YOMIKO STORIES
2024.06.21
地域・都市における個人の“居場所”を考える(2)―「良質なカオス」が生まれる場所が「居場所」になる
2024年3月19日、SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)で開催されたYOMIKO主催の私のアイデンティティと場所からビジネスを考えるビジネスカンファレンス「Meets iBASHO 〜くらしに根付く、これからの居場所を考える〜」。第一部では「地域における居場所づくり」をテーマに3人の専門家が議論しましたが、第二部では「これからの都市部の暮らしにおける居場所のつくり方を探る」として、MIRAI INSTITUTE株式会社 代表の小柴 美保氏、株式会社まめくらしの代表取締役を始め、他2社の共同代表を務める青木 純氏をお迎えし、その活動とともに「いかに暮らしに根付いて発展するコミュニティをつくっていくか」という意見が交わされました。
コミュニティから作る都市部における「居場所」
コロナ禍がきっかけとなり起こった社会変化を「場」という視点から分析し、誕生した新しいコンセプト「iBASHO」。自分のアイデンティティ(identity)と場所が組み合わさることで、自分にとって居心地のいい特別な「居場所=iBASHO」になるという概念で、2023年7月に株式会社SIGNING、株式会社環境計画研究所とともに『iBASHOレポート〜私のアイデンティティと場所からビジネスを考える〜』という研究レポートを執筆し、発表しています。
カンファレンスセッション2では、そんな居場所づくりのなかでも「これからの都市部の暮らしにおける居場所づくり」をテーマにディスカッションが行われました。
セッション2に登壇した小柴氏が代表を務めるMIRAI INSTITUTE株式会社は、働き方の未来の実践としてシェアオフィス『MIDORI.so』(みどり荘)を営んでいます。
MIDORI.soの一つは中目黒にあるツタに覆われた建物で、1階には大家さんが居住しており、2階と3階、をシェアオフィスとして利用しています。
MIDORI.so中目黒
MIDORI.soの一つは中目黒にあるツタに覆われた建物で、1階には大家さんが居住しており、2階と3階、をシェアオフィスとして利用しています。
小柴氏は「働く時間は1日8時間。大半の時間を働いて過ごすことになるので、どうせ働くなら楽しく豊かでありたい」という思いからMIRAI INSTITUTEを立ち上げ、その思いを実践するためにMIDORI.soを営んでいます。シェアオフィスのメンバーは国籍・仕事・趣味・嗜好もまったく異なる方々で「そういう人々が集まって一緒に過ごすことで、働き方の未来や多様な可能性を追求しながら楽しく働けるようになることを目指しています」と小柴氏はいいます。
もちろん単に「箱」を作っただけでは、そういう場所にはなれません。MIDORI.soは、そもそも建物に惚れ込んだ小柴氏はじめとしたスターティングメンバーが大家さんにお願いしたところ、「若い人が面白いプロジェクトを立ち上げるのであれば安く貸すけど、その代わり片付けやリノベーションをお願いする」ということで始まった場所でした。ペンキ塗りにも業者の力は借りず「ペンキ塗りをやりたい人」を募集して集まったメンバーが後のシェアオフィスメンバーとなり、箱づくりはもちろん、“居場所”としてのコミュニティカルチャーを形成していったそうです。
小柴 美保氏
運営の特徴は3つあります。1つは「Our rule is no rule」というもので、あえて厳しいルールや決まりごとをつくっていないこと。各人の大人としての配慮や優しさに委ね、誰かを排除したり居心地を悪くしたりする決まりごとで縛るのではなく、「みんなが気持ちよく働けるのであればいいよね」というno ruleの精神を大切にしています。
もう1つは、コミュニティオーガナイザー(CO)を置き、メンバーの方々と話しながらコミュニティを醸成していく雰囲気をつくっていくこと。あえてリーダーシップを発揮するのではなく、前に出ることは少ないながらも、そういう存在がいることでMIDORI.soに集うメンバーの気持ちに余裕が生まれます。
最後に「見返りを求めない運営」を心がけていること。「これをしてあげるから、あれをしてね」ではなく、「誰かが困っていたら自然に助ける」というカルチャーを作り、ポジティブな体験が積み重なることで「『居場所がある』という思いが生まれるのではないでしょうか」と小柴氏は話します。
またオフィスにはラウンジを設け、メンバー同士のコミュニケーションを促進したり、イベントを開催して新しいユーザーを招いたりなど、すべての人に「開放」しているという点も大きなポイントです。小柴氏は同様のシェアオフィスを他に渋谷、永田町、馬喰横山の3カ所に展開し、それぞれの街の特徴を生かした形で運営して、働く人同士の“化学反応”を促しています。
ヤンキーの地・池袋が「悩みを打ち明けられる場所」に
もう1人の登壇者の青木氏は、その独創的なプロデュース力を共同住宅、飲食店、公園・ストリートといったパブリック領域や日本のさまざまなローカルで発揮している実践者です。「大家」という事業は単なる不動産・建物オーナー業と思われがちですが、青木氏は「創造性を発揮して地域とともに“育っていく”場を作り上げること」を重視し、実際に練馬区で「青豆ハウス」という賃貸物件を運営しています。
青豆ハウス
青豆ハウスは練馬区民農園の隣に位置するメゾネット型共同住宅で、現在7世帯が暮らしています。竣工は2014年なので、青豆ハウスが誕生してから10年が経過。コロナ禍の2年間を除いて毎年夏祭りを開催しており、「それは住民たちが自分たちでできることを企画して、地域の子どもたちを招いてフリーマーケットやイベントを開いたり、落語会を開催したり、住民と地域が集う場をつくっています」と青木氏は説明します。通りがかった人が「ここはどういう場所なの?」と尋ねると、地域の子どもが青木氏に代わって説明してくれるなど、地域に溶け込んだ賃貸住宅となっています。
青豆ハウス
「この場で近所の人と交流が生まれることが大切だと思っています。いま日本の都市部では挨拶がなくなっていますが、当たり前に挨拶をすることで顔が見える“ご近所さん”になっていきます。それは子どもたちにとっても安心感につながりますし、将来大人になった時に『都市部でこういう地域をつくっていきたい』と考えるようになると思います」
そんな青木氏がもう1つ手掛けるのは、生まれ育った池袋におけるプロジェクトです。池袋は日本有数の大繁華街ですが、かつてはさまざまなヤンキー漫画の舞台として登場するなど、都市イメージは決して芳しいものではありませんでした。青木さんもそんな池袋が好きではなかったそうですが、2016年にリニューアルオープンした南池袋公園の企画に携わり、その実績を基に池袋駅東口から続く「グリーン大通り」等を舞台にした「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」という官民連携事業に採択されたことがきっかけで、これまでにない新しいイメージの池袋づくりに関わるようになります。
青木氏は「街そのものを公園化」することを目指し、池袋にルーツのあるサンシャイン劇場の舞台の廃材や無印良品の商品化のなかで出てくる端材を活用し、まちの人とDIYして制作した「ストリートファーニチャー」を設置。ここでは日常の延長線にある特別な風景が日夜誕生しています。
ストリートファーニチャー
普通の市場だと値が付かず、捨てられてしまう花を花束にして通勤中のビジネスパーソンに販売する花屋さん。タバコのポイ捨てが減るように「タバコの代わりにシャボン玉を吹こう」と提案するシャボン玉KIOSK。ユニークなのは、自分の悩みを聞いてもらう逆スナックです。
逆スナックの様子