YOMIKO STORIES

進化する公共空間と企業の新たな関係 大阪御堂筋「いちょうテラス高麗橋」と「まちごと万博」の共通点とは?

~「YOMIKO GAME CHANGE FORUM 2024」レポート第4弾~

 2024年11月21日、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー「TOKYO NODE HALL」にて「YOMIKO GAME CHANGE FORUM 2024」が開催されました。これは、YOMIKOが2024年に掲げた独自の価値創造モデル「コミュニティクリエイション®」に基づいて様々なプレイヤーをつなぎ、事業課題や社会課題の解決を図る事例を紹介するイベントです。
本フォーラムからのレポート第4弾として、一般社団法人demoexpo(デモエキスポ) 理事/プロデューサー 今村 治世氏と、YOMIKO都市生活研究所 中村 賢昭が登壇した「進化する公共空間と企業の新たな関係 |生活者と企業で活かしあう新しい公共空間のあり方」についてのレポートをお届けします。

都市の多様なリソースを活用し、社会や企業が抱える課題を解決する アーバンストラテジスト

「YOMIKO GAME CHANGE FORUM 2024」のメインセッションPart.2‐1のセッション冒頭、「アーバンストラテジスト」というユニークな肩書を持つ中村はその役割を次のように紹介しました。

アーバンストラテジスト 中村 賢昭

「アーバンストラテジストの定義は、空間や場、コミュニティなど都市の多様なリソースを活用しながら、社会や企業が抱える課題を解決する戦略を考え、実行するプロフェッショナルです。本日はまず、私がコペンハーゲンに留学をしてその方法論を学んだ『Gehl Architects(ゲールアーキテクツ)』の事例をご紹介したいと思います」

 中村によれば、同じ博報堂DYグループの企業である同社は、アーバンストラテジー領域のパイオニアとして、世界中の「都市」の社会課題解決に取り組むコンサルティング会社であり、25年間にわたり300以上の都市と協業してきたといいます。

「Gehlが取り組んだ社会課題解決の代表例のひとつが、ニューヨークタイムズスクエアの再編事業です。同社はニューヨーク市や地域コミュニティの協力のもと、調査分析を行い、一時的に広場化する社会実験も行われながら、車中心の道路から、歩行者中心の広場へと転換させる戦略づくりを支援してきました。結果、慢性的な交通事故や、治安と衛生の悪化に悩まされていた同エリアでは『劇的に課題が改善した』と回答した市民が74%にものぼりました(中村)」

 さらには歩行者中心の広場に変更以降、同エリアの商店の売上増加に寄与するなど、停滞していた地域経済の活性化においても顕著な成果を挙げたといいます。このように、Gehlは世界各国の都市で健康問題や経済活性化、孤独問題などの解決に都市デザイン、都市戦略の専門家として取り組んでいると中村は述べました。  

ニューヨークタイムズスクエアの再編事業の経過写真 Gehl Architectsより写真提供

  次に、中村はこの潮流は日本でも同様であるとして、公共空間を活かしながら社会課題の解決を目指す、YOMIKOの取り組みを紹介しました。最初に紹介されたのは、2023年の秋に新国立競技場隣にオープンした東京都立明治公園の事例です。中村は、明治公園の維持管理を担う「TOKYO LEGACY PARKs」に出資し、事業参画することで公園内のメディア開発、販売・管理、にぎわいを生み出すイベント企画の運営を行っていると話しました。

「明治公園では、民間企業との価値共創に積極的に取り組んでいます。2024年のゴールデンウィークには大手飲料メーカーのサントリー様と共同で『MEIJI PARK SKY PICNIC』を開催、メインイベントとして『のんある PICNIC FES by SUNTORY』を実施しました。豊かな自然の中、ノンアルコール飲料を手に家族や友人たちと過ごす時間は、良質なブランド体験にもつながります。つまり、今まで一方的に働きかける『ターゲット』だった消費者が、共に課題を解決し、価値を向上する『仲間』になったんですね」

公共空間を様々な課題解決につなげる 「いちょうテラス高麗橋」

 また、中村は新しい公共空間としていま特に注目しているのが「STREET」だとして、YOMIKOが関わってきた大阪御堂筋のプロジェクトを紹介しました。

「現在、御堂筋大通りの完成から100周年の2037年を目指して、ひとつの壮大な都市再編事業が進んでいます。まずは側道を段階的に封鎖し、最終的には全面的に広場へとつくり変えていく。これは『通り過ぎるだけの導線』だった大通りから、様々な主体がつながりあい、共に新たな価値をつくりあげるための新たな『プラットフォーム』に変わることを意味していると考えています。」

 その一例として紹介されたのが、公共空間そのものをつくるプロジェクト「いちょうテラス高麗橋」(施主:一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク 企画・プロデュース:YOMIKO 設計・施工:ティーハウス建築設計事務所)への参画です。御堂筋沿いにパークレット(歩行者のためにつくった、ベンチや机、植栽などを設けた空間)を設置し、ワーカーと居住者の憩いや交流、地域防災の向上、地域産業の活性化など、ひとつの空間が様々な問題解決につながる試みに取り組んでいると中村は述べました。

 都市間競争の激化と、居住人口・来訪人口増への対応、そして、大阪万博とその後に向けた機運の向上・持続。それらの課題を乗り越えながら、大阪を代表する上質なにぎわいの創出や交流促進を図っていくこと。

中村は、今後も様々なステークホルダーの思いや強みを活かし合いながら、御堂筋の公共空間を舞台に新しい価値をプロデュースする「コミュニティクリエイション®」に挑戦していきたいとして発表を締めくくりました。

大阪万博というボーナスタイムを 最大限に活用する組織「demo!expo」

 続いて事例紹介をおこなったのは、demoexpo今村 治世氏。自身もプロデューサーを務める今村氏は、同組織を次のように紹介しました。「われわれは2025年の大阪・関西万博をきっかけに、街からデモンストレーションを仕掛けるプロデューサー&クリエーター集団です。万博は、日本の各地域にとってある種の『ボーナスタイム』みたいなもの。だからこそ、この期間に街のいろんな人たちと新たな企画をつくるチームを立ち上げてもらいたいんです。『demo!expo』は、それをしっかりと使いこなすための組織だと思ってください」

一般社団法人demoexpo 理事/プロデューサー 今村 治世氏

 demo!expoが目指すのは、街を丸ごとパビリオン化する「まちごと万博」。万博は元々、建物(パビリオン)の中に展示された技術を見に行くものですが、今村氏は今回の万博で本当に価値を持つのは「街」そのものだと思うと話します。

「まずは、街自体をひとつの万博会場に見立てるんですね。そこに住む人と訪れる人との間に対話や交流が生まれ、そこから新たなビジネスやPRの発信が生まれていく。建物ではなく、街側にパビリオンが生まれるイメージですね」

 そのためにdemo!expoでは、万博を肴に酒を飲み、肩書を外してアイデアを交わせる「EXPO酒場」をつくったり、関西大学と「EXPO大学」というプラットフォームをつくり、多くの学生をプロジェクトに巻き込んだりしているのだといいます。

「万博関係者には、会場をつくっている若手の建築家やデザイナーさんがたくさんいるんですね。そういった方々もプロジェクトに巻き込んで、一緒に街に広げていく試みをしています。例えば、貸し切りにした電車の中をパビリオンに見立てて演劇や音楽をおこなう『EXPO TRAIN』。あるいは、大阪駅前の歩道にステージをつくり、ストリートカルチャーのパフォーマンスをする。はたまた、梅田のビルに『悩むことは楽しい』をテーマにした学生向けのフローチャートを張り巡らせたり。本当にいろんなことをしています」

 今村氏によれば、これらの活動のすべては万博の事務局や地元の経済界としっかりパートナーシップを組んだ上で進めているのだといいます。そこで大事にしているのは、やはり街に住んでいる人たちの「思い」や「声」。あらゆる活動は、それらをより大きく広げるためのものであることを常に意識していると述べました。

「万博というのは実験の機会だからこそ、周りの企業や団体と一緒に『何か』をつくってみることが大事なんですね。それが、大都市のど真ん中に”やぐら”や音楽ステージ、紙芝居小屋を出現させることにつながっていく。大阪は公共の動きが大きい街なので、ぼくらもその波に乗って動いている感覚です」

demo!expoをいつでもどこでも入ってこられる組織にしたいという今村氏。「でも、やろう。どんなことがあっても」を合言葉に、今後も様々な方々とタイアップをしていきたいと展望を述べました。

公共プロジェクトを進めるカギは 大きな視点で「利他的」な考え方をすること

 後半は、「民間企業×公共空間の可能性」をテーマに両名によるクロストークが行われました。そこで中村氏から提示された一つ目の質問が「民間企業にとっての『公共空間』の魅力とは?また、『公共空間』を活用するメリットとは?」でした。

 以前、大阪府で働いていたという今村氏は「公共空間は公務員がつくるもの」と考えている方が多いものの、本当は全員が自分ごととして考えるべき場所だと思う、と述べました。「公共空間はみんなでつくるもの。逆に言えば、『みんなで遊んでいい場所』こそが公共空間だと思っています。一社だけでは解決できない課題解決や都市のブランディング、万博も含めてオープンに披露できる場所なんですね」

 特別な課題に対して多くのチームを組み、多種多様な人たちに見てもらえること。それが最大の魅力でありメリットだと思うと今村氏は述べました。

 続いての質問は、「民間企業が公共空間を活用する上でのポイントや施設は?」。今村氏は、この点において大事なのは「翻訳ができる人」がチームにいることだと思う、と応えました。「私は、自治体には自治体の理屈やルールがあり、街には街のルールやカルチャーがあると思っています。つまり、『つくり手』だけで進めてもダメだし、権利の関係者だけで進めてもダメ。いろんな側面を持っているメンバーが、腹を割ってしゃべれるチームを組めるかどうかが大事だと思います」

 さらに今村氏は、利己的な考えだけで進めるとどこかで壁に突き当たるのが公共プロジェクトだと強調します。「利益を考えることはもちろん大事なのですが、もう一段階大きな視点で『利他的』な考え方をすることが何よりも大事です。そして最後に、話をする上でより重要なのは組織よりも『人』だということですね」

自社のコンセプトにマッチした場所を選べば 互いの価値向上につながる

 それに対して中村氏は、新しい公共空間には「目指すべきビジョン」があるべきだと思うと述べました。企業やブランドが自身のコンセプトとマッチした場所を選ぶからこそ、お互いの価値向上にもつながっていく。その意見に賛同した今村氏は、ステークホルダーは各々見ているものが違うため、「心の声」をちゃんと聞けるかどうかをとても大事にしている、と述べました。

「私たちはいつも『街の人の声をファーストに』と言っているんですね。そうなると、いろんな人からいろんな意見が飛び交うものですが、そこを突破することで初めて新しい公共空間の活用ができる気がします(今村氏)」

 先述した「EXPO TRAIN」の企画も、提案したのは若い電車の運転手さんだったといいます。「『demo!expo』の参加者でもあるその方は、今後、電車が移動の手段として選ばれなくなるのでは?という危機感を感じていました。万博をやるからには新しい電車の使い方をしたいとdemo!expoに相談し、電車の中で未来と過去を行き来する演劇をやったり、ストリートで演奏していた音楽を電車内で発信したりしました。そういう意味でも、ステークホルダーの思惑が合うかどうかはとても大事だと思います(今村氏)」

 最後に、来場者へのメッセージとして両氏は次のように話してセッションを締めくくりました。

「今回の万博は、大阪以外の方々にとっても新たな実験を仕掛ける『ボーナスタイム』であることをぜひご認識いただきたいと思います。特に大阪という街は、人と人のつながりを上手く使うことで物事がバッと進んだりする。そんなふうに、万博期間中に『人ベース』でどんどんアクションを打っていただくことで、その後のビジネスにつなげていただきたいと思っています(今村氏)」

「様々なステークホルダーと繋がりながら、生活者や社会のために新たな価値を創り、より良い未来を叶えていく。そのための舞台として、公共空間を積極的に活かしていきましょう。自社だけでは解決できない課題を抱えていらっしゃる企業のみなさんは、ぜひわれわれと一緒に公共空間で仕掛けていけたらと思います(中村氏)」

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<登壇者プロフィール>

今村 治世氏

一般社団法人demoexpo 理事

1986年生まれ、大阪育ち・大阪在住。プロデューサー。行政(大阪府、2025年日本国際博覧会協会)と民間双方のキャリアを経験。培った公民連携の知見を生かし、現在は三菱総合研究所において2025年大阪・関西万博に関する業務を推進する万博推進室の室長を務めるとともに、主に大阪・関西をフィールドにクリエイティブ連携、まちづくりなどをテーマにした活動を展開。

中村 賢昭

株式会社読売広告社 都市生活研究所 統合クリエイティブセンター

アーバンストラテジスト/アクティベーションディレクター 

2007年に読売広告社に入社。様々な不動産デベロッパーの複合開発や商業施設の案件でコンセプト開発、コミュニケーション戦略、PR・アクティベーション企画、また地方自治体ではブランディングやシティプロモーションなどのプラニング、ディレクションを担う。2024年春にはコペンハーゲンに拠点を置く都市デザインコンサルティング企業Gehl Architectsに派遣・勤務。