場の人が考えていることであると思うが、やはりそこでしか感じられない雰囲気や自分の気持ちの揺れ動き、アルゴリズムなどない予期せぬ出会いがまずあると思う。場所と人とが出会うことで生まれる物語のシナリオと余白を、オリジナリティを持ちながら、普遍性も併せて設計できるかが場のつくり手に求められていることなのだと、武蔵野プレイスを取材させていただき改めて実感した。

菊川 晴子

統合クリエイティブセンター

第1CRプランニングルーム