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子育て世代の価値観と消費が変わるリライフモーメント

2020.12.21

都市生活研究所の生活者フォーサイト研究ルームでは、生活者研究の一環として、「ライフイベントがもたらす価値観と行動変化」に着目した研究を行っています。
結婚や子の誕生、就職やリタイアなど、ライフイベントを経験されている方は多いでしょう。私たちの研究から、こうしたライフイベントを経験することで、実は生活者のなかにある潜在欲求が表出し、価値観や行動・消費が大きく変化することが分かってきました。実際、昨年度テーマとして取り上げた「自宅購入」というライフイベントでは、マイホーム購入をきっかけに“自分自身のなかに眠っていた理想の生活”を初めて自覚し、それが消費行動へもつながっていく様子が明らかになっています。

今年のテーマは「子育て世代のリライフモーメント」

今年度は、「子育て(誕生~小学校入学あたり)」を研究テーマとして取り上げてみます。
このテーマに着目した理由は、いくつかあります。

① 様々なライフイベントの中で値観変化・消費スタイル変化が最も高い(図1)
図1は、各ライフイベント経験者(1年以内)をベースに、「当該ライフイベントがきっかけで価値観や消費スタイルが変化した」方の比率をまとめたものです。「子供の誕生」は、生活者にとって、自身の価値観や消費スタイルが変わる最たるものと言えます。私たちの別の調査データでは、すでに子育てを卒業した世代に比べて、現在子育てをしている世代の方が、「子育てによって価値観や消費スタイルが変化した」と感じる人が多いことも分かっています。子なしの人生も普通の選択肢となってきたいま、あえて「子供を持つ」選択をし、その意味を意識しながら日々を送っている現代の子育て世代ならでの感覚と感じます。

(図1)

②マーケットサイズが大きい(図2)
少子化ではあるものの、2019年時点でも年間で170万人以上のママパパが誕生しており、誕生から小学校入学までの各年度を積み上げると、のべ1500万人以上のマーケットボリュームがあります。

(図2)

③子育て世代の意識や感覚が、10-20年前とは変化している(図3)
20年前の親世代と比較し、子育て方針や関与度がかなり変化している様子が見て取れます。平成生まれが子育ての中心世代になりつつあるいま、改めて子育て世代のツボをアップデートしておく必要があるのではないでしょうか。

    (図3)

子育てをトリガーに浮かび上がる、子育て世代の価値観

さて、子育てというリライフモーメントをトリガーに、「子育て世代」はどのような価値観を自覚しはじめるのでしょうか。子育て方針にフォーカスしてご紹介しましょう。

まず、いまの「子育て世代」に特徴的ともいえる意識、その1つが“未来が読めない”と感じていることです(図4)。調査データでは9割のママパパが『自分の子供が大人になる未来は、どんな世の中になっているか想像しにくい』、『仕事をしていくうえで必要なスキルは、今後変わっていくと思う』と回答しています。

      (図4)

みなさんもメディアなどで「AIで消える職業ランキング」といった特集をご覧になったことがあるでしょう。2011年8月、米デューク大学の研究者であるキャシー・デビッドソン氏がニューヨークタイムズ紙のインタビューで「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」という予測をし、波紋を呼びました。例えば10年前にはなかった「YouTuber」「ドローン操縦士」といったものから、国際的な資格になっている「情報セキュリティマネージャー」など新たな職業が既に誕生しています。ママパパたちは自身も社会人であり、こうした時代の変化を大変敏感に感じ取っているようです。

そして不透明で変化の早い時代のなか、現代の子育て世代の大多数が「子供の可能性を広げてあげるのが親の役目だ(94.0%)」「将来が読みづらい時代なので、子供自身に考える力や決める力をつけさせたい(94.7%)」と考えています(図5)。一方で、「子どもの将来は、ある程度親が方向づけてやるべき」と思う子育て世代は6割を切っていることから、レールを敷いてあげるのではなく、見えない未来のなかで、幸せな人生を選び取るため「自分の手で生きていく力を育む」ことを大事と考えるママパパが多いことが分かります。

    (図5)

そうした「自分の手で生きていく力」をつけさせるために、現代のママパパが重視する子育てポイントはなんでしょうか(図6)。

「創造性・クリエイティビティ」といった具体的な能力以上に重視されているものとして、上位に並ぶのは、多様性、感受性、自主性、好奇心、自立、自律。子育て世代が自分の過去や実体験を振り返り、いま仕事をしていくうえで“子供時代に身につけておくべき(身につけておいて良かった)”と感じるポイントがハッキリと表れています。日ごろはなかなか考える機会のない「子供時代に身につけておくべき能力」について、子育てをトリガーに子育て世代が明確に意識しはじめる様子が見て取れます。

      (図6)

こうした子育て世代の意識と価値観は、実際の消費行動にも表れています。私たちが実施したデプスインタビューでも、例えば「自分自身は、子供時代にもっと親から多様な視座を得られたら、違った人生を送られたのではないかと思っている。だから夏休みの旅行は、あえて多民族国家のシンガポールを選び、リトルインディアなどを観光することで子供に多様性を体感させている」といった具体的な話がいくつも出てきました。

この表出した価値観は、子育て方針や子供周りの消費だけではなく、子育て世代自身の生活スタイルや消費にも影響を及ぼしていることも明らかになっています。そのカテゴリーは、「教育」はもちろん「旅行」「家電」「自動車」「ファッション」「レジャー」など、多岐に渡っていることも興味深いところです。それぞれのカテゴリーや商品ごとの直接的なインサイトがもちろん大事ですが、エッセンスとして実はピリリと効いてくる「リライフモーメントによる表出価値観」、これをあわせて分析することで、より戦略が核心をついたものになってきます。リライフモーメントを通じて、引き続き生活者をより理解する視点を皆様に提供していきたいと考えています。

ライフイベントがトリガーとなり、 生活者の価値観や行動に大きな変化が起こる「リライフモーメント」

考えてみると人生で経験するライフイベントは数多くあります。就職、結婚や子供の誕生・進学・就職や独立、マイホーム購入、転職やリタイア、離婚、親との死別…。ライフイベントは一見、その瞬間にだけ大きなお金が動くタイミングと解釈されがちですが、生活者のその後の判断や行動にまで影響を与える価値観表出が起こる瞬間と捉えると、これまでとは違った生活者インサイトを紐解くヒントが眠っていると捉えることができます。
子供の誕生以外にも、ライフイベントは数多くあります。ライフイベントをトリガーとする生活者の興味深い変化について、私たち生活者フォーサイト研究ルームでは引き続き研究を行っていく予定です。


「子育てリライフモーメント調査」概要
①インターネット定量調査
●30-40代男女/共働き・専業世帯/首都圏・関西圏/長子0歳~小2
●サンプル数:3,000人
●調査期間:2020年11月
②パーソナルデプスインタビュー調査
●30-40代男女/共働き・専業世帯/首都圏/子供年齢0歳~小4
●サンプル数:20人
●調査期間:2020年10-11月

小島 正子/都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム ルーム長。2005年読売広告社入社。ストラテジックプランニング局やR&D局を経て、現在は生活者研究を主務とする。プランナーとしては、食品・飲料メーカーを中心に担当。この数年は生活者研究のほか、リクルート活動支援のためのオリジナルプロジェクトも主導しており、新卒学生採用のための企業コミュニケーション戦略にも詳しい。

関 紀和/都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム所属。2012年読売広告社入社。R&D局を経て、2019年より都市生活研究所へ。入社以来 生活者研究を主務とし、これまで、高感度生活者研究、受療行動・健康行動研究、シニア研究に携わり、製薬、医療機器メーカーなどの案件を担当。また、この数年は「Civic Pride」に関する研究に従事しており、自治体との共同研究なども行っている。

日浦 康雄/都市生活研究所 生活者フォーサイト研究ルーム所属。コンサルティングファームを経て、2012年読売広告社にストラテジックプランナーとして入社。​​マーケティング戦略立案から、マス・デジタル広告はもちろん、​イベント・プロモ、CRMまで、幅広い統合プランニングを担当。2017年から現在まで、博報堂DYMPのデータビジネス開発セクションも兼務し、大手PFとの新規ビジネス開発に従事。2019年から都市生活研究所に在籍。​大学時代より一貫して探求を続ける哲学的視点に基づく人間研究×ビジネスデザインをライフワークとしている。